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プロローグ

足掻かないのも一理ある

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捨てキャラ、雑魚キャラ、言い方は色々だがゲームの開始早々私はこの男達に捨てられた。要は一文で済む。

「サエラをパーティーから外しました」

こんな所だろう。実際、自分がRPGゲームをしていたら使い勝手の悪いキャラを

「あ~もうこいつ使えないわぁわ~パーティーから外そう!」

なんてボタン一つでポイッとその場で外してしまうだろう。それが現実世界で起こったら…こんな感じなのだ。

「お前使えねーし、うちのパーティーにいらねぇよ」

顔はすこぶる男前のさしずめ、このゲームの主人公のパーティーのリーダー…ビートはヘラヘラ笑いながら私にそう告げた。

彼の周りには治療術師の女と魔法使いの女、魔剣士の男がいる。私はRPG風に言うならば『盗賊』または『剣士』のキャラクターだろうか?ただこのパーティーでは勝手にそのカテゴリーに入れられていただけで、本当の私は断じて違う。

もう今更、否定も肯定もしないけど…

深い森の中…たった一人置いていかれたら、まあ普通の剣士や盗賊なら慌ててしまい、多分ビートは私が泣きながら許しを乞うてくるだろうと思っていたのだろう。

「分かりました、では失礼します」

そのまま私がその場を去って行こうとしたので、逆にビートが慌ててしまうという珍現象が起こっていた。

「お前っ?!良いのか?良いんだな?お前がどうなっても知らねえぞ!」

そっちこそ、私がいなくなってどうなっても知らねーぞっ…と。

その時、ビートの後ろに立っているクリスと目が合った。クリスは普段は無表情なのだが、青褪めていた。

「お気をつけて」

私はそれだけ言うと、あのクソパーティーメンバーが見えなくなる所まで歩いて行った。

奴らが見えなくなってから二日前にこの森に入る前に立ち寄った、この街の入口辺りを頭の中に思い浮かべる。

よしっ…魔力が体を包む。

目を開けると、ちゃんと街の入口の近くに転移出来たみたいだ。そのまま街の中心部にある冒険者ギルドまで歩いて移動した。

冒険者ギルド…

それは多種多様な依頼が集まる場所だ。それを求めて冒険者が集まり、依頼人と冒険者の仲介を生業とするのがこの商会、冒険者ギルドだ。

簡単に言うと職安、アルバイト、バイト、パートの紹介センターだ。

因みに私の冒険者ランクはD。ついこの間までは一番下のランクEだった。あのクソパーティーメンバーと組んで依頼を受けまくったのでランクDに上がったのだ。

ランクが上がったことだけは良かったと思える。一人で依頼を受けていても、魔獣を倒す系の依頼は怖くて受けるのに躊躇していただろうし、そうなると討伐実績が上がらなくて昇格がもっと遅かったと思うからだ。

そんなことがあった私の冒険者生活だが、私が何故あのクソパーティーメンバーと共にいたのかと言うと…

私は村を出て冒険者登録をしたばかりだったので、パーティーを組んで依頼を受けることにした。そこでたまたまあのクソパーティーメンバーになっただけだったのだ。

依頼を受ける際にパーティーを組むとデメリットがある。依頼を完了した報酬がパーティーの人数で等分されるので個人の儲けが少なくなる。

逆にメリットは退治や危険を伴う依頼ではリスクが少なくて済むことだ。

私は村を出たばかりだったからビートに誘われるままパーティーに入ったけど、私に任された仕事といったら、荷物持ちや宿屋の手配、備品の管理…こんなことばかりを押し付けられていた。しかも宿で宿泊する時はビートは一番良いランクの部屋で私は大部屋という有様だった。

自分で言うのも何だけど、NOと言えない元日本人の悪い所が出てしまっていた…と思う。

「お前、剣士見習いなんだろ?前に出て戦えよ!」

そう言って戦闘の度にパーティーメンバーの前に盾代わりに立たされた。

別に盾代わりでも問題ないんだけどね、だって私、防御魔法得意だし?

因みに私、専門は治療術師なんだけどね?

多分、村で唯一の元冒険者のお兄さんのお古のコートと年季の入った魔獣皮製のお兄さんの子供の時に履いていたパンツのせいで、ビートに最初から『剣士見習い』だと勘違いされたのもいけなかったんだよね。

最初から否定しておけば、こんな胸糞悪い置き去り行為を受けないで済んだはずだ。

私はギルドの受付の順番待ちの列に並んだ。先ずはあのクソパーティーメンバーから外してもらって…少しは貯まったお金で、術師用のローブを買おう。そして、薬草採取とかの依頼を受けて豆豆しく地味に生きていこう。

「冒険者ギルドでようこそ!ご要件をお伺い致します」

やっと自分の順番がきて、ギルドの受付のお姉さんにパーティーメンバーからの脱退処理をお願いした。

ギルド証を手渡すと、魔力読み取り装置の上に置いて私の冒険者履歴を見ている、受付のお姉さん。

「はい、脱退処理完了しました。ご利用ありがとうございました」

呆気ない。あれほど胸糞悪い行為をされたのに、メンバーから外れるのは簡単過ぎた。

さて、隣の窓口〘預入、引出し〙に再び並び直し、お金を下ろした。魔術師用のローブの値段の相場が分からないけど、取り敢えず…魔道具店に向った。

「ローブ高っ!」

魔道具店に入り、ローブの値札を見て絶句した。自分の手持ちのお金の五倍はする。ウン10万円ってハイブランド並みじゃない…

自分的にはお洒落ではない地味デザインのローブに施された魔術式を視る。

魔法防御、物理防御…?これくらいなら自分でかけられる。そうか、普通のローブ…例えば可愛いデザインのものを買って自分で魔術をかければ…あっという間に魔道具の出来上がり!になるんじゃない?

そうだ、自分で作れるものは自作しよう。 

私は魔道具店を出ると表通りに出た。普通の服屋はどこにあるんだろう…近くを歩いているおばさんに聞いてみたら、もう少し通りを進んだ所にある、女性向けのお店が多く出店しているエリアにあるみたいだ。 

おばさんにお礼を言って、大通りを進むとフローラルな香りがしてきた。

「わあ…」

思わず感嘆の声を上げた。

店の構えからして違う。お店の外壁は配色がポップで可愛い、花壇に可愛い花が植えてある。乙女ストリートだ!

私はキョロキョロと辺りを見ながらテンションが上がっていた。

可愛いケーキ屋さんがある!後で覗いてみよう…あっ、雑貨屋さんだ!これも後で…

そして衣料品と書かれた看板を見付けたので扉を開けて店内に入ってみた。

やっぱり女子向けの服屋だね~色合いが可愛い。スカートやシャツ…そしてコートの棚を見付けたのでポンチョみたいなのマント?がないか物色し始めた。

「あった…」

ポンチョの胸から下あたりから花の模様の刺繍が施されている。柔らかい薄い色の刺繍で主張し過ぎず…さり気なく可愛い。よし…インスピレーションを大事にしよう。一目惚れだしこれを買おう。値札を見ると三百ベイ…1ベイ約5円くらいなので、1500円!安い…これにしよう。

私は刺繍の入ったポンチョを購入すると店を出た。次は手芸店だ!あるのかな?あるよね…またも歩いているお姉さんに針と糸を売っているお店を聞いて手芸店を見付けた。

そして店内に入り、端切れと糸と針を購入して店を出た時にはもう夕暮れ時になっていた。

急いで宿屋の近くまで魔法で移動すると、宿屋に預けていた荷物を引き上げてきた。どうやらビート達はまだ帰って来ていないようだ。

まあ…あの森を徒歩移動だとまだまだこの街に辿り着くまで時間はかかるだろう。

しかし宿屋に泊まると今の手持ちのお金じゃ連泊は厳しい。野宿かな…でもこれも問題無い。自分の防御魔法があるし、村では家の家事を手伝い一通りのことは自分で出来る。

明日から、依頼をこなして少しでも稼いで生活を安定させなきゃ…

村で持て余し気味だったこの膨大な魔力を役立てたくて、冒険者になる為にここまで来たのにここで踏ん張らないでどうするんだ。

頬を叩いて気合いを入れた。

私は屋台で魔獣肉の串焼きとサラダを買って、パン屋では塩パンを買った。水は魔法で自分で作れるし…せめて水道代だけでも節約しなくちゃね。

商店街の端に設置されていたベンチに腰かけると、買ってきたポンチョの裏地に端切れを縫い付けていく。その際に針と糸に魔力を籠めて縫っていった。

こうやって創り出すものに魔力を籠めながら製作すると『魔道具』に変わる。もっと簡単に魔道具を作るなら魔獣の皮、骨、肉などを使って製品を作る方が最初から魔力が籠っているので手軽らしい。

私は自分の手で一から作っていくのでも構わない。魔力は沢山持っているしね。

一針一針魔力を籠めて縫っていく。ポンチョの裏側に内ポケットを作ろうと縫っているのだが…夕闇が濃くなってきて手元が見辛くなってきた。

何だか目に涙が堪って来ているのが分かる。

「やっぱり……悔しいよ…」

RPGのパーティーから外されたモブはやっぱり辛すぎて…泣けてきます。
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