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2つの現実の狭間で
2つの現実の狭間で ~自分だけの「もう1人」の先生~ 1
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真由美の「副業」を知った翌日のことです。
優也は、まだ何かしらの夢を見ているような気怠い体にもかかわらず、始業前の教室にどうにか間に合いました。
かろうじて寝坊しなかったと言うよりは、一睡も出来なかったと言う方が正しいかも知れません。
都内への越境入学の一人暮らしは気楽な面もありますが、遅刻や服装などの生活の乱れは、学校から親元に連絡が行くので気が抜けません。
明日からの土日は休日ということもあって、生徒たちの気持ちも高ぶっているのでしょうか…… 1時限が始まる間際になっても、まだ皆が楽しそうにお喋りを続けています。
そんな中でも優也だけは緊張した様子で背筋を伸ばして椅子に座っていました。ノートと教科書を机の上に置いて授業が始まるのを待っていました。
それもその筈、1時限目はクラス担任でもある森沢真由美先生の英語の授業だったのです。
彼は何度も時計を見て、真由美先生が教室に入ってくるのを待っていました。時を刻む秒針の動きがもどかしく、苛立ちさえ覚えました。
…… 先生はどんな様子で教室に入ってくるんだろう ……
…… 昨日の夜、貴賓館で何人の男を相手に、どんな事をしたんだろうか ……
…… 先生はなぜ、放課後にあのような仕事をしているのだろう。どんな事情があるんだろう ……
優也は眠れずに考えていた事をいまだに思い巡らせ続けていたのです。
チャイムが鳴り、暫くして真由美先生が教材を脇に抱えて教室に入ってきました。
品のいい淡い色のスーツから伺える引き締まったウエスト、端正な胸元のライン、美しい脚線とそれを引き立てるタイトなスカート…… 何人かの男子生徒は誰にも気付かれないように、素知らぬ表情でそれらを上から下へと撫で回すように視姦していたのです。
「はい、それでは授業を始めますよ。日直の方、お願いします」
いつもと変わらぬ笑顔のまま、係に声を掛けます。
「起立! 礼! 着席」
優也は、大勢の生徒を前にして、普段と何一つ変わらない真由美の態度の白々しさに苛立ちを感じていました。
…… 今までそうやって僕を騙してきたんですね ……
…… 昨日まで、先生は僕がどうあがいても手の届かない人だと思っていました ……
…… だけど先生…… 今日から僕は、先生が思っているよりもずっと近くにいるんですよ ……
「英語の授業を始める前に、クラス担任として皆さんに連絡があります」
真由美が凛とした声で生徒達に向かって話しかけました。
「森沢先生! それは何か楽しい事ですか?」
1人の女子生徒が嬉しげな声で質問をします。
「はい、とても楽しい事ですよ」
真由美は手にしたプリントを数枚ずつ取って、前の列の生徒へ順番に配り始めました。
「今から期末テストの日程を発表します」
生徒達が口々に漏らす落胆の声を受け流して、プリントに印刷された期末テストの科目スケジュールについて説明を始めました。
「今回の期末テストは、推薦での大学進学を考えている人にとって、とても大切なものになります。各科目ごとにテスト対策を考えて、休み明けの月曜日にレポートとして提出して下さい」
教室からは悲鳴のような声があがりました。せっかくの土日の休みに、テスト対策のレポートを作らなくてはならないのです。
「先生も土日は家で授業の教材を作るから、皆さん、週末は頑張りましょうね」
(先生、それは嘘ですよね…… 日曜日は貴賓館へ出勤されるんですよね……)
優也はその言葉を白々しい思いで聞いていました。そして、事実を何も知らない他の生徒達に対して、密かな優越感を持っていたのです。
真由美は教室を見渡しながら落胆する生徒達をなだめると、淡々とプリントの内容とレポートについて説明を続けました。
優也はこっそりとポケットの中からスマホを取り出し、貴賓館に申し込んだキャンセル待ちの返答が届いているかを確かめました。彼は昨日から殆ど30分おきにスマホをチェックしているのです。
(まだ連絡が来ない…… このまま再来週の日曜日のキャンセル待ちが流れてしまったりして…… 昨日、申し込んだばかりだから焦らずに待とう)
優也にとって貴賓館のサイトは、真由美の「副業」の様子を知るためのツールでした。彼は真由美が貴賓館に出勤するスケジュールやパターンを調べました。
次の接客予定は今度の日曜日…… 午後2時から7時までの予定であることもチェックしていたのです。
それだけではありません。貴賓館のサイトには、所属のエステティシャンと男性客がメッセージを交換し合うコーナーがあることも見つけていました。
>由紀子さん、昨日の心のこもった施術、何度も思い返しています。
>また今度、会いにいきます(拓磨)
>拓磨さん、昨日はご来店、ありがとうございました。
>今度いらした時はもっと心を込めた癒やしの施術をさせていただきますね(由紀子)
それは真由美が「由紀子」という副業名で、拓磨という客とやりとりしたメッセージでした。
優也は過去に遡って、他にも「由紀子」と客が交換し合ったメッセージの内容をつぶさに調べたのです。
その中には、彼女が男性客の茎に舌と唇を這わせ、口内で射精を受け止めたと思わせる男性客からの書き込みも幾つかありました。
優也はサイトに載せられたそのようなメッセージを読む度に、激しく揺れ動く心を掻きむしられる思いがしました。真由美に儚い想いを寄せる17才の彼にとって、それはあまりに残酷な一文だったのです。
授業の最中ににもかかわらず、優也はその一文を思い返していました。
切なく辛い想いに苛まれながらも、優也は知らぬ間に得体の知れない鼓動が全身を包み込んでいることに気付いていました。
男達と肌を重ねる美しい真由美に対する激しい嫉妬と、男達に性の慈しみを与える艶めかしい姿に対する恍惚の想い…… 相反する感情が螺旋のように交錯したのです。
言いようのない高鳴りが体中を駆け巡り、うっすらとした汗が背中を濡らしました。熱い息が喉の奥に溜まり、呼吸が小刻みに震えます。
いつの間にか、下腹部の茎が徐々に硬さを増しているのに気付きました。着衣の押さえに逆らい、欲望の塊が膨らみを大きくしているのです。
(まずいよ…… 今は授業中なのに。こんな事を先生や周りの皆んなに気づかれたら……)
自分では制御出来ない「体の変化」に焦りが募ります。優也は誘惑に負けて、真由美の胸元や美しい脚線に目を向けました。
貴賓館のサイトに載せられた彼女の写真が、教壇で授業をする姿と重なり合います。股間の勃起はその張りを更に硬直させ、ヌメリを伴う生暖かい先走の汁が亀頭から少しずつ染み出ました。
彼は気持ちを鎮めるため、目を閉じて顔を伏せ、静かに深呼吸をしたのです。
「真壁君、真壁優也君……」
不意に自分を呼ぶ声が聞こえます。
「真壁君、先生の話を聞いているのかな?」
ハッとして顔を上げると、真由美が教壇から優也を冷たい視線で見つめていました。
「今、寝てたでしょ……」
その表情は、明らかに世話の焼ける生徒を憐れみ、ため息をついているような感じでした。
「だから成績が下がっちゃうのよ。しっかりしなきゃ」
周りの生徒が優也を見ながらクスクスと笑っています。彼は気まずそうな笑みを浮かべ、その場を取り繕いました。
…… しょうがない子ね……
そう言いたげな真由美先生の視線を受けながら、優也は返す言葉も無くうつむきました。彼の中では想いを寄せる彼女に蔑まされる悲しさと、皆の前で恥をかかされた怒りが込み上げてきたのです。
優也は、まだ何かしらの夢を見ているような気怠い体にもかかわらず、始業前の教室にどうにか間に合いました。
かろうじて寝坊しなかったと言うよりは、一睡も出来なかったと言う方が正しいかも知れません。
都内への越境入学の一人暮らしは気楽な面もありますが、遅刻や服装などの生活の乱れは、学校から親元に連絡が行くので気が抜けません。
明日からの土日は休日ということもあって、生徒たちの気持ちも高ぶっているのでしょうか…… 1時限が始まる間際になっても、まだ皆が楽しそうにお喋りを続けています。
そんな中でも優也だけは緊張した様子で背筋を伸ばして椅子に座っていました。ノートと教科書を机の上に置いて授業が始まるのを待っていました。
それもその筈、1時限目はクラス担任でもある森沢真由美先生の英語の授業だったのです。
彼は何度も時計を見て、真由美先生が教室に入ってくるのを待っていました。時を刻む秒針の動きがもどかしく、苛立ちさえ覚えました。
…… 先生はどんな様子で教室に入ってくるんだろう ……
…… 昨日の夜、貴賓館で何人の男を相手に、どんな事をしたんだろうか ……
…… 先生はなぜ、放課後にあのような仕事をしているのだろう。どんな事情があるんだろう ……
優也は眠れずに考えていた事をいまだに思い巡らせ続けていたのです。
チャイムが鳴り、暫くして真由美先生が教材を脇に抱えて教室に入ってきました。
品のいい淡い色のスーツから伺える引き締まったウエスト、端正な胸元のライン、美しい脚線とそれを引き立てるタイトなスカート…… 何人かの男子生徒は誰にも気付かれないように、素知らぬ表情でそれらを上から下へと撫で回すように視姦していたのです。
「はい、それでは授業を始めますよ。日直の方、お願いします」
いつもと変わらぬ笑顔のまま、係に声を掛けます。
「起立! 礼! 着席」
優也は、大勢の生徒を前にして、普段と何一つ変わらない真由美の態度の白々しさに苛立ちを感じていました。
…… 今までそうやって僕を騙してきたんですね ……
…… 昨日まで、先生は僕がどうあがいても手の届かない人だと思っていました ……
…… だけど先生…… 今日から僕は、先生が思っているよりもずっと近くにいるんですよ ……
「英語の授業を始める前に、クラス担任として皆さんに連絡があります」
真由美が凛とした声で生徒達に向かって話しかけました。
「森沢先生! それは何か楽しい事ですか?」
1人の女子生徒が嬉しげな声で質問をします。
「はい、とても楽しい事ですよ」
真由美は手にしたプリントを数枚ずつ取って、前の列の生徒へ順番に配り始めました。
「今から期末テストの日程を発表します」
生徒達が口々に漏らす落胆の声を受け流して、プリントに印刷された期末テストの科目スケジュールについて説明を始めました。
「今回の期末テストは、推薦での大学進学を考えている人にとって、とても大切なものになります。各科目ごとにテスト対策を考えて、休み明けの月曜日にレポートとして提出して下さい」
教室からは悲鳴のような声があがりました。せっかくの土日の休みに、テスト対策のレポートを作らなくてはならないのです。
「先生も土日は家で授業の教材を作るから、皆さん、週末は頑張りましょうね」
(先生、それは嘘ですよね…… 日曜日は貴賓館へ出勤されるんですよね……)
優也はその言葉を白々しい思いで聞いていました。そして、事実を何も知らない他の生徒達に対して、密かな優越感を持っていたのです。
真由美は教室を見渡しながら落胆する生徒達をなだめると、淡々とプリントの内容とレポートについて説明を続けました。
優也はこっそりとポケットの中からスマホを取り出し、貴賓館に申し込んだキャンセル待ちの返答が届いているかを確かめました。彼は昨日から殆ど30分おきにスマホをチェックしているのです。
(まだ連絡が来ない…… このまま再来週の日曜日のキャンセル待ちが流れてしまったりして…… 昨日、申し込んだばかりだから焦らずに待とう)
優也にとって貴賓館のサイトは、真由美の「副業」の様子を知るためのツールでした。彼は真由美が貴賓館に出勤するスケジュールやパターンを調べました。
次の接客予定は今度の日曜日…… 午後2時から7時までの予定であることもチェックしていたのです。
それだけではありません。貴賓館のサイトには、所属のエステティシャンと男性客がメッセージを交換し合うコーナーがあることも見つけていました。
>由紀子さん、昨日の心のこもった施術、何度も思い返しています。
>また今度、会いにいきます(拓磨)
>拓磨さん、昨日はご来店、ありがとうございました。
>今度いらした時はもっと心を込めた癒やしの施術をさせていただきますね(由紀子)
それは真由美が「由紀子」という副業名で、拓磨という客とやりとりしたメッセージでした。
優也は過去に遡って、他にも「由紀子」と客が交換し合ったメッセージの内容をつぶさに調べたのです。
その中には、彼女が男性客の茎に舌と唇を這わせ、口内で射精を受け止めたと思わせる男性客からの書き込みも幾つかありました。
優也はサイトに載せられたそのようなメッセージを読む度に、激しく揺れ動く心を掻きむしられる思いがしました。真由美に儚い想いを寄せる17才の彼にとって、それはあまりに残酷な一文だったのです。
授業の最中ににもかかわらず、優也はその一文を思い返していました。
切なく辛い想いに苛まれながらも、優也は知らぬ間に得体の知れない鼓動が全身を包み込んでいることに気付いていました。
男達と肌を重ねる美しい真由美に対する激しい嫉妬と、男達に性の慈しみを与える艶めかしい姿に対する恍惚の想い…… 相反する感情が螺旋のように交錯したのです。
言いようのない高鳴りが体中を駆け巡り、うっすらとした汗が背中を濡らしました。熱い息が喉の奥に溜まり、呼吸が小刻みに震えます。
いつの間にか、下腹部の茎が徐々に硬さを増しているのに気付きました。着衣の押さえに逆らい、欲望の塊が膨らみを大きくしているのです。
(まずいよ…… 今は授業中なのに。こんな事を先生や周りの皆んなに気づかれたら……)
自分では制御出来ない「体の変化」に焦りが募ります。優也は誘惑に負けて、真由美の胸元や美しい脚線に目を向けました。
貴賓館のサイトに載せられた彼女の写真が、教壇で授業をする姿と重なり合います。股間の勃起はその張りを更に硬直させ、ヌメリを伴う生暖かい先走の汁が亀頭から少しずつ染み出ました。
彼は気持ちを鎮めるため、目を閉じて顔を伏せ、静かに深呼吸をしたのです。
「真壁君、真壁優也君……」
不意に自分を呼ぶ声が聞こえます。
「真壁君、先生の話を聞いているのかな?」
ハッとして顔を上げると、真由美が教壇から優也を冷たい視線で見つめていました。
「今、寝てたでしょ……」
その表情は、明らかに世話の焼ける生徒を憐れみ、ため息をついているような感じでした。
「だから成績が下がっちゃうのよ。しっかりしなきゃ」
周りの生徒が優也を見ながらクスクスと笑っています。彼は気まずそうな笑みを浮かべ、その場を取り繕いました。
…… しょうがない子ね……
そう言いたげな真由美先生の視線を受けながら、優也は返す言葉も無くうつむきました。彼の中では想いを寄せる彼女に蔑まされる悲しさと、皆の前で恥をかかされた怒りが込み上げてきたのです。
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