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3歳の僕
3歳の俺の弟(カディラリオ目線)
しおりを挟む俺の弟、レティは生まれた時から天使だと、領地の邸にいた両親からの手紙で聞かされていた。
半年と少し経つ頃には、天使なだけではなく天才だと、事ある毎に書かれるようになった。
正直、その時はそんなに気に留めてなかった。
母が父と領地に帰ったのは、レティを身篭ってしばらく。
容態が徐々に悪くなり、一向に良くなるどころか悪くなる一方だったからだ。
このままでは出産に差し障ると、領地で母の負担を減らすためだった。
王都にいては、高位貴族の我が家では社交界に呼ばれ、多方から声がかかり、父も王宮へ社交へ領地の仕事へと母に付いている事もままならない。
王宮への出仕も切り上げ、半ば強行での領地療養だった。
こんな強気な姿勢ができたのも、うちがかなりの力を持った高位貴族だからこそだ。
俺や弟のミスティラリにも一緒に来るかと父は聞いてきたが、母の容態は気になれど、弟にはさほど興味もなかったので断った。
ただ、母が命を落とすほどに悪くなるようなら、弟の命を諦めて欲しい、とは思っていたが。
そんな当時の考えも、領地に戻り容態の回復した母が無事に出産した事で杞憂に終わった。
母が無事ならそれでいいと、1年ほどの間に定期的に送られてくる手紙も流し見していた。
ミスティラリも同じような感じだったように思う。
手紙の内容はいつも、そのほとんどがまだ見ぬ新しい弟の事だ。
今日初めて寝返りをしたとか、今日初めて喋ったとか、今日初めてハイハイしたとか。
ミスティラリとは1つしか違わないし、赤ん坊の成長には明るくないが、確かにその手紙の内容が本当なら成長の早い子供なのだろうとは思った。
ただ、掴まり立ちして歩くようになっただの、今日はこんな事を喋っただの、内容が明らかに普通の赤子とは思えなくなってきた頃から、両親の誇張なのではないか、と思うようになった。
あの両親が嘘をつくとは万に一つも思ってはいないが、俺たちからだいぶ離れての新しく生まれた子供に、酷く目線が甘くなっているのだな、と思っていた。
そしてレティが1歳になる日。
レティの初めての誕生日祝いを王都でする、と両親が弟を連れて帰ってきた。
正確には、抱えて、だが。
初めてレティと会ったあの日の衝撃は今でも忘れない。
烟るような繊細なまつ毛に縁取られた瞳は
オーロラの様に様々な色が映り輝いていた。
この世のどんな宝石も敵わない
美しく複雑な世界の色を閉じ込めた様なそれに
俺の心は一瞬で掴まれた。
末の弟などどうでもいいと思っていた、さっきまでの自分がどれ程愚かだったのか思い知らされた気分だった。
その透けるほどに白い肌も、
柔らかさの分かるふくよかで僅かに赤らんだ頬も、
柔らかさを更に強調するまだ生え揃わない少なく短い髪も、
ツンと上向いた繊細な鼻も、
小さく可愛らしい唇も、
俺の人差し指すらも掴みきれなさそうな程に小さな手も。
その全てに目線も心も惹き付けられた。
しばらく惚けていて気が付かなかったが、隣のミスティラリもこの小さな天使に魅入られていたようだった。
母が俺たちを天使のような弟に紹介する。
同時に俺たちにも。
そんな紹介、まだこの小さな天使には分からないんじゃないか?
そうは思うが、兄とは理解出来なくても、俺がレティをこれから愛し、守っていく者だとはしっかりと伝えてこれから覚えていってもらわなくては!!!!!
俺は最もいい印象をこの天使に持ってもらえる様に、全力で気持ちを込めて笑顔を作り挨拶をした。
「本当に天使みたいに可愛いな。
レティ、これから俺が守ってやるからな。」
「レティ、私達の可愛い弟。
今日からはずっと一緒だよ。」
いつも死んだ魚の様な目でいるミスティラリが、弟に向けるには過剰過ぎるとしか思えない色気を振り撒きながら!俺の後に続いて挨拶をする。
(おい、お前のそんな笑顔、俺は初めて見たぞ。
そもそもこんな赤子になんだその色気は。
天使が穢れるからやめろ。)
心の中で罵倒しながら、天使の前では笑顔を崩すわけにはいかない。
何事も第一印象は大事だ。
ここでレティの関心を俺に1番に向けなければ!
そう思い、つい隣の天使じゃない方の弟を睨みそうになるのを堪えながら、レティの反応を少しも見逃すまいと笑顔のまま反応を待つ。
すると、俺の天使は想像を絶する程の天使だった!!!
「はじめまちて、おにちゃまたち。
レティれしゅ。
よろちくおねがいしましゅ。」
まろい頬を紅く染め、大きく煌めく瞳に薄らと涙を浮かべながら、
舌っ足らずになるのを必死に修正するようにハッキリとした口調で、
きちんと俺達に挨拶を返してきた。
1歳児だぞ。
1歳になったばかりの赤子が、初めて会った俺たちを母の紹介通り、きちんと兄だと認識して。
その上きちんとした挨拶を返してきた。
潤んだ瞳で、懸命に。
そのはにかんだ様な微笑みのなんと尊い事か!!!!!
こんなに可愛くて可憐で華奢で、赤子の今ですらこんなに魅力的で。
その上こんなに賢く、礼儀正しく、清廉な。
それにこの瞳の色。
潜在魔力の高さがこんな小さい頃からありありと分かる。
こんな奇跡のような存在、少しでも外に出そうものなら
すぐに攫われ食べられてしまうだろう!!?
俺は興奮を抑えられぬまま、その柔らかい頬に擦り寄りながら、再度強く、レティを命を賭してでも守り抜くことを誓い、この世の愛らしさを詰め込んだ様な小さな顔に口付けを降らせた。
反対側でミスティラリが同じようにしているのは気に入らないが、レティの前ではそんな気持ち、決して欠片も表情には出さない。
レティの見る俺は常に最高の俺でなければ。
その後レティがその小さな体で抱き締めてくれた時には、理性が飛ぶかと思ったが、何とか持ち堪えた自分を褒めたい。
俺は最愛に出会えたこの日の事を、生涯忘れないだろう。
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