無自覚フェロモン系男子篠灑君の学園性活

庚寅

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 篠灑しのせは大きく欠伸をきながら、一人校舎内を歩いていた。

 昨夜成宮なるみやを乞われるままに抱いて、結局自身が治まったのは明け方だった。
 そのまま色んなものでぐちゃぐちゃな自分の部屋のベッドで寝る気にはなれず、何とかその場で成宮の中に出したモノを掻き出し、拭き清めて成宮の部屋のベッドに運んだ。
 自分も軽くシャワーを浴びて成宮のベッドにそのまま潜り込んで、ベッドに男二人と言う狭いスペースの中で成宮を抱き込むようにして眠ったのだ。

 起きたのは昼になる少し前で、それも成宮に揺り起こされた。
 そうでなければ、恐らく夜になるまで寝ていただろう。

 初めてなのに散々抱き潰された成宮は当然足腰立たず、支えながら風呂に入れ、羞恥に騒ぐ成宮を宥めながら再度中の残滓を掻き出した。

 それから成宮の着替えを手伝って、今日は休むと言う成宮に「しーちゃんはちゃんと登校して!ついでに俺が休むこと先生とバスケ部のキャプテンに伝えて欲しい」と言われ、面倒だなと思いつつも成宮が動けないのは自分の所為なので、いつものように「分かった」とだけ応えて登校してきたのだ。

 丁度昼休憩の時間で結構な数の生徒とすれ違いながら職員室に行き、成宮の担任に成宮を体調不良による欠席を伝えてから、昼食を食べに食堂へ向かう。
 成宮が隣に居ないだけで、移動する間中酷く周りが騒がしく感じて、ただでさえ寝不足なのに頭に響くなあと篠灑は憂鬱な気分になった。


 食堂に着いてからは適当に選んだ日替わり和定食を食べながら、成宮には手の届くところにパンと飲み物を置いてきたが、ちゃんと食べれてるだろうか?なんて考えていたので、珍しく一人で食べている篠灑をキャイキャイと見詰めている周囲にも、他の人気者達が入ってきた際の騒めきにも、生徒会役員が入ってきた際の歓声にも気が付かなかった。

 篠灑の周りをさりげなく篠灑の親衛隊員が席取りして、なるべく騒ぎ立てないようにしていたから、と言うのも気が付けなかった要因のひとつではあるが。

 そんな訳で篠灑は、そんな一際大きな歓声を集めている生徒会役員がこちらに向かって来ているのにも気が付かず、その中でも一等親衛隊の規模が大きい生徒会長が篠灑の食事をしているテーブルに手を着くまで彼の存在にも気が付かなかった。

「篠灑、一人とは珍しいな。俺様が一緒に昼飯食ってやろうか」

 視界に入った右手と頭上から掛けられた声に、ゆっくりと顔を定食の魚から声の主へと向けた篠灑は、そこで漸く生徒会長とその後ろにいる生徒会役員に気が付いた。

「あー…、鏑木生徒会長さん」

 樋ノ宮学園在校生徒の頂点である生徒会会長を務める鏑木かぶらぎ京正ちかまさは、見上げてくる篠灑ににやりと笑って、テーブルに着いているのとは逆の手で篠灑の髪を弄びつつ、会話を続ける。

「今日はあの鬱陶しい金髪はどうした?」

「金髪…成宮のこと?なら今日は休みです」

「─アイツが休み…?」

 片眉を器用に跳ね上げた鏑木に「体調不良で」と伝えると、益々訝しげな顔をされた。
 成宮が体調不良で休むのはそんなにおかしい事か?と考えて、そう言えば成宮が体調悪くしている所を見た事無いなと気が付いた。

「……まあ、そんな事はいいか。篠灑、一人なら一緒に上で食べるぞ」

 上、とは食堂中二階にある、役員専用の飲食スペースで、学園の運営や行事管理から日々の雑務、素行不良の生徒の指導や問題が起きた時の対処まで常に忙しい役職持ち達のためにスムーズに食事が取れるようにと設けられた場所だ。
 そこに鏑木は篠灑を誘っているのである。

「や、俺役員じゃないんで」

 篠灑は端的に断りを入れるが、鏑木は余裕の笑みを崩さず篠灑の髪を弄び続ける。

「それなら今から役員になればいい。いい加減俺の所に来い、篠灑」

 篠灑は鏑木の言葉に、またかと溜息をいた。
 最近はこの手の勧誘はずっと成宮が請け負ってくれていたが、鏑木だけはいつも篠灑にこうして直接誘いをかけて来る。
 正直睡眠の為に授業をサボる事も屡々しばしばなので、そこまでして確保している睡眠の時間を余計な役職やなんかに就いて減らしたくは無い。
 生徒会役員特典の寮の役員専用個室部屋も成宮の甲斐甲斐しい世話のある今の相部屋に不満もないし、篠灑には少しも魅力を感じなかった。
 それに、数ある役職の中でも生徒会と風紀委員会は特に忙しい。
 その仕事量の多さで授業を免除されている位だ。
 そんなものに入ったら、篠灑の大切な睡眠の時間は確実に激減するだろう。

「や、俺何処にも所属する気無いんで」

 篠灑は殊更素っ気なく、視線も手元の定食に戻しながら答えたが、普段人よりも気位の高い鏑木は気分を害した様子もなく、「そうか、また誘いに来る」とだけ言って、最後に弄っていた篠灑の髪を撫で梳く様にしてから他の生徒会役員を連れて中二階に去っていった。

 篠灑は、ふう、と一息吐いて食事を再開する。

(あの人本当にまた誘いに来るからなあ…。名前も下で最初から呼び捨てだったし。俺にも下で呼べって煩いし。今日はそれがなくてまだマシだったな。
 あー、頭痛い。ただでさえ眠いのに、今ので頭痛酷くなった気がするわ…)

 のろのろと残りのご飯を腹に収め、篠灑は授業に出る前に保健室で頭痛薬を貰って少し昼寝するか、と早々に食堂を後にした。

 そんな気怠気な篠灑の姿を、篠灑の親衛隊員始め多くの生徒がほうっと吐息を零しながら見送った。






 コンコン
「失礼します」

 篠灑がノックをして保健室に入ると、ワークデスクに腰掛けて珈琲を飲んでいた養護教諭の嘉賀並かがなみゆうが振り返った。

「あれ、深森ふかもり君珍しいね、どうしたの?」

 嘉賀並は中性的で綺麗な顔に優しげな笑みを浮かべて、デスクの近くに置いてある椅子を指してどうぞ、と篠灑に座るよう促した。

「あー、ちょっと頭痛くて。薬欲しいんですけど」

「頭痛薬?痛いのは頭だけ?咳や熱なんかは?」

「や、多分寝不足が原因なんで。薬飲んで休めば大丈夫です」

「──そう、それなら薬は…はい、これ。
 今は誰も居ないから、奥のベッドで寝ていけばいいよ」

 どうぞ、と手渡された薬はベージュみの強いピンクの錠剤で、「どうも」と一緒に手渡されたコップの水で薬を流し込んだ篠灑は、嘉賀並の笑みが先程とは違っている事に気付かなかった。
 兎に角酷くなってきている頭痛をどうにかしたくて、嘉賀並の言葉に甘えて保健室内の一番奥にあるカーテンで間仕切りされたベッドに向かい、カーテンを閉めた。
 簡易ではあるがやっと一人きりの空間に安堵する。

 この学園は清掃業者が毎日入る為校舎内も靴のままで過ごすので、篠灑はさっさと靴と上着をを脱いでネクタイとシャツの襟元を緩め、どさりと体をベッドに沈めた。
 上掛けを被り目を瞑れば直ぐに睡魔がやってくる。
 篠灑はそれに逆らわず、ゆっくりと意識を手放した。







 どれ位経ったのか、夢も見ず体が酷く熱く感じて意識が浮上する。
 頭痛は治まったようだが、何だか体が怠い気がする。
 何より体の火照りが酷く、下腹部がムズムズとするのが落ち着かない気持ちにさせる。
 寝ていただけの筈なのに息も浅く短くしか吐けない。
 勝手に息が上がっている。
 流石の篠灑もおかしいと思い目をゆっくりと開いた。
 緩慢に瞬きながら目だけで周囲を伺うと、こちらを覗き込んでいる人影に気がつく。

 養護教諭の嘉賀並だ。

「起きた?」

 嘉賀並は篠灑の頬に手を当てて、そっと撫でながらうっとりと熱い吐息を吐いている。
 その瞳には欲望の熱が在り在りと浮かんでいた。





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