いいよ、もちろん。

神奈川雪枝

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毎日話したね

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私と寛は姉弟だ。
寛は私の大切な弟。
恋愛以上の気持ちがあっても、
私と寛は、姉と弟以外の関係はありえないのだ。

私たちの親は、
気が付いたら仲が悪くて、
顔を合わせると喧嘩ばかりしていた。

私たちは子供部屋でいつも早くおわりますようにと願っていた。

隣に布団を並べて、こそこそ小声で話をしたね。

ある時、私は手話というものを知った。
寛と一緒に覚えて、
夜手話で会話をした。

中学生の時だった。
親の離婚が決まった。

父は寛を引き取り、
私は母に引き取られた。

私たち家族が会うことはもうない。

そう思っていた。

ある朝、最寄りのバス停に寛がいた。

話しかけると嬉しそうに、
「俺もここが最寄なんだよ。」と話した。

私たちは朝にだけ、
バス停で会える。

声を出すとばれるという子供時代のトラウマから、
私たちは、手話で会話をした。

毎日の楽しみになった。

高校生になっても私たちの関係は変わらず続いた。

私が社会人のときだった。

寛はラジオのDJになったのだと教えてくれた。

聞いてみてと番組名を教えてもらった。

ローカルラジオの短い番組だけど、
深夜の楽しみになった。

私たちは二人で一つだった。
お互い浮いた話がなかったけれど、
ダメなんだけど、
気持ちは一緒だったと思う。

でも一線を越える気はなかった。

会社の忘年会の時だった。
しつこく誘ってくる先輩がいて、
断り切れなくて、
朝まで部屋で飲む羽目になってしまった。

「俺は好きだから、付き合ってほしい。」と、
べろべろに酔った状態で何度も言われた。

私はうんとは言えなかった。

先輩のしつこいアプローチは半年も続いた。

寛とはどうせ一緒になれない。
こんなに私を求めてくれる人、他にいるだろうかと考えた私は、
先輩と付き合うことにした。

その日は先輩と朝まで部屋で過ごした。

一緒に会社に行こうと、
バス停に向かう。

最寄のバス停だと、寛に会ってしまう。

それだけは避けたい。

そう思って、一個先のバス停にしようといったのだが、
先輩はなんで?
近いとこでいいじゃんとぐいぐいと私の手を引っ張って歩く。

バス停には寛がいて、
目を見開いていた。

初めて、手話がなかった日の朝だった。

それからなんとなく気まずくて、
私は時間をずらしてしまった。

いつもより早い時間に出ていたのが、
寝坊してしまった。

走って、バス停に向かうと、
寛がいて、
びっくりしていたけれど、
優しい笑顔を見せてくれた。

手話で今日のラジオを聞いてと言われた。

うんとぎこちなく返した。

夜、ラジオを付けると寛の声がした。

「こんばんわ。
 今日は私用なんだけど、
 俺の大切な友達というか、
 お姉ちゃんみたいな人に、
 なんと、彼氏ができました。
 まぁ、俺は失恋した訳ですが。(笑)
 おめでとう。
 どうしても伝えたくて、
 ちょっと電波をお借りしました。」

それからすぐに結婚式で人気のj-popが流れた。

思わず、涙が流れた。

私だって、寛のことが好きだった。

初めての恋だった。

でも気持ちを伝えてはいけない恋だった。

小さいころに布団でいっぱいいっぱいお話をしたね。

バス停でいっぱい話したね。

忘れられない。

忘れない。



私は3か月後に、
先輩と結婚する予定だ。

もちろん、寛も出席してくれる。

私と寛は、
世界で唯一の姉と弟なのだから。
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