BLゲームの本編にも出てこないモブに転生したはずなのに、メイン攻略対象のはずの兄達に溺愛され過ぎていつの間にかヒロインポジにいる(イマココ)

庚寅

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5歳の僕 ♢学園編 2♢

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今日は本当のいきなりだったからか、待ち伏せもなく、でも誰に止められることもなく、無事に王宮魔道士団の訓練所に辿り着いた。



学園の訓練施設には行ったことが無いので比較出来ないけど、案内された王宮魔道士団の訓練所は、形状的にはコロッセオの様な円形のすり鉢状になっていて、中央のアリーナとそれを囲むように階段状に設えられた観客席との間に強力な防護結界が敷かれている。
ここは魔道士団の管轄内で1番大きな訓練所で、こことは別に個別で鍛錬できるように個室状に区切られた訓練室が集まった訓練所や、部隊別に訓練するもう少し小規模な訓練所もあるらしい。



今日連れてきてもらった訓練所は、数ヶ月に1度と定期的に王宮騎士団との合同訓練も行われるそうで、防護結界には、対物理と対魔法の2種類の結界が重ねられているそうだ。
この合同演習は希望すれば観覧も可能で、王族は定期視察を兼ねて観覧するらしいが、貴族、特に独身の貴族子息も見に来ることが多いらしい。
さすが花形の王宮魔道士団と王宮騎士団だよね。




騎士団には国王直轄の宮廷騎士団もあるんだけど、こちらは本当に有事の際にしか一緒になる事はないらしく、合同演習なんかも無いらしい。
王宮内の、王族の生活空間に近くなるほど宮廷騎士の人達が警護している。
そちらはまた魔道士団とも、騎士団とも別の訓練所があるのだとか。
そんな大規模な訓練所や施設が王宮とは別に何ヶ所もあるんだもんね。
王宮の敷地が広大すぎて、そりゃあ各所に繋がる移動魔法陣置くよなぁって思った。


そんな建物や訓練の内容などの説明を受けながら、アリーナに通じる通路を進む。
今はみんなここで一斉訓練をしているらしい。
いつも魔道士団団長さんが座って訓練を見ている、という簡易ベンチのある側の出口からアリーナに出ると、皆防御側と攻撃側に分かれて防護結界の耐久と攻撃魔法の威力の力比べをしていた。
僕はまだ発動できる魔力が無いので、実戦式のやり取りを見るのは初めてだ。



団長さんに連れられていつも座っているというベンチに腰を下ろす。
ベンチは想像より大きくて、団長さん、僕(膝にリディ)、学園長さんと座ってもまだ余裕がある。
座る時にさりげなくルーが僕の所にだけクッションを敷き詰め、座面にも敷いてくれた。
ルーの過保護が凄い。
ちょっとくらい硬い椅子でも平気なのに…という目を向けたら、即座に却下された。
団長さんにも学園長さんにもクッションはあった方がいいと宥められた。



何だか納得いかないままだったけど、団員の皆さんの真剣な撃ち合いを見ているうちにすっかりそんな事も忘れてしまった。
色んな属性での撃ち合いに、とても心躍る。
僕も早く自分で魔法を使ってみたいなぁ。
すっかり訓練の様子に夢中になっていた僕は、訓練しながらもチラチラとこちらを見ている団員さんがいるのにも気が付かず、団長さんが隣で「レティシオ君効果は流石ですね。見学してもらうだけでこんなに訓練効率が上がるのなら、見学に来てもらう時の訓練メニューを厳しいものにしても良さそうだ」なんて事を悪い笑顔で言ってた事にも気が付かなかった。
もちろん、そんな団長さんを白い目で見ている学園長さんにも。



次の訓練内容に移る合間の休憩に、学園長室で話したことのある副団長さんや他団員さんが話しかけに来てくれた。
急な訪問だったのに、皆さん笑顔で歓迎してくれて、団長さんと同じようにいつでも来てください、と言ってくれた。
こんな子供が見に来ても邪魔だろうに、皆さんとても良い人ばかりだ。




次の訓練では、比較的入団して日の浅い新人の人達の、初期動作や初期魔法の展開効率を早めたり、反射神経を鍛える訓練らしく、新人さんと指導役の人達だけが訓練を始めた。
それ以外の団員さん達は僕達の座るベンチの方に控えるように固まっている。
他にも空いてるスペースあるのに、尊敬する団長さんの側で見ていたいのかもしれない。
その初期動作や初期魔法の展開速度の効率化の話なんかを団長さんとしながら新人さんの訓練を見守る。
途中でさっきの訓練中の防護結界の話から、この訓練所のアリーナと観客席の間にある防護結界の話になって、効果の違うものの重ねがけよりも、別効果のものを複合した結界の方が魔道効率も魔道伝導率も上がって、強固になるのでは?という質問をしてみたら、それについて凄く詳しく聞かれた。
きっと僕がどれくらい理解してるのかの確認をしてくれたんだと思う。
きちんと僕の授業として勉強にも協力してくれて、やっぱり皆さんが憧れるだけあるなって思った。




それにしても、入団して間もない新人という事は、中には学園を卒業したばかりの先輩もいると言うことだよね。
僕の周りの同級生達の中にも、ここに進む人もいるんだろうな、と考えていて、ふと思い出した。
そう言えばゲームの就職編では、主人公の就職先に魔道士団も選択できた。
前世の記憶を持つヘジィは、学園を卒業したらどうするんだろう?
できたら学園を卒業しても、仲良くして欲しいな。
ヘジィは僕の数少ない友達だから。
僕の友達は、ヘジィとリディの2人だけ。
まあ、存在感ほぼ皆無のモブだから仕方ないんだけどね。




一通りの訓練内容が終わる頃には、学園に帰るのにも丁度良い時間になっていた。
そのまま団長さんに学園直通の転移魔法陣の部屋まで送って貰っていると、広い通路の向こうから凄く大きな人がこちら目指して歩いてきた。
まだ遠目の筈なのに遠近感がおかしく感じる程に大きい。
優に2メートルは超えている。
縦にも横にもがっしりと大きくて、筋肉の厚みも凄そう。
豪胆そうな、ライオンヘアが凛々しい赤茶髪で顔の彫りが深くしっかりとした造形の、雄々しい美形だ。
太く凛々しい眉毛の下の目は、近くで見ると優しい茶色だった。



「おう、イグリット!
次の合同演習の件で相談があるんだが、今時間あるか? 」


「総括騎士団長殿、今は大事な方のお見送りをしてますので、後でそちらまで伺いますよ。(有意義な時間の邪魔をしないでさっさと退きなさい)」


「大事な方?
何か感じわりぃ副音声が聞こえた気がするんだが…まあいいか。
お前の方から騎士団の方に来ると口にするなんて、明日は槍でも降ってくんのか?」


「失礼な言い掛かりは止めてください。
レティシオ君、邪魔が入り申し訳ありません。
これの用件は後で大丈夫ですので、先にお送りしますね。」


「え?
あの、でも大事な用件なんじゃ…」


「いえいえ、毎回行っている訓練の事ですし、重要でも急務でもありませんから。
さ、参りましょう」



そうにこやかに目の前の巨躯を避けるように、僕をエスコートして進もうとしたイグリット団長さんの前に、太い腕と大きな掌が遮るように広げられた。



「まあまあ、合同演習の件は後で良いからよ、その大事な方を俺にも紹介してくれよ。」



そう言いながら腕と掌で通せんぼされるけど、学園長さんの事は王宮に務めてれば皆さん知ってるんじゃ?とつい、首を傾けてしまう。
あ、もしかして、リディの事かな?とリディに目線を向けようとした時に、巨躯を屈めて、総括騎士団長さんが僕の顔を覗き込んだ。



「はじめまして、レティシオ殿。
俺はライオネル。
ここの王宮騎士団で、総括騎士団長をしてる。
偉そうな肩書きだが、堅苦しいのは嫌いでね。
呼ぶ時には敬称も役職も不要だ。ライオネルでいい。
気軽に接してもらえると有難い。」


「…それではお言葉に甘えて…
はじめまして、ライオネルさん。
レティシオ· マガリットです。
僕のことも、敬称は要りませんのでお好きに呼んでください。」



ライオネルさんの挨拶に、思わず知っています、と言いそうになるのを飲み込んで。
相手の希望に合わせて気軽に聞こえるように、それでも公爵家の子息として恥ずかしくない動作を心掛け、笑顔で挨拶を返す。
彼はその雄々しい顔立ちと巨躯の所為で子供達に怖がられる事が多いのを気にしていた筈だ。
だから、怖くないですよ、という気持ちを笑顔に込める。



僕の挨拶を受けたライオネルさんは、凛々しい目元をぱちくりと見開き、瞬きを数度繰り返してから口元を掌で覆い隠し、俯いたかと思うとクツクツと笑いだした。
笑いの間に小さく漏れた「なるほど、これは噂以上だな」という呟きは、掌に遮られ僕の耳には届かなかった。
僕は何か可笑しな事を言っただろうかと不安になり、エスコートする為に僕の手を取ったままのイグリット団長さんを見上げると、苦々しそうな顔で眉間に皺を寄せていた。
子供の僕がした一生懸命な挨拶に笑いだしたライオネルさんに、怒ってくれてるのだろうか。
優しいイグリット団長さんは、例えこの笑いの原因が僕の稚拙な挨拶だったとしても、子供が懸命にした挨拶、と言うだけで、それを笑うのは大人気ないと怒ってくれそうだもんね。
やっぱり笑われたのは僕の挨拶が稚拙だったんだろう。
マナーレッスンをもっと頑張らなくちゃ。




「いやあ、笑って悪い。
それじゃあ俺もお言葉に甘えてレティシオ、と呼ばせて貰おう。
レティシオはもう帰るのか?」


「はい。
今日は皆さんの寛大な計らいを頂いて、イグリット団長さんの所に授業の一環として見学に来ていたのですが、もう授業も終わる時間ですので、このまま学園に帰るところです。」


「そうかい。
それならまた来る時には俺とももう少し話そうや。
何ならうちの訓練の見学にも来てくれよ。」




なんだろう。
今王宮では子供の教育改善案でも出ているのだろうか?


「ありがとうございます。」


何だかこのままの勢いだと、王宮の要所を制覇してしまう事になりそうで恐ろしくなって、とりあえずお礼だけで応えさせてもらった。
うっかり機会があれば、なんて言ってまたお誘いが来たら流石にお前の所の息子は図々しいにも程があるぞと、父様の所にクレームが行きそうだ。
家族に迷惑が掛かることは1番したくない。
笑顔が引き攣りそうな僕に気がついてくれたのか、イグリット団長さんが「もういいでしょう」と、ライオネルさんとの会話を切ってくれ、そのまま少し強引にだが僕の手を優しく引きながらライオネルさんを残し、今度こそ転移魔法陣の部屋まで送ってくれた。



手を振って見送ってくれるイグリット団長さんに、僕も同じように振り返し応えながら、転移魔法陣の強い光に目を瞑り考える。



僕はライオネルさんを知っていた。
彼はゲームのキミセカ就職編での攻略対象者だ。
そして、今頃思い出した。
既に出会ってしまっているイグリット団長さんと、宰相のホルデン様。
彼等も就職編の攻略対象者だった事に。
今はまだ学園2年目。
学園編も半ばに差し掛かるかと言う所だ。
学園編では出会うはずのない就職編の攻略対象者達。



何事も無い顔で学園長さんにも辞去の挨拶をして、少し遅れてしまっている放課後の生徒会の仕事に早歩きで向かいながら、僕はぐるぐると考えていた。
このありえないタイミングの出会いは僕がモブだから関係が無いのか、それともイレギュラーだから起こってしまった事なのか。
でも僕の程度の知れてる頭では、いくら考えても答えは出なかった。





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