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7歳以降の僕 ♢就職編と見せかけて王宮編♢
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しおりを挟む「そうであった、レティ君にお願いしたい事があってな。」
そう言って陛下は、殿下と同じ金の瞳の眦をやや下げた。
「お願い…ですか?」
「ああ。マガリット家の3人には、レティ君の承諾が得られたなら、との条件付きで何とか許しを貰えたのだが、10日後にな、ドルトン帝国から第一皇子が我が国に訪れるのだ。
それで滞在の間に行う予定である一部の視察の案内をレティ君にな、して欲しいと名指しで願い出されてな…。
もちろん初めは断っていたんだが、それなら個人として直接レティ君を訪問すると言われてしまって…ほら、レティ君社交の場には出ないだろう?
だから皇子の歓迎パーティにも出席しないし…。
それを知った向こう方がそんな事を言い出しておって…それなら公務として、国としての応対の場で堂々と見張りをたくさん置いて会わせる方がまだ良いかと、そういう結論になってな…。
それで本人が了承すれば、という条件付きで向こうに同意を貰ったんだが…。」
陛下が酷く複雑そうな困り顔で「どうかのう?」と伺って来られる。
僕はお2人に促され着席した席で、ルーのお茶を飲んで心を落ち着けようとしてたんだけど…。
陛下のお言葉を聞いて、心を落ち着けるのには失敗した。
というか、驚き過ぎてティーカップを持ったまま固まってしまった。
「ああ、レティが固まってしまったではないですか。
だから私は反対したのです。
幾ら我が国と永らく友好関係を築いているとはいえ、レティを指名してくるのは不躾にも程がある。
それに、ムーラニアン殿下はレティに会わせるのには相応しくない…。」
パスティリード殿下の最後の呟きは小さすぎて聞こえなかったけれど、僕はムーラニアン皇子を知っている。
そう、もちろんキミセカで。
ムーラニアン・セニ・ムル・ドルトン皇子。
ドルトン帝国の第一皇子で、キミセカ王宮編での攻略対象者。
確か、パスティリード殿下よりも2つ上だったはず。
ドルトン帝国は、聖獣白竜様の守護を得て栄えている国で、帝都は確か大きな大きな湖の畔にある皇城を中心にして拡がるように築かれていたはず。
その対岸が視認出来ないほどの大きな湖全体が聖域となっていて、その湖の中に、白竜様始め色んな聖獣が住んでいて…。
ここアイカラリティ王国とはかなりの遠方に離れているんだけど、転移魔法陣で行き来出来るようにされている程、両国の 結び付きは固い。
確か数代毎に、どちらかの王族の血族を輿入れし合っていた筈だ。
そんな帝国の第一皇子である攻略対象者は、とにかく派手好き、陽気、遊び人!
湖に面していて気温が常に南国の様に暖かいドルトン帝国は、帝国民が総じてお祭り好きで、陽気な人が多い。
衣装も薄手の物が多く、アイカラリティ王国とはかなり文化や風習も違う。
何故僕を名指しされたのかは分からない。
分からないけれど、そんな事よりも僕が衝撃を受けたのは、皇子がこの時期にアイカラリティ王国に来ると言う事だ。
だって、王宮編の攻略キャラだよ?
今は時期で言えば就職編の筈なんだ。
実際この世界の主役であるヘジィは、まだ新人も新人。
王宮編は、就職編の後。
つまり数年後。
公式の年齢なんかから憶測するなら、あと2年は先の筈なんだ…。
何で?
何で今なの?
僕の様子が可笑しいのに気付いたルーが、さりげなく僕の体をソファーの背凭れに促してくれる。
リディが僕の傍に来て心配そうに見上げてくる。
グレッグさんが陛下と殿下に、少しこちらで相談する時間を設けたい、と僕の代わりに提案してくれている。
陛下と殿下が申し訳なさそうに、心配そうに謝ってくれてるんだけど、僕は曖昧な返事しか返せなくなっていた。
頭の中と目の前がぐるぐるする。
僕が学園にいた時に、就職編の攻略対象者達に会ったのも不思議に思ったけど、それは僕がヘジィではなくて、特別枠入学の、本編とは関係ないモブだからだろうと思っていた。
モブには本編の流れなんて関係ないからだと。
兄様が知っている役職ではない上役に就いたのには驚いたけれど、まだ『騎士団』という括りには当てはまっていたから、後でヘジィに確認するだけで良いかな、位の気持ちだったんだ。
でもこれは違う。
明らかに違う。
キミセカの世界の流れからしたらおかしい。
だって、裏設定の通りだとしたら。
僕の記憶の通りなら。
今はまだ、彼はこちらに来られないはずでしょう?
おかしい。
やっぱり何だかおかしいんだ。
どうしよう、どうすれば分かるんだろう。
ヘジィ。
ヘジィ、早く帰ってきて…。
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