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5歳の僕 ♢学園編 2♢
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しおりを挟む魔道具研究所を訪れた1週間後。
今日のお昼寝後は、学園長さんの特別授業の日だ。
いつも通り保健室から直接学園長室を訪ねる。
ルーがノックをして訪いを告げる。
中から学園長さんの声で応えがあったので、声を掛けて入室すると、今日は王宮魔道士団団長さんが来ていた。
もう何度となくこの時間に参加されてるので、僕も駆け寄ってきたリディを受け止めながら気軽にご挨拶をする。
魔道士団団長さんのお名前はイグリットさん。
青みの強い紺の髪で、肩上にキッチリと揃えて切ったおかっぱスタイルもお洒落に見える、中性寄りの顔立ちの美人系美形さんだ。
目の色は金に橙の入り混じる2質持ちで、色味も澄んでてとても綺麗。
侯爵家の生まれで次男だそうだ。
イグリットさんのおうちは代々魔力素養の高い人が多く生まれて来るので、王宮魔道士として仕える人が多い。
その中でもイグリットさんは魔力量も大変多く、魔術への造詣も深く、歴代一の才能ある方みたい。
それ故か、自分にも他人にも厳しいタイプらしい。
彼に憧れて王宮魔道士団を目指す人もいる位だって言うから、厳しいだけではなく相当凄い人なんだろうな。
ただ、ここに来る時はいつも手土産持参で、ずっとにこにこしているし、僕にも気安く話してくれる。
学園長さんと話がヒートアップすると子供の喧嘩みたいな言い合いもし始めるから、僕にはもう魔術愛の凄い優しいお兄さんにしか見えない。
失礼に当たるからそんな事口にはしないけど。
「こんにちは、イグリットさん。
今日も学園長さんと一緒に魔法の事を教えてくれるんですか?」
「いえいえ、本日は別の提案をしに来ました。」
「提案?」
「ええ。
たまたま、先日聞いたんですがね?
レティシオ君、先日王宮魔道具研究所に訪れたそうですね?」
「え、ええ。
学園長さんや宰相様、国王陛下の寛大な計らいで、光栄にも見学させて頂きました。」
なんだろう。
いつも通りにこにこされてるのに、変な圧を感じる。
たまたま、って所をいやに強調されたし、いかに優しい団長さんでも僕みたいな子供が軽々しく王宮の、しかも国力の要となる魔道具を生み出してる場所に出入りしてたのは不遜だと思われたのかも。
それに魔道具研究所は王宮魔道士団の管轄になっている。
自分の管轄内で僕がうろちょろしてたらそりゃあ嫌だろう。
でも許可を出された国王陛下はじめ、宰相様や申請を出してくれた学園長さんには不信感を抱いて欲しくない。
僕が何と謝罪すればいいかと考えていた時、団長さんもぶつぶつと独り言を呟いていたらしい。
それもすごい目付きで学園長さんを睨みつけながら。
謝罪の方法を俯いて考えていた僕には、全く見えていなかったけど。
「くそ、完全に出し抜かれました。この狸爺めが。
うちの管轄内に置かれてる筈なのに私の耳に入らないなんて、態とうちに情報を漏らさないようにしていましたね…?
陛下も陛下です、何故うちにも一言下さらないのか。
自分たちだけこの方にお会いして恩恵を受けるとは…
実に腹立たしい…」
頭上からギリギリと歯軋りする様な音が聞こえる事に気が付き、とりあえず誠心誠意謝るのが大事かとふと顔を上げると、菩薩の様な、諭す様な笑顔の団長さんがいた。
あれ? さっきより距離が近付いてる気がする?
「レティシオ君、先日の魔道具研究所は楽しかったですか?」
「えっ、は、はい! とても!」
「……そうですか。
それなら、今日は是非、我が王宮魔道士団の訓練所にも来ませんか?
レティシオ君もそろそろ魔力成長期に入ってくる頃ですし、偶に一緒に来る副団長達も、またレティシオ君と色々話したいと言っておりました。
何より、うちでも将来の事を視野に入れて色々と見て頂きたいのですが」
お叱り所かにこにこと、また驚く提案をされる。
「僕なんかがお邪魔して良いのですか?」
「邪魔だなんて。
レティシオ君なら今後は学園の休日の時でもいつでも来て頂いて構いません。
寧ろ大歓迎致します。
いつでも気軽にいらして下さい」
「ありがとうございます、光栄です…」
こう言ってくれてるけど本当に良いんだろうか?
みんなこんな子供をホイホイと機密機関に招き過ぎでは無いだろうか。
まあ、僕なんかが何かしても誰にも害なんて与えられないけど。
「そうですか!
それでは早速参りましょう!」
そう言って手を取られ、入ってきたばかりの扉に向かわれる。
「あ、あの、申請も無しにいきなり今日は無理なのでは…」
「大丈夫ですよ、レティシオ君の王宮への立ち入りは既に国王陛下の計らいの元で自由にしていいとされていますし、関係各所への許可も、私が、今、許可をしました。
出入りが自由で私が良いと言っているのですから、私の管轄内で文句を言うものはおりません。
もちろん今後も、いつ来て頂いても誰からの文句も出ません」
そう良い笑顔で言い切って、どんどんと王宮直通の転移魔法陣の部屋に行ってしまう。
後ろを振り返ると、笑顔を貼り付けたまま静かについてくる学園長さんと、僕の後を小走り気味についてくるリディ、最後尾にはいつも通りに無表情のルー。
ちゃんとみんなついてきてくれてて、ホッとした。
転移魔法陣の部屋に着いた時、小さく「チッ…狸爺は来なくても結構ですよ」とか、「レティ君はうちの生徒じゃから同行は当たり前じゃろ、狐にとやかく言われたくないわい」とか聞こえた気がするけど、優しいおふたりがそんな会話するはず無いので、僕の空耳だと思う。
何故だか団長さんに両耳を掌で塞がれてるし。
うん、何だか唐突な展開にまだついていけてない僕の気のせいだろう。
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