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6歳の僕♢学園編 3♢
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しおりを挟む「レティシオ君、まず体内の魔力を感じてみようか。
それができたら、体に流れる魔力を自分の意思で円滑に巡らせ、それに慣れたら流す量や速さを変えてみよう。
僕も確認したいから、手を繋がせてもらってもいいかな?」
僕は頷いて、差し出された魔道士団長さんの掌に、そっと自分の手を重ね置く。
そして、魔道士団長さんに言われた手順の通り、体内の魔力の流れを偏りが出ないように、乱れが無いように、滑らかに、円滑に巡らしていく。
次第に量を増やし、速度を早めていく。
それを自分の中で決めている、ある一定の所まで達したら、滑らかさを失わないようにゆっくりと、魔力量も小さくして元の大きさにまで戻す。
これを3回程繰り返した。
どうだっただろうかと、集中する為に外していた視線を魔道士団長イグリットさんに向けると、何故だか重ねていない方の掌で口元を覆うように押さえていた。
指の隙間から、ゔゔゔゔん、みたいな唸り声が漏れている。
「あの、どこか間違っていましたか?」
「…ううん、全然。お手本みたいな魔力操作だったよ。
制御の仕方も完璧。
普通は最初の魔力を感じるのがまず難しいんだけどね…。
レティシオ君は、自分の今の魔力量も、限界値も、きちんと把握しているね。
流石というか、規格外というか…僕も早い方ではあったけど、初めての訓練で、しかも1回目でここまではできなかったなぁ…」
そのイグリット団長の言葉に僕は内心驚いていた。
(そうか、普通は魔力って意識しないと感じないものなのか…)
僕は生まれついて目が見えるようになる頃には、体内に魔力が流れてるのを自然と感じるようになっていた。
この流れが良いと、体調や発育にも良い変化がある事に気がついてからは、流れが悪くならないように管理していた位だ。
赤子の頃は殆どを寝て過ごしていたから、起きている間は常にベストな量、速さで魔力を巡らせることを心がけていて、そうするといつの間にか自然と意識しなくても巡らせられるようになっていた。
お陰で大きな病にもかかった事がないし、幼い頃に寝返りやハイハイ、掴まり立ちや話せるようになったのも、普通の子供よりも早かった。
ただそれが魔力操作の一種だと知ったのは、自分で書物を読み、勉強するようになってから。
最初はこれが魔力だってことも知らなかったんだ。
はじめはただ、体の中を血液とは違う、温かいものが巡っているな、位の感覚だった。
それに斑がある事に気がついて、その斑が大きい時には体調を崩した。
それで、これを制御すれば良いのでは?と思ったんだ。
これは前世の知識ではないけれど、前世の記憶があるからこそ、赤子の頃から感じる事が出来たんだろうと思う。
幼い頃に感じていた、前世の記憶があるからこその、ズルをしているような感覚。
イグリット団長さんは、何の疑いもなく、僕を褒めてくれている。
それにどう答えていいかわからず、その言葉を素直に受け取れなくて、つい曖昧に笑むことで誤魔化してしまう。
本来は魔力成長が始まるまでは、こういった魔力操作で体内の魔力を巡らせるのも危険だと言われている。
この世界ではみんな、魔力を生まれた時から大なり小なり持っていて、この世界の生き物は皆、体内の魔力をエネルギーとして巡らせる事で生きている。
前世の様に食事を摂り、睡眠を取るだけでは生きていけない。
魔力が無ければ、この世界の生き物は生きられない。
この世界で言う『 魔力を使う』とは、この生きる為に必要な最低限の魔力以外の、余剰分の魔力を使用する事を言う。
生きるのに必要な魔力量も、余剰分の魔力量も人によって違う。
余剰分が大きい程『 魔力量が多い』と言われる。
そして、この魔力の操作には安定した精神力が必要になる。
心が乱れやすい人は、魔力の操作も乱れやすく、上手に扱えない。
これは余剰分の魔力が多ければ多い程扱いが難しく、多量の魔力を保有している者には自分を厳しく律する事が求められる。
そうでなければ、魔力を使おうとした時に扱いきれなくて暴走、暴発させてしまうんだ。
だから精神の幼い子供には、生まれつき余剰分の魔力があったとしても、魔力操作や抑制の訓練はさせない。
万が一暴走した時、最悪の場合その子供の体が、心が、暴走に耐えられず壊れてしまうから。
魔力成長が始まるのは、心と体の両方の準備が整ってから。
それが大体6歳から8歳頃、遅くても10歳には殆どの子供が魔力成長し始める。
魔力成長が始まったと言うことは、万が一暴走してもきちんと周りが対処すれば子供が壊れる事はない。
だから、みんな魔力成長が始まってから訓練を開始する。
否、魔力成長が始まらなければ、訓練を始めることができない。
ただ、成長が始まってからはなるべく早く操作の仕方を覚えた方が良くて、これは成長と共に魔力量は増えるから、成長すればする程、最初の抑制が難しくなるからなんだけど…。
これは、将来魔力を使用するかにもよるから、貴族は魔力成長し始めたら訓練を始めるのが常識だけど、市井の子供たちに限っては必ずしもしているとは限らない。
まあ、市井の子供たちが通う学校で教えられるはずだから、操作の仕方が分からない子はいないと思うけど。
そういった理由で、イグリット団長さんは僕がまさか赤子の頃から知らずとはいえ、もう操作し慣れている、なんて思いもしない訳で。
同じ理由で1歳になってから顔を合わせた兄様達も知らない。
そして生まれた時から一緒にいた、両親や使用人達も、実は知らない。
まさか赤子が魔力を巡らせているなんて、誰も思いもしなかっただろうし。
最初は量や速度、斑が無いようにしたりの調節をしていて少し体調を崩した事もあったけど、赤ちゃんって元々すぐ熱を出したりするし、殆どが寝てるしね。
その具合が悪いのが、まさか魔力操作の影響だなんて誰も思わない。
それに僕、中身が最低16歳の精神年齢だったからか(前世の記憶で確かなのが16歳までだから、最低16歳って事にしておく。)、魔力暴走も、暴走しそうな程危なくなった事も1度もないんだ。
王都に行く頃には自然に調節できるようになってたし。
それが本当はしたらいけない、危ない事なんだって事を知ったのも数年後だったし。
だから、これは誰も知らない秘密。
そもそも赤子の頃から記憶も意識もあるなんて、前世の話抜きにしても、言えないもの。
この世界で知ってるのは、前世の記憶があるって共通点のある、ヘジィだけ。
(この魔力操作の話はヘジィにもしてないけどね。)
そんなこんなでやっぱり気まずくて、遠慮がちに笑って誤魔化していたら、何故だかイグリット団長さんが、凄く優しい微笑みを向けてきた。
何だか眩しいものを見るような、慈しむような?
何でこんなに優しく笑ってくれるんだろ?
「本当は、今日の時間いっぱいをさっき言った基本の操作に充てようかと思っていたんですが…。
基本はもう大丈夫そうなので、次に進みましょうか。
ただ、成長に併せて魔力量は増えていきますから、成長が止まるまで、定期的にこの基本操作と抑制の一連の流れは行ってくださいね。
レティシオ君は、言わなくても分かってるかとは思いますが。」
「はい、分かりました。」
これは魔力を扱う上で必ず守らないといけない事なので、しっかりと頷き返事をする。
すると、頭を優しく撫でられた── 途端に背後が何だか寒くなる。
振り返ると、いつも通りの優しい笑顔のミー兄様。
リディは不機嫌そうな顔かな?
することも無く待たせてるもんね、ごめんねリディ。
気のせいだったかと顔をイグリット団長の方に戻すと、少し笑顔の固くなった団長さんが、ぎこちなく撫でていた手を僕の頭から離した。
「…それでは、次の訓練に移りましょうか。
先程と同じように魔力を均一に巡らせて、そこから徐々に右手に魔力を集めてください。」
イグリット団長と重ねているのは左手。
僕は言われた通り魔力を巡らせて、徐々に右手に魔力を集める。
体内を巡る最低限の魔力はそのままに、余剰分だけを集めていく。
そして、ここが今の限界量だな、という所で止めて、そのままを維持。
これは初めてやったけど、思いの外スムーズにできた。
そっとまた外していた視線をイグリット団長に戻す。
今度はうんうんと唸りながら何度も頷いていた。
じっと見詰めていると、元に戻して良いですよ、と言われたのでまたゆっくりと元の巡りに戻していく。
次は反対の手を、と言われて重ねる手を右手に変え、同じ要領で今度は左手に巡らせている魔力を集めていく。
体内を巡る最低限の魔力量も、余剰分を集めて止める魔力量もさっきと同じ量で止めた。
更に同じ要領で片足ずつまた巡らせ、集めて、止める、を両足やる。
一定時間止めたら、あっさりと戻していいと言われるので、間違ってはないみたい。
「うーん、どうしましょうか。
数回に分けてゆっくり教えようと思っていたんですけど、30分も経たないうちに、魔力操作と抑制の訓練が終わってしまいました。」
イグリット団長さんに、苦笑いで告げられて驚いてしまった。
(え?これでもう終わり?)
「早い者でもここまでの流れを完璧にするには最低1ヶ月。
下手な者なら1年経っても上手く出来ません。
いやあ、参りましたぁ。」
さほど参っていなさそうな、先程とは違ういい笑顔でそう言われ、またもや返答に困ってしまう。
困ってついミー兄様を振り返り見れば、優しい笑顔で手招きされた。
イグリット団長さんに断りを入れて近寄れば、サッと膝の上に横向きに座らされ、頭を撫で、頭や頬、鼻の頭や顬、瞼等にキスをされる。
兄様にまで「さすが私達のレティだね!」と手放しで誉められてしまい、いよいよどうしたものかと困り果ててしまった。
きっと今の僕は眉を八の字に下げて、弱々しい笑みを浮かべている事だろう。
リディが僕が戻ってきて退屈から解放されたと喜んでいるのか、テンション高く僕の腰に頭をグリグリと擦り付けて来るので、その頭を優しく撫でながら、今日何度目かの気まずさを誤魔化した。
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