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4歳の僕 ♢学園編♢
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しおりを挟む視界を覆う強い光の明滅の後、視界に映る建物内部の構造が変わっていた。
学園の大型転移魔法陣のある建物と同じ規模の建物から出ると、そこは既に森の入口になる敷地内の中だった。
直接敷地内に跳ぶなんて、ここに来るには余程厳重な審査過程と、魔法陣の発動にも相当複雑な条件が課せられているのだろう。
ここは森全体を最高位結界によって護っていると聞いたし(パッと見は壁も何も無くて、地表の術式紋による結界の境界線を見ない限り結界があるのも、魔力がまだ殆ど成長していない僕には分からないけど)、この結界内の魔法陣出口からしか出入り出来ないのかもしれない。
先生から再度、レクリエーションの注意点などの説明があり、森の管理と警護に当たっている王宮騎士団の騎士達の監視(に僕は感じた)の元、先生方に着いていく形で森の中に入る。
この敷地内に着いた時から感じていたが、森の中は更に澄んだ聖気に満ちていて、木々の間から差し込む木漏れ日も普通のそれとは違う輝きを放って見える。
目に映るのはありふれて見える木々や草花なのに、言葉にできない厳かさと清廉さに満ちていた。
空気が違う、というのは正にこういう事なのだと、無意識に理解する。
森の中の目的地までの道すがら、要所要所で立ち止まっては自生しているのが珍しい薬草や、精霊達の加護で生まれる魔法草、ここにしか生えない貴重な木やたまに顔を出す小動物達の説明を先生がしてくれる。
通常では見ることができない物を見て学ぶのもレクリエーションの目的のひとつだ。
この森にあるものは、無闇に持ち帰ることは許されていないので、説明もそこにあるものに触らず少し距離のある場所から見て説明を聞くのみ。
小さい僕は体の大きなディー兄様に持ち上げて貰いながら先生の話を聞いていた。
もうすぐお昼時かという時間まで歩いた頃、目的地とされていた森の中の開けた場所に着いた。
ここで各自テントのような簡易休憩具を班ごとに協力して建てて、お昼ご飯を食べたりしながら交流を図るんだ。
先生の1人が学園所有の大容量版の収納魔法陣付きカバンから次々に組み立て前の簡易休憩具セットを班に配っていく。
僕達の背負ってるリュックより明らかに小さい斜めがけのお使い用位のサイズのポシェットから、びっくりする位サイズの違う骨組みやなんかを次々出していくのは、もう、手品を見ているようだった。
収納魔法は、無属性魔法と時魔法の複合魔法。
原理は本で読んだし知ってるんだけど、実際に見るとやっぱり驚いてしまう。
僕達の班にも配られて、僕以外の皆で組み立てていく。
こういう力仕事は僕には手伝えない。
皆で協力して交流を深めるってのが今日の主題だから、組み建てには王子も執事のルーも高位貴族の兄様達も関係なく、全員で支えたり組み合わせたりしながら形にしていく。
僕は1人、少し離れた太めの倒木の上に座らされていた。
作業の近くにいると危ないからって。
いても邪魔にしかならない事が分かってる僕は、大人しく出来上がっていくのをじっと眺めていたんだけど…
(…あれ?僕のこと呼んでる声がする…?)
座っている所からは目視できない茂みの奥の方から、鳴き声とも呼び声ともつかない声が聞こえてきた。
キョロキョロと辺りを見回し、みんなの様子を伺うけど誰も声には気がついてないみたい。
何だか困ってるみたいな声に、少し様子を見るだけ、と倒木から腰を浮かせて声のする茂みの方に向かった。
(この辺から聞こえるんだけど…どこだろ?)
僕の背丈程もある草をかき分け進みひたすら声の元を探るように歩みを進めて、ふと声がしなくなった事に足を止めた。
少しでも周りを見回せるように爪先立ちして首を巡らす。
ピタリと止んだ声に首を傾げ、更に進もうとした時…
頭上からガサガサッバキッメキッとか不穏な音がして咄嗟に上を向いたら何かが降ってきた。
思わず一歩下がって手を前に出すと、腕の中にちょうどよく落下物が収まる。
咄嗟の自分の反射神経に、やればできるじゃないかと得意げな気持ちが湧き上がり、高揚した気分で腕の中を覗き込むと、僕の腕にちょうど収まる位の大きさの、中型爬虫類種?のような生き物だった。
蜥蜴と恐竜の間みたいな形で、温かな鱗に包まれた表皮をしている。
色は光が当たると鈍く紫にも見える黒で、瞳の色は今は閉じられていて分からない。
酷く弱って見えるけどどうしたのかと外傷を探すが、特に怪我をした様子はなかった。
足元の草を踏みつけ倒して座るスペースを確保してしゃがむと、膝に乗せるように抱え込んでゆっくりと頭から鼻筋に向かって指で撫でてやる。
兄様にいつもしてもらっているように、安心できるように優しく。
何度か繰り返しているうちに、大きな蜥蜴のようなこの子がゆっくりと目を開いた。
瞳の色は漆黒。
何だか前世で見慣れた懐かしい色。
「君が僕を呼んでいたの?」
問いかけるとクルルルッと甘えるような声を出して来て、僕の指に頭を擦り付けてきた。
僕は前世では毛並みのいい動物が好きで、キミセカで主人公が隠れキャラとして出会う聖獣の白虎が凄くいい毛並みのスチルでそれにいつでも触れるなんて、ととても羨ましく思っていたんだけど…
こんな風に甘えられると、鱗のある種族も可愛いなって思ってしまう。
甘えられるまま、猫にするように首元を擦りながら様子を伺うけど、やっぱり怪我なんかはしてないみたいだ。
「怪我は無いみたいだけど、どうしたの?
何か困ってるの?」
言葉が通じるかは分からないけど、再度問いかけてみると、さすられて気持ちよさそうにしていた喉元に当てた僕の指を、優しく甘噛みしてきた。
ハグハグと柔らかく噛んだ後、つぶらな瞳で僕を窺うように見上げてくる。
もしかして…
「お腹空いてるの?」
首を傾げ聞いてみると、凄い勢いで首を縦に振る。
どうやら僕の言ってる事が分かるみたい。
「お腹が空いてたんだね!
お昼ご飯用に配られたお弁当と、食後に兄様達と食べようと思って持ってきてた林檎があるよ。
僕達と同じもの、食べられる?」
蜥蜴くん(この世界だからきっと男の子だよね?)が膝から落ちないようにバランスが崩れないよう気をつけながら、背中のリュックを降ろし、中から配られてたお弁当と林檎を取り出す。
お弁当を広げて目の前に持って行ってあげると、嬉しそうにした後、僕の顔をまた窺うように見上げてきた。
僕のごはんを取っちゃうと思って気にしてるのかな?
「食べれそうなら、食べてくれて大丈夫だよ。
僕の執事のルーが、僕用のお菓子も持ってきてくれてるから。
だから、これは君の分。
食べれるだけ食べてね」
更に顔に近付けるようにお弁当を見せると、少し悩むように間を置いたあと、両手と口で器用に食べ始めた。
見た目から肉食かなって思ってたけど葉物や根菜、穀物類も食べてるから雑食なのかも。
食べやすいように膝上に乗せたままの体を背中を支えるようにして抱えてあげて、お弁当がすっかり空になるまで、その妙に人間味のある食事風景を眺めていた。
持ってきていた林檎も1つ食べきって、満腹、といった風にお腹をさすってる。
本当に人間みたい。
食べ終わって膝から降りた彼は、お弁当箱を片付ける僕の足にくっついて体を擦り付けている。
その様子も可愛らしくて、頭を撫でてあげてると、兄様達がいる広場の方向から僕を探す声が聞こえてきた。
黙って来てしまったことを思い出して、慌ててリュックを背負い直し、蜥蜴君に気をつけて帰るんだよ、と最後にもうひと撫でしてから声のする方に小走りで戻る。
後ろからキュウゥーと寂しそうな声が聞こえたけれど、ここにいる生物は動植物全てにおいて、連れ帰ることは愚か、本来は触れるのも禁止されている。
僕は酷く心配して探してくれてた兄様達にひたすら謝って、先生達や、騎士の人達にも蜥蜴のような子にお弁当を与えてしまったことを謝った。
幸い兄様達や先生の弁護もあって大きな問題にはならなかったけど、勝手にいなくなった事なんかに関しては割としっかり、何故か涙ながらに注意された。
なんで注意する側の先生が泣いてるのかな?
不思議に思いながらも、良くないことをしたのは分かってるので、僕は神妙に頷きながら、もうしません、とそこにいた兄様含め皆と約束した。
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