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しおりを挟む「ふむ、なるほどな。
ところでジークムルド、我が国の皇女教育はどの程度まで学ばせているのだったかな」
セリアージュ王子の堂々たる弁を聞き終えたお父様は、さも今思い立ったかのように後ろに控えるジークムルド様に問いかけました。
そんなお父様のお言葉に、セリアージュ王子は僅かにですが訝しげな顔をされています。
まあそうですよね、第一王子からしてみれば自分の話した事とは全く関係の無い話をお父様がし始めたのですから。
ええ、ええ、貴方の心の内が透けて見えるようですわ。
「はい陛下。我が国唯一の皇女殿下はそれは優秀でいらっしゃいますから。
帝国内で共通語と定めている帝国語や一般教養はもちろんのこと、我が帝国内に在る六ヶ国と十三の部族全ての独自言語、礼儀作法、儀礼式典の所作に内容、またそれぞれの特色から風土、歴史、派閥間の力関係、現在の世情から市井の暮らしの水準までも把握され、それは当然我が友好国である国々に於いても同様で、その内容は各国王族とも遜色なく。
またカタルカ王国については特に詳しく学び終えていらっしゃいます」
そんなお父様とセリアージュ王子の様子を気にも留めず、我が国の切れ者宰相として有名なジークムルド様は、そうお父様に返答されました。
その様子は至極謹厳で、その流れるように紡がれた内容にカタルカ国王陛下と側妃様だけでなく、たった今訝しんでいた筈のセリアージュ王子まで感心したように息をついています。
そんな皆様同様に、私も真面目に話を聞いている振りをしていますが、これ、私の話なんですよね。
正直申し上げてこんなに真剣に手放しで褒められると、嬉しすぎてどんな顔をすればいいのか分からなくなります。
大っぴらに照れる事も出来ず必死に顔を保っていますのに、お父様、だからそのようにはしたなくニヤけたお顔をこちらに向けないで下さいまし!
ああああ、ジークムルド様、その様な微笑ましそうな目でこちらを見ないで下さい。
もしや私が照れているのがバレているのですか?そうなのですね?もう恥ずかしさの限界を超えそうなので、そっとしておいて下さいませ。
私がお父様とジークムルド様同様、傍目には今までと変わらないだろう表面を保ちながら必死に恥ずかしさを押し殺していると、ジークムルド様の話を聞き終えたセリアージュ王子が「何故」、と切り出した。
「それ程までに素晴らしい皇女殿下がいらっしゃるのでしたら、何故その方を我が国の妃としてくださらなかったのですか!!
これは我が国への侮辱行為ではありませんか!?」
感心しきりだった雰囲気から一転、再び怒りを滲ませた声が響きます。
……この方、何故こんなに声を張っているのでしょう。対面で、離れているのもティーテーブルひとつ分という距離ですのに。
その的外れな言い分にいけないと思いつつも、ついまたそんな関係の無い事を考えてしまいます。
恐らくいまこの場で彼以外の全員が思っている事でしょう。
侮辱しているのは貴方の方だ、と。
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