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イベントその3

生き生きしてますね

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「休みはフォンデマディス領に帰らないのか?」

アリィケーミル殿下に聞かれて、ああそういえば約二ヶ月、後期試験の後に休みがあるんだっけ?と思い出していた。

「そうですね…二ヶ月もありますから一度は帰っても…」

「一緒に行くぞ!」

「はあっ?」

因みに今は昼休みの時間だ。アリィケーミル殿下に強引に学食に誘われて、向かい合わせでA定食を食べている。どうでもいい事だが、本日のA定食はエビフライだ。

ビラ事件の影響で私と殿下はすで学院内の公認カップルで、ふたりで連れ立っていても周りは生温かい目で見るだけだった。今も生温かい目で見られていたのだが、私の声に食堂内にいた生徒達が一斉に私と殿下を見た。

「何故…うちの実家まで殿下もご一緒なのです?」

「なっ…ルシアーナお前、愛しの私を連れて帰らないとは…なんと薄情な!?」

「薄情でも屋上でも何でもいいですよ、休みの時まで脳天に刺さるような殿下の濁声……失礼、大声を聞きながら過ごすなんてなんて拷も……ゴホン、ごめんなさい」

「何故謝罪だっ!辺境伯領には連れて行かないという意味の謝罪か!?」

「はいはーい!まーた喧嘩ですかぁ~」

テリシアがパンパンと手を叩きながら私の背後に立った。食堂に居た生徒達から「良かった…」なんて声が聞こえる。どうやら私と殿下がの喧嘩をしているように見えているらしい。

バカップルおバカ作戦は順調のようだ…

この作戦を提案したのは私だ。アリィケーミル殿下がお馬鹿を装うなら、婚約者の私もお馬鹿の方が信憑性が増すはずだ。そして二人で騒いでいればスペリアジウム魔術学院内に潜んでいる(と、アリィケーミル殿下に教えてもらった)サザービルト殿下の密偵も『アリィケーミル殿下とルシアーナは共にお馬鹿』だとサザービルト殿下に報告するはずだ。

「サザービルト殿下も私がアリィケーミル殿下の後ろ盾として力を揮って欲しくないと思うのですよね。だから自分から戦力外を演じてみようかと思いまして~それには学院で騒いでいるのを見せつけて報告してもらうほうが楽でしょう?私も定期的に猿ぐつわをされて挙句に捕まって、グダグダ言われるの疲れますもの」

私がそう提案すると、アリィケーミル殿下はニヤッと笑った。

「ルシアーナは…突き抜けたお人好しだな?俺と共に馬鹿に身を転じて…堕ちるつもりか?」

私はキッ…と目を見開いてアリィケーミル殿下を見た。

「聞き捨てなりませんね?私は堕ちるつもりはございません。堕っこちるなら殿下お一人でどうぞ」

アリィケーミル殿下は一瞬、嫌そうな顔を見せたけれど、再びニヤニヤと笑っていた。

ニタニタと笑い合う私とアリィケーミル殿下は…まあ…こう言っちゃなんだけど、悪役王子と悪役令嬢みたいだな…と思った。

さて、食堂での小芝居のお陰で?私達は仲良く辺境伯領へ帰省することになった。

同じく休みの間、テリシアとキオール様はそれぞれのご実家の親戚への挨拶回りが既に決定しているらしい。

なんだかお正月の親戚の集まりに新婚夫婦が挨拶に駆けずり回るアレのようだね…まだ高校生なのにオツカレ…

そして何故だか親友のニルナ=ビリサブレ伯爵令嬢と学院の先輩、ルワンド=リリックス侯爵子息が一緒に辺境伯領に行くということになった。

旅行の準備をしながら浮かれているニルナに

「ニルナ、辺境伯領って寒いし自然しかないし、魔獣も出るし危ないと思うけど…本当に来るの?」

と聞くと、ニルナは目を輝かせてにじり寄ってきた。どうした?

「シーナってば何言っているのよ!?辺境伯領と言えば魔石の産出地じゃない!是非とも世界最高と言われる魔石の産地で沢山買わなきゃね!」

そ…そうか、この世界って宝石の類より魔石の方が値が張るのよね。魔石の中に魔術を籠めれば魅了や誘惑的な術も使えるとあって、女子が舞踏会などに魔石をつけていくのが流行っているというか…つまりはこちらの世界で言う所の『モテアイテム』なのだ。

魔力抵抗値の高い貴族子息達には効かないと思うんだけど、全方位の男子にモテたい女性には是非とも手に入れたい魔石らしい。

うちの領はそんな魔石の産出量世界一だからね。ニルナの気合いは分かります。

そう言う訳でフォンデマディス辺境伯領へ王子様御一行と一緒に帰ることになった。

お父様に急いでそのことを手紙で伝えると、もっと早く知らせなさい!と返事が来た。

…いきなりそうなったので、不可抗力です。

辺境伯領への移動は『転移陣』を使う。この世界には飛行機や電車などの乗り物の代わりに移動魔法が代用されており、その代表が転移陣だ。

勿論、個人で転移魔法を使って移動している人もいるが、余程の高魔力保持者でないと移動中の魔力が持たない。一般の皆様は公共交通機関の転移陣かお金持ちの方は個人宅で所有している陣で目的地まで移動する。

今回の移動はアリィケーミル殿下とご一緒なので、王族専用魔法陣で移動だ。

そこへ…サザービルト殿下が、なーーんでか見送りに来てるのよ。嫌な感じ…多分さ~アリィケーミル殿下に忠誠を誓っちゃって、今は私の専属護衛になっちゃった、元サザービルト殿下のスパイだった近衛のリグスさんとスリードさんを威嚇しに来ていると思うのよね。

嫌味で粘着質の男がやりがちな嫌がらせだよね。俺を裏切りやがってこの野郎、いつもねちっこく見てるからな…という感じだろう。

「あ~早く辺境伯領の清涼な空気を吸いたいわ~」

大きな声で叫んでやった。別に直接名指ししていないし、お前のせいで空気悪いわ~と言ってないからいいよね?

すると…アリィケーミル殿下が背中を突いて来る。

「…なんですか?」

「兄上に睨まれてるぞ…」

吹き出しそうになったけど、わざと兄の方は見ないようにしてあげた。

しかしねぇ…サザービルト殿下は弟とほぼ同じような顔立ちしてるんだけど、なんだろ?内面の違いなのか、アリィケーミル殿下と比べて何だか人相が悪いんだよね…

周りにいるお付きの方もどよ~んとした顔をしているし…かなり鬱陶しいよね?

ホラ、アリィケーミル殿下のお付きのメイドのお姉様達を見なさいよ?辺境伯領が異世界の〇バイだからなのか、高級魔道具や魔石を買いつくす気満々で、朝からアリィケーミル殿下そっちのけで、観光案内を見て大騒ぎしているんだから…

いや、それは流石にメイドとしてはダメなのか?

そしてアリィケーミル殿下の兄からねっとりした視線を受けながら…私達は辺境伯領へと転移した。

「ふあぁ~空気いいね!」

転移が着いた途端、思いっきり叫んでから前を見た。ここは辺境伯領の領主の城の庭にある転移陣だ。

「よくお越し下さいました、アリィケーミル殿下」

腰を落とし膝をつく、ヘイリー=フォンデマディス辺境伯とカテレシア=フォンデマディス辺境伯夫人…両親が揃っていた。

「お世話になります。辺境伯、夫人。アリィケーミル=ナラム=キンダースリアです」

「…!」

いきなり、キリッとして受け答えをしているアリィケーミル殿下…いや、キリッとしてという表現もおかしいか。王子殿下なので公共?の場ではキリッともするか…

「よ~っ帰ったか!」

「あっお兄様!」

長兄の、カリシアン=フォンデマディスが私と同じ系統のクールビューティ顔で笑っていた。相変わらず兄は厳ついな~と思っていたら…


「まぁ…あれがかの有名なフォンデマディスの…」

「噂以上ね…!」

「素敵ぃ…」

ニルナとメイドのお姉様達のざわつきに、気が付いた。

そうか…体は熊みたいでも顔は私に似ている。あれでも首から上だけイケメン枠なのか…

「カルシアン=フォンデマディス少将…お世話になります。あの…お会いした早々恐縮ですが、魔獣の討伐の際には私も参加させて頂きたく…」

「えぇ!?」

私は驚いて大声を上げてしまった。いきなりキリッとしていたアリィケーミル殿下にも驚いたけれど、魔獣の討伐に興味?があるとは思わなかった。

「ルシアーナ!なんですかっはしたない!殿下の御前で大声をあげたりして…」

ぎょえぇ…お母様が目を吊り上げながら小走りに近付いて来た。

お母様は私には鋭い目を向けていたが、ニルナとルワンド=リリックス先輩にはにこやかな笑顔を向けた。

「まああ…ようこそお越し下さいました。辺境で何も無い所ですが、お休みの間ゆっくりしていて下さいませ」

「ニルナ=ビリサブレでございます、お世話になります」

「ルワンド=リリックスと申します。流石、ルシアーナ嬢のお母上…キンダースリアの珠玉の如くですね」

ふおおおっ!?そう言ってリリックス先輩はお母様の手の甲に口付けを…!お母様が少女のように顔を赤くしている。こんな時にお父様はアリィケーミル殿下と話し込んでいる!

そ、そういえばっリリックス先輩は既婚の夫人が大好物だったはず…!?お母様っ!?

「リリックス先輩は…お控え下さいませ」

「おやっ…可愛い後輩に窘められてしまったか…はいはい」

ニルナに睨まれて、おどけたように手を引いたリリックス先輩。私はリリックス先輩の首辺りを凝視していた。

「ん?ルシアーナ嬢、俺の首に何かついてる?」

「いえ…探してみましたが見当たりませんでした…」

「?」

リリックス先輩って、本当に17才なのか?首の後ろにファスナーがついていて、高校生の着ぐるみの中から38才くらいのイケオジが出て来るんじゃないのか?

さてさて

久しぶりの実家だからのんびり……としたかったのだけど、ニルナとメイドのお姉様達に観光案内を頼まれたので、女子軍団を引率することになってしまった。

「殿下はどうされます~」

客間の一番広い部屋に泊まるアリィケーミル殿下を訪ねると、殿下は剣を磨いていた。あれ?どうしたの?

「いや…俺は午後からの巡回にお付き合いさせて頂くことにした」

「巡回…はぁ…物好きですね」

巡回とは…定期巡回、領地の魔獣出没ポイントを重点的に見回ることを言う。アリィケーミル殿下は真剣な面持ちで剣を磨いている。

もしかして…殿下って…

「アリィケーミル殿下もしかして、魔獣討伐がしたくて辺境伯に来られました?」

私がそう尋ねると、殿下は剣を磨く手を止めて私を見た。

「ああ…ルシアーナについて行けば、討伐に参加させてもらえると思ってな。剣の腕も動かしていなければ鈍るしな。王都では本気で体を動かせないから体も鈍っているし、ここに居る間はカルシアン少将もおられるし、鍛錬のお相手をお願いしている。楽しみだ」

「ああ…そうですね、すっかり忘れてましたね。殿下は運動も出来ないことになってましたっけ?」

アリィケーミル殿下は珍しくニッコリと笑った。

「そうだ、俺は愚鈍な王子だからな」

そうか…サザービルト殿下の監視の目がある所では、お馬鹿殿下を装っていることで本来の能力を封印しているらしいアリィケーミル殿下。この辺境では、のびのびと力を出し切ることが出来るのかな?

「あっでも密偵とかに見つかりませんか?」

「ここまでは付いて来ていないと思う。万が一でもカリシアン少将と辺境伯が見ている前で覗きには来ないだろう。ルシアーナはよく分かってないみたいだが、お前の兄と父上は相当の手練れだぞ?密偵が来ていたらお二人ならすぐに気が付く」

ええっ?眼精疲労を抱えたおじさんと熊みたいな大きな人なだけじゃないの?二人共どちらかと言うとおっとりしてるけど…

まあ、アリィケーミル殿下が珍しくニヤニヤじゃない可愛い?笑顔状態なので余程嬉しいのだろうことは分かる。

「お怪我だけは気を付けて下さいね。危なくなったらカル兄を盾にして下さい」

アリィケーミル殿下は少し吹き出しながら、剣を置くとソファの上で手を広げた。

あ…はいはい。

殿下は二人きりの時はこうやって私を誘う。手を広げる殿下の傍に近付くと小首を傾げながら殿下は

「なあ、手が空いたら討伐見に来てよ。俺が本当は強くて格好いいってことが分かるからさ~」

と、言って私の腕を引っ張ると自分の腕の中に抱き込んで来た。

「…ん」

そして激しく口付けてきて…中々解放してくれない。お互いの息が上がる頃には私はいつも体の力が入らないくらいにされてしまう。私もだけど、アリィケーミル殿下も引っ付いているのが好きみたいなんだよね。

「いつもごめんな…ルシアーナには気を使わせてしまう…ん…」

話しながら唇に触れて…そして目を見て、微笑み合いながらまた口付ける。

「そんなこと仰って…討伐に夢中になって私のことなんて忘れているくせに…ん」

アリィケーミル殿下は鼻先を私の鼻に擦りつけて来ると

「魔獣を倒せたら…獲れた魔石をルシアーナに渡すよ」

そう言って微笑んでくれたけれど、私の顔は一気に引きつった。

「………別にいいです」

この感覚が殿下もやっぱり男の子なんだな…と思う。獲れたてピチピチのさっきまで生きていた魔獣の魔石、つまりは内臓の中にあったものでしょう?なんかレバーみたいに生臭そうで嫌だよ…

それを捌いて、私にすぐ渡す…て感覚が分からないわ。苺とか葡萄とかじゃないんだから、加工してしっかり洗浄してからにして欲しい…

「俺からの愛の魔石だぞ!」

「せめて熱湯消毒して天日干しにして二日は干して置いてくれれば、貰ってあげてもいいですけど…」

アリィケーミル殿下は盛大に不貞腐れていた。

愛の証だ!とか、特大級の魔石を獲るぞ!見てろっ!とか叫んでいたけどハンター気取るのはニ次元の中だけにしてもらいたいものです。
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