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6歳の僕♢学園編 3♢
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しおりを挟む王宮の、リディ達が控え用に使っていた客室内。
陛下との謁見を終えて、リディ達を迎えに寄ってから直ぐに邸に帰ると思っていた僕は、今の状況にまた困惑していた。
客室の大きなソファーセットに座る僕。
僕の右隣に父様。左隣にはリディ。僕の後ろに立つ兄様達。
王宮の従者はお茶の準備をして出ていったので、壁際に控えるのはうちの専属執事のベルとルー。そして王宮の騎士が護衛として数名。
そして僕の正面に座るのは、その護衛対象であろう国王陛下。
え?さっき、次に会う時まで元気でね的な事言ってくださったよね??あれ?
混乱したまま視線をさ迷わせれば、陛下の右隣に宰相さん。
陛下の左隣には学園長さんと、そのまた隣に総括騎士団長さん。
さっき謁見の間にいた、僕が顔見知りのこの国のお偉すぎる方たちだ。そっと隣の父様を見ると、不機嫌気な中に呆れを含ませた顔で国王陛下を見ていた。
「何故陛下までこちらに?揃いも揃ってぞろぞろと。
あとは全て私に任せて下さって結構ですよ。」
盛大なため息の幻聴が聞こえそうな程、父様が呆れ声で陛下やその周りの方たちに言った。
父様の物言いに反応してるのは僕だけみたいで、うちの家族たちも、言われた陛下をはじめ周りの方達も、特に気にしていないようだ。
父様ってそんなに偉い立場のお仕事なのかな。
それとも、そんな物言いでも許される程の知己なのかな?
そういえば、そういう話ってあんまりされた事ないかも。
「そう言うな、余だってレティ君と話したいんじゃ。
さっきなんて目も合わせて貰えなかったんじゃぞ?
レティ君が賢すぎて、余は寂しい。」
効果音に「クスン」とか入りそうな泣き真似で、少し拗ねたような口調で話す陛下に僕はますます困惑してしまう。
さっきの対応が不味かったんだろうか。
そんな僕の顔色に気がついた父様が、僕に微笑んで頭を撫で、大丈夫だと言ってくれる。
良かった、間違ってた訳ではないみたいだ。
「うちのレティシオは、言われなくとも出来てしまう大変賢い子なんですよ。陛下はただの他人。ただの国主。
レティシオからすれば私や兄達の君主であり、我が家が忠義する相手です。
あの場での見事な対応でしょう。
実際あれ程渋っていた老獪共までうちの可愛い子に目を奪われていた。
もう異議も申し立ても出ますまい。」
「まあ、そうなんじゃけど。だからこうして別の場をとここに来たんじゃないか。
余はレティ君に直接賞与したいんじゃ!
それにお主らさえ息子に譲ってくれれば、余もレティ君の身内になれるじゃないか!」
「ありえません。そんな寝言は寝所でお願い致します。
レティシオも疲れているのですから、それならお早くお願いしますよ。
まったく、家に送ってくれればいいものを。」
父様が後半はブチブチと態と聞こえる独り言を呟いていて、僕1人だけが眉を下げている。
宰相さんや学園長さんが、いつもの事だから気にするなって言うけど、それはそれで良いのかな?
そういえば、ディー兄様の第一王子に対する態度もこんな感じだった気がする。
代々こんな感じで幼少からの関係を築いているのかも、とそこまで思い至って、少しだけ肩の力を抜いた。
そこで宰相さんが、陛下に「そろそろ…」と先を促してくれて、ようやく陛下が咳払いしてから、本題に入ってくれる雰囲気になった。
「レティ君。今回の国への貢献で、余から与えるのは『勲章』、『魔道統括長としての地位』、『子爵の位』、この3つじゃ。
領土はまだレティ君が成人しておらぬから、父親である公爵に今は委ねるが、成人した暁にはそちが治めるといい。
まあ、公爵家で纏めて管理しても問題はないが、その領土はそちのものだと言うことは忘れぬようにな。
それで、『魔道統括長』となったレティ君には、卒業してから王宮にて勤めをしてもらう。
詳しくは、宰相よ。」
「はい。レティシオ君、今回貴方の為した魔術式の新たな構築、魔道具の改良・開発により、今後の国の防衛、魔道具開発の躍進に伴う国益の増幅。それによる国内貴族並びに国外への影響を熟慮、先議した結果、今後の国の発展、そしてレティシオ君自身の安全の為に相応の役に着いてもらうのがいいという結論になりまして。
その結果王宮魔道士と魔道具研究所、その両方への意見・指導のできる地位を用意致しました。
それが先程陛下の仰った『魔道統括長』です。
業務内容は、今までレティシオ君が学園長室や魔道具研究所、魔道士訓練所でしていた事とさほど変わりません。
場所が王立学園ではなく、王宮内となっただけです。
レティシオ君と関わるのも、貴方の知った顔ばかりですから、安心して下さい。」
宰相さんが一気にそう言って、にこりと微笑んだ。
僕は完全に脳内が言葉の受付を拒否している。
全然内容が飲み込めない。
首肯すらできなくなって、完全に固まってしまった。
そんな僕を見かねたのか、父様が僕の顔を覗き込んで、背中を優しく擦ってくれる。
「レティシオが訓練所で話した複合魔法で訓練所の結界を強化しただろう?
まずあれを国の結界にも応用して、国防が強化された。
その応用を魔道回路にも組み込んで、体を護ると同時に回復する魔道具を作っただろう?
それのお陰で騎士団の負傷者が激減、レティシオの考えた魔道具のお陰で今までであれば死者の出ていた魔物の討伐でも、死者は出なかった。
家で書き溜めている生活に根差した魔道具も、他国や国内の富裕層から中流の庶民にまで広く普及、今は在庫の確保に追われる程になっている。
これで国益が前年の軽く倍は出るだろうと予想されている。
まあ、他にもあるんだが…兎に角、レティシオは最近少し注目を集めているからね、それでなくともこんなに可愛いのだから、父様も不本意ながら、国の後ろ盾もあった方が今後使えるかと思って、今回の話を受ける事にしたんだ。
本当は、うちの家の力だけでも守ってやれるんだが、そうするとレティシオの将来を狭めてしまう。
私は、レティシオのやりたいことをやりたいだけさせてあげたいんだよ。」
正直、陛下や父様の言う貢献が僕の力で成された事だとは思えないけれど、父様が僕の未来を心配して、想ってくれてるのが凄く嬉しい。
この世界のモブな僕は、この先の未来に不安しかないから。
「ありがとうございます、父様。」
陛下の御前で不敬だとは思ったけど、嬉しさのまま、つい父様に抱きついて胸元に顔を埋めてしまう。
父様はそんな僕の背を、優しく撫で続けてくれた。
僕は本当に家族に愛されているんだな、と。
この先何があっても、これだけは本当なんだ、と噛み締める。
ここ最近の寂しさや不安みたいな全部が、少しだけ薄まった気がした。
少しだけそのままでいさせてもらい、心が落ち着いてから父様から離れて、陛下達に不敬を詫びる。
すると、陛下からいつでも余の胸にもおいで~とお茶目に両手を広げて告げられた。
恐縮する幼子の僕を和ませる為だろうけど、そんな陛下に少しだけ親しみを覚えた。
陛下からの賜り物は、拒否なんてもちろんできないから、全て僕には過分だと思うけれど、貴族として慎んでお受けした。
少しでも、今日賜ったものに見合う者になれるよう、これから頑張らないといけないな、と卒業してからの王宮での日々に不安も覚えながらも、自分を奮い立たせようと、僕は膝に置いていた拳を固く握った。
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