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3歳の僕
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しおりを挟む王子直々に学園内を案内してもらい、僕は終始キョロキョロとしながらゲームの面影を見つけては感動し続けていた。
(あの中庭、主人公と一緒にお昼ご飯食べるスチルあるんだよね~、ほのぼのスチルで癒されたなぁ。
あっ! この階段に続く廊下、選択肢背景の所だ!!
この教室前も!!! こんな近くの場所だったんだなぁ…
ここの吹き抜けエントランスは、遅刻しそうな主人公と攻略対象がぶつかっちゃう所なんだよね!
実際見るとこんなに綺麗な所なんだな~)
案内される教室や特別棟、要所施設だけでなく、何でもない廊下なんかにも感嘆したりテンションを上げている僕を、3人とも微笑ましいものを見る目で見守っていてくれたらしい。
その視線に気がついて、1人ではしゃいでいた自分が急に恥ずかしくなってしまい、そこからはなるべく表に出さないように気をつけた。
…正直ソワソワし過ぎていて隠せてはいなかった気がするけど。
主人公が選択してどこかの部に入部すると放課後通うことになる部室棟には、今日の準備で見学できる状態ではなくて行けなかった。
残念だな、なんて思っているうちに、いつの間にかほとんどの学園内施設は回り終わり、最後に残っていた教師陣の研究棟や個室なんかのある棟の中に入っていた。
前世で言う職員室みたいな所も、校長室(ここでは学園長室だけど)も、この中にある。
あとは攻略対象者の保健医がいる保健室も。
ぐるっと回る形で案内されている途中で、背後から声をかけられた。
「殿下、ちょうどいい所でお会いしました。
先日申し付けられていた件で、少々お時間頂いても宜しいですかな?」
みんなでその声の主を振り返ると、そこには〇リー· ポッ〇ーのあの白ひげの立派なダンブルな先生みたいな風貌の、お爺さんが立っていた。
お爺さん、と言っても背筋も伸びて姿勢のいい、体躯も引き締まっているのが分かるイケジジイな感じの人だ。
着ている物はローブに近いが、式典用なのか、タッセルや刺繍、飾りも豪奢な感じ。
どこかで見たな、と思ったらここの学園長だった。
実は王宮魔道士団直轄の魔道具研究所の所長もしている学園長さんは、学園編の入学式と卒業式、就職編で王宮魔道士を選択した時にも背景スチルとして出てくる。
学園長さんの言葉を聞いた王子は、僕達に断りを入れてから学園長さんの話を真剣に聞いていた。
どうやら魔道具研究所の方への依頼の件らしく、頼まれていた試作の魔道回路が上手く発動しない、といった内容らしい。
魔力回路の設計図を見ながら話を聞いていた殿下も、原因が見当たらないのか難しい顔をしている。
そんな殿下達の話を、僕を抱えたまま隣で聞いていた兄様が抱えた僕ごと身を少し乗り出し、その魔力回路の設計図を覗き込んだ。
自然と僕の目もその設計図に落とされる。
そこでふと、目に付いた図案の一部。
(あれ…? もしかしてここ… )
「反発してる…」
思わず呟いてしまった瞬間、皆の目が バッ!! という効果音がリアルに聞こえそうな程の勢いで僕に向けられた。
(しまった、声に出てた…)
僕は気まずくて、つい眉を下げ、ディー兄様にしがみついてしまう。
「レティ、どこかおかしな所を見つけたのか?」
ディー兄様は、そんな僕に優しく聞いてくれる。
でも僕は、いきなりこんな子供が口を出していいのか分からなくて、すぐには答えず、皆の顔色を窺ってしまう。
不躾な発言に気を悪くした風ではないけれど、いきなり発言した僕に王子も学園長さんも驚いている風だった。
「カディラリオ、レティは魔力回路図が読めるのかい?」
「ああ、家ではいつも魔導書や歴史書、魔道具関係の書籍も読んでいる。」
兄様が簡潔に普段の僕の事を説明してくれる。
それを聞いた王子は少し逡巡した後、僕に見やすいように設計図を広げて、優しい声音で気が付いた箇所を示すように促してきた。
「レティ、どこがおかしく見えたのかな?」
「えっと……あの…
ここ、と…ここの図式が繋がっているように一見見えますが、全体図で解釈すると、反発しあっています。
それで上手く魔力が全体に廻らなくて起動出来ないのかと…」
僕は恐る恐る答えて、失礼に当たっていないか不安に思いながら、息を潜めて2人の反応を待った。
僕の説明を聞いて、互いに確認しながら徐々にその目が見開かれる。
学園長さんなんて、そのイケジジイな顔を崩し、目ん玉転げ落ちるんじゃって位に目を見開いた顔で僕を見ている。
王子も、学園長さん程じゃないけど、かなりのびっくり顔だ。
やっぱり、こんな子供が言ったら不気味だろうと思う。
でも、僕にも良く分からないけど、自然と間違っている箇所に目線がいって、何が違うのかが自然と頭に浮かんだんだ…。
考えて見つけた訳じゃないから、つい言葉に出してしまっていた。
2人の反応が止まってしまったのを見て、ディー兄様が2人に声を掛ける。
「それで、原因は解ったのか?」
その言葉でハッと我に帰った2人が、それぞれに僕の言った通りだ、と返事を返してきた。
僕は恐縮しきりだったけれど、学園長さんがそのまま僕にどうしたら上手く廻るようになるのか尋ねてきて、僕がそれに答えを返すと喜々として大袈裟な程に礼を言ってくれて。
このまま研究所に行って試作を組み直すから、開始の挨拶は殿下、お願いします!と殿下に学園長の仕事を押し付けて物凄い速さで走り去っていった。
その勢いに残された僕達は呆気にとられたけれど、ちょうど開始の挨拶の時間が迫っていたので、慌てて殿下と会場に向かうことになった。
その後は兄弟3人水入らずで学園祭を楽しんだ。
話に聞いていて食べたかったたこ焼きも食べれたし(中に入っていたのは前世と同じタコではなく、魔物のクラーケンだったけど)、
演劇部の演目を観劇したり、
魔道具発案部の研究発表場所で写真のような物も撮ってもらったりした(これも光の屈折を利用してのものとかではなくて、魔力回路を応用しての指定範囲のものを専用紙に念写するのに近い)。
他にも色んな出し物や研究成果の発表、たくさんの食べ物の屋台を回って、あっという間に帰宅する時間になるほど満喫した。
ゲームの学園祭のようなフラグもイベントもないけれど、十二分に楽しんだ1日だった。
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