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第1章表 神隠し
神の加護
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「うっ」
光が次第に収まり、目を少しずつ開けていく。神社にいたはずの俺は今、大きな石がごろついて、上空にはしめ縄が貼り巡り、そのしめ縄にはお札が張られている、どこかのファンタジーアニメで見たことがあるかもしれないくらい、現実離れした光景の中にいる。
「封印されているとか言っていたか?…というかあの神様は一体何を言っていたんだ?」
無理やり冷静にして言葉を記憶に落とし込んでいたのだろうか。先ほどの光景は鮮明に思い出せるし、すぐさま陽毬を探しに行かなければならないとはなっていない。
「先の会話、ほとんど洗脳みたいなものか…」
考えても仕方ない。超常的な現象を理論的に判断しようとしたら、時間をいたずらに使うだけに終わりそうだ。
そういえばあの神様は加護を与えると言っていたが、どんな加護だろうか。ゲームみたいに何回死んでもロードができるとかだったりしないかな。しないわな。大した神じゃないって自分で言っていたし。これに関してはさっぱりわからない。
ともかく、このダークファンタジー空間溢れるいかにもな危険地帯を抜けるか。
「よっと」
岩場を抜け、召喚された場所を振り返る。縦に長い山が、カルデラのように真ん中が凹んだ形をしている。さらに山が割れてできたような入口が存在し、そこには巨大なしめ縄とその真ん中には封の文字が書かれた巨大な札が貼られていた。
「本当に何かが封印されているみたいだな」
超常的な力の圧迫感とか、そういった類のものは感じないが、送られた時刻と同じなら太陽は頂点とは言わないまでも、似た位置にあるはずだが、この場所はとても暗い。真昼でこの薄暗さはひたすらに不気味である。
腹の虫が鳴る。
感慨に耽るより、やることがあった。
問題が山積みになっている。
今現在の問題は腹が減っている。いつ陽毬がこの地に送られてくるかわからない。そしてここはどこなのだろうか。着の身着のまま、サバイバル術なんて持ち合わせていないし、陽毬を助ける前にくたばりそうだ。物の見事に放り出された状態だ。
やっぱりあれ洗脳だったな。
冷静さを欠いていた自分にも非はあるかもしれないが。
「裏の世界と言っていたな…」
目の前の封印された場所以外は特別日本と変な地形は存在しない。都市部を離れれば山と森に覆われるのが日本だ。
それにしても———。
「日本だろうか」
山脈に囲まれた場所で、セミの鳴き声が聞こえるから夏なのだろうが、かなり涼しい。遠くに村らしい影が見下ろせるくらいにはこの場所の標高は高い。遠くに見える家は瓦屋根だ。
「異世界なのか、日本なのか。行ってみないことにはわからないか」
不安はあるが、腹の虫が導くほうへ足を進めることにする。
1時間半ほど歩いてようやく先ほど見えた村が近くなってきた。すると、火の手が上がる。遠い距離からはただの家事による煙か何かと考えていたが、どうやら違うみたいだ。
「火事か?」
急ぎ足で村に向かうと村の入り口付近の木の陰から二人の寂れた和服姿の男が立ちはだかった。
「待ちな」
腰には刀を持っている。
明確にわかる。
敵だ。
「珍妙な格好しているな、兄ちゃん。邪魔者は斬れって頭に言われてんだ」
「っ、物騒だな。お前らは一体…」
話しかけてきた男は刀に手をかけている。逃げるか。いや、俺が逃げれるような状態じゃねえ。くそ、どうする?
「なに、ちょっと食料と女を恵んでもらっているんだよ」
「盗賊か」
「その中でも山賊に分類されるかな」
村に近づく前に警鐘でも鳴っていれば近づいたりはしなかったかもしれない。相手は凶器を持っている上に数の上でも負けている。
「俺に斬らせろ」
最初に話しかけてきた男ではなく、すぐ後ろに控えていた男が抜刀し、いきなり向かってくる。
丸腰で戦闘のせの字も知らないのに、いきなり斬りかかられるなんて———。
「え?」
「避けるか!」
男の動きは遅くはない。戦闘のど素人の俺は避けるので精一杯のはずだ。
「ちっ、身のこなしは中々だが、得物がねえだろ!」
「…」
わけがわからない。理不尽にも殺されかけているはずだった。だが、どうやら俺はかなり強いらしい。十数回斬りかかられても余裕で避けきれる。避けていくうちに相手は少しずつ息を切らし始めた。
「くそが!」
「それは無駄だぞ」
「はあ、はあ、生意気な小僧が!」
「違う。その動きには無駄が多いと言ったんだ」
袈裟斬りに繋げる横薙ぎの攻撃、その初動の構えに右手の手首を右足で前蹴りし、攻撃を始動させない。そのまま一度足を引き、足刀で顎に一撃を加える。後退する相手へ二歩で急接近し、蹴り込んだ右手首と襟足を捕まえ、足払いしてなぎ倒す。倒しながら鳩尾に肘鉄を入れておく。
「ごぁ!がっ!」
腕から離れた真剣を奪う。
「てめえ!」
味方がやられたのを瞬時に判断したもう一人が抜刀するが、鍔迫り合いになる。
「わかんねえ」
「何だと!?」
「なんでもねえよ」
鍔迫り合いから離れ、向かい合う。
自分は戦い方も知らない一般人だったはずだ。なのに最初の一人を武器もなく体術で倒し、二人目も脅威にすら感じない。
「クソガキが———」
「悪いな」
もうすでに斬っている。
「ぐふっ…」
刀についた血を払い、倒れた二人目の男の刀も奪っておく。
「こいつらが抜刀した瞬間、動きの弱点がすべて理解できた。これが加護の力なのか?」
「で、…め、…」
「…先を急いでいるんだ」
一人目の男が立ち上がろうとしていたが、峰打ちで致死にならない首の一点に一撃を加えておく。
「ごっ?!」
「首の骨を折った。無理して動くと死ぬぞ」
勝てる。なら、少しでも命を。
まだ意識はあるが苦悶の表情をした男をその場に残し、俺は村へと入る。村の中は煙の匂いと血の匂いが混ざっていた。村の人間が対抗虚しく殺されている。女子供はどこかにかくまっているのだろうか。まだ山賊がそこら中に跋扈している。その中でも他の山賊と異なるのは、村の広場と思しき場所に陣取って死体の山に座っている男がいた。
でかい。
座っているの状態ですら体の大きさがわかる。腕も太く。腰に刺さった刀は脇差にしか見えない。そしてもう一つ、肩にかけた槍がある。それもかなりでかい。
「ああ?誰だてめえ」
「…お前が山賊の頭か?」
「だからなんだ?…ふん」
鼻で笑うか。
そしてその視線。
それでは背後から攻撃する仲間の位置を教えているようなものだ。逆手に構え、背後からの袈裟斬り躱し、肝臓と心臓をまとめて貫くように一撃入れる。
問答する前に斬るのが、この世界の常識なのだろうか。
時代劇の見過ぎかもしれないな。
「ぐふっ」
「返り血はあまり浴びたくないんだ」
俺は刺した刀を抜くと一歩で4mほど離れていた山賊に斬りかかる。山賊の頭はとっさに刀を抜いて一撃を防ぐ。
「なかなかやるな、坊主。だがな、おらっ!」
鍔迫り合いの状態から蹴られるが、咄嗟に片手でガードしてダメージは減らす。弾かれた先に他の山賊が斬りかかってくるが、態勢を整えて一太刀。一撃で沈める。
「ふん!」
目を戻せば、槍の一撃。
間合いを瞬時に詰めて放たれた一撃をどうにかそらすが、その威力に弾かれ、燃える家屋に激突する。
「速さは認めるが、軽いな」
強い。
刀を握っていた手が痺れる。
陽毬を助けに来たのに、なんで無駄な争いに、いや、無駄じゃないか。こいつら程度簡単に退けないようじゃ、主神相手に陽毬の奪還なんてできないだろう。
燃える家屋を斬る。
「ほぉ…、見た目は弱そうなんだがな」
「そうか?弱いと思うぞ」
「抜かせ」
槍と刀の二刀流。
踏み込み鋭いが威力負けしたら串刺しだろう。
「剣術は互角だな」
「どうかな」
鍔迫り合いはわざと互角に持ち込んだ。そのまま刀を引き、再び下から上へ斬りあげる。左手に傷は負わせた。
「痛えじゃねえか」
山賊の右腕が動いた。
「二の次は俺にもある?」
「くっ」
もう一度踏み込み刀で槍の切っ先を逸らす。
「さすがだが、甘えぞ」
「ちっ」
そのまま槍を横薙ぎに払われ、俺は再び宙を舞った。
「空中じゃ身動き取れねえだろ」
着地地点に槍の一撃を用意される。無理やり空中で体を捻り、再び槍の側面に刀を当てて、切っ先を逸らす。
「今度は風の性質付きだぜ」
逸らしてはずの攻撃に巻き込まれ、再び吹き飛んでしまう。
痛え。
風の性質だと!?
「いつっ」
痛みに耐えろ。眼前の敵に集中しろ。他の山賊どもは戦いに入ってこれるレベルじゃねえ。加護の力があれば———。
「考え事か?」
「しまっ———」
痛え。ちくしょう。
槍の一撃を真正面から受けてしまった。刀で切っ先に当てたが、そのまま一振り折られた。神の加護をもらったんじゃねえのか?こんなところでくたばるわけにはいかねえんだよ。加護の力に酔った自分が翳した正義感で、山賊とやりあうことになっただけだ。阿呆だなあ。最初の二人だけ倒して逃げればよかったのに、そのせいで制服がススと埃と泥と血まみれだ。
「はあ、はあ、はあ…」
「まだ立つか。右肩にも風穴開けるか?」
心ここに在らずだった。
非現実的なものを見すぎたのか。
この世の理不尽に充てられたのか。
死体を見すぎて現実を直視できないのか。
俺は実際に命のやり取りをしている最中にも関わらず、他のことを考えていた。
「笑えるな。ほんの少し前まで神の存在なんて信じてなかったのに…」
「は?」
異世界と言われてもピンと来ない、むしろここが死後の世界と言われた方が納得するかもしれない。陽毬を攫ったのが神ならば、俺をこの地に送り込んだのも神だという。普通なら笑い飛ばしている話だが、俺は自分の目でその顛末を見た。
何故、親しくなくなりつつあった陽毬を助けようと、藁にもすがる思いで神頼みを行ったのか。あのときの陽毬は———。
くそっ。
イラつく。
ああ、本当にイライラしてくる。
弱い自分に。
「どうやら、俺はカルシウムが足りてねえみたいだ」
「かるしうむ?なんだそれは?」
もう人を斬ったんだ。後には戻れない。戻る必要もない。陽毬を助けると決めただろう。何を迷う必要がある。
ならば、その障害になるものは相手が神でも斬って捨てろ、仁志!
「そういえば、言われたな。加護のために名前を変える必要があると」
「不気味な野郎め」
「覚えておけ、俺の名は豊川須乃仁」
「戯け、ここで死に晒せ!」
「神の加護の力か…」
袈裟斬りにあわせ、こちらも平行した角度で袈裟斬りをする。今度は左腕ごと斬り落とした。
「なん…!?」
努力も才能も関係ない、ただの天の力だ。すまんな。
俺は刀についた血を払った。
光が次第に収まり、目を少しずつ開けていく。神社にいたはずの俺は今、大きな石がごろついて、上空にはしめ縄が貼り巡り、そのしめ縄にはお札が張られている、どこかのファンタジーアニメで見たことがあるかもしれないくらい、現実離れした光景の中にいる。
「封印されているとか言っていたか?…というかあの神様は一体何を言っていたんだ?」
無理やり冷静にして言葉を記憶に落とし込んでいたのだろうか。先ほどの光景は鮮明に思い出せるし、すぐさま陽毬を探しに行かなければならないとはなっていない。
「先の会話、ほとんど洗脳みたいなものか…」
考えても仕方ない。超常的な現象を理論的に判断しようとしたら、時間をいたずらに使うだけに終わりそうだ。
そういえばあの神様は加護を与えると言っていたが、どんな加護だろうか。ゲームみたいに何回死んでもロードができるとかだったりしないかな。しないわな。大した神じゃないって自分で言っていたし。これに関してはさっぱりわからない。
ともかく、このダークファンタジー空間溢れるいかにもな危険地帯を抜けるか。
「よっと」
岩場を抜け、召喚された場所を振り返る。縦に長い山が、カルデラのように真ん中が凹んだ形をしている。さらに山が割れてできたような入口が存在し、そこには巨大なしめ縄とその真ん中には封の文字が書かれた巨大な札が貼られていた。
「本当に何かが封印されているみたいだな」
超常的な力の圧迫感とか、そういった類のものは感じないが、送られた時刻と同じなら太陽は頂点とは言わないまでも、似た位置にあるはずだが、この場所はとても暗い。真昼でこの薄暗さはひたすらに不気味である。
腹の虫が鳴る。
感慨に耽るより、やることがあった。
問題が山積みになっている。
今現在の問題は腹が減っている。いつ陽毬がこの地に送られてくるかわからない。そしてここはどこなのだろうか。着の身着のまま、サバイバル術なんて持ち合わせていないし、陽毬を助ける前にくたばりそうだ。物の見事に放り出された状態だ。
やっぱりあれ洗脳だったな。
冷静さを欠いていた自分にも非はあるかもしれないが。
「裏の世界と言っていたな…」
目の前の封印された場所以外は特別日本と変な地形は存在しない。都市部を離れれば山と森に覆われるのが日本だ。
それにしても———。
「日本だろうか」
山脈に囲まれた場所で、セミの鳴き声が聞こえるから夏なのだろうが、かなり涼しい。遠くに村らしい影が見下ろせるくらいにはこの場所の標高は高い。遠くに見える家は瓦屋根だ。
「異世界なのか、日本なのか。行ってみないことにはわからないか」
不安はあるが、腹の虫が導くほうへ足を進めることにする。
1時間半ほど歩いてようやく先ほど見えた村が近くなってきた。すると、火の手が上がる。遠い距離からはただの家事による煙か何かと考えていたが、どうやら違うみたいだ。
「火事か?」
急ぎ足で村に向かうと村の入り口付近の木の陰から二人の寂れた和服姿の男が立ちはだかった。
「待ちな」
腰には刀を持っている。
明確にわかる。
敵だ。
「珍妙な格好しているな、兄ちゃん。邪魔者は斬れって頭に言われてんだ」
「っ、物騒だな。お前らは一体…」
話しかけてきた男は刀に手をかけている。逃げるか。いや、俺が逃げれるような状態じゃねえ。くそ、どうする?
「なに、ちょっと食料と女を恵んでもらっているんだよ」
「盗賊か」
「その中でも山賊に分類されるかな」
村に近づく前に警鐘でも鳴っていれば近づいたりはしなかったかもしれない。相手は凶器を持っている上に数の上でも負けている。
「俺に斬らせろ」
最初に話しかけてきた男ではなく、すぐ後ろに控えていた男が抜刀し、いきなり向かってくる。
丸腰で戦闘のせの字も知らないのに、いきなり斬りかかられるなんて———。
「え?」
「避けるか!」
男の動きは遅くはない。戦闘のど素人の俺は避けるので精一杯のはずだ。
「ちっ、身のこなしは中々だが、得物がねえだろ!」
「…」
わけがわからない。理不尽にも殺されかけているはずだった。だが、どうやら俺はかなり強いらしい。十数回斬りかかられても余裕で避けきれる。避けていくうちに相手は少しずつ息を切らし始めた。
「くそが!」
「それは無駄だぞ」
「はあ、はあ、生意気な小僧が!」
「違う。その動きには無駄が多いと言ったんだ」
袈裟斬りに繋げる横薙ぎの攻撃、その初動の構えに右手の手首を右足で前蹴りし、攻撃を始動させない。そのまま一度足を引き、足刀で顎に一撃を加える。後退する相手へ二歩で急接近し、蹴り込んだ右手首と襟足を捕まえ、足払いしてなぎ倒す。倒しながら鳩尾に肘鉄を入れておく。
「ごぁ!がっ!」
腕から離れた真剣を奪う。
「てめえ!」
味方がやられたのを瞬時に判断したもう一人が抜刀するが、鍔迫り合いになる。
「わかんねえ」
「何だと!?」
「なんでもねえよ」
鍔迫り合いから離れ、向かい合う。
自分は戦い方も知らない一般人だったはずだ。なのに最初の一人を武器もなく体術で倒し、二人目も脅威にすら感じない。
「クソガキが———」
「悪いな」
もうすでに斬っている。
「ぐふっ…」
刀についた血を払い、倒れた二人目の男の刀も奪っておく。
「こいつらが抜刀した瞬間、動きの弱点がすべて理解できた。これが加護の力なのか?」
「で、…め、…」
「…先を急いでいるんだ」
一人目の男が立ち上がろうとしていたが、峰打ちで致死にならない首の一点に一撃を加えておく。
「ごっ?!」
「首の骨を折った。無理して動くと死ぬぞ」
勝てる。なら、少しでも命を。
まだ意識はあるが苦悶の表情をした男をその場に残し、俺は村へと入る。村の中は煙の匂いと血の匂いが混ざっていた。村の人間が対抗虚しく殺されている。女子供はどこかにかくまっているのだろうか。まだ山賊がそこら中に跋扈している。その中でも他の山賊と異なるのは、村の広場と思しき場所に陣取って死体の山に座っている男がいた。
でかい。
座っているの状態ですら体の大きさがわかる。腕も太く。腰に刺さった刀は脇差にしか見えない。そしてもう一つ、肩にかけた槍がある。それもかなりでかい。
「ああ?誰だてめえ」
「…お前が山賊の頭か?」
「だからなんだ?…ふん」
鼻で笑うか。
そしてその視線。
それでは背後から攻撃する仲間の位置を教えているようなものだ。逆手に構え、背後からの袈裟斬り躱し、肝臓と心臓をまとめて貫くように一撃入れる。
問答する前に斬るのが、この世界の常識なのだろうか。
時代劇の見過ぎかもしれないな。
「ぐふっ」
「返り血はあまり浴びたくないんだ」
俺は刺した刀を抜くと一歩で4mほど離れていた山賊に斬りかかる。山賊の頭はとっさに刀を抜いて一撃を防ぐ。
「なかなかやるな、坊主。だがな、おらっ!」
鍔迫り合いの状態から蹴られるが、咄嗟に片手でガードしてダメージは減らす。弾かれた先に他の山賊が斬りかかってくるが、態勢を整えて一太刀。一撃で沈める。
「ふん!」
目を戻せば、槍の一撃。
間合いを瞬時に詰めて放たれた一撃をどうにかそらすが、その威力に弾かれ、燃える家屋に激突する。
「速さは認めるが、軽いな」
強い。
刀を握っていた手が痺れる。
陽毬を助けに来たのに、なんで無駄な争いに、いや、無駄じゃないか。こいつら程度簡単に退けないようじゃ、主神相手に陽毬の奪還なんてできないだろう。
燃える家屋を斬る。
「ほぉ…、見た目は弱そうなんだがな」
「そうか?弱いと思うぞ」
「抜かせ」
槍と刀の二刀流。
踏み込み鋭いが威力負けしたら串刺しだろう。
「剣術は互角だな」
「どうかな」
鍔迫り合いはわざと互角に持ち込んだ。そのまま刀を引き、再び下から上へ斬りあげる。左手に傷は負わせた。
「痛えじゃねえか」
山賊の右腕が動いた。
「二の次は俺にもある?」
「くっ」
もう一度踏み込み刀で槍の切っ先を逸らす。
「さすがだが、甘えぞ」
「ちっ」
そのまま槍を横薙ぎに払われ、俺は再び宙を舞った。
「空中じゃ身動き取れねえだろ」
着地地点に槍の一撃を用意される。無理やり空中で体を捻り、再び槍の側面に刀を当てて、切っ先を逸らす。
「今度は風の性質付きだぜ」
逸らしてはずの攻撃に巻き込まれ、再び吹き飛んでしまう。
痛え。
風の性質だと!?
「いつっ」
痛みに耐えろ。眼前の敵に集中しろ。他の山賊どもは戦いに入ってこれるレベルじゃねえ。加護の力があれば———。
「考え事か?」
「しまっ———」
痛え。ちくしょう。
槍の一撃を真正面から受けてしまった。刀で切っ先に当てたが、そのまま一振り折られた。神の加護をもらったんじゃねえのか?こんなところでくたばるわけにはいかねえんだよ。加護の力に酔った自分が翳した正義感で、山賊とやりあうことになっただけだ。阿呆だなあ。最初の二人だけ倒して逃げればよかったのに、そのせいで制服がススと埃と泥と血まみれだ。
「はあ、はあ、はあ…」
「まだ立つか。右肩にも風穴開けるか?」
心ここに在らずだった。
非現実的なものを見すぎたのか。
この世の理不尽に充てられたのか。
死体を見すぎて現実を直視できないのか。
俺は実際に命のやり取りをしている最中にも関わらず、他のことを考えていた。
「笑えるな。ほんの少し前まで神の存在なんて信じてなかったのに…」
「は?」
異世界と言われてもピンと来ない、むしろここが死後の世界と言われた方が納得するかもしれない。陽毬を攫ったのが神ならば、俺をこの地に送り込んだのも神だという。普通なら笑い飛ばしている話だが、俺は自分の目でその顛末を見た。
何故、親しくなくなりつつあった陽毬を助けようと、藁にもすがる思いで神頼みを行ったのか。あのときの陽毬は———。
くそっ。
イラつく。
ああ、本当にイライラしてくる。
弱い自分に。
「どうやら、俺はカルシウムが足りてねえみたいだ」
「かるしうむ?なんだそれは?」
もう人を斬ったんだ。後には戻れない。戻る必要もない。陽毬を助けると決めただろう。何を迷う必要がある。
ならば、その障害になるものは相手が神でも斬って捨てろ、仁志!
「そういえば、言われたな。加護のために名前を変える必要があると」
「不気味な野郎め」
「覚えておけ、俺の名は豊川須乃仁」
「戯け、ここで死に晒せ!」
「神の加護の力か…」
袈裟斬りにあわせ、こちらも平行した角度で袈裟斬りをする。今度は左腕ごと斬り落とした。
「なん…!?」
努力も才能も関係ない、ただの天の力だ。すまんな。
俺は刀についた血を払った。
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