5 / 21
苦悩 ~SIDEスワイト~
しおりを挟む
今日は、審議の日だ…まあ何となくこうなるんじゃないかとは思っていた。
審議会場に集まったジジイ共は空席のままの椅子を見て、ヒソヒソ話をしている。
「…して、ペスラ伯爵、同じくリスベル公爵…貴公達の公女はどうされましたかな?」
軍の将軍閣下…俺の叔父がギロッと睨みを利かせた。聞かなくても分かるよ…と思うけど一応俺が聞いてみようかな?
「もしかして、ルルシーナ嬢もラノディア嬢も御加減が芳しくないのかな?」
俺がそう話を向けると、顔色を悪くしていたペスラ伯爵とリスベル公爵は揃って立ち上がって叫んだ。
「そっそうで御座います!娘は昔から外にも出れないほどでして…」
「はい、娘は気鬱の気がありまして今日も頭が痛いと…臥せっていてっ!」
俺は大袈裟に溜め息をついてから、ちょっと声を張り上げながら言った。
「そうかぁ~それほど体が弱いのかぁ…これは困りものだねぇぇ…」
俺がそう言うと、案の定、内務省のジジイ共がいきり立った。
「そっそんな病弱な令嬢にっ王太子妃になど…!お戯れが過ぎますぞ!」
「そうですぞっおまけにリスベル公爵のラノディア嬢はそれでなくとも…素行…」
リスベル公爵が自分の席の後ろのジジイをジロッと睨んでいる。
怒ることないじゃないか、事実だろ?
「体が弱くて外も出られんのでは、お世継ぎは無理ですな…」
俺はそう言った、侯爵家次男のエリーガ中佐を見た。この中佐…前から嫌な感じだな~とは思っていたが、言葉の端々がいちいち嫌味っぽい。
エリーガ中佐はニヤニヤと笑いながら
「スワイト殿下がラジェンタ=バラクーラ公爵令嬢と婚約破棄をした…と聞き及びましたが、そのラジェンタ嬢も雲隠れしておいでだとか…そんな逃げ回るような令嬢は捨て置いて、他国の王族の姫とご婚姻された方が宜しいのでは?」
そう言いながら…魔質を濁らせてくるエリーガ中佐…何だコレ?
「例えば…ジュエルブリンガー帝国の第二皇女殿下…とか?」
審議会場の中が一段とざわついて、宰相補佐が静粛に!静粛に!と叫んでいる。
俺はエリーガ中佐の魔質をより深く視ようと、目を細めた。
ジュエルブリンガー帝国……以前は破竹の勢いで勢力を拡大していた軍事国家だ。ただ近年はその勢いは無い。無理矢理の侵略行為の結果、国が纏まらずに内戦が起こり…今は国土を三分の一に減らしている。
そんな未だに帝国最強思想に囚われて、圧政を繰り広げている国の皇女殿下だと?
俺はチラッと国王陛下…父を見た。陛下も俺を見ている。分かっているよ…中佐の魔質を詳しく探れっていうんだろう?
どうも、この魔質を探れるのがこの国では俺だけだって言うので、便利に扱われているみたいだ。
主に犯人捜しとか内通者捜しとか裏切者捜しとか…まあ魔質を視れば大概の嘘は分かるからな。
よし…
「ジュエルブリンガー帝国の皇女殿下か?また遠い所の皇女殿下を名指しするのだな、中佐はその皇女殿下をご存じなのかな?」
俺の言葉を聞いても顔色は変わらない…が、エリーガ中佐の魔質の奥を覗く。揺らいでいるな…なるほど。
俺の表情で悟ったのだろう、国王陛下が立ち上がった。
「今日の審議は後日改めよ。それと、スワイトよ」
「はい」
「ラジェンタ=バラクーラ公爵令嬢との婚約破棄は正式に決まったものではないっ!お前の置かれた立場を忘れるでないぞ!」
父上激高…と見せかけて父上の魔質は凪いでいる。はは~ん怒った演技だな。
「…っく、分かっております」
俺も付き合って悔しそうな顔をワザと作ってさりげなく、周りのジジイ達に見せた。何故だかニヤリと笑うエリーガ中佐の顔が視界に入った。
何だか気になる魔質だな…あいつ。
国王陛下はそう言って出て行った。他のジジイ共も出て行く。仕方がないので、皆がいなくなるまで苦悶の王子顔で椅子に座ったまま俯いていた。
1人を除いていなくなったので、顔を上げた。
「何です、叔父上?」
「お前はまだ腹芸は無理だよ?」
叔父上はやや呆れたような顔で俺を見ていた。周りには誰もいないことを確認してから
「エリーガ中佐…噂はどうですか?」
と聞いてみた。叔父上は、う~んと唸っている。
「野心家ではあるかな?侯爵家の者だからと、下の者には当りが強いらしく評判は良くない」
だろうな…底意地の悪そうな魔質をしていた。
「先程のジュエルブリンガー帝国の話をしている時の魔質…かなり歪んでいました。何かあるようですね」
そう、叔父上と父上の2人は、俺が魔質を表層魔質だけではなく、奥の深層魔質まで視えることを知っている。深層魔質まで視えるということは、どれほどの偽りを口に出されても、その体の心…魔質を視れば全てが分かるという訳だ。
俺の前ではどんな嘘偽りも意味が無い。
叔父上は少し目を細めた後、頷いた。
「やっぱりさっきのアレ芝居だったのか?兄上もくっさい演技していたけど?」
「そうか叔父上も魔質視えるんでしたね?」
「お前ほどじゃないがな」
ああ、そうだ…
「でしたら、今度一緒にラノディア=リスベル子女を視てくれませんか?とある貴族子息の御子を妊娠していると言っているらしいので…」
「何だってぇ?オイオイオイ!?子が出来ているのにお前の第二妃だと?リスベル公爵は何を考えているんだ!」
「種はどうあれ、それを盾に取ってその子息に迫っているとか…」
「お前の妃候補は問題アリばかりだな…」
「俺が推した訳じゃないですよ?」
叔父上は、少し目を開いてから
「ルルシーナ嬢はお前から…じゃなかったか?」
痛い所を突いてくる。
「今は猛省している所です」
「何かあったのか?」
言いよどんでいると叔父上は俺の肩を掴んできた。
「今日、飲みに行くか?」
と、聞いてきた。あ、飲みに行くのなら…
叔父上と2人、公所や警邏の詰所などがある大通りから一歩入った路地…『小料理屋ラジー』の店の前に立っていた。
店内に居る人の魔質を視る。全員知っている…吹き出しそうになったが叔父上を促す。
「えっ?ここに入るのか?大丈夫なのか?」
「いらっしゃいま…えっ!」
ラジーが俺を見て微笑み掛けて、叔父上を見て慌ててカウンターの奥から飛び出して来て、淑女の礼をした。
「王弟殿下、本日はこのような…」
「…え?ラジェンタ=バラクーラ公爵令嬢!?」
叔父上は間近に近付いて来たラジーにやっと気が付いたようだ。そうだよな、今のラジー見た目地味だし。
叔父上はそこで、店の奥のテーブルに座ってこっちを見ている、ラジーの兄のカインダッハ=バラクーラ大尉とリヒャイド=スカウデ大尉の2人に気が付いたみたいだ。
「お前ら何やってんだ?」
叔父上がそう言うとカインダッハとリヒャイドが慌てて立ち上がって敬礼をしている。
「ハッ…妹の経営する料理店にて夕食を取っています」
硬いなぁ…カインダッハ…
「本日はバラクーラ大尉に誘われて夕食をこちらで頂いております」
こっちも負けずに硬いなあ、リヒャイド…
「あ~ぁいいよ。勤務時間外で堅苦しいのはやめてくれ。ところでラジェンタ嬢は行方知れずと聞いたけど、元気そうだね?」
叔父上は興味深げにラジーを見詰めている。ラジーは苦笑いを浮かべて俺と叔父上を別のテーブルに誘おうとしたが…叔父上が「あいつらと一緒で」とカインダッハ達を指差してしまった。
嫌なんだろうなぁ、カインダッハとリヒャイドの魔質が一瞬、どんよりとした。
「じ…じゃあ、机をくっつけましょうか?」
ラジーがそう言って二人掛けのテーブル同士をくっつけて四人掛けテーブルにしてくれた。おまけにどこからか、間仕切りを持って来て俺達の机が外から見えないようにしてくれた。
「そうだスワ君、今日珍しいお酒が手に入ったのよ?飲む?」
「へぇいいな、頂くよ。料理は何に合う?」
「魚かな?」
「じゃあそれで」
「……」
俺とラジーのやり取りに叔父上は茫然としているようだ。
マサンテが俺と叔父上の前に鳥と野菜のジブ煮を出してくれた。これもラジーの作る珍しい料理だ。そして炙った肉の料理をカインダッハ達の前に出した後
「殿下方、飲み過ぎちゃダメですよ」
と、チクゥと注意?をしてカウンターの奥へ戻って行った。カウンターの奥には、見たことのあるメイドの女の子がいる。お手伝いかな?
「その炙った肉、美味そうだな」
叔父上が、そう言ったのでカインダッハが慌てて叔父上に炙り肉を取り分けて渡している。ホラァ…だから気を使わせんなって。上司が部下の飲み会に来るのは困る…とか侍従の若い奴らも言っていたぞ?
「おおっ美味いな。変わった香辛料だな…」
「ラジーはワサビとか呼んでますけど」
カインダッハが俺を見たり、叔父上を見たり…気を使ってて痛ましいや。
「それはそうと…スワイトお前、ラジェンタ嬢と婚約破棄だなんだと揉めてる風だったが、今見る限りではただの噂みたいだな」
「いえ、本当に婚約破棄をしましたよ、ねえ?スワ君」
「…っ!」
酒瓶とグラスを持ってラジーがそう言いながら俺達のテーブルの横に立った。
「ラ…ラジー…」
「はい、これ…珍しいよ。結構辛味のあるお酒『ゴロマ』っていうんだ」
濃い緑色の酒樽に少し黄色の透明な酒が入っている。ラジーはコップにそのお酒を注いでくれた。
濃い酒の匂いがする。乾杯の声の後に一口飲んでみると、カッと口の中で熱を持ち…そして喉を通った後のすっきりした後味は、初めて味わう刺激的で甘美なものだった。
「美味い!」
「こりゃ、いけるな。辛味というのかな?不思議な味だな」
叔父上と2人で思わず叫んだら、ラジーはそれはそれは嬉しそうに微笑んだ。
「でしょう?ゴーマっている主食になる野菜って言うのかな?から取れるお酒なの。調味料の原料にもなるの」
「へぇ…」
ラジーの説明を受けて一口一口、飲み進めていると体がほわっと温かくなってくる。これは酔いが早く回りそうだ。気を付けよう。
「お前達何だか不思議な関係だが、婚約破棄しても付き合いは良好なんだな?」
叔父上にラジーとの仲を聞かれて、思わず横に立っているラジーを見上げてしまう。ラジーは困った顔をしている。
「俺はラジーをいずれ迎えに行けるような男を目指しています」
「ちょっとぉスワ君またそれ言ってるっ…」
「何だ、じゃあエリーガ中佐の勇み足…ということか」
「エリーガ中佐がどうされましたか?」
カインダッハが叔父上に顔を近付けた。叔父上は、憮然とした表情をした。
「ジュエルブリンガー帝国の第二皇女殿下とスワイトを婚姻させたらどうだと、エリーガ中佐が言い出したんだ」
ガチャン…と炊事場の方から音がして、ラジーが俺を凝視していた。
この…居心地の悪さはなんだ?俺、何かしたか?いや何かは散々したんだけど、エリーガ中佐の件に関しては…え~とえ~と、そう!貰い事故だと思うんだけど?
「スワイト、消音魔法を張ってくれ」
叔父上に頼まれて消音魔法を張ったはいいが…
何でそんな暗殺者みたいな目で俺を見るんだ?ラジーィィィ!?
審議会場に集まったジジイ共は空席のままの椅子を見て、ヒソヒソ話をしている。
「…して、ペスラ伯爵、同じくリスベル公爵…貴公達の公女はどうされましたかな?」
軍の将軍閣下…俺の叔父がギロッと睨みを利かせた。聞かなくても分かるよ…と思うけど一応俺が聞いてみようかな?
「もしかして、ルルシーナ嬢もラノディア嬢も御加減が芳しくないのかな?」
俺がそう話を向けると、顔色を悪くしていたペスラ伯爵とリスベル公爵は揃って立ち上がって叫んだ。
「そっそうで御座います!娘は昔から外にも出れないほどでして…」
「はい、娘は気鬱の気がありまして今日も頭が痛いと…臥せっていてっ!」
俺は大袈裟に溜め息をついてから、ちょっと声を張り上げながら言った。
「そうかぁ~それほど体が弱いのかぁ…これは困りものだねぇぇ…」
俺がそう言うと、案の定、内務省のジジイ共がいきり立った。
「そっそんな病弱な令嬢にっ王太子妃になど…!お戯れが過ぎますぞ!」
「そうですぞっおまけにリスベル公爵のラノディア嬢はそれでなくとも…素行…」
リスベル公爵が自分の席の後ろのジジイをジロッと睨んでいる。
怒ることないじゃないか、事実だろ?
「体が弱くて外も出られんのでは、お世継ぎは無理ですな…」
俺はそう言った、侯爵家次男のエリーガ中佐を見た。この中佐…前から嫌な感じだな~とは思っていたが、言葉の端々がいちいち嫌味っぽい。
エリーガ中佐はニヤニヤと笑いながら
「スワイト殿下がラジェンタ=バラクーラ公爵令嬢と婚約破棄をした…と聞き及びましたが、そのラジェンタ嬢も雲隠れしておいでだとか…そんな逃げ回るような令嬢は捨て置いて、他国の王族の姫とご婚姻された方が宜しいのでは?」
そう言いながら…魔質を濁らせてくるエリーガ中佐…何だコレ?
「例えば…ジュエルブリンガー帝国の第二皇女殿下…とか?」
審議会場の中が一段とざわついて、宰相補佐が静粛に!静粛に!と叫んでいる。
俺はエリーガ中佐の魔質をより深く視ようと、目を細めた。
ジュエルブリンガー帝国……以前は破竹の勢いで勢力を拡大していた軍事国家だ。ただ近年はその勢いは無い。無理矢理の侵略行為の結果、国が纏まらずに内戦が起こり…今は国土を三分の一に減らしている。
そんな未だに帝国最強思想に囚われて、圧政を繰り広げている国の皇女殿下だと?
俺はチラッと国王陛下…父を見た。陛下も俺を見ている。分かっているよ…中佐の魔質を詳しく探れっていうんだろう?
どうも、この魔質を探れるのがこの国では俺だけだって言うので、便利に扱われているみたいだ。
主に犯人捜しとか内通者捜しとか裏切者捜しとか…まあ魔質を視れば大概の嘘は分かるからな。
よし…
「ジュエルブリンガー帝国の皇女殿下か?また遠い所の皇女殿下を名指しするのだな、中佐はその皇女殿下をご存じなのかな?」
俺の言葉を聞いても顔色は変わらない…が、エリーガ中佐の魔質の奥を覗く。揺らいでいるな…なるほど。
俺の表情で悟ったのだろう、国王陛下が立ち上がった。
「今日の審議は後日改めよ。それと、スワイトよ」
「はい」
「ラジェンタ=バラクーラ公爵令嬢との婚約破棄は正式に決まったものではないっ!お前の置かれた立場を忘れるでないぞ!」
父上激高…と見せかけて父上の魔質は凪いでいる。はは~ん怒った演技だな。
「…っく、分かっております」
俺も付き合って悔しそうな顔をワザと作ってさりげなく、周りのジジイ達に見せた。何故だかニヤリと笑うエリーガ中佐の顔が視界に入った。
何だか気になる魔質だな…あいつ。
国王陛下はそう言って出て行った。他のジジイ共も出て行く。仕方がないので、皆がいなくなるまで苦悶の王子顔で椅子に座ったまま俯いていた。
1人を除いていなくなったので、顔を上げた。
「何です、叔父上?」
「お前はまだ腹芸は無理だよ?」
叔父上はやや呆れたような顔で俺を見ていた。周りには誰もいないことを確認してから
「エリーガ中佐…噂はどうですか?」
と聞いてみた。叔父上は、う~んと唸っている。
「野心家ではあるかな?侯爵家の者だからと、下の者には当りが強いらしく評判は良くない」
だろうな…底意地の悪そうな魔質をしていた。
「先程のジュエルブリンガー帝国の話をしている時の魔質…かなり歪んでいました。何かあるようですね」
そう、叔父上と父上の2人は、俺が魔質を表層魔質だけではなく、奥の深層魔質まで視えることを知っている。深層魔質まで視えるということは、どれほどの偽りを口に出されても、その体の心…魔質を視れば全てが分かるという訳だ。
俺の前ではどんな嘘偽りも意味が無い。
叔父上は少し目を細めた後、頷いた。
「やっぱりさっきのアレ芝居だったのか?兄上もくっさい演技していたけど?」
「そうか叔父上も魔質視えるんでしたね?」
「お前ほどじゃないがな」
ああ、そうだ…
「でしたら、今度一緒にラノディア=リスベル子女を視てくれませんか?とある貴族子息の御子を妊娠していると言っているらしいので…」
「何だってぇ?オイオイオイ!?子が出来ているのにお前の第二妃だと?リスベル公爵は何を考えているんだ!」
「種はどうあれ、それを盾に取ってその子息に迫っているとか…」
「お前の妃候補は問題アリばかりだな…」
「俺が推した訳じゃないですよ?」
叔父上は、少し目を開いてから
「ルルシーナ嬢はお前から…じゃなかったか?」
痛い所を突いてくる。
「今は猛省している所です」
「何かあったのか?」
言いよどんでいると叔父上は俺の肩を掴んできた。
「今日、飲みに行くか?」
と、聞いてきた。あ、飲みに行くのなら…
叔父上と2人、公所や警邏の詰所などがある大通りから一歩入った路地…『小料理屋ラジー』の店の前に立っていた。
店内に居る人の魔質を視る。全員知っている…吹き出しそうになったが叔父上を促す。
「えっ?ここに入るのか?大丈夫なのか?」
「いらっしゃいま…えっ!」
ラジーが俺を見て微笑み掛けて、叔父上を見て慌ててカウンターの奥から飛び出して来て、淑女の礼をした。
「王弟殿下、本日はこのような…」
「…え?ラジェンタ=バラクーラ公爵令嬢!?」
叔父上は間近に近付いて来たラジーにやっと気が付いたようだ。そうだよな、今のラジー見た目地味だし。
叔父上はそこで、店の奥のテーブルに座ってこっちを見ている、ラジーの兄のカインダッハ=バラクーラ大尉とリヒャイド=スカウデ大尉の2人に気が付いたみたいだ。
「お前ら何やってんだ?」
叔父上がそう言うとカインダッハとリヒャイドが慌てて立ち上がって敬礼をしている。
「ハッ…妹の経営する料理店にて夕食を取っています」
硬いなぁ…カインダッハ…
「本日はバラクーラ大尉に誘われて夕食をこちらで頂いております」
こっちも負けずに硬いなあ、リヒャイド…
「あ~ぁいいよ。勤務時間外で堅苦しいのはやめてくれ。ところでラジェンタ嬢は行方知れずと聞いたけど、元気そうだね?」
叔父上は興味深げにラジーを見詰めている。ラジーは苦笑いを浮かべて俺と叔父上を別のテーブルに誘おうとしたが…叔父上が「あいつらと一緒で」とカインダッハ達を指差してしまった。
嫌なんだろうなぁ、カインダッハとリヒャイドの魔質が一瞬、どんよりとした。
「じ…じゃあ、机をくっつけましょうか?」
ラジーがそう言って二人掛けのテーブル同士をくっつけて四人掛けテーブルにしてくれた。おまけにどこからか、間仕切りを持って来て俺達の机が外から見えないようにしてくれた。
「そうだスワ君、今日珍しいお酒が手に入ったのよ?飲む?」
「へぇいいな、頂くよ。料理は何に合う?」
「魚かな?」
「じゃあそれで」
「……」
俺とラジーのやり取りに叔父上は茫然としているようだ。
マサンテが俺と叔父上の前に鳥と野菜のジブ煮を出してくれた。これもラジーの作る珍しい料理だ。そして炙った肉の料理をカインダッハ達の前に出した後
「殿下方、飲み過ぎちゃダメですよ」
と、チクゥと注意?をしてカウンターの奥へ戻って行った。カウンターの奥には、見たことのあるメイドの女の子がいる。お手伝いかな?
「その炙った肉、美味そうだな」
叔父上が、そう言ったのでカインダッハが慌てて叔父上に炙り肉を取り分けて渡している。ホラァ…だから気を使わせんなって。上司が部下の飲み会に来るのは困る…とか侍従の若い奴らも言っていたぞ?
「おおっ美味いな。変わった香辛料だな…」
「ラジーはワサビとか呼んでますけど」
カインダッハが俺を見たり、叔父上を見たり…気を使ってて痛ましいや。
「それはそうと…スワイトお前、ラジェンタ嬢と婚約破棄だなんだと揉めてる風だったが、今見る限りではただの噂みたいだな」
「いえ、本当に婚約破棄をしましたよ、ねえ?スワ君」
「…っ!」
酒瓶とグラスを持ってラジーがそう言いながら俺達のテーブルの横に立った。
「ラ…ラジー…」
「はい、これ…珍しいよ。結構辛味のあるお酒『ゴロマ』っていうんだ」
濃い緑色の酒樽に少し黄色の透明な酒が入っている。ラジーはコップにそのお酒を注いでくれた。
濃い酒の匂いがする。乾杯の声の後に一口飲んでみると、カッと口の中で熱を持ち…そして喉を通った後のすっきりした後味は、初めて味わう刺激的で甘美なものだった。
「美味い!」
「こりゃ、いけるな。辛味というのかな?不思議な味だな」
叔父上と2人で思わず叫んだら、ラジーはそれはそれは嬉しそうに微笑んだ。
「でしょう?ゴーマっている主食になる野菜って言うのかな?から取れるお酒なの。調味料の原料にもなるの」
「へぇ…」
ラジーの説明を受けて一口一口、飲み進めていると体がほわっと温かくなってくる。これは酔いが早く回りそうだ。気を付けよう。
「お前達何だか不思議な関係だが、婚約破棄しても付き合いは良好なんだな?」
叔父上にラジーとの仲を聞かれて、思わず横に立っているラジーを見上げてしまう。ラジーは困った顔をしている。
「俺はラジーをいずれ迎えに行けるような男を目指しています」
「ちょっとぉスワ君またそれ言ってるっ…」
「何だ、じゃあエリーガ中佐の勇み足…ということか」
「エリーガ中佐がどうされましたか?」
カインダッハが叔父上に顔を近付けた。叔父上は、憮然とした表情をした。
「ジュエルブリンガー帝国の第二皇女殿下とスワイトを婚姻させたらどうだと、エリーガ中佐が言い出したんだ」
ガチャン…と炊事場の方から音がして、ラジーが俺を凝視していた。
この…居心地の悪さはなんだ?俺、何かしたか?いや何かは散々したんだけど、エリーガ中佐の件に関しては…え~とえ~と、そう!貰い事故だと思うんだけど?
「スワイト、消音魔法を張ってくれ」
叔父上に頼まれて消音魔法を張ったはいいが…
何でそんな暗殺者みたいな目で俺を見るんだ?ラジーィィィ!?
2
お気に入りに追加
79
あなたにおすすめの小説
緋の英雄王 白銀の賢者
冴木黒
ファンタジー
「あけのえいゆうおう はくぎんのけんじゃ」と読みます。
前作「宵の太陽 白昼の月」から10年後のお話で、懐かしのキャラ達も出てきますが、前作読んでなくても読めます。
◇◆◇あらすじ◇◆◇
ローアル王国の田舎村に住む青年ルフスはある日、神託を受けて伝説の剣を探すため、旅に出る。その道中、助けた青年ティランは自身にまつわる記憶を失っていた。ルフスとティランは成り行きから行動を共にすることになるが、行く先々で奇妙な事件に巻き込まれて……
◇◆◇登場人物◇◆◇
ルフス(17)
ローアル王国の田舎出身の青年。身長が高く、ガタイがいい。村では家業の手伝いで牛の世話をしていた。緋色の髪と同じ色の目。瞳と虹彩の色は銀。太い眉と丸くてかわいらしい形の目をしている。
性格は素直で、真っ直ぐ。穏やかで人好きのするタイプ。
巫女の神託を受け、伝説の剣を探し旅に出る。
ティラン(?)
記憶喪失で、自身にまつわることを覚えていない。気づいたら、知らない場所にいてふらふらと歩いていたところを悪漢に絡まれ、ルフスに救われる。その後はルフスと行動を共にすることに。
黒髪で、猫を思わせる吊り気味の黒目。
性格はやや打算的で、皮肉屋。
変わった口調で話す。
※物語初めのメインはこの二人ですが、今後、ストーリーが進むにつれてキャラクターが増えていきます。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
元聖女だった少女は我が道を往く
春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。
彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。
「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。
その言葉は取り返しのつかない事態を招く。
でも、もうわたしには関係ない。
だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。
わたしが聖女となることもない。
─── それは誓約だったから
☆これは聖女物ではありません
☆他社でも公開はじめました
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる