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PART4
男の生気を吸うヴァンパイアは吸血羊の夢を見るか?
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職場のコーヒーの自販機コーナーで、銘柄のボタンを押している男性がいる。背格好を一目見ただけで、水色のワイシャツにネイビーのジャケットを着た桜庭くんだと気付く。
スラリとした長身に、長い脚。バレないようにそっと後ろから彼に近付き、背伸びをして飛び付くようにバックハグをした。
「里帆!?びっくりしたぁ~」
驚いた桜庭くんの目は、元々の大きさに加えて更に大きく見開かれて、ツンと尖った目頭が猫みたいで可愛いと思った。
薄くて血色の良い艶のある唇に視線が移り、栓をするのを忘れたのか首筋からフェロモンがだだ漏れで、それは私の鼻腔を満たし、理性がプツリと切れた。
堪らなくなって桜庭くんの美味しそうな首筋に吸い付く。
「え、ちょっと里帆っ、こんなとこで?」
そう言いながらも桜庭くんは顔を赤らめて満更でもない表情をして、私の両肩を押さえつつも本気で抵抗しなかった。
首筋に吸い付き、味わいながら舐め回すと、彼は低く籠ったような喘ぎ声を喉の奥で上げる。
理性の箍は完全に外されて、私は喉の乾きに抗えず、彼の首元の薄い皮膚に歯を食い込ませて、そのまま刺し込んだ。ブツッ、と皮膚と肉が一気に切れる音を耳元で確認すると、溢れ出て来た血を夢中になって飲んだ。
身が殻になるまで吸い尽くそうと、血液をジュルジュルとストローで吸い上げるかのごとく吸い込み、一滴も逃さないよう喉に潜らせる。
すると背後で人の気配がしてゆっくり振り向くと、それは無表情でこちらを見つめている課長だった。
一部始終を見られてしまった罪悪感に駆られるも、課長はすぐに目線を逸らし、通路の曲がり角の向こうへ行ってしまった。
もっと、怒鳴りつけながら止めてくれたり、恐れ慄いて後退りしたりするのかと思ったけれど、課長は見て見ぬふりをして立ち去った。
おそらく通報するわけでもないのだろう。
課長にとっては、私の行為を止めるも通報するも無駄な作業なのだろうか。
私は桜庭くんのぐったりとした亡骸を抱き締めて、虚無に身を委ねた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ん……」
乾いた目をショボショボさせて指で擦ると、ここは見慣れた自分の部屋のベッドの上だと気付く。
何だかホラー映画のような恐ろしい夢を見た気がするが、断片的にしか覚えていない。
いつの間にか寝ていたらしいが、今が何曜日で何時なのかも分からない程に寝惚けていた。
だんだんと意識がハッキリとしてきてスマホに手を伸ばすと、土曜日AM10:45と表示されている。
ああ何だ土曜日か、と二度寝のために体の体勢を横に直すと、何か大きな物体がベッドの隣のスペースを占領している事に気付いた。
おそるおそる掛け布団をめくってみると、黒くてふさふさした髪が見えて、華奢だけど筋肉質の白い二の腕が見えた。
『何だこのすこぶる良い男のような物体は?』と、驚きのあまり悲鳴を上げそうになったが、よくよく考えてみると、それは昨夜、体調不良の私を介抱しに部屋に上がった課長だった。
「……っ!!」
危うくまた叫びそうになって、思わず自分で自分の口を慌てて塞いだ。
私の部屋、しかもベッドの上に、12時間以上も課長がいたなんて……こんな事、ありえる!?
徐々に頭が覚醒してきて、昨晩の出来事を反芻すると、確かあれから2回ほど事に及んで、私はその2回とも昇天させられたのだった。そこで疲れ果てて、いつの間にか眠りに落ちたのだろう。
あまりに気持ち良く、男性とのセックスで全戦全勝だったなんて事、生まれてこの方無かった。
よほど相性が良いのだろう。正直、連続で3回も逝くと貧血のような頭痛が後残りした。
私はおそるおそる手を伸ばして課長の柔らかい髪に指を絡ませ、存在を確認した。
本当に3Dだ。今、目の前で確かに課長がスヤスヤと天使のような寝顔で眠っているではないか。
この光景が妄想ではなく、現実での出来事である事に衝撃を受けた。
いつもこのベッドの上で、妄想上の課長をオカズにオナニーしている。そのベッドの上に、今は本物の課長がいる。でもこの物体は、私の脳内で3Dに製造されて、耳の中からニュルリと絞り出されて出てきた妄想上の生き物ではないかと、一瞬だけ疑ってしまった。
そう考えあぐねいていると、課長は髪に違和感を感じたのか、くすぐったそうにして私の手をパシッと払い退けた。
すると、少しずつ瞼を開けて、開眼した切長の真っ黒な瞳に私を映す。
目覚めて私と気付いたのか、課長はすぐに私の体を手探りで掴むと、ギューっと抱き締めてきた。
何この幸せな気持ち……。
「課長、シャワー浴びますか?歯ブラシも、ちょうどストックがあるので使ってくださいね」
フワフワの黒髪を撫でながら優しく言うと、課長は目を擦り、眠そうにして私の胸の中に顔を埋めた。
「腹減った」
「ああ、もうこんな時間ですもんね。何でもいいですか?今作ってきますね」
「ん」
私は二度寝を始めた課長からそっと離れ、歯磨きをさっと済ませて、キッチンでオムライスとコンソメスープを作った。たまたま食材が余っていて良かった。残り物の鶏肉と玉ねぎで炒めたチキンライスに、卵をふんわりと包むと、仕上げのケチャップをどのように描こうか迷ってしまう。
ハート?LOVE?いや、そんな恥ずかしい真似は出来ない!と首を振って、結局はありきたりな細かい上下の線を引くだけのものにした。
「うまそ。なにこれ」
「なにこれって、一応オムライスです」
「……なんでハート描いてくれないんだよ」
椅子に座りながら課長はボソリと呟く。
「え!?描いて欲しかったですか!?」
「うん」
何この可愛いツンデレ野郎……。
朝っぱらから鼻血を吹き出しそうになるのを堪えて、私はオムライスにスプーンを差した。
「じゃあ今度、そうしますね!」
「今度って、いつ?」
「え、い、いつ……でしょう」
「明日?」
「あ、明日!?えと、明日は……」
即答で『いいですよ!』なんて快諾しようとした途端、何かを忘れているような、胸の奥で何かを詰まらせたような感覚に陥る。
今 日 は 桜 庭 く ん と ご 飯 の 約 束 じ ゃ ん ! !
んで、お泊まり約束したじゃん、私!!
すっっかり忘れていた。ごめん桜庭くん!
てか今何時!?約束どこで何時だっけ!?
瞬時に頭の中で、ぐるぐると情報が渦巻き、私は側頭葉皮質部位をフル稼働させた。
そうだ!夜ご飯の約束で、18時に近所のイタリアンを予約してくれたんだった!
……でも、その後桜庭くんの家に泊まって、明日の夜に課長と会えば良いのでは?
安直なスケジューリングを脳内で瞬時に済ますと、私は口を開いた。
「明日の夜からなら空いてますよ」
スラリとした長身に、長い脚。バレないようにそっと後ろから彼に近付き、背伸びをして飛び付くようにバックハグをした。
「里帆!?びっくりしたぁ~」
驚いた桜庭くんの目は、元々の大きさに加えて更に大きく見開かれて、ツンと尖った目頭が猫みたいで可愛いと思った。
薄くて血色の良い艶のある唇に視線が移り、栓をするのを忘れたのか首筋からフェロモンがだだ漏れで、それは私の鼻腔を満たし、理性がプツリと切れた。
堪らなくなって桜庭くんの美味しそうな首筋に吸い付く。
「え、ちょっと里帆っ、こんなとこで?」
そう言いながらも桜庭くんは顔を赤らめて満更でもない表情をして、私の両肩を押さえつつも本気で抵抗しなかった。
首筋に吸い付き、味わいながら舐め回すと、彼は低く籠ったような喘ぎ声を喉の奥で上げる。
理性の箍は完全に外されて、私は喉の乾きに抗えず、彼の首元の薄い皮膚に歯を食い込ませて、そのまま刺し込んだ。ブツッ、と皮膚と肉が一気に切れる音を耳元で確認すると、溢れ出て来た血を夢中になって飲んだ。
身が殻になるまで吸い尽くそうと、血液をジュルジュルとストローで吸い上げるかのごとく吸い込み、一滴も逃さないよう喉に潜らせる。
すると背後で人の気配がしてゆっくり振り向くと、それは無表情でこちらを見つめている課長だった。
一部始終を見られてしまった罪悪感に駆られるも、課長はすぐに目線を逸らし、通路の曲がり角の向こうへ行ってしまった。
もっと、怒鳴りつけながら止めてくれたり、恐れ慄いて後退りしたりするのかと思ったけれど、課長は見て見ぬふりをして立ち去った。
おそらく通報するわけでもないのだろう。
課長にとっては、私の行為を止めるも通報するも無駄な作業なのだろうか。
私は桜庭くんのぐったりとした亡骸を抱き締めて、虚無に身を委ねた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ん……」
乾いた目をショボショボさせて指で擦ると、ここは見慣れた自分の部屋のベッドの上だと気付く。
何だかホラー映画のような恐ろしい夢を見た気がするが、断片的にしか覚えていない。
いつの間にか寝ていたらしいが、今が何曜日で何時なのかも分からない程に寝惚けていた。
だんだんと意識がハッキリとしてきてスマホに手を伸ばすと、土曜日AM10:45と表示されている。
ああ何だ土曜日か、と二度寝のために体の体勢を横に直すと、何か大きな物体がベッドの隣のスペースを占領している事に気付いた。
おそるおそる掛け布団をめくってみると、黒くてふさふさした髪が見えて、華奢だけど筋肉質の白い二の腕が見えた。
『何だこのすこぶる良い男のような物体は?』と、驚きのあまり悲鳴を上げそうになったが、よくよく考えてみると、それは昨夜、体調不良の私を介抱しに部屋に上がった課長だった。
「……っ!!」
危うくまた叫びそうになって、思わず自分で自分の口を慌てて塞いだ。
私の部屋、しかもベッドの上に、12時間以上も課長がいたなんて……こんな事、ありえる!?
徐々に頭が覚醒してきて、昨晩の出来事を反芻すると、確かあれから2回ほど事に及んで、私はその2回とも昇天させられたのだった。そこで疲れ果てて、いつの間にか眠りに落ちたのだろう。
あまりに気持ち良く、男性とのセックスで全戦全勝だったなんて事、生まれてこの方無かった。
よほど相性が良いのだろう。正直、連続で3回も逝くと貧血のような頭痛が後残りした。
私はおそるおそる手を伸ばして課長の柔らかい髪に指を絡ませ、存在を確認した。
本当に3Dだ。今、目の前で確かに課長がスヤスヤと天使のような寝顔で眠っているではないか。
この光景が妄想ではなく、現実での出来事である事に衝撃を受けた。
いつもこのベッドの上で、妄想上の課長をオカズにオナニーしている。そのベッドの上に、今は本物の課長がいる。でもこの物体は、私の脳内で3Dに製造されて、耳の中からニュルリと絞り出されて出てきた妄想上の生き物ではないかと、一瞬だけ疑ってしまった。
そう考えあぐねいていると、課長は髪に違和感を感じたのか、くすぐったそうにして私の手をパシッと払い退けた。
すると、少しずつ瞼を開けて、開眼した切長の真っ黒な瞳に私を映す。
目覚めて私と気付いたのか、課長はすぐに私の体を手探りで掴むと、ギューっと抱き締めてきた。
何この幸せな気持ち……。
「課長、シャワー浴びますか?歯ブラシも、ちょうどストックがあるので使ってくださいね」
フワフワの黒髪を撫でながら優しく言うと、課長は目を擦り、眠そうにして私の胸の中に顔を埋めた。
「腹減った」
「ああ、もうこんな時間ですもんね。何でもいいですか?今作ってきますね」
「ん」
私は二度寝を始めた課長からそっと離れ、歯磨きをさっと済ませて、キッチンでオムライスとコンソメスープを作った。たまたま食材が余っていて良かった。残り物の鶏肉と玉ねぎで炒めたチキンライスに、卵をふんわりと包むと、仕上げのケチャップをどのように描こうか迷ってしまう。
ハート?LOVE?いや、そんな恥ずかしい真似は出来ない!と首を振って、結局はありきたりな細かい上下の線を引くだけのものにした。
「うまそ。なにこれ」
「なにこれって、一応オムライスです」
「……なんでハート描いてくれないんだよ」
椅子に座りながら課長はボソリと呟く。
「え!?描いて欲しかったですか!?」
「うん」
何この可愛いツンデレ野郎……。
朝っぱらから鼻血を吹き出しそうになるのを堪えて、私はオムライスにスプーンを差した。
「じゃあ今度、そうしますね!」
「今度って、いつ?」
「え、い、いつ……でしょう」
「明日?」
「あ、明日!?えと、明日は……」
即答で『いいですよ!』なんて快諾しようとした途端、何かを忘れているような、胸の奥で何かを詰まらせたような感覚に陥る。
今 日 は 桜 庭 く ん と ご 飯 の 約 束 じ ゃ ん ! !
んで、お泊まり約束したじゃん、私!!
すっっかり忘れていた。ごめん桜庭くん!
てか今何時!?約束どこで何時だっけ!?
瞬時に頭の中で、ぐるぐると情報が渦巻き、私は側頭葉皮質部位をフル稼働させた。
そうだ!夜ご飯の約束で、18時に近所のイタリアンを予約してくれたんだった!
……でも、その後桜庭くんの家に泊まって、明日の夜に課長と会えば良いのでは?
安直なスケジューリングを脳内で瞬時に済ますと、私は口を開いた。
「明日の夜からなら空いてますよ」
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