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第4章
融解
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女の皮膚は、留まることを知らないとでもいうようにじわりじわりと溶けだしていき、最早もともと人間のカタチをしていたとは分からないほどドロドロになって、テーブルや床に大きな染みを作った。
(どうして!?溶けるのはあくまで内臓だけであって、見た目はほとんど変化しないはずよ!!)
芽愚は想定外の事態に一瞬焦りの感情に苛まれたが、今回調合した薬が何故このような事態を巻き起こしたのか研究するため、布を整えるフリをして標的に近づくと、コンタクトケースほどの大きさの入れ物にドロドロになった彼女の一部を採集した。
店長は、目の前で人間が溶ける様を見たのは初めてであったようで(当たり前である)、あまりの衝撃に全身を戦慄かせていた。
程なくして、警察が到着しあちこちを調査していたが、この物騒な世の中で毒殺など特に珍しいことでもなく、彼女が摂取したパスタやドリンクから毒物が検出されなかったことや、彼女が来店してから店員以外と接触していなかったことを踏まえて自殺として早々に処理された。
それでもどのような毒物が使われているか調べるため、遺体を研究所へ持ち帰っているようだったが、どういったメカニズムで身体がとけたかは分かれど、どんな毒で溶けたかはもう分からないだろうと芽愚は考えていた。
実際、何人もの研究者が調査したが、解明することができなかった。
職場体験期間にこのような事件があったと学校に伝わり、芽愚は理事長に呼び出された。
「貴女がやったの?今回の事件」
部屋に入って扉を閉めるなり、開口一番にそう聞かれた。
「確かに私は龍さんの家でお世話になっていますが、私自身は特に何もしていません。失敗した時に証拠が残らないか確認を頼まれただけです」
芽愚は白々しい顔…とはいえ普段から無表情なのでそれも相手には伝わらないと思うが、白けた表情ではっきりと嘘を吐いた。
実は、芽愚や裕璃が殺人依頼をこなす事を知っているのは、黒城の家に住む黒城組の中でもごく一部の人間だけである。
この学園の理事長は黒城組と繋がりがあることから分かるように裏社会にも精通している。何か秘密や弱みを握られようものなら、それ等を利用される可能性があるため、あまり重要なことは明かしていないのだ。
「あら…そう。ま、黒城組の研究機関はかなり優秀だものね。貴女の体験先を指定された上、そこで人が死んだって言うものだから絶対に貴女だと思ったのだけど、毒を仕込むタイミングなんて誰にでもあるものね?」
理事長の探るような視線に気味悪さを覚えたが、凛とした態度を崩さずに対応した。
「ご用件は以上でしょうか。そろそろ休み時間も終わりますので、教室へ戻らなくてはいけないのですが」
「あら、もうこんな時間なの。いいわ、戻って頂戴。忙しいのに御免なさいね」
ヒラヒラと優雅に手を振る彼女に一礼し、踵を返して颯爽と去っていく。
おそらく誤魔化せていないだろうが、別にバレて困ることではない。
今回の任務は最低限の目標を達成したとはいえ、芽愚にとっては成功とは言い難かった。
席に戻って空を見上げると、芽愚のモヤモヤした気持ちを表すかのように、薄黒い雲が一面に広がっていた。
(どうして!?溶けるのはあくまで内臓だけであって、見た目はほとんど変化しないはずよ!!)
芽愚は想定外の事態に一瞬焦りの感情に苛まれたが、今回調合した薬が何故このような事態を巻き起こしたのか研究するため、布を整えるフリをして標的に近づくと、コンタクトケースほどの大きさの入れ物にドロドロになった彼女の一部を採集した。
店長は、目の前で人間が溶ける様を見たのは初めてであったようで(当たり前である)、あまりの衝撃に全身を戦慄かせていた。
程なくして、警察が到着しあちこちを調査していたが、この物騒な世の中で毒殺など特に珍しいことでもなく、彼女が摂取したパスタやドリンクから毒物が検出されなかったことや、彼女が来店してから店員以外と接触していなかったことを踏まえて自殺として早々に処理された。
それでもどのような毒物が使われているか調べるため、遺体を研究所へ持ち帰っているようだったが、どういったメカニズムで身体がとけたかは分かれど、どんな毒で溶けたかはもう分からないだろうと芽愚は考えていた。
実際、何人もの研究者が調査したが、解明することができなかった。
職場体験期間にこのような事件があったと学校に伝わり、芽愚は理事長に呼び出された。
「貴女がやったの?今回の事件」
部屋に入って扉を閉めるなり、開口一番にそう聞かれた。
「確かに私は龍さんの家でお世話になっていますが、私自身は特に何もしていません。失敗した時に証拠が残らないか確認を頼まれただけです」
芽愚は白々しい顔…とはいえ普段から無表情なのでそれも相手には伝わらないと思うが、白けた表情ではっきりと嘘を吐いた。
実は、芽愚や裕璃が殺人依頼をこなす事を知っているのは、黒城の家に住む黒城組の中でもごく一部の人間だけである。
この学園の理事長は黒城組と繋がりがあることから分かるように裏社会にも精通している。何か秘密や弱みを握られようものなら、それ等を利用される可能性があるため、あまり重要なことは明かしていないのだ。
「あら…そう。ま、黒城組の研究機関はかなり優秀だものね。貴女の体験先を指定された上、そこで人が死んだって言うものだから絶対に貴女だと思ったのだけど、毒を仕込むタイミングなんて誰にでもあるものね?」
理事長の探るような視線に気味悪さを覚えたが、凛とした態度を崩さずに対応した。
「ご用件は以上でしょうか。そろそろ休み時間も終わりますので、教室へ戻らなくてはいけないのですが」
「あら、もうこんな時間なの。いいわ、戻って頂戴。忙しいのに御免なさいね」
ヒラヒラと優雅に手を振る彼女に一礼し、踵を返して颯爽と去っていく。
おそらく誤魔化せていないだろうが、別にバレて困ることではない。
今回の任務は最低限の目標を達成したとはいえ、芽愚にとっては成功とは言い難かった。
席に戻って空を見上げると、芽愚のモヤモヤした気持ちを表すかのように、薄黒い雲が一面に広がっていた。
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