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しおりを挟む(憂鬱だなあ)
篠灑が樋ノ宮高等学園に編入してからふた月半。
空は朝から曇天で、ここ数日は雨が降り続いている。
もう梅雨入りかと、篠灑は窓を見遣りながら小さく息を吐いた。
今は古典の授業中だが篠灑は完全に心在らずで、ここ最近毎日の様にある告白の呼び出しや、勧誘をしに教室にまで押しかけてくる上級生達に辟易していた。
(何で俺なんかに告白や勧誘なんてしてくるんだろ)
つい無意識にまた一つ溜息が口から漏れる。
そんな篠灑の憂いと色気を帯びた様子を、同教室内の他生徒や、教壇で授業を進める教師までもが見つめている事に篠灑は気が付いていなかった。
どうして入学してふた月半で毎日のように告白や勧誘に合うのか。
篠灑は心底不思議で仕方なかったが、周りから見ればそれは当たり前の事だった。
幼稚舎からエスカレーター式に進級して行くこの学園では、当然幼い頃から周りの顔触れは変わらない。
国内経済の中心にある家柄の子息子女が通うとあって、内部の持ち上がり組の試験は差程難しくはないが、外部からの編入には厳しい審査と難度の高い編入試験が課せられている。
スポーツ特待の生徒や芸術方面での特待生徒ではまた選考基準が異なるが、こちらも非常に狭き門である事に変わりはない。
そんな外部編入生は、それだけで学園内ではかなり珍しく、閉鎖的な生活を送る生徒達からしてみれば関心の的になるのも必然だった。
その唯でさえ目立つ外部編入生の篠灑は、その中でも最も選考基準の厳しい進学特待生であったので、入学前から俄にその存在は噂されていたし、編入試験時に満点入学と言う新入生内で一番の成績を収めた篠灑は、高等部入学式典時で異例の編入生による新入生代表者挨拶を務め、高等部全生徒にその姿を印象付けた。
その代表者挨拶時の篠灑は手元に何も持っておらず、代表者に選ばれたのが不服だったのか気怠気な雰囲気を纏ったまま僅かに目線を伏せ、空中を見据えたまま見事な挨拶を諳んじてみせた。
その流れるような挨拶も、気怠気な雰囲気と伏せられた目元から溢れる色気で妙に官能的に聞こえてしまい、それを聞いていた者は皆一様に顔を赤らめた。
その色気ある見目のいい姿と、代表を務められる程の優秀さに編入初日からかなりの話題となったのだった。
それは五月半ばに行われた中間試験の結果を貼りだされた際にも、一位の欄に篠灑が満点で名前を記されていた事により、その優秀さを紛れではないと証明し、更に人気を高めた。
更には大抵の事は何でも熟す篠灑であるので、体育の授業でも卒無く活躍した。
基本気怠い態度は崩さぬままに、バスケットボールの日であればゴールから遠目の位置にいる篠灑にボールが渡ると、ドリブルで切り込むことも無く、そのまま軽々とスリーポイントを決めてしまうし、サッカーの日であれば気付けば常に絶妙な場所に立っていて、ボールを渡されれば上手い具合に味方へのアシストを果たしてしまう。
決して汗を流すような動きはしないのに、常に活躍してしまう篠灑は嫌味な程にその存在感を放っていた。
それをしているのがまた色男であるのだから、人気が出ない筈も無かったのである。
何でも卒無く熟す篠灑はどの部活動部員からも入部を熱望され、またそんな篠灑に恋をする生徒は日増しに増えていった。
其れはもう、篠灑が毎日を憂鬱に思う程。
然し篠灑本人は自分の事を、人よりは器用にこなせる位の凡人、と捉えているので何故こうも呼び出しや嘆願が舞い込むのか不思議で仕方なかった。
こんな熱意もやる気も欠片も持ち合わせていない自分に、どれ程の価値があると言うのだろうと、本心から。
この授業が終わればまた誰か来るのだろうかと、篠灑の心は窓の外に見える曇天のように晴れることは無かった。
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