38 / 80
5歳の僕 ♢学園編 2♢
7
しおりを挟むさすがに許可が下りて実際に行けるようになるのには最低1ヶ月はかかるだろうと、日課のお昼寝を終え何の心構えもなく学園長室に行った僕は悪くないと思う。
だって許可を取るにはまず宰相様に申請をして(これはもう既に終わってたけど、本当はここまででも場合によってはかなりの日数がかかる。)、それから宰相様の認可が降りたとしても、その後関係各所への確認(1番の関係所のトップからの申請だけど)、承認を得て(時と場合によって、宰相様への申請と手順が前後する事もあるけど、今回は学園長さんが直接宰相様に申請してたからね)、それから最終的に国王陛下にも許可を得なければならない。
この国王陛下に申請書が届くまでにもかなりの日数がかかるが、お忙しい陛下が書類を確認し承認印を押すまでにも数日はかかるのが普通だ。
我が国の国王陛下は幸いな事に勤勉、勤労でらっしゃるそうだけど、それでも数日。
世にいう愚王の治める国なんて、1つの認可を取るだけでも半年はかかるんじゃないだろうか…
ましてや今回の申請なんて、国の中枢の重要機関への入室申請だから厳重な審査や陛下の認可がいるけど、内容は学園に通う子供を連れてってあげたい、みたいなものだもの。
王宮直通の転移魔法陣に僕の通行許可を取る(魔法陣への認証に僕(と、ルーとリディも必然的にセットで)の事も新たに組み込む)だけでも大変なのに、そんなの後回しされるのが当たり前だよ。
学園長さんからの宰相様への直接の申請だから、最短で1ヶ月としたけど…それだって異例の早さだと思う。
だから心構えなんてもちろん僕はしていなかった。
宰相様に会った3日後の今日。
今日の午後の1枠は学園長さんとの特別授業(お茶を飲みながら魔道具なんかの話をするだけのお茶会)の日だから、いつもみたいにお昼寝が終わってから学園長室に訪れたんだ。
学園長室に入室していつものように飛び込んでくるリディを受け止めたら、そのまま学園長さんに手を引かれ、王宮直通の魔法陣のある部屋に連れていかれ、何の前振りもなく気がつけば王宮側の転移魔法陣の上に立っていた。
何でそれが王宮の転移魔法陣だとすぐに分かったかと言うと…
着いた先の部屋の調度の上質さもそうなんだけど、目の前に何故か国王陛下と宰相様が立っていたから。
僕は危うく心臓が止まるところだった…。
いや心臓は動いていたけど、呼吸は確かに止まっていた。
それでもほぼ無意識下の脊髄反射で陛下に最敬礼を取り、頭を下げたのには自分で自分を褒めたいと思った。
隣では学園長さんも優雅に陛下に礼を取っている。
きっと学園長さんは着いた先に陛下達がいるのを分かってたんだと思う。
「良い、面を上げなさい。」
許しを得て頭を上げる。
でも目線は合わせない。
尊い方と許しなく目線を合わせるのは、不敬にあたるからだ。
父様と陛下は近しい間柄だと聞いてるけど、それは僕には関係ない。
何せ初めての拝謁だし。
「……のう、余は、そんなに怖いかのう?
レティ君、目も合わせてくれないんだが…」
顔を上げて、陛下からお声が掛かるのを待っていると、いきなりそんなふうに話し始めた。
レティ君…まだ自己紹介もしていないのに親戚のおじさんが話しかけてきてるみたいな話し方だ。
でも僕にお声がかかった訳でもないから弁解もできない。
困ってそっと学園長さんを見ると、何故か陛下に向けてニヤニヤ笑いをしていた。
えっ何で?
「さてのう…レティ君は賢いから、いきなりの陛下のご登場に緊張しておるんじゃないですかのう?」
「そうですね、5歳という幼さでもしっかりとした貴族としての自覚を持っているようですから、当然の対応かと。
それに、陛下が怖くないかと言われると、私にはお答えしかねますね」
「二人とも、余に冷た過ぎるだろう。
レティ君、今は非公式だから、余とも普通に話しておくれ。
ほら、何にも怖くなんてないから!
目も合わせておくれ!余は、怖くないよ!
余にもせめてこの2人か、息子にするみたいに接しておくれ」
いきなりの陛下からの懇願に困惑頻りの僕は、言われたとおり目を合わせて、混乱のまま「光栄でございます、陛下…」とだけやっと声を絞り出した。
もうレティ君呼びされてるし、拝謁の挨拶も出来ないままグダグダで、でも今から格式張った挨拶を陛下にしたら大袈裟に嘆かれそうな空気だ。
でもさすがにいきなりの返事はこれが精一杯の砕けたラインだった。
だからそんな哀しそうな、寂しそうな顔で僕を見つめないで下さい。
お願いします。
「まだ堅いのう…レティ君は噂以上に賢い上真面目なんだのう…
余も早く仲良くなりたい。
余、頑張るから、レティ君も早く慣れておくれ」
よしよし、という風に頭を優しく撫でられた。
慣れるのは難しいけど、陛下はとても懐の広い、お優しい方みたいだ。
ちょっとお優しすぎるっていうか、本当に親戚のおじさんみたいになってるけど…
でもそのお陰で、やっと少しだけ肩の力が抜けた。
気がつけば呼吸も普通に吸えるようになっていた。
僕の頭を一頻り撫でて満足したらしい陛下は、僕の足元の後ろに目線を移した。
「貴殿が黒の君ですかな?
お目にかかれて光栄です。」
そう言って、軽く頭を下げられる。
リディも、僕の後ろから僕の横にまで移動してグルル、クルルゥと鳴いてから頷いていた。
一国の王と聖獣を纏める竜の子息。
普段のリディを見てるとその可愛さに忘れてしまいがちだけど、リディも王が敬意を払う存在なんだな。
何だか不思議な気持ちでその様子を眺めていた。
「それで陛下。
学園の授業の一環のこの時間に何用でしたかな?」
陛下とリディの様子を一通り見遣った後、学園長さんが切り出した。
え? 用件学園長さんも知らないの?
「あーいや、用と言う程の事は無いんだがな?
レティ君が王宮に来るっていうから、それなら余もやっと会えるかと思ってな?
ほら、余から会いに行くのは皆が渋るから我慢しておったけど、レティ君から来てくれるんなら余だって会っても問題なかろ?」
「だからといって、転移魔法陣前で待ち構えているのは如何なものですかなぁ。
レティ君、さぞ驚いたと思いますぞ?のう?」
学園長さんが僕に話を振ってくる。
いや、そんな実際心臓止まる勢いで驚いたけど、はいとも言い辛いよその質問!
学園長さんも知らなかったのにも驚いてるけど、僕、王宮に来る事も聞いてなかったから、この吃驚は学園長さんにも原因あると思うよ!
言えないけど!
「レティ君に聞いても答え難いでしょう。
お二人共自重なさいませ。
レティ君、こんなお爺さん二人は放っておいて、私の執務室でお茶でもして休憩しませんか。
こんな所で待ち構えられて立ち話させられて、疲れたでしょう?」
宰相様が助け舟を出してくれると見せかけて、ナチュラルに二人を無視して自分とお茶をしようと誘ってきた。
あまりに自然なお誘いに頷きかけたけど、このお二人を置いてなんてダメだよね!
それに僕、お茶しにじゃなくて授業の一環でここに来てるし!
「ホルデン!
抜け駆けは狡いぞ!
お前はつい先日も抜け駆けして先にレティ君に会いに行ったじゃないか!
余だってレティ君とお茶したい!!!」
僕が返事を返す前に陛下が駄々をこねた。
失礼な言い方だけど、だって本当にそんな感じ。
僕、どうしたらいいのか分からない。
陛下こんな感じでいいのかな、威厳とかそう言うのに関わらないのかな。
僕がオロオロしていると、隣で学園長さんが態とらしく長くて大きい溜息をついた。
「こうなるから儂、今日来るって最小限の人員にしか言うてなかったのに。
誰じゃ告げ口したの。後で見つけて叱ってやらねば」
そうブツブツ呟いてから、ゆっくりと顔を上げて陛下と宰相さんを見据える。
「お二人共、今日のレティ君は授業の一環で来とるので、まずは研究所に連れていきます。
帰る前に挨拶に寄るようにしますから、今はレティ君の授業を優先して下さいませんかのう。
そうじゃなかったらレティ君、もうここに来てくれんかも知れませんぞ」
僕何にも言ってないけど、学園長さんはそう、お二人を脅すような口調で話しかけた。
そんな理由で脅しになるとは思えないんだけど…
「あい分かった!!」
「分かりました」
学園長さんの提案?脅し?に素直に頷くお二人。
え、それで納得なの?
僕はまた研究所に来れるなら嬉しいけど、どこに即決する要素が???
論点も争点も着地案も理解できないまま、「それではまた後程」と、にっこり笑んで僕の手を引く学園長さんにそのまま連れ出された。
後ろから「手を繋ぐなんて狡いぞーーー!」っていう陛下のお声が聞こえた気がするけど、多分気のせいだ。
学園長さんは手を引きながら、「レティ君、気を張らせたろう、すまなかったね」と言ってくれたけど、学園に戻る前の挨拶は決定事項っぽい。
手を引かれる形で何の挨拶もしないままお2人の前から立ち去ってしまったし、辞去の挨拶は必要だよね、と自分を納得させて、何だか諦めの境地で学園長さんと研究所に向かう。
学園長さんに引かれてるのとは別の手をリディが握りながら、キュイキュイと喉を鳴らして慰めてくれてるのが今、唯一の癒しかもしれない。
104
お気に入りに追加
5,890
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
兄たちが弟を可愛がりすぎです~こんなに大きくなりました~
クロユキ
BL
ベルスタ王国に第五王子として転生した坂田春人は第五ウィル王子として城での生活をしていた。
いつものようにメイドのマリアに足のマッサージをして貰い、いつものように寝たはずなのに……目が覚めたら大きく成っていた。
本編の兄たちのお話しが違いますが、短編集として読んで下さい。
誤字に脱字が多い作品ですが、読んで貰えたら嬉しいです。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる