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人混みの中の後ろ姿
人混みの中の後ろ姿 ~美しい女教師の副業~ 2
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電車は都内でも有数のターミナル駅に着くと、開いたドアから大勢の人が波のようにホームへと流れます。優也は真由美を見失わないよう、必死にその後ろ姿を視界に捉えながら付いていきました。
彼には悪意の企みなどはありませんでした。憧れの担任教師のプライバシーを少しでも盗み見ることが出来れば、彼にとってはそれだけで大きな収穫だったのです。
身勝手でわがままな行為ではあっても、優也にとっては行き場のない恋心を満たすたった一つの慰めだったのかも知れません。
優也は改札を出て駅のコンコースを通り、夏の夕暮れが迫る雑踏の中を、担任教師の後ろ姿を追いかけて早足で歩きました。
真由美は立ち止まることもなく、眩いネオンと照明に色どられた街の中を通って、何処かしら目的の場所へと急いでいました。
いつの間にか、真由美は都内でも有名の歓楽街へと入っていきました。それは先程までの街並みとは明らかに異なる、大人だけが踏み入れることの許される風俗街の一角でした。
彼女の後ろ姿を追う優也にとって、そこは危険な領域でした。学校の制服姿でこのような場所を歩いていたら、すぐにも補導されるかも知れません。
(先生…… どこへ行こうとしているの)
そう思いながらも、真由美の秘密を目の当たりにすることへの不埒な期待が込み上げてきます。
(こんな場所で誰かに絡まれたりしたら……)
戸惑いと迷いが込み上げてきました。風俗街の危うい気配と、様々な欲望を煽る看板が優也の心を揺さぶります。
(ここで誰かと会う約束をしているの? 先生だってこんな所に来ちゃだめなんだろ?)
真由美は通りの脇にある路地の手前で立ち止まると、不意に後ろを振り返りました。優也は咄嗟に背中を向けて顔を伏せました。
(もう少しで見つかるとこだった)
彼女は何気ないふりをしながら、誰かに後をつけられていないか確かめているようです。
咄嗟のところで隠れることの出来た安堵と、真由美の不自然な警戒心に対する疑念が優也の心をその先へと駆り立てます。
(絶対に何かあるに違いない…… 先生は誰と待ち合わせしているんだろう)
真由美は暫く通りを歩いてから、急に向きを変えて先程の路地に入りました。彼女は何度も来て知っている場所なのか、迷いもなくとある雑居ビルのエントランスに入ると、入り口の脇にあるエレベーターの前に立ち止まりました。
暫くしてドアが開き、彼女は人目から逃れるように中へと入っていきました。
優也は真由美がいなくなったことを物陰から確かめると、急いでビルの中のエレベーターに駆け寄りました。真由美の乗ったエレベーターの位置を示すランプがゆっくり上へと向かい、やがて5階の位置で止まりました。
(真由美は5階で降りたんだ…… 先生、このビルに何の用事があるの? 何かのセミナーとかに参加するの?)
戸惑いと騒めきが心の中を駆け巡ります。
たった今、目にしたばかりのことをどう理解すればいいのか困惑していると、エレベーターの脇にビルのテナントを案内するパネルが掲げてあるのに気付きました。
5F 性感エステサロン貴賓館 受付
黒光りのするプレートには金色の細いレタリングで店の名前が刻まれています。必死に同じフロアに他のテナントがないか探しましたが、5階はそれだけでした。
優也は自ら突き止めた真由美の秘密を目の前にしながら、まだその現実を受け入れられないでいたのです。
(まさか…… 先生がこの店で働いているってことなの……)
いつの間にか口の中が渇き、舌が痺れ唇が小刻みに震えます。プレートの文字が優也の中で何度も渦のように繰り返されました。
真由美に対する行き場のない想いが、決して知ってはいけない彼女の秘密を暴いてしまったのです。
「あの…… ちょっとすみません」
不意に背後から聞こえた声に驚いて振り返ると、20代半ばぐらいの若いサラリーマン風の男がすぐ後ろに立っていました。
「すみません、ちょっと通して下さい」
気がつくと、いつの間にかエレベーターのドアが開き、優也はその前を塞ぐように立ちすくんでいました。
若い男は気まずいのか、優也と顔を合わせないように目を伏せてエレベーターに乗り込むと、慌ててドアを閉めるボタンを押しました。
優也はエレベーターの行き先を示すランプを見つめていました。彼の願いに反して、それは再び5階で止まりました。
(さっきの男が真由美先生がいる店に入ったの? もしかしたら…… 2人きりの部屋の中で先生があの男と……)
いつの間にか優也の目は涙が溢れ落ちそうなほど潤んでいました。彼にとって孤高の美しい存在が、実は何人もの男達の欲望で汚されている事を知ってしまったのです。
(先生を連れ戻さなきゃ…… どんな理由か知らないけど、先生を連れ戻すんだ……)
しかし彼にはそんな勇気は有りませんでした。エレベーターの前で立ちすくむだけの不甲斐なさに打ちのめされながら、今来た道を逆に辿って駅の方へと足早に逃げたのです。
<この章、終わり>
彼には悪意の企みなどはありませんでした。憧れの担任教師のプライバシーを少しでも盗み見ることが出来れば、彼にとってはそれだけで大きな収穫だったのです。
身勝手でわがままな行為ではあっても、優也にとっては行き場のない恋心を満たすたった一つの慰めだったのかも知れません。
優也は改札を出て駅のコンコースを通り、夏の夕暮れが迫る雑踏の中を、担任教師の後ろ姿を追いかけて早足で歩きました。
真由美は立ち止まることもなく、眩いネオンと照明に色どられた街の中を通って、何処かしら目的の場所へと急いでいました。
いつの間にか、真由美は都内でも有名の歓楽街へと入っていきました。それは先程までの街並みとは明らかに異なる、大人だけが踏み入れることの許される風俗街の一角でした。
彼女の後ろ姿を追う優也にとって、そこは危険な領域でした。学校の制服姿でこのような場所を歩いていたら、すぐにも補導されるかも知れません。
(先生…… どこへ行こうとしているの)
そう思いながらも、真由美の秘密を目の当たりにすることへの不埒な期待が込み上げてきます。
(こんな場所で誰かに絡まれたりしたら……)
戸惑いと迷いが込み上げてきました。風俗街の危うい気配と、様々な欲望を煽る看板が優也の心を揺さぶります。
(ここで誰かと会う約束をしているの? 先生だってこんな所に来ちゃだめなんだろ?)
真由美は通りの脇にある路地の手前で立ち止まると、不意に後ろを振り返りました。優也は咄嗟に背中を向けて顔を伏せました。
(もう少しで見つかるとこだった)
彼女は何気ないふりをしながら、誰かに後をつけられていないか確かめているようです。
咄嗟のところで隠れることの出来た安堵と、真由美の不自然な警戒心に対する疑念が優也の心をその先へと駆り立てます。
(絶対に何かあるに違いない…… 先生は誰と待ち合わせしているんだろう)
真由美は暫く通りを歩いてから、急に向きを変えて先程の路地に入りました。彼女は何度も来て知っている場所なのか、迷いもなくとある雑居ビルのエントランスに入ると、入り口の脇にあるエレベーターの前に立ち止まりました。
暫くしてドアが開き、彼女は人目から逃れるように中へと入っていきました。
優也は真由美がいなくなったことを物陰から確かめると、急いでビルの中のエレベーターに駆け寄りました。真由美の乗ったエレベーターの位置を示すランプがゆっくり上へと向かい、やがて5階の位置で止まりました。
(真由美は5階で降りたんだ…… 先生、このビルに何の用事があるの? 何かのセミナーとかに参加するの?)
戸惑いと騒めきが心の中を駆け巡ります。
たった今、目にしたばかりのことをどう理解すればいいのか困惑していると、エレベーターの脇にビルのテナントを案内するパネルが掲げてあるのに気付きました。
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黒光りのするプレートには金色の細いレタリングで店の名前が刻まれています。必死に同じフロアに他のテナントがないか探しましたが、5階はそれだけでした。
優也は自ら突き止めた真由美の秘密を目の前にしながら、まだその現実を受け入れられないでいたのです。
(まさか…… 先生がこの店で働いているってことなの……)
いつの間にか口の中が渇き、舌が痺れ唇が小刻みに震えます。プレートの文字が優也の中で何度も渦のように繰り返されました。
真由美に対する行き場のない想いが、決して知ってはいけない彼女の秘密を暴いてしまったのです。
「あの…… ちょっとすみません」
不意に背後から聞こえた声に驚いて振り返ると、20代半ばぐらいの若いサラリーマン風の男がすぐ後ろに立っていました。
「すみません、ちょっと通して下さい」
気がつくと、いつの間にかエレベーターのドアが開き、優也はその前を塞ぐように立ちすくんでいました。
若い男は気まずいのか、優也と顔を合わせないように目を伏せてエレベーターに乗り込むと、慌ててドアを閉めるボタンを押しました。
優也はエレベーターの行き先を示すランプを見つめていました。彼の願いに反して、それは再び5階で止まりました。
(さっきの男が真由美先生がいる店に入ったの? もしかしたら…… 2人きりの部屋の中で先生があの男と……)
いつの間にか優也の目は涙が溢れ落ちそうなほど潤んでいました。彼にとって孤高の美しい存在が、実は何人もの男達の欲望で汚されている事を知ってしまったのです。
(先生を連れ戻さなきゃ…… どんな理由か知らないけど、先生を連れ戻すんだ……)
しかし彼にはそんな勇気は有りませんでした。エレベーターの前で立ちすくむだけの不甲斐なさに打ちのめされながら、今来た道を逆に辿って駅の方へと足早に逃げたのです。
<この章、終わり>
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