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イベントその4
試してみた?
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身の程を知る?いや適切な表現ではないか…身の程…というより彼は誰によって守られて自分という立ち位置を確立させることが出来ているかを知らないからだ。
いや知ろうと思えば機会なんていくらでもあったはず…彼、サザービルト殿下は知ろうという努力を怠っていたようだ。
しかしだね、なーーにが辺境伯領までサザービルト殿下の密偵は付いて来てないだっ!しっかり見られていたんじゃない、アリィケーミルの馬鹿殿下!
……今いない人の悪口を言っても仕方ない。これも想定内のことだということだ。
「何もないと思うけど、警戒しろよ」
と、買い物に行く前にアリィケーミル殿下に声をかけられた時にイヤーーーな予感はしたんだよね。
まあ敢えて言うならば、前回よりは待遇が良いということだけは安心した。
だって猿ぐつわされてないもんね~……いや、そこは喜んで良い事ではない。そもそも無垢な乙女を拉致して連れ去っている事がよろしくないことだ、うん。
え?無垢って誰だ?なんてツッコミはしないで欲しい…
私は辺境伯領で買い物中に雑貨屋の店内で拉致された。
うっかりと護衛の近衛のお兄様、メイドのケイトとミミも店の外で待っていて…一人の時に拉致られた。店員の女性はこちらを見て震えている所みると、拉致犯人に脅されているのかもしれない。
自分は兎も角としてもケイトとミミが危ない目に遭わなくて良かった…と思っていた。
さてさて、またどこかの邸宅の中で馬鹿アリィケーミルの兄のサザービルト殿下とご対面している。
「ルシアーナ=フォンデマディス辺境伯令嬢。君は中々に聞き分けの無い性格のようだな」
「……」
サザービルト殿下は長ーーい足を組み替えてから、大袈裟な仕草で溜め息をついた。
「いいか…アリィケーミルの派閥に入るな。今すぐ婚約破棄をしろ。でないと…分かっているな?二度と辺境伯領にも戻れない…」
ああ………なんでそんな悪役みたいな台詞言っちゃうかな…言わなけりゃ無視できるのに…この短慮の塊みたいな兄にはっきり言っておこうか。
言ってしまうと…アリィケーミル殿下のお馬鹿演技が全て水の泡になりそうなので、言いたくないけど…
「邪魔しないで下さいよ…」
「何?」
「私とアリィケーミル殿下は面白可笑しく毎日を生きているんです。邪魔しないで下さい」
サザービルト殿下は怪訝な顔をして私を見ている。
「いいですか?私と殿下は幸せなんです、邪魔しないで下さい」
サザービルト殿下は目を見開いて私を見ている。
そこへ…室内に誰か入って来た。
「…!」
アリィケーミル殿下だった…いつも通りのニヤニヤとした笑みを浮かべている。
「兄上~もう困るなぁルシアーナが可愛いからって連れて行っちゃうなんて~」
アリィケーミル殿下はそう言って私の傍に来ると、私の腕を取ってを立たせた。
「…!」
アリィケーミル殿下の手が震えていた…
「私とルシアーナは相思相愛なんですよ~今とっても幸せなんですよ。兄上にふたりの仲を裂かれるのは困るなぁ」
私はお馬鹿演技中のアリィケーミル殿下に抱き付いた。やっぱり殿下の体、震えている。
「そうなんですよぉ~私達幸せなんですぅ。二人で楽しくやってますんで絡まないで下さい」
私がそう言うとサザービルト殿下は、ハッ…と鼻で笑ってから手で払うような仕草を見せた。
「吞気なものだな!これだから凡庸な者達は…とっとと消えろ。好きに遊んでいろ」
「「は~い」」
私とアリィケーミル殿下はお互いに腰を抱きながら、部屋を出た。
邸宅を出て…私付きの近衛のリグスさんとスリードさんとメイドのケイトとミミが走り寄って来た。
「お怪我はありませんか?」
「ご無事ですか!?」
ケイトとミミは…顔面蒼白だが…リグスさんとスリードさんはそれほど…でもない?チラチラとアリィケーミル殿下の方を見ている所を見ると…そうか、アリィケーミル殿下が踏み込んで来るタイミングが非常に宜しかったことも考えると、わざと私を攫わせてたということか…
相変わらず、腹黒っぽい動きをするなぁ~自称馬鹿殿下は…だが、アリィケーミル殿下は珍しく怖い表情を崩さない。
帰りの道中もアリィケーミル殿下はピリピリしていた。原因は…まあそうだろうと思ったけれど…
辺境伯の屋敷の私の自室に帰って来て、アリィケーミル殿下は「ゴメン…」と謝ってこられた。
「殿下、王族が…」
「ルシアーナは特別だ…今は周りに誰もいない…」
うん、まあそうなんだけどね…やっぱり私を攫われたことが思ったより殿下には堪えたのか…でも二回目だよ?
「兄上が何か仕掛けてくるなら、ルシアーナの方からだろうとは予測していたし、ルシアーナにも護衛はつけてたし…」
まあ、そうだけど…だったらアリィケーミル殿下はこんなに泣きそうな顔をしているのだろうか?
「ルシアーナが邪魔をするなって…俺達を邪魔するなって、言っているのを聞いて情けなくなって…」
「情けない?」
「俺は兄上と戦ってまで王位が欲しくないし逃げるつもりだから…ルシアーナも逃げ出すみたいになって…」
私は呆れてしまった。俯いてしまったアリィケーミル殿下のプラチナブロンドの旋毛を見詰めているとあまりの柔らかそうな雰囲気に触りたくなってくる。
「今更何言ってるんですか…え~とサザービルト殿下は取り敢えず、王様として頑張ってくれる気持ちはある訳ですよね?私、やる気の無い人に頑張れっていうの嫌いだし、やりたいっていう人にはやってみてもらってもいいと思うんですよ。それでもやってみてダメだったら、支えてあげればいいしな~と思ってます。だからそれまでは辺境伯領やギリバイ男爵領で伸び伸びと…私達のやりたいように領地改革をしてみませんか?」
アリィケーミル殿下は顔を上げた。
「兄上に任せてしまうくせに、何かあったら助けにいくなんて都合の良いものだとは思わないのか?」
「思いませんよ?サザービルト殿下はどう思うかは分かりませんが、何かあったらいつでも助けに行くよ…ということは恥ずかしいことでもないし、偽善でもありませんよ。人が助け合うことに理由なんて要りますか?」
アリィケーミル殿下は暫く私を見詰めていたが破顔した。
何か吹っ切れたかな?
さて…アリィケーミル殿下の事は兎も角として…今、私の親友ニルナの様子がおかしいことが気になる。
青の洞窟から帰ってきてから、妙にぼんやりしていることが多くなって溜め息ばかりをついている。おまけにリリックス先輩が近付いて来たら逃げるし、隠れたりするのだ。
私は思い切ってリリックス先輩に聞いてみた。
「先輩…白状して下さったら不問にいたしますよ?……船の上でニルナに何かしましたね?」
リリックス先輩の滞在している客間に突撃すると、リリックス先輩は慌てもせずに答えた。
「何かって、アリィケーミルとルシアーナ嬢のイチャイチャみたいなこと?」
「先輩っ!!」
ええっ!?まさか船の上でのアレが見えてたのか?どうすればあんな暗がりで遠くの小舟の状態を目視出来るんだ!?
「んん~あんなのは流石に破廉恥だと思うけど……だけどニルナの頬には触れたかな~?」
なんだってぇ!?
「触れたかな~じゃないですよ!?みみ…未婚の令嬢に触れるなんて…!」
「ルシアーナ嬢、親戚の伯母のような発言だね…まだ若いのに」
「…!!」
これ……前世の新卒一年目のOLの時に言われたよ…
「わっかいのにさ~オバチャンみたいだね?」
心を抉るこの言葉…異世界から、島田っお前のことだ!この野郎!と心の中で叫んでおいた。
「まあ…俺の場合は口付けは苦手なんだけどね…」
ん?いきなり何?リリックス先輩?
「それに口付けしてみれば分かるって言うからさ~試してみたんだけど…」
んん?それって私がニルナに話してた……
「頬に唇が触れただけで飛び退かれてしまったし……逃げられちゃうし困ったな~と思っているところ」
「!!」
リリックス先輩はそう言って色っぽい目で私を見詰めながら、自分の唇をトントンと人差し指で指し示していた。
「ニルナに口付…!」
それでニルナは逃げまくってるんだ…私はリリックス先輩を睨みつけた。
「人妻だけに気を付けていれば良いと思ってましたが…年下の女性も危険だということが分かりました」
「ヒトヅマって何?」
「夫人という意味です!全くっニルナは先輩の遊び相手とは違うんですからね!」
その日から辺境伯領にいる間、ニルナを17才の着ぐるみを着た38才から守る為に私は頑張った。そして…無事ニルナの貞操を守り切って休みを終えることが出来た。
「ホント、年上のお姉様方だけ狙ってればいいのよっ!」
私は休み明けに魔術学院に帰ってからも、思い出してはリリックス先輩に悪態をついているのをニルナは困ったような笑顔で見ていた。
この時、私は知らなかったのだ。実は休みの間中、リリックス先輩がニルナに何度も交際を申し込んでいたことを…そしてニルナはその告白をあっさりと断っていて、そんなニルナの態度にヤンデレを発動してしまったリリックス先輩が、ニルナ捕獲作戦に狩人の本領を発揮しようとしているなんてことを、この時は全然知らなかったのだ…
休み明け…そろそろ三年生の卒業が迫ってきていた。在校生は式典には代表のみが参加することになっているので、アリィケーミル殿下と先生に指名された私を含む在校生の数名で、式の段取りを打ち合わせしていた。
そこに卒業生代表のレイア=エーダミルトお姉様がいらっしゃる。
サラサラの黒髪でエメラルドグリーンの瞳のレイアお姉様は優しくて優雅で女子生徒達の憧れの先輩だ。
「……という感じです。式典の後は殿下のご挨拶で…」
学年首位のビリー=リズモ君が眼鏡を押し上げながら式典の段取りを説明している。横でアリィケーミル殿下は真面目に説明を聞いている。
そして、意外にも先生受けが良かったらしいルワンド=リリックス先輩とニルナも同席している。
リリックス先輩がニルナに色っぽい目を向けている……ニルナは完全無視だ。
あの人妻狙いのリリックス先輩がニルナに色目?フォンデマディスにいる時から油断ならない動きをしていると思ってたけど、ニルナが人妻っぽいのか?そうなのか?年下もイケる口なのか?
私がリリックス先輩とニルナの動向に注視している間に打ち合わせは終わってしまった。
ニルナと二人、教室を出ようとしたらレイアお姉様から声をかけられた。
「ルシアーナ様…少しお話が…」
…え?私?
レアナお姉様に促されたので、皆から少し離れた廊下の端に移動した。
近くで見るとお姉様の黒髪って緑がかったアッシュ系の髪色なのね
「まだ公式発表前ですが…私、サザービルト殿下の妃候補に決まりましたの」
「…っ!…そうですか…」
レアナお姉様が…そうよね、家柄や本人の品格…それらを総合したら王子妃に推挙されてもおかしくない。
レアナお姉様は、苦笑されている。苦笑?どうして…
「アリィケーミル殿下とルシアーナ様は恋愛婚姻よね…」
ええっ!?いや…違う?いえ、でもお芝居上はそうなのか?
私が答えれずにオロオロしている間に、レアナお姉様は肩を竦めながら溜め息をつかれた。
「ここだけの話…私もあなた達のような想い想われる相手となれるといいのですが…公爵令嬢ですもの…分かってはいるのよ?」
「お姉様…」
お姉様は枯れた花をも復活させると言われる魅惑の微笑みを浮かべると…
「これからは…私とも仲良くして下さる?」
と言われた。綺麗……あの馬鹿兄には勿体ないな
「はいっお姉様!是非…」
「未来の義姉上に…何かお困りの事があったならば、俺達が力添えを致しますので…ご安心下さい」
そんな言葉をかけつつ…レアナお姉様の背後から…アリィケーミル殿下とキオール様とリリックス先輩がやって来た。レアナお姉様は優雅なカーテシーをされた後に、アリィケーミル殿下と私を交互に見て
「頼もしいわね…フフ」
と微笑まれた。お姉様の笑顔は愁いを帯びていて…なんだか色々な想いを抱えられている気がして…悲しくなった。
私はアリィケーミル殿下と政略というか、共闘関係の婚姻だけど…友達の延長みたいなゆるいノリだけどこれはこれで幸せなんだよね。
レアナお姉様もサザービルト殿下と上手くいくと良いな…と思った。それとレアナお姉様に何かあった時は私が支えてあげようと思ったのだった。
いや知ろうと思えば機会なんていくらでもあったはず…彼、サザービルト殿下は知ろうという努力を怠っていたようだ。
しかしだね、なーーにが辺境伯領までサザービルト殿下の密偵は付いて来てないだっ!しっかり見られていたんじゃない、アリィケーミルの馬鹿殿下!
……今いない人の悪口を言っても仕方ない。これも想定内のことだということだ。
「何もないと思うけど、警戒しろよ」
と、買い物に行く前にアリィケーミル殿下に声をかけられた時にイヤーーーな予感はしたんだよね。
まあ敢えて言うならば、前回よりは待遇が良いということだけは安心した。
だって猿ぐつわされてないもんね~……いや、そこは喜んで良い事ではない。そもそも無垢な乙女を拉致して連れ去っている事がよろしくないことだ、うん。
え?無垢って誰だ?なんてツッコミはしないで欲しい…
私は辺境伯領で買い物中に雑貨屋の店内で拉致された。
うっかりと護衛の近衛のお兄様、メイドのケイトとミミも店の外で待っていて…一人の時に拉致られた。店員の女性はこちらを見て震えている所みると、拉致犯人に脅されているのかもしれない。
自分は兎も角としてもケイトとミミが危ない目に遭わなくて良かった…と思っていた。
さてさて、またどこかの邸宅の中で馬鹿アリィケーミルの兄のサザービルト殿下とご対面している。
「ルシアーナ=フォンデマディス辺境伯令嬢。君は中々に聞き分けの無い性格のようだな」
「……」
サザービルト殿下は長ーーい足を組み替えてから、大袈裟な仕草で溜め息をついた。
「いいか…アリィケーミルの派閥に入るな。今すぐ婚約破棄をしろ。でないと…分かっているな?二度と辺境伯領にも戻れない…」
ああ………なんでそんな悪役みたいな台詞言っちゃうかな…言わなけりゃ無視できるのに…この短慮の塊みたいな兄にはっきり言っておこうか。
言ってしまうと…アリィケーミル殿下のお馬鹿演技が全て水の泡になりそうなので、言いたくないけど…
「邪魔しないで下さいよ…」
「何?」
「私とアリィケーミル殿下は面白可笑しく毎日を生きているんです。邪魔しないで下さい」
サザービルト殿下は怪訝な顔をして私を見ている。
「いいですか?私と殿下は幸せなんです、邪魔しないで下さい」
サザービルト殿下は目を見開いて私を見ている。
そこへ…室内に誰か入って来た。
「…!」
アリィケーミル殿下だった…いつも通りのニヤニヤとした笑みを浮かべている。
「兄上~もう困るなぁルシアーナが可愛いからって連れて行っちゃうなんて~」
アリィケーミル殿下はそう言って私の傍に来ると、私の腕を取ってを立たせた。
「…!」
アリィケーミル殿下の手が震えていた…
「私とルシアーナは相思相愛なんですよ~今とっても幸せなんですよ。兄上にふたりの仲を裂かれるのは困るなぁ」
私はお馬鹿演技中のアリィケーミル殿下に抱き付いた。やっぱり殿下の体、震えている。
「そうなんですよぉ~私達幸せなんですぅ。二人で楽しくやってますんで絡まないで下さい」
私がそう言うとサザービルト殿下は、ハッ…と鼻で笑ってから手で払うような仕草を見せた。
「吞気なものだな!これだから凡庸な者達は…とっとと消えろ。好きに遊んでいろ」
「「は~い」」
私とアリィケーミル殿下はお互いに腰を抱きながら、部屋を出た。
邸宅を出て…私付きの近衛のリグスさんとスリードさんとメイドのケイトとミミが走り寄って来た。
「お怪我はありませんか?」
「ご無事ですか!?」
ケイトとミミは…顔面蒼白だが…リグスさんとスリードさんはそれほど…でもない?チラチラとアリィケーミル殿下の方を見ている所を見ると…そうか、アリィケーミル殿下が踏み込んで来るタイミングが非常に宜しかったことも考えると、わざと私を攫わせてたということか…
相変わらず、腹黒っぽい動きをするなぁ~自称馬鹿殿下は…だが、アリィケーミル殿下は珍しく怖い表情を崩さない。
帰りの道中もアリィケーミル殿下はピリピリしていた。原因は…まあそうだろうと思ったけれど…
辺境伯の屋敷の私の自室に帰って来て、アリィケーミル殿下は「ゴメン…」と謝ってこられた。
「殿下、王族が…」
「ルシアーナは特別だ…今は周りに誰もいない…」
うん、まあそうなんだけどね…やっぱり私を攫われたことが思ったより殿下には堪えたのか…でも二回目だよ?
「兄上が何か仕掛けてくるなら、ルシアーナの方からだろうとは予測していたし、ルシアーナにも護衛はつけてたし…」
まあ、そうだけど…だったらアリィケーミル殿下はこんなに泣きそうな顔をしているのだろうか?
「ルシアーナが邪魔をするなって…俺達を邪魔するなって、言っているのを聞いて情けなくなって…」
「情けない?」
「俺は兄上と戦ってまで王位が欲しくないし逃げるつもりだから…ルシアーナも逃げ出すみたいになって…」
私は呆れてしまった。俯いてしまったアリィケーミル殿下のプラチナブロンドの旋毛を見詰めているとあまりの柔らかそうな雰囲気に触りたくなってくる。
「今更何言ってるんですか…え~とサザービルト殿下は取り敢えず、王様として頑張ってくれる気持ちはある訳ですよね?私、やる気の無い人に頑張れっていうの嫌いだし、やりたいっていう人にはやってみてもらってもいいと思うんですよ。それでもやってみてダメだったら、支えてあげればいいしな~と思ってます。だからそれまでは辺境伯領やギリバイ男爵領で伸び伸びと…私達のやりたいように領地改革をしてみませんか?」
アリィケーミル殿下は顔を上げた。
「兄上に任せてしまうくせに、何かあったら助けにいくなんて都合の良いものだとは思わないのか?」
「思いませんよ?サザービルト殿下はどう思うかは分かりませんが、何かあったらいつでも助けに行くよ…ということは恥ずかしいことでもないし、偽善でもありませんよ。人が助け合うことに理由なんて要りますか?」
アリィケーミル殿下は暫く私を見詰めていたが破顔した。
何か吹っ切れたかな?
さて…アリィケーミル殿下の事は兎も角として…今、私の親友ニルナの様子がおかしいことが気になる。
青の洞窟から帰ってきてから、妙にぼんやりしていることが多くなって溜め息ばかりをついている。おまけにリリックス先輩が近付いて来たら逃げるし、隠れたりするのだ。
私は思い切ってリリックス先輩に聞いてみた。
「先輩…白状して下さったら不問にいたしますよ?……船の上でニルナに何かしましたね?」
リリックス先輩の滞在している客間に突撃すると、リリックス先輩は慌てもせずに答えた。
「何かって、アリィケーミルとルシアーナ嬢のイチャイチャみたいなこと?」
「先輩っ!!」
ええっ!?まさか船の上でのアレが見えてたのか?どうすればあんな暗がりで遠くの小舟の状態を目視出来るんだ!?
「んん~あんなのは流石に破廉恥だと思うけど……だけどニルナの頬には触れたかな~?」
なんだってぇ!?
「触れたかな~じゃないですよ!?みみ…未婚の令嬢に触れるなんて…!」
「ルシアーナ嬢、親戚の伯母のような発言だね…まだ若いのに」
「…!!」
これ……前世の新卒一年目のOLの時に言われたよ…
「わっかいのにさ~オバチャンみたいだね?」
心を抉るこの言葉…異世界から、島田っお前のことだ!この野郎!と心の中で叫んでおいた。
「まあ…俺の場合は口付けは苦手なんだけどね…」
ん?いきなり何?リリックス先輩?
「それに口付けしてみれば分かるって言うからさ~試してみたんだけど…」
んん?それって私がニルナに話してた……
「頬に唇が触れただけで飛び退かれてしまったし……逃げられちゃうし困ったな~と思っているところ」
「!!」
リリックス先輩はそう言って色っぽい目で私を見詰めながら、自分の唇をトントンと人差し指で指し示していた。
「ニルナに口付…!」
それでニルナは逃げまくってるんだ…私はリリックス先輩を睨みつけた。
「人妻だけに気を付けていれば良いと思ってましたが…年下の女性も危険だということが分かりました」
「ヒトヅマって何?」
「夫人という意味です!全くっニルナは先輩の遊び相手とは違うんですからね!」
その日から辺境伯領にいる間、ニルナを17才の着ぐるみを着た38才から守る為に私は頑張った。そして…無事ニルナの貞操を守り切って休みを終えることが出来た。
「ホント、年上のお姉様方だけ狙ってればいいのよっ!」
私は休み明けに魔術学院に帰ってからも、思い出してはリリックス先輩に悪態をついているのをニルナは困ったような笑顔で見ていた。
この時、私は知らなかったのだ。実は休みの間中、リリックス先輩がニルナに何度も交際を申し込んでいたことを…そしてニルナはその告白をあっさりと断っていて、そんなニルナの態度にヤンデレを発動してしまったリリックス先輩が、ニルナ捕獲作戦に狩人の本領を発揮しようとしているなんてことを、この時は全然知らなかったのだ…
休み明け…そろそろ三年生の卒業が迫ってきていた。在校生は式典には代表のみが参加することになっているので、アリィケーミル殿下と先生に指名された私を含む在校生の数名で、式の段取りを打ち合わせしていた。
そこに卒業生代表のレイア=エーダミルトお姉様がいらっしゃる。
サラサラの黒髪でエメラルドグリーンの瞳のレイアお姉様は優しくて優雅で女子生徒達の憧れの先輩だ。
「……という感じです。式典の後は殿下のご挨拶で…」
学年首位のビリー=リズモ君が眼鏡を押し上げながら式典の段取りを説明している。横でアリィケーミル殿下は真面目に説明を聞いている。
そして、意外にも先生受けが良かったらしいルワンド=リリックス先輩とニルナも同席している。
リリックス先輩がニルナに色っぽい目を向けている……ニルナは完全無視だ。
あの人妻狙いのリリックス先輩がニルナに色目?フォンデマディスにいる時から油断ならない動きをしていると思ってたけど、ニルナが人妻っぽいのか?そうなのか?年下もイケる口なのか?
私がリリックス先輩とニルナの動向に注視している間に打ち合わせは終わってしまった。
ニルナと二人、教室を出ようとしたらレイアお姉様から声をかけられた。
「ルシアーナ様…少しお話が…」
…え?私?
レアナお姉様に促されたので、皆から少し離れた廊下の端に移動した。
近くで見るとお姉様の黒髪って緑がかったアッシュ系の髪色なのね
「まだ公式発表前ですが…私、サザービルト殿下の妃候補に決まりましたの」
「…っ!…そうですか…」
レアナお姉様が…そうよね、家柄や本人の品格…それらを総合したら王子妃に推挙されてもおかしくない。
レアナお姉様は、苦笑されている。苦笑?どうして…
「アリィケーミル殿下とルシアーナ様は恋愛婚姻よね…」
ええっ!?いや…違う?いえ、でもお芝居上はそうなのか?
私が答えれずにオロオロしている間に、レアナお姉様は肩を竦めながら溜め息をつかれた。
「ここだけの話…私もあなた達のような想い想われる相手となれるといいのですが…公爵令嬢ですもの…分かってはいるのよ?」
「お姉様…」
お姉様は枯れた花をも復活させると言われる魅惑の微笑みを浮かべると…
「これからは…私とも仲良くして下さる?」
と言われた。綺麗……あの馬鹿兄には勿体ないな
「はいっお姉様!是非…」
「未来の義姉上に…何かお困りの事があったならば、俺達が力添えを致しますので…ご安心下さい」
そんな言葉をかけつつ…レアナお姉様の背後から…アリィケーミル殿下とキオール様とリリックス先輩がやって来た。レアナお姉様は優雅なカーテシーをされた後に、アリィケーミル殿下と私を交互に見て
「頼もしいわね…フフ」
と微笑まれた。お姉様の笑顔は愁いを帯びていて…なんだか色々な想いを抱えられている気がして…悲しくなった。
私はアリィケーミル殿下と政略というか、共闘関係の婚姻だけど…友達の延長みたいなゆるいノリだけどこれはこれで幸せなんだよね。
レアナお姉様もサザービルト殿下と上手くいくと良いな…と思った。それとレアナお姉様に何かあった時は私が支えてあげようと思ったのだった。
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