76 / 80
7歳以降の僕 ♢就職編と見せかけて王宮編♢
13
しおりを挟む母様の私室を出てから少し急ぎめに自室に戻ると、僕を待っていたらしい兄様達は寝室手前の部屋にあるソファーセットで、紅茶片手に寛ぎながらも書類に目を通しつつ話し合いをしていた。
僕が一緒にいる時に二人が仕事の話をする事は殆どないから(僕の仕事の話を聞いてくれたり僕に関係ある事やお休みや遠征の日程なんかの話はしてくれるんだけど)、兄様達が家でお仕事する姿を見るのは何だか新鮮。
でも部屋に入ったところですぐに僕に気がついて、二人のお仕事モードは終了してしまった。
残念。
真剣に話し合う兄様達、とっても格好良くてもっと見ていたかったな。
「レティ、おかえり。母上は何のご用事だったんだい?」
僕に気が付くなり腰掛けていたソファーから立ち上がり、直ぐに僕を抱き上げてくるミー兄様が僅かに首を傾げながら聞いてきた。
屈んだ際に前に落ちてきた銀のごとく煌めく艶やかな灰髪を耳に掛ける仕草が、とても色っぽい。
「母様は、僕が無理や我慢をしていないか心配して下さってたみたいです。
あと、今日お会いしたムーラン殿下やパスティリード殿下、宰相様や魔術師団長さんとか総括騎士団長さんとか…王宮でお世話になってる方達の事なんかを聞かれました。あとはリディの事とか?
多分王宮で僕が恙無く過ごせているのかを聞きたかったんだと思います。」
僕が思い出しながら答えると、ミー兄様は僕をディー兄様との間に座らせて、少し考える様に目を伏せたあと、ちらりと視線をディー兄様に向けた。
ディー兄様もミー兄様に視線を合わせた後、僕の頬に触れながら「そうか」と頷いてくれる。
「…そう、母上は王宮での様子は見に来れないものね。気にされていたのかもしれないね。」
そう綺麗に微笑んだミー兄様は、ディー兄様に先に僕をお風呂に入れてくると告げて、また僕を抱え上げて浴室に歩き出した。
ミー兄様の笑顔が少し硬い気がするのは気のせいかな?
わかったと応えたディー兄様はさっきまでミー兄様と広げていた書類に再度目を通しはじめた。
いつもは一緒に入らなくても浴室まで着いてくるんだけど、よっぽど急ぎのお仕事なのかな?
忙しいのに、無理して僕との時間を取ってるんじゃないかと少し心配になる。
そんなことをもやもやと考えてたら、あっという間にミー兄様に頭のてっぺんからつま先まで綺麗に磨かれ浴槽に温まるまで抱えて浸からされて、気がつけば湯上り後のケアまで終わっていた。
僕の考え出したら周りが見えなくなる悪い癖が発動してたみたい。
体がホカホカしたまま直ぐにベッドの中に入れられて、ディー兄様がお風呂から上がってくるのをルーが入れてくれたホットミルクを飲みながら待つこと少し。
それほども待たないうちにディー兄様もベッドに上がってきた。ディー兄様にも紅茶を渡して、今日一日の給仕と執務が終わったルーが綺麗な礼をして部屋から下がった。
久しぶりの、兄様達と三人での就寝。
なんだか少しドキドキしてきて、いつもは落ち着かせてくれるルーの蜂蜜入りホットミルクの効果も薄いみたい。
僅かにそわそわしてる僕とは対照的に、ミー兄様とディー兄様は何か考え込んでるみたい…?
そう言えばお風呂に入ってる時も、いつもは色々話したり聞いたりしてきてくれるミー兄様が今日は殆ど口を開かなかった気がする。
何か難しいお仕事の案件があるとか…?
それとも、僕が何かしてしまった…とか…?
はたとその可能性に気がついた途端、僕のドキドキが違う意味の動悸に変わる。
ソワソワしていた気持ちが急激に不安に塗りつぶされて、もし兄様達に嫌われたら…と 恐ろしい想像が浮かんでくる。
火照っていた筈の体が急激に冷える感覚。
そっと、両側にいる兄様達の顔色を窺う。
何故かそんな自分に既視感を感じる。
まるで足元から得体の知れないものが這い上がってきているような、酷く心許なくさせるソレは、何時のものだったか…。
そんな、カタチのない何かに囚われそうになった時、僕の頬っぺたが暖かい何かに包まれた。
それと同時に、肩から腕の辺りにかけても包まれるようにぎゅっと抱きしめられる感触。
ふと顔を上げると、僕が様子を窺っていた筈の兄様達が僕の様子を窺うように片や僕を抱きしめ、片や僕の頬を両手に包み込みながら、僕の顔を覗き込んでいた。
あれ?
僕そんなに考え込んでた?
「レティ、どうしたの?何か考え事?」
「何か悩みがあるなら隠さずに言えよ。それがどんな悩みでも、どんな願いでも俺達が解決してやるし、叶えてやる。」
あれ?考え込んでたのは兄様達だった筈なんだけど…。
兄様達は、凄く真剣に、心配そうに僕の事を見てる。
それだけで、さっきまで感じてたとてつもない不安は何処かにいってしまった。
ほんとに僕、現金すぎる。
だから、僕はミー兄様に頬を挟まれたまま、緩く首を振る。
挟まれたままだから、ミー兄様の手のひらに頬を擦り付けてるみたいになって、なんだかさっきまで凍えそうになってた心が酷く擽ったいような、甘やかな気持ちになってくる。
ああ、やっぱり僕は兄様達が大好きだなあ。
なんて、納得してたのは僕だけだったみたいで。
首を振って否定した僕を、兄様達は納得してない顔でなお見詰めてくる。
不安に思ってたのは本当だけど、もう大丈夫なんだけどな。
でもこんな幼稚な不安を打ち明けられても、兄様達も困ってしまうだろうし。
それに優しい兄様達の事だから、僕がそんな事を言ったら兄様達の辛いのや不安なのや嫌なことなんかを僕に見せてくれなくなるかもしれないし。
それは僕が嫌だから、もう大丈夫って事で納得して貰えないかなあ…?
僕がどうすればもう大丈夫な事に納得して貰えるかとうんうん唸るように考え込んでいると、ミー兄様の酷く硬い声が耳に届いた。
「もしかしてレティは、この家から…僕達から離れて、他の人の所に行きたいとか思ってる…?」って。
そう言ったミー兄様の顔は酷く強ばっていて。
僕を包むように抱き締めてくれていたディー兄様の腕に力がこもった事で、ディー兄様の体も強ばったのが伝わってきた。
一方の僕は、何故ミー兄様がそんな事を言ったのか分からなくて、ぱちくりと目を瞬かせた。
70
お気に入りに追加
5,887
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる