BLゲームの本編にも出てこないモブに転生したはずなのに、メイン攻略対象のはずの兄達に溺愛され過ぎていつの間にかヒロインポジにいる(イマココ)

庚寅

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5歳の僕 ♢学園編 2♢

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周囲の生徒が僕の存在にも慣れてきただろうと言うのと、僕の歩行が安定してきたのもあって、5歳になる少し前から自分の足で移動をするようになり、隣にリディ、斜め後ろにルーを連れて散歩がてらお昼寝場所の保健室に向かって移動していた、ある日のお昼休憩時間。




「おい!」



と、突然声を掛けられた。
ディー兄様やミー兄様の架空の婚約者について考えていたから、反応が遅れてキョロキョロと見回して、その声が背後からかけられたものなんだと気が付き振り返る。
粗野な呼び掛けに反して、少し高めの可愛らしい声。
振り向き目線を上げれば、ピンク掛かったミルクティ色の髪に、鮮やかなピンク色の瞳。



公式にも姿絵としては公表もなく、記載されていた特徴ももうぼんやりとしか思い出せなかったのに。
彼を見た瞬間、すぐに分かった。


(キミセカの主人公だ)



「おい、お前。
一体何者なんだ!?
なんでこの世界にいる! 」



突如として喧嘩腰に睨みつけながら話しかけてくるピンク色の主人公に、僕が反応するよりも早く、ルーが僕との間に立った。
隣では小さくだが、リディが低く唸っている。
主人公はルーの反応に驚いたのか、咄嗟に後ずさりそうになっていたが、堪えるように再度僕を睨みつけてきた。



「あの、僕に何か御用ですか?」



前世の記憶があると周囲に打ち明けていない上、本人にキミセカの主人公ですよね!知ってます! とも言えず、無難に高位貴族としての対応で様子を見ることにした。
だって、主人公が学園にいるとは思っていたけれど、まさかモブの僕に話しかけてくるとは思っていなかったから。
それに、正直彼の言っている意味が分かりかねた。
この世界の住人であり貴族社会にいる立場から見ると、男爵家という格下の家格である彼からのこの呼び掛けは、失礼どころか、下手をすると家同士の問題に発展して、公爵家であるうちからの抗議や圧力、それを見ての他貴族からの対応で、貴族社会から爪弾き、最悪王家からも見放される事態になりかねない。
それくらいに失礼な行動だ。


まず、格下である彼から許しもなく呼び掛け立ち止まらせるだけでも失礼に当たるのに、この口調。この態度。
明らかに喧嘩を売っている。
すごーく凄んでる。
ただ色味がピンクで、顔立ちも可愛らしいから、睨まれても怖くは感じないけれど。


彼の不躾な態度で、うちの優秀過ぎる僕専属執事はうっすら額に青筋を浮かべている。
僕は僕で、睨まれても怖くはないけれど、主人公はこんな態度をとるような人物だっただろうか? と、困惑してる。
それも相俟っての先程の返答だったのだが、それが彼には更に気に食わないものだったらしい。


「誤魔化すな!
なんでお前みたいなのがここにいるんだ!
お前なんか、存在しないはずだろう!! 」



そう言って、恐らく僕に掴みかかろうとしたんだろう。
ルーを避け、こちらに向かって半ば叫びながら僕に向かって手を伸ばしてきた。
でも僕は、その彼の物言いに違和感を覚えてそれに反応する所ではなかった。
あと少しで僕に手が届くという所で
あっ、と思った瞬間。
ルーが視界から消えたと思った時にはもう、主人公は僕の前に伏せるように、ルーによって背後から地面に押さえつけられていた。



「無礼者。
レティシオ様を公爵家ご子息と知っての事か。
数々の非礼と失言、許されるものでは無い。」



いつも無表情のルーが酷く眉間に皺を寄せ、眼光鋭く地を這うような声で言い放つ。
主人公の、僕に掴み掛かろうと伸ばしていた利き腕を背中でひねり上げ、首の後ろを掴み抑えながら、片膝を主人公の背中の上に乗せて、体重を掛けながら主人公を押さえ付けている。
主人公の顔が苦痛と苦渋で歪む。
小さく、くそっ、と悪態付きながら呻いている。
聞かなくても分かる。
きっと凄く痛い。
きっと僕に危害を加えようとした彼に近づくのはいけない事だと分かってるけど、どうしても聞きたくて彼に声を掛けるため近づく。



「いけません、レティシオ様!
近付かれては危険です!」




案の定ルーに止められるけど、ルーが抑えてくれてるから大丈夫、と言ってそれでも押さえつけられていない方の手には届かない距離で立ち止まり、少し屈んで主人公のピンク色の目を窺うように覗き込んだ。
さっき感じた違和感。
もしかして、彼は。




「ねえ、もしかして、『キミセカ』って、知ってる? 」




少し不安げに尋ねる僕の言葉を聞いて、ピンクの大きな双眸が大きく見開かれた。


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