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帝国の姫~SIDEスワイト~
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今まで襲って来た刺客は、全ての者が「リスベル公爵の指示」と口を揃えて言ってくる。
しかしそれは全部嘘だった。これは俺にしか分からない魔質の揺らぎで判断した訳だが…どうもおかしい。表立ってラジーや俺を襲いまくってそれがリスベル公爵の指示…普通なら、ああ公爵は悪い事するな~で片付けられていた案件だ。
リスベル公爵は拘束されて、証言が出ているので極刑…死罪になる。そして…万が一ラジーも間に合わずに害されていた危険性もあった。
リスベル公爵も失脚させてラジェンタも亡き者にする。じゃあ犯人はペスラ伯爵か?いや、実は捕えた者全員にペスラ伯爵の指示か?と聞いてはいる。
その時の魔質の揺らぎは『否』だった。じゃあ誰の指示でリスベル公爵を名乗り、俺とラジーを襲うとするのだ…
その時、エリーガ中佐の顔が浮かんだ。そう言えば今の所は怪しい動きは無いとの密偵の報告を受けてはいるが…何か仕掛けてくるのか?それとも既に仕掛けている?
物思いに耽っていると、国王陛下の侍従が慌てて俺を訪ねて来た。
「国王陛下がお呼びです」
何かあったな?俺の侍従の目付きの鋭いとヒゼリと目を合わせる。もう1人、軍から補佐として来ているワセイリ少佐を見ると
「後で~」
と軍と魔術師団の合同演習の予定表を書きながら、手を挙げている。何だ一緒に行って聞かないのか?
俺はヒゼリと一緒に国王陛下の所へ向かった。
国王陛下は非常に不機嫌だった。魔質が派手に動き回って暴れている。
「ジュエルブリンガー帝国から親書が届いた。シアヴェナラ=ジュエルブリンガー第二皇女殿下との婚姻の打診が届いた」
「…っ!」
とうとう、直接来たか!
「だが、スワイトにはラジェンタ=バラクーラ公爵令嬢という婚約者がいる…と返事を返すつもりだ」
「父上…」
思わずホッとして国王陛下を見た。国王陛下は何度も頷いている。
「ワシはラジェンタが次期王太子妃だと勿論、思っておるしおまけにだな~何故国内が荒れている小ーーさい国の皇女殿下を娶らねばならんのか、そっちの方が知りたいわ」
父上…。そうか今ではジュエルブリンガー帝国も小さな小国の一つだものな。ワイジリッテルベンシ王国から見ればあちらの方から婚姻打診を出してくる自体が厚かましい…そういう扱いにもなる。
まあ国土が三分の一になって国が分裂したのはまだ5年前だが、まだ国内が落ち着かないのによく婚姻しようと思うもんだな。
という訳で、父上は婚姻お断りの返書と共に、ジュエルブリンガー帝国との内戦で独立した、お隣の新興国の『エーカリンデ王国』に親書を出して嫌味たらしくエーカリンデとの交易の打診をするらしい。あの地域独特の香辛料や香料…そして繊維織物が有名らしいのでそれを輸入したいそうだ。
おまけにジュエルブリンガー帝国とは仲良くしませんよ?の意思表示にもなるしな、ガハハ!…だそうだ。
んん?香辛料?もしかしてラジーが叫んでいた、コリアンダとカルガモ?だったか、があるのかも…
ヒゼリと共に執務室に戻るとワイセリ少佐とヒゼリを交えて、ジュエルブリンガー帝国の皇女殿下の婚姻について話し合った。
「婚姻打診は近隣諸国で断られた末にこっちに言ってきたんじゃないですかねぇ」
「ワイセリもそう思うか?」
「内乱もまだ収まっていないこの時期に婚姻を結ぼうとするのは、きな臭いですね」
ヒゼリはそう言って俺とワイセリに茶を入れてくれたので、それを飲んで一息ついた。
「そんな感じじゃ此方の返書もろくに見ないのではないでしょうかね、もしかして帝国から降嫁するのだー有難く受け取れー!ぐらいの感覚でいるのでは?」
ワイセリ少佐のこの気安い感じは昔からだ。歯に衣着せぬ物言いが上からは煙たがられ、下からは慕われる侯爵家の三男だ。
ワイセリ少佐から行程表を受け取って演習の日程をチラッと見てから、溜め息が漏れた。
その日の夜
ラジーに婚姻打診の話は伏せておいて、エーカリンデ王国と交易が出来ると新しい香辛料が手に入るかも~と伝えるとそれはそれは喜んでくれた。婚姻の話は伏せたほうが良いと言ってくれたのは今、一緒に小料理屋ラジーに来ているワイセリ少佐とヒゼリだ。テーブルの向こうからこっちを見てニヤニヤしている…
「スワ君、本当にありがとう!」
ラジーはカウンターのこっちに走り込んできて、俺に抱き付かんばかりの喜びようだ。俺は抱き付いてもらってもいいんだけど?
まあこんなに喜んでくれるなら、良かったよ。俺としてもあの魅惑のカレーが更に美味しくなってくれるなら喜ばしいことだしな。
と…吞気な事を考えていたのだが、数日後
何とジュエルブリンガー帝国の返事は、是でも否でもなく『皇女殿下が向かいますので迎える準備をしておいて下さい』との慇懃無礼な返事だった。
「何だこれは!この見下し感満載な、こちらが行くんだからもてなせ、と言わんばかりの態度は!」
父上と母上は大層怒っておられた。いや…大臣以下皆怒っている。
おまけに、新興国のエーカリンデ王国は丁寧にも交易に際しての調印式に向こうの大使と大臣と一緒に、王子殿下までお越しになられるという、とても好感の持てる返書と共に、訪れた使者達が綺麗な瓶に入った香料も一緒に持参してくれた。とても魅惑的な香りがする。
この使者の方々に是非聞きたいことがある。そう…俺はある密命をラジーから受けている。使者の方々に聞いていいものか分からないが…言葉が中々伝わりにくい中、身振り手振りで香辛料のことを何とか聞き出した。
俺が問うと、使者の方々がラジーの作ったカレーを食べてみたいと仰ったので夜…小料理屋ラジーにお連れした。
ラジーに、かの香辛料の産地のエーカリンデ王国の方だよと説明すると、ラジーは大喜びだった。早速作ったカレーを使者の方々に振舞ってくれた。
「…!…っ!」
「……っ!……」
恐らく向こうの国の言葉を喋っているのか、使者の方々は大喜びされているようだ。落ち着いてからお聞きすると、エーカリンデ王国…元々はジュエルブリンガー帝国の、エーカリンデ公爵領の特産品がこの香辛料らしい。ラジーと共に使者の方々に麻袋の中を見てもらったが、専門家が見れば何の実か分かるのですが…私じゃ分からないと使者の方々は言っていた。
まあ当たり前か、食材なんて調理経験がなければ判別はつかないものだしな。
そうして使者の方々が暫く滞在して帰られた翌日…国境の辺境伯から火急を知らせる書状が届けられた。その書状を見て、俺は部下達と辺境伯領へと向かった。
辺境伯領の国境の砦の客室に…シアヴェナラ=ジュエルブリンガー第二皇女殿下を名乗る女と、その従者と思われる数名の者がソファに悠々と座っていた。
俺達が部屋に入ると、その皇女殿下と名乗る派手なドレスを着た派手な顔の女は馬鹿みたいに嬉しそうにした。
「まあっ遅いではないの!待ちくたびれましたわっ早う、私を王宮に…王太子殿下の元へ連れて行きなさい!」
俺は今日は軍の制服を着て、ラジェンタの兄のカインダッハ大尉と並んで普通の軍人のフリをして立っていた。その方が周りの魔質もよく観察出来るからと思ったのだ。
という訳で、俺の代わりに叔父上…フェノリオ=コラゴルデ公爵閣下が代表して物申してくれる手筈になっている。
「申し訳御座いませんが、正式な我が国の書状をお持ちではなく、口頭でのみでジュエルブリンガー帝国の皇女殿下と名乗られましても…こちらとしましてはおいそれとは国内に入れる訳には参りません」
叔父上の淡々とした物言いに皇女殿下は顔色を変えたが、物凄い形相で叔父上を睨みつけながら手に持っていた扇子を叔父上に投げつけた。勿論叔父上は障壁を張っていたので、扇子は叔父上に直接当たらずに床に落下した。
「もう一つ付け加えるとするならば…再三にわたりワイジリッテルベンシ国王陛下より、ジュエルブリンガー帝国に親書をお出しして、我が国のスワイト王太子殿下は既に公爵家ご令嬢とご婚約済みです。と申し上げておりますが…?」
叔父上…めっちゃ怒ってるな。部屋の体感温度が下がったんじゃないかな?カインダッハ大尉がちょっと、驚いて身じろぎしている。
「そんな公爵令嬢など婚約破棄にすればよいのでしょう!」
「ぶほっ…失礼」
「……」
カインダッハ大尉が白々しく吹き出してから咳払いをしている。俺に対する当てつけか?
「スワイト王太子殿下はラジェンタ=バラクーラ公爵令嬢と婚姻すると宣言しております」
シアヴェナラ=ジュエルブリンガー第二皇女殿下は、唇をギリッと噛み締めている。
「ほぅ…そうなの、じゃあその公爵令嬢は側妃、妾か?第二妃でもよいわね。それにすればよいのでしょう!」
つくづく、頭の悪い女だな。お前はいらんと文章でも書いた、口頭でも伝えた…それでも足りないのか?
「スワイトは…ラジェンタ以外の嫁はいらないと言っている、とっとと帰れ」
「…っ閣下!」
「落ち着いて!」
周りにいた側近の方々が慌てて叔父上に声をかけたが、それを言われたシアヴェナラ皇女殿下は、唖然としている。もしかするとこんな風に他人から言われたことが無いのかもしれない。
「何を無礼な!」
「シアヴェナラ=ジュエルブリンガー第二皇女殿下で有らせられますぞ!」
とか帝国の人間がぎゃいぎゃい後ろで騒いでいる。あいつら命知らずだな…叔父上に殺されちまうぞ?
「おい、国境警備兵。もういいからこいつら摘まみだせ」
ああ~あ、叔父上とうとう言っちゃったよ。こいつらと言いながら指でシアヴェナラ皇女殿下を指差している。
シアヴェナラ皇女殿下は、顔を真っ赤にして立ち上がった。
「ぶっ無礼ですよっ…ジュエルブリンガー帝国に歯向かうということはどういう事分かっているの!?」
思わず吹き出してしまいそうになったが、叔父上に至っては我慢もせずに笑ってしまっている。
「フフ、ハハ…そう言えば名乗って無かったですかね?フェノリオ=コラゴルデ公爵…現国王陛下の弟です」
シアヴェナラ皇女殿下は叔父上が王族だと気が付いて、少し後退りをしている。
叔父上は更に意地悪い微笑みを浮かべて
「ワイジリッテルベンシに来るまでに、軍人を引き連れて何カ国越境してくるつもりですか?通る国々と武力衝突しなければ、我が国に辿り着けませんよ?その間に何万人殺すつもりですか?そんな武力も無いのに身の程を弁えなさい。あなたは弱小国の政治的な旨味も何も持たないお飾り姫だ」
と言った。えげつない…もうすぐ40のおっさんが10代の女性に向かって本気の蔑み…俺なら腰抜けてるな。
「な…わ…お、大人しくお前達の持つ全ての武力と三大陸一の魔術師と言われるスワイト王太子殿下を私に差し出せばよいのよ!そ、そうすれば…私はまた偉大なる帝国の、この世界で一番だと羨ましがられる皇女殿下に…」
なるほど…この時期の婚姻の打診の答えはそれか…本当に馬鹿なのか?ジュエルブリンガー帝国って…先程も言っただろう?ジュエルブリンガー帝国に兵を持っていくだけで何カ国跨いで移動すると思うんだ?その度に他国を蹂躙しながら移動しなければならない。
世界規模の戦争を起こすつもりなのか?
俺が溜め息をつくと、カインダッハとリヒャイド=スカウデ大尉、そしてワセイリ少佐も動き出して皇女殿下の前に立った。
すると、皇女殿下は叫んだ。
「スワイト殿下が婚約破棄をして更にまた別の令嬢にフラれてっ今はどの令嬢にも見向きもされなくなっているって私、知っているのよっ!」
……何?
誰だそんな話を言ったのは……惨め過ぎる。
カインダッハやワセイリ少佐の気遣うような目線がチラチラ俺に向かう。
「何だと?スワイトはラジェンタ=バラクーラ公爵令嬢と凄く仲が良いんだぞっ?」
「しょ…証拠をお見せなさいよっ!」
おいおいもうすぐ40才のおじさんが10代の女性と本気で口喧嘩は…
「よーしっ分かった!今すぐにでもスワイトの愛しのラジェンタを連れて来ようじゃないかっ!」
何でそうなる!?叔父上ぇぇ!
しかしそれは全部嘘だった。これは俺にしか分からない魔質の揺らぎで判断した訳だが…どうもおかしい。表立ってラジーや俺を襲いまくってそれがリスベル公爵の指示…普通なら、ああ公爵は悪い事するな~で片付けられていた案件だ。
リスベル公爵は拘束されて、証言が出ているので極刑…死罪になる。そして…万が一ラジーも間に合わずに害されていた危険性もあった。
リスベル公爵も失脚させてラジェンタも亡き者にする。じゃあ犯人はペスラ伯爵か?いや、実は捕えた者全員にペスラ伯爵の指示か?と聞いてはいる。
その時の魔質の揺らぎは『否』だった。じゃあ誰の指示でリスベル公爵を名乗り、俺とラジーを襲うとするのだ…
その時、エリーガ中佐の顔が浮かんだ。そう言えば今の所は怪しい動きは無いとの密偵の報告を受けてはいるが…何か仕掛けてくるのか?それとも既に仕掛けている?
物思いに耽っていると、国王陛下の侍従が慌てて俺を訪ねて来た。
「国王陛下がお呼びです」
何かあったな?俺の侍従の目付きの鋭いとヒゼリと目を合わせる。もう1人、軍から補佐として来ているワセイリ少佐を見ると
「後で~」
と軍と魔術師団の合同演習の予定表を書きながら、手を挙げている。何だ一緒に行って聞かないのか?
俺はヒゼリと一緒に国王陛下の所へ向かった。
国王陛下は非常に不機嫌だった。魔質が派手に動き回って暴れている。
「ジュエルブリンガー帝国から親書が届いた。シアヴェナラ=ジュエルブリンガー第二皇女殿下との婚姻の打診が届いた」
「…っ!」
とうとう、直接来たか!
「だが、スワイトにはラジェンタ=バラクーラ公爵令嬢という婚約者がいる…と返事を返すつもりだ」
「父上…」
思わずホッとして国王陛下を見た。国王陛下は何度も頷いている。
「ワシはラジェンタが次期王太子妃だと勿論、思っておるしおまけにだな~何故国内が荒れている小ーーさい国の皇女殿下を娶らねばならんのか、そっちの方が知りたいわ」
父上…。そうか今ではジュエルブリンガー帝国も小さな小国の一つだものな。ワイジリッテルベンシ王国から見ればあちらの方から婚姻打診を出してくる自体が厚かましい…そういう扱いにもなる。
まあ国土が三分の一になって国が分裂したのはまだ5年前だが、まだ国内が落ち着かないのによく婚姻しようと思うもんだな。
という訳で、父上は婚姻お断りの返書と共に、ジュエルブリンガー帝国との内戦で独立した、お隣の新興国の『エーカリンデ王国』に親書を出して嫌味たらしくエーカリンデとの交易の打診をするらしい。あの地域独特の香辛料や香料…そして繊維織物が有名らしいのでそれを輸入したいそうだ。
おまけにジュエルブリンガー帝国とは仲良くしませんよ?の意思表示にもなるしな、ガハハ!…だそうだ。
んん?香辛料?もしかしてラジーが叫んでいた、コリアンダとカルガモ?だったか、があるのかも…
ヒゼリと共に執務室に戻るとワイセリ少佐とヒゼリを交えて、ジュエルブリンガー帝国の皇女殿下の婚姻について話し合った。
「婚姻打診は近隣諸国で断られた末にこっちに言ってきたんじゃないですかねぇ」
「ワイセリもそう思うか?」
「内乱もまだ収まっていないこの時期に婚姻を結ぼうとするのは、きな臭いですね」
ヒゼリはそう言って俺とワイセリに茶を入れてくれたので、それを飲んで一息ついた。
「そんな感じじゃ此方の返書もろくに見ないのではないでしょうかね、もしかして帝国から降嫁するのだー有難く受け取れー!ぐらいの感覚でいるのでは?」
ワイセリ少佐のこの気安い感じは昔からだ。歯に衣着せぬ物言いが上からは煙たがられ、下からは慕われる侯爵家の三男だ。
ワイセリ少佐から行程表を受け取って演習の日程をチラッと見てから、溜め息が漏れた。
その日の夜
ラジーに婚姻打診の話は伏せておいて、エーカリンデ王国と交易が出来ると新しい香辛料が手に入るかも~と伝えるとそれはそれは喜んでくれた。婚姻の話は伏せたほうが良いと言ってくれたのは今、一緒に小料理屋ラジーに来ているワイセリ少佐とヒゼリだ。テーブルの向こうからこっちを見てニヤニヤしている…
「スワ君、本当にありがとう!」
ラジーはカウンターのこっちに走り込んできて、俺に抱き付かんばかりの喜びようだ。俺は抱き付いてもらってもいいんだけど?
まあこんなに喜んでくれるなら、良かったよ。俺としてもあの魅惑のカレーが更に美味しくなってくれるなら喜ばしいことだしな。
と…吞気な事を考えていたのだが、数日後
何とジュエルブリンガー帝国の返事は、是でも否でもなく『皇女殿下が向かいますので迎える準備をしておいて下さい』との慇懃無礼な返事だった。
「何だこれは!この見下し感満載な、こちらが行くんだからもてなせ、と言わんばかりの態度は!」
父上と母上は大層怒っておられた。いや…大臣以下皆怒っている。
おまけに、新興国のエーカリンデ王国は丁寧にも交易に際しての調印式に向こうの大使と大臣と一緒に、王子殿下までお越しになられるという、とても好感の持てる返書と共に、訪れた使者達が綺麗な瓶に入った香料も一緒に持参してくれた。とても魅惑的な香りがする。
この使者の方々に是非聞きたいことがある。そう…俺はある密命をラジーから受けている。使者の方々に聞いていいものか分からないが…言葉が中々伝わりにくい中、身振り手振りで香辛料のことを何とか聞き出した。
俺が問うと、使者の方々がラジーの作ったカレーを食べてみたいと仰ったので夜…小料理屋ラジーにお連れした。
ラジーに、かの香辛料の産地のエーカリンデ王国の方だよと説明すると、ラジーは大喜びだった。早速作ったカレーを使者の方々に振舞ってくれた。
「…!…っ!」
「……っ!……」
恐らく向こうの国の言葉を喋っているのか、使者の方々は大喜びされているようだ。落ち着いてからお聞きすると、エーカリンデ王国…元々はジュエルブリンガー帝国の、エーカリンデ公爵領の特産品がこの香辛料らしい。ラジーと共に使者の方々に麻袋の中を見てもらったが、専門家が見れば何の実か分かるのですが…私じゃ分からないと使者の方々は言っていた。
まあ当たり前か、食材なんて調理経験がなければ判別はつかないものだしな。
そうして使者の方々が暫く滞在して帰られた翌日…国境の辺境伯から火急を知らせる書状が届けられた。その書状を見て、俺は部下達と辺境伯領へと向かった。
辺境伯領の国境の砦の客室に…シアヴェナラ=ジュエルブリンガー第二皇女殿下を名乗る女と、その従者と思われる数名の者がソファに悠々と座っていた。
俺達が部屋に入ると、その皇女殿下と名乗る派手なドレスを着た派手な顔の女は馬鹿みたいに嬉しそうにした。
「まあっ遅いではないの!待ちくたびれましたわっ早う、私を王宮に…王太子殿下の元へ連れて行きなさい!」
俺は今日は軍の制服を着て、ラジェンタの兄のカインダッハ大尉と並んで普通の軍人のフリをして立っていた。その方が周りの魔質もよく観察出来るからと思ったのだ。
という訳で、俺の代わりに叔父上…フェノリオ=コラゴルデ公爵閣下が代表して物申してくれる手筈になっている。
「申し訳御座いませんが、正式な我が国の書状をお持ちではなく、口頭でのみでジュエルブリンガー帝国の皇女殿下と名乗られましても…こちらとしましてはおいそれとは国内に入れる訳には参りません」
叔父上の淡々とした物言いに皇女殿下は顔色を変えたが、物凄い形相で叔父上を睨みつけながら手に持っていた扇子を叔父上に投げつけた。勿論叔父上は障壁を張っていたので、扇子は叔父上に直接当たらずに床に落下した。
「もう一つ付け加えるとするならば…再三にわたりワイジリッテルベンシ国王陛下より、ジュエルブリンガー帝国に親書をお出しして、我が国のスワイト王太子殿下は既に公爵家ご令嬢とご婚約済みです。と申し上げておりますが…?」
叔父上…めっちゃ怒ってるな。部屋の体感温度が下がったんじゃないかな?カインダッハ大尉がちょっと、驚いて身じろぎしている。
「そんな公爵令嬢など婚約破棄にすればよいのでしょう!」
「ぶほっ…失礼」
「……」
カインダッハ大尉が白々しく吹き出してから咳払いをしている。俺に対する当てつけか?
「スワイト王太子殿下はラジェンタ=バラクーラ公爵令嬢と婚姻すると宣言しております」
シアヴェナラ=ジュエルブリンガー第二皇女殿下は、唇をギリッと噛み締めている。
「ほぅ…そうなの、じゃあその公爵令嬢は側妃、妾か?第二妃でもよいわね。それにすればよいのでしょう!」
つくづく、頭の悪い女だな。お前はいらんと文章でも書いた、口頭でも伝えた…それでも足りないのか?
「スワイトは…ラジェンタ以外の嫁はいらないと言っている、とっとと帰れ」
「…っ閣下!」
「落ち着いて!」
周りにいた側近の方々が慌てて叔父上に声をかけたが、それを言われたシアヴェナラ皇女殿下は、唖然としている。もしかするとこんな風に他人から言われたことが無いのかもしれない。
「何を無礼な!」
「シアヴェナラ=ジュエルブリンガー第二皇女殿下で有らせられますぞ!」
とか帝国の人間がぎゃいぎゃい後ろで騒いでいる。あいつら命知らずだな…叔父上に殺されちまうぞ?
「おい、国境警備兵。もういいからこいつら摘まみだせ」
ああ~あ、叔父上とうとう言っちゃったよ。こいつらと言いながら指でシアヴェナラ皇女殿下を指差している。
シアヴェナラ皇女殿下は、顔を真っ赤にして立ち上がった。
「ぶっ無礼ですよっ…ジュエルブリンガー帝国に歯向かうということはどういう事分かっているの!?」
思わず吹き出してしまいそうになったが、叔父上に至っては我慢もせずに笑ってしまっている。
「フフ、ハハ…そう言えば名乗って無かったですかね?フェノリオ=コラゴルデ公爵…現国王陛下の弟です」
シアヴェナラ皇女殿下は叔父上が王族だと気が付いて、少し後退りをしている。
叔父上は更に意地悪い微笑みを浮かべて
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と言った。えげつない…もうすぐ40のおっさんが10代の女性に向かって本気の蔑み…俺なら腰抜けてるな。
「な…わ…お、大人しくお前達の持つ全ての武力と三大陸一の魔術師と言われるスワイト王太子殿下を私に差し出せばよいのよ!そ、そうすれば…私はまた偉大なる帝国の、この世界で一番だと羨ましがられる皇女殿下に…」
なるほど…この時期の婚姻の打診の答えはそれか…本当に馬鹿なのか?ジュエルブリンガー帝国って…先程も言っただろう?ジュエルブリンガー帝国に兵を持っていくだけで何カ国跨いで移動すると思うんだ?その度に他国を蹂躙しながら移動しなければならない。
世界規模の戦争を起こすつもりなのか?
俺が溜め息をつくと、カインダッハとリヒャイド=スカウデ大尉、そしてワセイリ少佐も動き出して皇女殿下の前に立った。
すると、皇女殿下は叫んだ。
「スワイト殿下が婚約破棄をして更にまた別の令嬢にフラれてっ今はどの令嬢にも見向きもされなくなっているって私、知っているのよっ!」
……何?
誰だそんな話を言ったのは……惨め過ぎる。
カインダッハやワセイリ少佐の気遣うような目線がチラチラ俺に向かう。
「何だと?スワイトはラジェンタ=バラクーラ公爵令嬢と凄く仲が良いんだぞっ?」
「しょ…証拠をお見せなさいよっ!」
おいおいもうすぐ40才のおじさんが10代の女性と本気で口喧嘩は…
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