Pourquoi Dieu

神奈川雪枝

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なんで?

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どうして、
彼なのかと、

私は毎日神様を呪っている。


あんまりじゃないか。


彼が何をしたというのか。



平等に生きてる。


たまたま偶然、

彼は突然難病に襲われた。


自覚してからの浸食はすさまじく、

日に日に彼の顔から生気を奪っていった。


見ていて、

痛々しくて、


直視できない。


私は弱い。


どうしてと、

言わずにはいられない。


「せいじ。」


「ん?」


彼と午後の昼下がり、
屋上にやってきた。


「いい天気だね。」


「うん。」


青空の下で、

彼は笑う。


私がこの前買って来た、

緑のチェックのパジャマを着ている。



「かな。」


「なに?」


「いつも、ありがとう。」


「突然、どうしたの?(笑)」


「お前、転勤どうしたの?」


「気にしないで。」


「するよ。」


「あー、えっと。仕事ね、やめたんだ。」


「俺のせい?」


「私が選んだの。」


「栄転って喜んでたじゃん。」


「わたしは、せいじと一緒にいるほうが幸せなの。」


「俺は、嬉しくないよ。」


「なんで?」


「かなの夢の邪魔してる。」


「春になったらさ、花見しよ。

 夏は海みにいこ?

 秋は紅葉でしょ。

 冬はどこか樹氷でも見に行く?(笑)」


「俺なんかのために、かなの時間つかってほしくない。」


「寂しいこと、いわないで。」


「わかってるんだろ?
 俺の病気は治らない。
 そんなに先だって長くない。

 かなにとっては今が一番大事な時期なんだよ。

 そんな時に、俺に構わないで。」


夢などとっくの昔に捨てていた。

病気だと聞かされた時に、

私の夢は砕けた。


だから、気にしなくていいのに。


「せいじ。」

車いすの彼にあわせて、しゃがんで彼を抱きしめた。

思わずはっとする。


(細い。)

あまりの細さに、涙が出そうになる。

「かな。」

せいじは涙を流していた。

「俺、怖いよ。
 なんで、かなとずっと一緒にいられないの?」

私は何も言えなくて、
力強く抱きしめようとするけど、
力をこめると、
あまりの細さで折れてしまいそうで、
私の抱きしめる力は宙に舞う。

「俺、なんか悪いことでもしたかなぁ?」

「かな。」

「結婚したかった。」


私もと、彼に口づけをする。
唇がガサガサだ。

あぁ。

どうして。

3食毎食とって、
しっかり睡眠だってしてるのに、

薬だって飲んでいるのに。

どうしてこうも、
彼にははりつやがないのかと、
絶望する。

彼から水分も酸素も、
奪わないで。

「かな。」

「なに?」


「俺、いつまで生きれるかなぁ?」

私の目を、
そんな涙をためてみないで。

泣いちゃう。

我慢しているのに。

「大丈夫だよ。」

根拠のない大丈夫は、
あまりにもろい。




それから半年のことだった。
彼はみるみる弱っていって、
車いすにも乗れなくなって、
寝たきりになって、
目も開けれない日が多くなった。

「かな。」と、
力ない声で私を呼ぶ。

「なに?」

優しく微笑んで彼の弾力のないおでこにキスをする。

私がキスをすると、
彼ははかなげに嬉しそうに微笑んだ。


あぁ、
あったかい彼が冷たくなってしまった。

亡骸を抱きしめる。

無反応のそれを、
私はへしおりたい。

力強く抱きしめて、
私だけのものにしちゃいたい。

あぁ。

あぁ。

私を残して旅立ってしまったね。

我慢していた涙があふれた。
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