BLゲームの本編にも出てこないモブに転生したはずなのに、メイン攻略対象のはずの兄達に溺愛され過ぎていつの間にかヒロインポジにいる(イマココ)

庚寅

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7歳以降の僕 ♢就職編と見せかけて王宮編♢

前世のアイツと今世のアイツ (ヘーゼリオ(ヘジィ)視点)②

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目を開けると視界の全てが抜けるような青空だった。
俺は自分の記憶と現状を確かめる様に数度ゆっくりと瞬きを繰り返す。
そしてじわじわと先程まで視界に映っていた幼なじみの姿と、電車に撥ねられた時の衝撃を思い出す。
撥ねる様に勢いよく上体を起こすと、背後から子供の声が響いた。


「「 目が覚めたかい? 」」


声変わり前の子供特有の高い声。
その声音はカラオケでエコーをかけ過ぎた時のように反響し、声の輪郭を朧気にしている。


「お前は…。」



その子供は、先程駅のホームで俺が後方に投げ飛ばした子供だった。



「「 まさか君が僕を助けようと電車に轢かれるとは思わなかったよ。悪かったね。 」」



何故あの時の子供がここにいるのかと、幼なじみはどこにいるのかと、俺はその言葉に返事も返さず、眉間に皺を寄せて周囲を見回した。
頭上には先程と変わらず目に痛い程の青い空。
俺が横たわっていたらしい感触のない白は、どうやら雲のようだった。
少年も俺と同じ雲の上、少しばかり俺から距離を取り立っている。
遮るもののない青と白の世界。


そこに幼なじみの姿は無かった。





「あいつは…?」


「「 あいつ? 」」


俺の漏らした低い声に、子供が首を傾けながら聞き返してくる。
俺の厳しい顔にも怯えた様子はない。


「あいつだ。お前を投げ飛ばした時に、俺を助けようと俺の手を掴んできた…。」


そう、絞り出すように言うと、子供は「「 ああ、 」」と納得したように1つ頷くと、そのまま少し考える様に俺から視線を外し、形のいい眉を八の字にして黙り込んだ後、少し間を置いてから僅かに言いづらそうにしながらも口を開いた。


「「 彼ね。彼…僕が君の魂を引き上げた時には、もう居なくなっていた…魂が僕の管轄から消えていたんだ。 」」


「─ぁあ"!?」


突然魂だとか管轄だとか意味のわからねぇ事を言い始めた子供に、俺は無意識に凄む。
しかし、これにも子供は、眉をぴくりとも動かさず、平静なままに言葉を続けた。


「「 私は、君たちが生きるこの世界の…君達の言葉で言う  神  だ。
さっき君の横を通り過ぎようとしたのは、君達の在る下の世界から、私が在る為の上の世界への道を通り抜けようとあそこを
たまたまあのホームから線路へのみちが通り道の途中だったんだよ。
まさか通っている私を見える人間生き人がいるとは思わなかった。
私が私の世界の何かに傷付けられる事は無いのだが、見ていた君には人が飛び込んだ様に見えたのだろうね。
その結果、君は君の生を予定外のカタチで終える事になってしまった。
申し訳ない。 」」



子供はそう淡々と話すと、ぺこりと俺に頭を下げてきた。
ぶっちゃけ、何言ってんだ此奴コイツ、としか思えない。


「何だ?じゃあ俺は意味もなくお前を助けようとして無駄死にしたってことか?」


此奴コイツの説明だとそういうこと…だよな?



「「無駄な…とは言わないが、予定外の死である事は間違いない。
だから、君にはこれからの選択肢をあげようと思う。
申し訳ないけれど、同じ存在として生き返ることはできない。
死をなかった事には出来ないからね。
しかし、予定外の死では直ぐに次の生への輪には入れない。
これも、順番、というものがあってね。
割り込みは出来ないんだ。」」


子供ガキの言葉に、眉間の皺が深くなっていくのが分かる。



「「  だから君に示せるのは三つ。
一つ目、このまま本来の死期の日が来るまで待ち、定められた君の順の時に次の生への輪に入る。
二つ目、他の世界の、私と同じ存在の者達がこの世界に置いた入り口を通り、あちらの世界の生となる。
三つ目、このまま生を無にして永遠とわの安らぎを得る。 」」


子供ガキは俺の顔が険しくなっていくのもお構い無しで、喋り続ける。
淡々と、どこで息継ぎしてんのかって位に滔々と。


「「  一つ目のこれは、まあさっきの説明通りだね。
今はまだその時では無いから輪には入れない。だからこのまま待ってもらう。
あとこれは本来魂に告げるべきでは無いのだが、輪に入りここで新たな生を持っても君の魂の質は変わらないから、以前と本質的なものは変わりない生を生きるだろう。
人格の核になるもの、親類縁者とのえにし、先天的な体質、数多ある選択の先にある未来。
さすがにこのような不測の死は繰り返されないが、まあ概ね君が君で在る限りは同じような生だろう。

二つ目は、私がこの世界に在る様に、他の世界というのもあってね。
そこにそれぞれ私と同じ存在が居てそれぞれの世界を育んでいるのだが、稀に上手く育たない世界もある。
そういった世界との接点を、上手く育まれている世界に入口として置いているんだ。
存在の間借り…まあ、他世界からの勧誘口の委託、かな。
その存在に触れて其方他世界を気に入った者に、こちらの世界に魂の引越しをしないかと勧誘する、という訳だ。
もちろん、私の承諾の元にね。
その委託方法は間借りする世界に馴染ませる為、それぞれ多様だが、私の世界はなかなかに良く育っていてね。
そういった委託を幾つも請け負っている。
君も触れている筈だよ、他世界の入口に。 」」


ここで子供ガキが僅かに口角を上げた。
それに反応するように俺の片眉がピクリと動く。


「「 最後の三つ目は、そのままさ。
生を繰り返すのに疲れた魂に永遠の休息を。
魂をこの世界の一部に還す。還った魂はもう個では無いからね。
魂は巡らなくなり、次の生も自我もない。
ただこの世界と共に在るものになる。 」」


「「 どうだろう? 」」と聞いてくるこの 神 と名乗る子供ガキは、俺がどれを選んでも気にしないようだった。
どうでもいいのではなく、きっとどれも此奴コイツにとってはなのだろう。



「─俺が触れた他世界への入口ってのは何だ。」



そんなモノに触れた覚えは全くなくて、これ以上ない程に寄せられていた眉間もそのままに、微妙な顔付きになってしまう。
俺は懐疑的な表情をしているつもりだが、正直此奴コイツの話自体がまだ上手く飲み込めなくて、微妙に間抜けな面になっている気がする。


「「  ああ、それはほら、君が夢中になっていたあのゲームだよ。キミセカ…と略すんだっけ?
君があのホームに居たそもそもの理由の元だね。 」」


「は?」


俺は思いもしなかったその言葉に、思わず目も口も開いたままの間抜けな面のまま固まってしまった。
いや、冗談だろう。
あれは国内でもメディアに載る位に有名で、人気のゲームだ。
それがここじゃない世界への入口だと?
そんなもんが入口だったら、この日本からどれだけの奴が居なくなるってんだ。


「「  ああ、心配しなくてもあのゲームを体験した者が皆あちらに渡る権利を得る訳では無いよ。
さすがにそこは彼方あちら此方こちらも選ばせて貰っている。
本来なら君も彼方には渡らない予定だったんだけれど、今回は説明した上で君に選んでもらおうと思ってね。
もちろん、彼方を選べばあのゲームと同じ世界に生まれ変わる。
委託してくる世界は魂の待ちも無いからね。
直ぐに魂の輪に入れるし、君には特別に、どこに生まれるか選ばせてあげるよ。
それが私から君へのあがないだ。  」」


そう言うと、子供らしくない笑みを浮かべ、俺にどうする?とでも言いたげな視線を向けてくる。


俺はその言葉を呆然と聞き、頭の中で繰り返す。


あの世界の好きな所に生まれ変われる。
それは、こんなデカくてゴツいいかめしい男ではなく、可愛くて、ふわふわで、甘くて、周りに愛される、あの主人公にもなれると言うことだろうか。

この世界で生まれ変わる為にその順番とやらを待っても、またあんなクソ親父みたいなやつの所に生まれて、自分の理想と現実に悩む位なら、俺は…。



「「  どうやら、決まったかな?  」」



いつの間にか俯けていた顔を子供ガキに戻すと、そう子供がにこりと笑った言った。



「「  君の希望はあの世界の、ゲームの主人公に生まれる、でいいんだね?  
一応確認しておくけれど、彼方に渡ればまた此方に渡り帰ってくることはできない。
幾度も違う世界を渡れば、君たち小さき魂は世界にも還れず消えてしまう。
それは安らぎもないただの消失だ。
それは私たちにとっても良くない事だからね、それは叶えてあげられない。
それでもいいかい?  」」


俺は夢に浮かされたよう頷く。
此方に未練など、ない。
ここにはもう、幼なじみも居ないのだと、この子供は言っていた。


「「  そう。それでは、君の記憶は生まれ変わった時には閉じておこう。
君の望むシナリオが変わってしまっては大変だからね。
様にしておこう。  
他に何かあるかい?  」」


「……アイツの…。
俺を助けようとした俺の幼なじみの魂が見つかったら教えて欲しい…。」


「「  分かったよ、もう私の世界には居ないからね、捜すのは難しいかもしれないが、見つけたらきっと君には報せよう。  」」



そう、考えも回らないまま、言葉を零していた。
正直魂なんてもん探してもらったからってきっとどうも出来やしないが、それでも何処に消えたのか知りたかった。


本当はまだ、この子供が 神 だなんて信じれた訳じゃねぇ。
此奴コイツの言う通り、俺の願い通りに本当になるのかって疑いの気持ちも無くならねぇ。
でも、どうせ元に戻れもせず、ここにいても同じような人生の繰り返しなんだとしたら。


俺は。







そう思っていた俺の額に、子供がその小さな掌で触れた時。
俺の頭の中も目の前も何もかもが真っ白になった。




そして、次に『俺』としての意識が目覚めた時には、望んでいた通りに。
俺は、王立学園入学一週間前の、キミセカの主人公だった。





そしてそのまま予定通りに入学し、予定外の存在を見つけ、1年を主人公として過ごした結果、無駄だと悟り…。


俺は、あの日、アイツに掴みかかった。


その小さく華奢な子供らしくない子供に。



そして同じ世界からの転生者だと知り、その子供の話を聞いて。
俺は驚愕したんだ。


でもそれも仕方ねぇと思う。

だってまさか、あの日消えた幼なじみが、存在しないはずの子供としてこの世界に生まれ変わっているなんて、そんなこと、夢にも思わねぇだろ?




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