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7歳以降の僕 ♢就職編と見せかけて王宮編♢

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母様の私室を出てから少し急ぎめに自室に戻ると、僕を待っていたらしい兄様達は寝室手前の部屋にあるソファーセットで、紅茶片手に寛ぎながらも書類に目を通しつつ話し合いをしていた。

僕が一緒にいる時に二人が仕事の話をする事は殆どないから(僕の仕事の話を聞いてくれたり僕に関係ある事やお休みや遠征の日程なんかの話はしてくれるんだけど)、兄様達が家でお仕事する姿を見るのは何だか新鮮。
でも部屋に入ったところですぐに僕に気がついて、二人のお仕事モードは終了してしまった。
残念。
真剣に話し合う兄様達、とっても格好良くてもっと見ていたかったな。

「レティ、おかえり。母上は何のご用事だったんだい?」

僕に気が付くなり腰掛けていたソファーから立ち上がり、直ぐに僕を抱き上げてくるミー兄様が僅かに首を傾げながら聞いてきた。
屈んだ際に前に落ちてきた銀のごとく煌めく艶やかな灰髪を耳に掛ける仕草が、とても色っぽい。

「母様は、僕が無理や我慢をしていないか心配して下さってたみたいです。
あと、今日お会いしたムーラン殿下やパスティリード殿下、宰相様や魔術師団長さんとか総括騎士団長さんとか…王宮でお世話になってる方達の事なんかを聞かれました。あとはリディの事とか?
多分王宮で僕が恙無く過ごせているのかを聞きたかったんだと思います。」


僕が思い出しながら答えると、ミー兄様は僕をディー兄様との間に座らせて、少し考える様に目を伏せたあと、ちらりと視線をディー兄様に向けた。
ディー兄様もミー兄様に視線を合わせた後、僕の頬に触れながら「そうか」と頷いてくれる。


「…そう、母上は王宮での様子は見に来れないものね。気にされていたのかもしれないね。」


そう綺麗に微笑んだミー兄様は、ディー兄様に先に僕をお風呂に入れてくると告げて、また僕を抱え上げて浴室に歩き出した。
ミー兄様の笑顔が少し硬い気がするのは気のせいかな?
わかったと応えたディー兄様はさっきまでミー兄様と広げていた書類に再度目を通しはじめた。
いつもは一緒に入らなくても浴室まで着いてくるんだけど、よっぽど急ぎのお仕事なのかな?
忙しいのに、無理して僕との時間を取ってるんじゃないかと少し心配になる。

そんなことをもやもやと考えてたら、あっという間にミー兄様に頭のてっぺんからつま先まで綺麗に磨かれ浴槽に温まるまで抱えて浸からされて、気がつけば湯上り後のケアまで終わっていた。
僕の考え出したら周りが見えなくなる悪い癖が発動してたみたい。

体がホカホカしたまま直ぐにベッドの中に入れられて、ディー兄様がお風呂から上がってくるのをルーが入れてくれたホットミルクを飲みながら待つこと少し。
それほども待たないうちにディー兄様もベッドに上がってきた。ディー兄様にも紅茶を渡して、今日一日の給仕と執務が終わったルーが綺麗な礼をして部屋から下がった。

久しぶりの、兄様達と三人での就寝。

なんだか少しドキドキしてきて、いつもは落ち着かせてくれるルーの蜂蜜入りホットミルクの効果も薄いみたい。

僅かにそわそわしてる僕とは対照的に、ミー兄様とディー兄様は何か考え込んでるみたい…?
そう言えばお風呂に入ってる時も、いつもは色々話したり聞いたりしてきてくれるミー兄様が今日は殆ど口を開かなかった気がする。
何か難しいお仕事の案件があるとか…?


それとも、僕が何かしてしまった…とか…?



はたとその可能性に気がついた途端、僕のドキドキが違う意味の動悸に変わる。
ソワソワしていた気持ちが急激に不安に塗りつぶされて、もし兄様達に嫌われたら…と 恐ろしい想像が浮かんでくる。
火照っていた筈の体が急激に冷える感覚。



そっと、両側にいる兄様達の顔色を窺う。

何故かそんな自分に既視感を感じる。
まるで足元から得体の知れないものが這い上がってきているような、酷く心許なくさせるソレは、何時のものだったか…。


そんな、カタチのない何かに囚われそうになった時、僕の頬っぺたが暖かい何かに包まれた。
それと同時に、肩から腕の辺りにかけても包まれるようにぎゅっと抱きしめられる感触。


ふと顔を上げると、僕が様子を窺っていた筈の兄様達が僕の様子を窺うように片や僕を抱きしめ、片や僕の頬を両手に包み込みながら、僕の顔を覗き込んでいた。

あれ?
僕そんなに考え込んでた?


「レティ、どうしたの?何か考え事?」

「何か悩みがあるなら隠さずに言えよ。それがどんな悩みでも、どんな願いでも俺達が解決してやるし、叶えてやる。」


あれ?考え込んでたのは兄様達だった筈なんだけど…。
兄様達は、凄く真剣に、心配そうに僕の事を見てる。
それだけで、さっきまで感じてたとてつもない不安は何処かにいってしまった。
ほんとに僕、現金すぎる。

だから、僕はミー兄様に頬を挟まれたまま、緩く首を振る。
挟まれたままだから、ミー兄様の手のひらに頬を擦り付けてるみたいになって、なんだかさっきまで凍えそうになってた心が酷く擽ったいような、甘やかな気持ちになってくる。
ああ、やっぱり僕は兄様達が大好きだなあ。


なんて、納得してたのは僕だけだったみたいで。
首を振って否定した僕を、兄様達は納得してない顔でなお見詰めてくる。
不安に思ってたのは本当だけど、もう大丈夫なんだけどな。
でもこんな幼稚な不安を打ち明けられても、兄様達も困ってしまうだろうし。
それに優しい兄様達の事だから、僕がそんな事を言ったら兄様達の辛いのや不安なのや嫌なことなんかを僕に見せてくれなくなるかもしれないし。
それは僕が嫌だから、もう大丈夫って事で納得して貰えないかなあ…?

僕がどうすればもう大丈夫な事に納得して貰えるかとうんうん唸るように考え込んでいると、ミー兄様の酷く硬い声が耳に届いた。

「もしかしてレティは、この家から…僕達から離れて、他の人の所に行きたいとか思ってる…?」って。


そう言ったミー兄様の顔は酷く強ばっていて。
僕を包むように抱き締めてくれていたディー兄様の腕に力がこもった事で、ディー兄様の体も強ばったのが伝わってきた。


一方の僕は、何故ミー兄様がそんな事を言ったのか分からなくて、ぱちくりと目を瞬かせた。




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