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心もほっこり ~SIDEスワイト~

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国交を樹立したエーカリンデ王国に表向きは表敬訪問の形を取って俺達、ワイジリッテルベンシ王国の関係者は堂々と入国した。

勿論、マーニエル王子殿下は全てをご存じの上だが、非常に穏やかな顔をして見せてはいるが、内面の魔質はどんよりとしている。そりゃ悩むよな…

いい加減根元から取り除いてしまえ、さもないと腐った奴らが次々出てくる羽目になる。

こう言い切ってマーニエル王子殿下を脅したのは、俺の叔父のフェノリオ=コラゴルデ大将閣下だ。

腐った奴らとはジュエルブリンガー帝国のことだ。

このエーカリンデ王国滞在時には表敬訪問で各地を視察で回ることの他に、両国の軍部合同演習などの公式行事もある。

あくまで演習は建前だ。

演習という名目でエーカリンデ王国とワイジリッテルベンジ王国の合同軍でジュエルブリンガー帝国に乗り込んで潰してしまおうと持ち掛けているのだ。

俺はエーカリンデ王国で改めてジュエルブリンガー帝国の歴史…今現在の状況の報告を受けていた。ジュエルブリンガー帝国は何と皇宮の中に後宮…妾、男妾や男娼などを囲っているらしい。正直、気持ち悪い。

「後宮なんて趣味が悪いな…私はこの人だと思った女性と巡り合ったらこの世界でうんめ…」

「はいはい、分かりましたよ~じゃあ今は皇太子殿下が帝国の実権を握ってるんですね」

俺が運命の人、ラジェンタの事を語りだそうとしたのに、ニコライ=ワイセリ少佐が割り込んで話をぶった切ってきた。感じ悪いなぁ!

俺が睨んでもへこたれないワイセリ少佐は、なんですか?と言いながら澄ました顔で俺を見たので、ムッとしながら俺の考えを伝えた。

「皇宮以外を制圧してしまって、投降を呼びかけようか?」

「スワイトは甘っちょろいな。こんな奴らは力尽くで引っ張り出してやればいい」

と、叔父上が読んだ報告書の束を机に置くと、そう言って俺、マーニエル王子殿下、ワイセリ少佐、カインダッハ、リヒャイド、エーカリンデ王国の大将閣下と魔術師団長をぐるりと見回した。

「未だに中央に逃げ込んで、隠れているなんて上に立つ者のすることじゃないな。エーカリンデ王国は独立の旗印になり、元帝国領を纏め上げて独立を成功させた。それ比べて、帝国が真っ先にしたことが皇城に食料を集めて障壁を張って逃げ込んだだと?例え負けるとしてもエーカリンデ王国や帝国民に、先頭に立って戦っている姿を見せるのが王族、皇族の在り様だ。その為に生かされていると言っても過言ではない。自身が旗印になり矢面に立たないで民を守れるか!」

叔父上の言葉にマーニエル王子殿下は顔を真っ赤にして頷いている。エーカリンデ王国の皆さんもちょっと涙ぐんでおられるのか?目頭を押さえながら頷いている。

「帝都の今の様子はどうなんでしょう?」

俺が聞くと、エーカリンデ王国の宰相は、すすり泣きながら報告書を読み上げた。

「帝都の半分以上の民は亡命、もしくはエーカリンデ王国領内に逃げ込んでいて…都はほぼ無人だと報告を受けております。ただそれに目を付けた悪漢が集まり、強奪略奪の横行する無法地帯になっています。数年前から国境付近の帝国民から順次、こちらで保護している状態なのです。もう帝国に残っている民は老人や体を壊して動けないものばかりではないかと思われます」

「それは益々一刻の猶予もならんな。一気に皇宮内に入り込み、皇族共を根絶やしにしよう」

俺がそう言うと、エーカリンデ王国の魔術師団長が若干オロオロしながら俺を見た。

「皇宮内に…で御座いますか?実はそれは攻めあぐねておりまして…何分、ジュエルブリンガー帝国は一時期はこの大陸の覇権を握っている大国で御座いましたので…古代遺跡から発掘してきた巨大な魔輝石を所持しておりまして、それが作り出す強力な魔物理防御障壁が皇宮一帯を包んでおります。とてもあの中に入ることは…」

「試してみようか?」

「えっ?」

魔術師団長以下エーカリンデ王国の閣下方やマーニエル王子殿下が俺を見詰めてきた。俺はニヤリと笑って見せた。

「私は三大陸一の魔術師と言われているのだぞ?試して見ないでなんとする」

という訳で、俺の障壁解術中は何があるかは分からないので、皇宮周りは危険だと言うことになり、残っている帝国民を出来るだけ発見し、皇宮の周りから避難と保護をしなければ…とまずはエーカリンデ王国軍とワイジリッテルベンシ王国軍は帝国内に侵入を試みた。

帝国の国境警備は手薄だった。俺は軍の特殊第二部隊と一緒に斥候として先にジュエルブリンガー帝国に侵入した。特殊第二部隊とは姿を隠して、潜入、調査、暗殺…などの任務が主の特殊部隊だ。

この部隊は俺の直属の管轄で、俺も一緒に任務をこなすことが多い。

以前、ラジェンタが俺が虫を殺しただけで泣いた~と子供の頃の俺の話をしていたが、今じゃ人を殺したって泣きもしないし、笑っていられる人格破綻者になってしまった。

ラジェンタには言えないな…ワイセリ少佐が「惚れた女に隠すこともまた男の優しさですよ」と高度な恋愛薀蓄を語ってくれたが、俺には隠すとか無理っぽいよな。ラジェンタ曰く顔に感情が出やすいらしいし…

それにしても、ラジェンタのことを思い出したら、あの甘辛い鳥の煮つけが食べたくなってきた。

「お腹空いたな…」

「殿下、携帯の干し肉ならありますが?」

第二部隊の副隊長が音も無く近づいて来てそう言ってくれるが…そうじゃないんだよなぁ。

「ああ…ラジェンタの料理が食べたい」

「ああ…さようで」

返事をした副隊長の魔質がぐにょと歪んだような気がした。それほど気持ちを乱す何かがあったのか?

国境沿いの砦を全て破壊してエーカリンデ王国とワイジリッテルベンシ王国の軍隊を招き入れれば、特殊部隊の任務は今回は終了だ。

砦から自国の軍人が街に散って行くのを見て届けてから第二特殊部隊の隊員の顔を見回した。

「第二部隊はジュエルブリンガー皇宮前にて待機の後、何か異変が無いか宮の外壁の巡回に定期的に回るように」

「御意!」

一瞬で隊員達は転移して行った。後に残ったニコライ=ワイセリ少佐が皇宮の方を見ながら、俺に聞いてきた。

「しっかし安請け合いしてましたが、本当に魔輝石の障壁、破れるんですか?」

「分からん…ただ第二皇女に付けていた俺の追尾魔法は若干の抵抗はあったが宮内に侵入出来た」

「すげぇ、流石殿下」

ワイセリ少佐が目を丸くしているが、俺の目にはあの障壁は隙だらけに視えた。

「じかに見てみないことには判断は出来ないが、魔輝石本来の使い方を知らないんじゃないかな~あれは魔力を発生させる魔道具ではなくて、簡単にいうと魔力を貯め込める貯蔵庫だと思う」

ワイセリ少佐と砦から町の中心部に向かう。この辺りに帝国民の魔質は視えない。

「貯蔵庫、ですか?つまりは魔力を貯めておかなくては力を発揮しない?」

「うん…ただそこが普通の魔石と魔輝石の違いというか、貯め込める量が桁違いなようだ。それこそ数百年分の魔力を貯めておけるのでは…と学者達は言っていた」

「ひえぇ…だから古代遺跡の発掘で魔輝石が出たらあんなに騒ぐのか…」

「遺跡の盗掘を防ぐ防御障壁の類の魔力も全て魔輝石が動かしているからな~おい…弱いが魔力の動きがある」

俺とワイセリ少佐の後ろに居た軍の兵士達が慌てて俺が指差した民家に入って行った。どうやら逃げ遅れたご老人がいたようだ。

「殿下が居て下さったら便利ですね~人の捜索も楽々だ」

ワイセリ少佐は、相手が王族だろうが町娘だろうがいつもこの調子だ、凄いよな。

ジュエルブリンガーの皇宮の周辺の人払いは済んだが、今度は一時避難で保護した帝国民が広場に溢れていることが問題になってきた。

軍の者が総出で野営テントを張っているが、元々逃げ遅れた弱者ばかりだ。治療術師の回復魔法だけでは、疲れた気持ちまでは術では治らない。暫くは皇宮周りは危険だしこのテント暮らしが続くかもしれない。

「せめて何か精の付く食べ物を配給出来ないか…」

その時にラジェンタの顔が浮かんだ。そうか…ラジェンタなら!

「すぐ戻る!」

「えっ殿下…」

俺はひとりで転移魔法で小料理屋ラジーの前まで行くと、まだ開店前で店内で仕込み作業をしていたラジーに事情を説明した。

「ラジーなら精が付いて体が温まる料理を何か知っているかと思って…出来れば大人数に分けて配れるものがいいんだ」

俺が言い終わるより前に、ラジーの目と魔質は輝いていた。

ラジーはマサンテとキマリに指示を出している。

「スワ君、お城の調理場に行って大鍋借りてきてもらえない?」

大鍋?

「何に使うの?」

「ミソスープを作って皆さんにお出しするのよ」

ラジェンタの笑顔につられて俺も笑顔になった。俺は城の調理場に行き料理長に説明をしてラジーの指示どおりの調理器具と食材を掻き集めて、ラジー達と共にジュエルブリンガー帝国へ戻った。

「殿下!?どこに行って…あれ?ラジェンタ様…」

リヒャルトとワイセリ少佐がいきなり連れてきたラジ―達を見てポカンとしている。

「さあっ忙しくなるわよ!」

ラジェンタの掛け声と共に、広場にテントを広げて簡易調理台をだして調理器具の準備した。

やがて、ラジェンタの作る、あの魅惑的なミソスープの匂いが漂ってきた。

「ミソスープの具はなんだい?」

フェノリオ=コラゴルデ大将閣下、叔父上がミソスープの入った鍋を覗き込みながらラジェンタに聞いた。

「根野菜と鳥のつみれスープですよ」

鳥っ!と聞いて俺が振り向いたら、鍋を掻き回しているラジェンタと目が合った。

「フフ…スワ君は鳥肉大好きだもんね~?」

とんでもない破壊力のあるラジェンタの笑顔に胸を強打された(精神的に)息が出来ない…

ハァハァと荒くなる呼吸を整えながら、食事の配給を終えたらすぐにでも皇宮に乗り込んで…と荒れた心情を抑え込もうとしていたら、何やら香ばしい匂いが漂ってきた。

香ばしい匂いの元はどうやらロールサンド用の香辛料がたっぷりかかったハムを焼いている匂いのようだ。城から連れてきた調理人やメイド達も忙しそうにロールパンに葉野菜と焼いたハムを挟む作業をしている。

正直、ラジェンタが一緒にジュエルブリンガー帝国に来てくれるとは思わなかった。食に関するお願いだからかな?今のラジェンタはすごく生き生きとしていて楽しそうだ。

やがてミソスープとロールパンの配給が始まった。皆初めて飲む不思議な飲み物に戸惑っているようだ。

俺もミソスープを頂いた。匂いを嗅ぐと思わず溜め息の漏れる魅惑の香りがする。匙で一掬いして口の運ぶと何故か懐かしい感じする。

根野菜も味が染みて美味しいな。鳥団子…噛み締めると中から肉汁が溢れる。ああ、少しコリコリした所があるな。これは鳥の中に何が入っているのかな、それにしてもこれは食感も楽しめるな。ミソのお陰で体と心までが温まるな…。このロールサンドが挟んでいるハム、香辛料が凄く効いて美味しいな。もしかしてこの香辛料…この間の賊の落とした麻袋に入っていた香辛料かな?

美味いな…やっぱりラジェンタの料理は最高だ…

「ス~ワ~君!どう?鳥団子汁最高でしょう?」

ラジーの笑顔に何だか泣きそうになる。美味しいものを食べて心が温まっているせいかな…涙もろい。

「鳥スープもラジェンタも大好きだ…」

「……っ!」

何故だかラジェンタから目の覚めるような背中への手刀を受けた。完璧に油断していたので息が止まりそうになった…涙も止まった。
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