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第二章 仲間

地味にコツコツと

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「女一人で泊ってると夜に変なのが押しかけて来るんだよね~」

と、宿屋の宿泊している部屋でクリスに説明していた。クリスは不機嫌そうに廊下の辺りを見ている。

「こんな安い宿に泊まってるからじゃないか?」

「でもお金無いもん」

「…っぐ、それを言われるとそうだけど…」

クリスと軽く言い合いになっているのには訳がある。

今、どこの宿屋に泊ってるのか?とクリスに聞かれて街外れの格安宿だと言うと、自分もそこに泊まる…と言い出したので一緒に宿に帰ったら…私の泊っている部屋の前に、破落戸…不良?兎に角、人相の悪い人達が数名屯っていたのだ。

そして私を見るといやらしい顔をして、笑いかけてきたのだ。

そこへ怖い顔をしたクリスが現れて、私の手を引くと部屋に一緒に入って…今に至る、という訳だった。

「まだウロウロしてるな…もしかして隙あらば部屋に押し込もうってことかな」

クリスはイライラしている魔力を放っている。

「こんなにお金持ってなさそうなのにね…」

私が呟くとクリスは多分、驚愕の表情を浮かべている。しつこいようだが、前髪長めで目の表情がよく見えません…

「ねえクリス、前髪鬱陶しくない?切ったら?」

私が思い切ってそう尋ねると、クリスはビクッと体を硬直させると真っ赤になって俯いた。

「前にビートに…言われたんだ。俺の目が怖いって…だから怖い目を隠してるから…」

なんだと?ビートは本当に余計な事を言う男だな!

「怖い目って何よ?ちょっと見せて?」

私はオロオロするクリスに近付くと、クリスの前髪を強引に掻き上げた。

「…?」

どこが怖い目だよ…切れ長のぱっちりした翡翠色の瞳で、敢えて言うなら切れ長すぎて冷たい感じに見えるけど…睨まない限りは怖いなんてことはない。

「全然怖い目じゃないよ。前髪、切りなよ?その方が良いよ」

「え?…でも、そうなの?怖くない?」

「うん、全然~私は好きだけどなぁ」

「…っ!?…ぅ…うん…き、切るよ」

モゴモゴと言いながらクリスは背中に背負っていた袋をから、小型ナイフを出してきた…えっ?今切るの?しかもそれで切るのか!?

「ちょ…待って!それで切るの?大丈夫…私、切ろうか?」

クリスは小刀を持ったままオロオロして…小声でお願いします、と小刀を差し出してきた。

私は受け取ると前髪を切ってあげた。

うん…スッキリしてイケメンになった。なった…というべきか、イケメンだったことに気が付いたが正しいと思う。

ヤバイ…前髪を切ったクリスは私好みのカッコイイ顔立ちだった。

これは、なんとなくビートが前髪で目を隠せ…と言ってきた理由が分かってきたぞ?もしかしてクリスの顔面を妬んで、そう言ったんじゃないだろうか?

まあ真実はビートしか分からないけど…

「よし、完成!そうだ、クリスの着ているコート…魔法防御はついて無い…よね?」

クリスは自分のコートを見下ろして頷いた。

「あ…うん。この間サエラがレプレカンダの討伐のお金で装備を…って言ってたから買い替えて…ヒーサの皮のコートで…」

ヒーサとは大きな体躯と頑丈な皮膚を持つ、ゾウみたいな見た目の魔獣だ。

確かにコートは丈夫だけど、こう言っちゃなんだけどただのコートだ。

「クリス、コートに魔物理防御の術式かけてもいい?」

「!」

私は自分の着ていたポンチョの裏側の内ポケットをクリスに見せた。

「普通の服でも魔力を籠めて糸を少し加えるだけで、魔物理防御障壁を張れる魔道具になるの…それで、内側に布で…」

クリスに説明をすると、クリスの顔が輝いた。

早速クリスのコートに内ポケットを作りつつ…魔物理防御障壁をかけた、魔道具コートを作り上げた。

「すげぇ…本当に魔物理防御障壁かかっている!」

クリスがものすごい笑顔だ。こんな顔で笑うんだね…初めて見たよ。

「魔道具って高いでしょ?術式さえ間違ってかけなければ、自分で使うものは自作出来るかな~と思ってね。何て言っても私、お金無いし」

「俺も無いよ」

二人で見詰め合うと笑いが漏れた。

「昼食を食べてから、討伐に出るか?」

「うん、お願いします」

ああ、やっぱりソロ冒険者よりこうやって仲間と一緒に冒険したいな…泣きそうになるのをグッと堪えると、部屋を出て行くクリスを見送った。

魔獣狩りの為に装備を点検しておこう。

「素材も売ればお金になる。少しづつ頑張ろう」

一人じゃないって…心強いよね。モチモツ村から逃げ出した時に、怖くて悔しくて…淋しかった。冒険者になること…元冒険者のサペロお兄ちゃんに言われた言葉に従い、夢中で森を駆けていた。

あの淋しさに比べれば…

装備を整えて部屋を出ると、既にクリスは廊下に立っていた。ああ…あの不良?みたいな男達が廊下の奥にいるからか…

「お待たせ」

「よし、行くか」

さて…本格的な討伐に行くぞー!

魔獣討伐…ギルドには討伐に関する依頼は数多くある。それとは別に依頼に出ていない魔獣でも『素材』として買い取ってくれるシステムがある。

冒険者としてランクを上げて行く為には、まずは依頼を受けて成功し成功報酬を得て…を繰り返すことが必要だ。その後、一定の水準の討伐実績が認められると、昇格試験を打診されてその試験に合格するとランクが上がるという仕組みなのだ。

ランクが上がれば更に難易度の高い依頼が受けれるようになり、それに付随して成功報酬が高額の依頼もあるので腕に自信のある者はより早く上のランクの冒険者になって、儲けて金持ちになりたいと皆がランク上げに熱を入れるのだ。

私とクリスはまずは広場に出ていた屋台の串揚げを食べて腹ごしらえをしてから、冒険者ギルドに向かった。

「ガザベラの討伐してみたいって言ってたけど、俺のランクはCでサエラはDだから、正規の依頼だと受けられないかもしれないから…いきなり狩りに出てみるか?」

クリスの言葉にそうか、と思い出した。例えば私とクリスの二人でいきなりSランクの依頼は受けられない。同じパーティー内に討伐可能ランクと同レベルの冒険者がいないと正式依頼は受けられないのだ。

二人での討伐で、限りなくBランクに近いガザベラの正式依頼をギルドに持って行くと、受理されない可能性が高い。

「だけど俺達なら余裕でSランクぐらいは狩れるんじゃない?」

「…!じゃあ正規の依頼は受けないで素材売りに専念してれば…」

クリスを見上げると、力強く頷き返してくれた。

「俺はもう少ししたらBランクに上がれると思うから、サエラも大丈夫だろう?ランクが上がるまで正式依頼を受けなくても大丈夫だろう。ちょっと反則みたいだけど、このほうが正規の依頼を受けているより昇格が早いと思う」

つまりは依頼はマルッと無視して、素材ハンターとして暫くは専念する…と。

実際、依頼は受けないで素材専門ハンターとして働いている冒険者もいるのだ。あの専門部隊?に入るのも試験があると聞いたけど…

「俺…SSSランクになって見返してやりたい…」

クリスの怒ってるのか、泣いているのか…複雑な表情を見て、誰を見返したいのか?なんて聞けなかった。

ビートから連絡は入っていないのかな…ギルドの受付のお姉さんにビートの容態をお聞きしたけど

「ビート=ヘルメさんですか?特に重篤な容態だとの報告は受けていませんけど…」

と言われてしまった。

ビートが意識不明の重体とかで、こちらに連絡出来ないだけではないのかと思っているのだけど…違うのかな?

メメもロロアナもこちらに連絡してくるとは思えないし、新しい仲間?が元仲間に教えてくれるとも思えない。

私とクリスはガザベラが生息していそうな地域を地図で確認してから、直接討伐に向かった。

やはり楽勝だった。クリスは魔剣士としては優秀だ。ビートの補佐に回ってて目立ってなかったけど、実力はあると思う。

私の障壁で二人とも怪我も無く戦闘を終えて、仕留めたガザベラと道中に遭遇した魔獣鳥の解体をした。

「魔核が綺麗に取れたな」

「良い買取価格になりそうだね」

水魔法で血や体液などを洗い流して、ガザベラの魔核(魔素の塊)と臓器や骨と肉、皮…綺麗に捌いて麻袋に詰めた。

クリスが麻袋を持ってくれたので、重力無効化魔法を袋にかけた。そして転移魔法でモサンデードの街の近くに転移すると、冒険者ギルドまで移動しながら、世間話をした。

「あ~そうだ。魔獣を入れたり、大きなものを運びやすくするために魔道具の袋を作ろうかと思うんだ」

「袋?」

「ん…魔道具屋さんにも売ってたんだけど、高いんだよ。だから自分で作ろうかと…?!」

冒険者ギルドの入口で私の目の前に誰かが立ち塞がった。

立ち塞がっていたのはメメもロロアナだった。

二人はジロジロと私と…そしてクリスを見上げると再び私に目線を戻してからメメが叫んだ。

「いい気なもんよね!こっちは死に掛けたって言うのに…自分は男と楽しそうでさ!」

するとロロアナも叫んだ。

「そーだよっ!弱っちい半端もののくせに、どこでこんなカッコイイ人見つけたのよ!」

「え?」

「え??」

私もクリスも思わずそう聞き返して、目を吊り上げているメメとロロアナを見た。
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