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真実〜SIDEスワイト〜
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俺は、呆然として閉まった扉を見詰めていた。
呆気ない…嘘だろう?ラジェンタはもっと激昂したりすると思っていた。いや……ラジェンタは感情を露にしたりはしないか。元々ラジェンタは穏やかな女性だ。
しかしラジェンタ、最後ちょっと笑ってなかったか?
ラジェンタは詳しくは知らないようだが、俺は結構な魔力持ちなうえに他人の魔質が良く視える…しかもかなり奥まで視える。
そんな俺の目で視た限り、最後までラジェンタの魔質は力強く、明るかった。特に激しい動揺も無く魔質の表層はいつもどおりだった。
まさか、こうなることを知っていた?
「あ~良かったぁ!いつもみたいにねちっこく怒られるかと思ってたぁ!」
そう、ルルシーナはラジェンタに執拗に苛められているらしい。
俺の隣でケラケラと笑っているルルシーナの魔質を視ると、一点の濁りもなく、澄んでいる。
こんな魔質の者は珍しい。ラジェンタもかなり澄んだ魔質だったがこのルルシーナは魔質に一切の濁りもない。
純真で無垢だ。美しい魔質だ…あっけらかんと笑うルルシーナの手を握ろうと手を伸ばしかけた時に
「お嬢様、そろそろ行きましょうか」
音もなく、いつも付き従っているルルシーナ付きのメイドと侍従がルルシーナの側に立った。
正直この2人は苦手だ。綺麗な魔質ではない。ルルシーナと会う時はいつもこの侍従とメイドが必ずついてきて、実はルルシーナとまともに会話したのは今日が3回目だった。
1度目は野盗に襲われていた時。2度目は公爵家主催の夜会で狼藉者に襲われていた時。そして3度目が今日…ラジェンタとの婚約破棄の宣言の今日。
しかし俺はルルシーナとはずっと文通をしていた。ルルシーナとは趣味も好きな本も好みが良く似ていた。ルルシーナとの文通は楽しかった。彼女の日常は日々変化に飛んでいて、楽しく夢が溢れていた。
ルルシーナは非常に文才の溢れる女性だった。言い回しに知性を感じるし、俺の気持ちに寄り添い思慮深い優しい女性だった。
ルルシーナはメイドに促されると軽やかな足取りで部屋を出て行こうとした。
「ルルシーナ…」
俺が呼び掛けるとルルシーナは振り向いて
「またね!」
と、笑ってくれた。純真な笑顔だった。
俺はルルシーナが去った後、すぐにラジェンタの住む王宮の離れに向かった。何かがおかしい…
そう今思えば、かなり前からおかしかった。何時からラジェンタはあれほど派手なドレスや化粧をしていたであろうか?
元々ラジェンタは少し勝ち気ではあるが、ルルシーナが訴えているような、執拗に攻め立てるような性格ではなかったはずだ。
俺が子供の頃から知っているラジェンタは、明るくて真っ直ぐで物怖じしない元気な令嬢だった。
そうだ…それなのに何時からあんな目で俺を見始めた?何時からだ?
俺はラジェンタの住む離れの部屋の前に来た。部屋の中の魔質を探る。何も感じない?まさか…?
俺は部屋の扉を開けて中に踏み込んだ。部屋の中は誰もいなかった…もぬけの殻だった。こんな短時間で居なくなるなんて、事前に準備していた証拠だ。
ラジェンタにやられた…
直感でそう思った。何をやられたか分かってないのに、出し抜かれて…裏切られた、と思った。
もう国王陛下、父上にはラジェンタ=バラクーラとの婚約破棄の申し入れはしている。
だが、了承は得られていない。今一度考え直せ、としか言われなかった。これは父上にしては言葉少ない。
もしかして何か裏があるのか?
俺はすぐに軍部に赴きラジェンタの兄、カインダッハ=バラクーラ大尉を呼び出した。
「何か御用でしょうか?」
何か御用…?こいつ分かってて言っているのか?
カインダッハはラジェンタと同じ郡青色の瞳で、無表情に俺を見詰めている。
「今日、ラジェンタとの婚約を破棄した」
「そうですか、で…ご用件は?」
俺は思わず怒鳴りそうになったのをぐっと堪えた。
「ラジェンタはどこにいる?」
カインダッハは1度瞬きした後
「私は存じません」
と言った。
嘘だと分かった。カインダッハの魔質が一瞬揺らいだからだ。だが流石は心も氷で出来ていると揶揄されるほどの軍人だ、ほんの一瞬ですぐに穏やかな魔質に変わった。
こうやってカインダッハと睨み合っていてもキリがない。
ラジェンタの魔質を追おう…。と踵を返して城門に向かっていると父上付きの侍従が走り寄って来た。
「殿下、国王陛下がお呼びです」
思わず舌打ちしそうになった。仕方ない、侍従と共に国王陛下の私室に入る。
国王陛下、父上はそれほど機嫌の悪そうな魔力はしていなかった。寧ろ楽しそうだ…どういうことだ?
「スワイト=ワイジリッテルベンシ…我が息子よ。お前の決断は自分で選んだものだ。だが、一つ言わせてくれ。リスベル公爵には気を付けろ」
どういう意味だろう…その言葉の意味を考えながら廊下を足早に移動していると、気を付けろ…と父に言われたリスベル公爵が派手な女と一緒に回廊の途中で立っていた。
近付いて見ると、派手な娘はリスベル公爵の娘のラノディアだった。確か俺より8才上で派手に遊び歩いて婚期を逃している令嬢…という年齢ではもうないけれど…一応未婚だ。
「これはこれは王太子殿下…」
腰を落とした公爵に、時間を取られたくない俺は一瞥しただけで通り過ぎようとした。
「殿下、待たれよ。少しお話を如何ですかな?」
「何を…」
リスベル公爵はズイッと俺に近付いて来た。
「ルルシーナ嬢とのご婚姻、陛下に反対されておいででしょう?宜しければルルシーナ嬢を養女に迎えて公爵令嬢として殿下と添わせること叶いますと…申し上げればお分かり頂けますでしょうか?」
「…っ!」
ルルシーナと…確かに父上に反対されている。公爵家の養女になれば身分的にも反対されにくい…だが…リスベル公爵の魔質を視た。
どす黒い…腹の底まで黒い…
「見返りは…何だ?」
リスベル公爵はニィッ…と微笑んだ。
「なぁに簡単なことですよ。第二妃をラノディアにして頂けるだけで宜しいのですよ」
「なっ!?」
俺は公爵の横に立つラノディアの暑苦しい化粧で強張った顔を見た。寒気がする…魔質も最悪な女だ。こんな女を第二妃だと?
そうか…そうなのか。公爵はルルシーナの後ろ盾になる代わりに、この娘を俺に押し付けて厄介払いにしようという魂胆か。しかも第二妃だと?冗談じゃない…
待てよ?本当にそれだけか?
「ルルシーナを正妃にしてラノディア嬢を第二妃にしたとて、第二妃はお飾りだぞ?何の権限も渡さない」
すると、ラノディアが俺に近付いて来た。気持ち悪い、近づくな…俺は後ろに下がった。
「あの子に正妃なんて務まるものですかっ読み書きすら出来な…」
「ラノディアッ!」
リスベル公爵が鋭い声を上げてラノディアを制した。
今何と言ったか?読み書きすら出来ない…?嘘だ、だって手紙のやり取りをしている。彼女は話題も豊富で知識もあり、感情が豊かでとても文才に溢れて…
俺は一気に駆け出した。王宮の庭に出ると転移魔法を使い。そのままルルシーナの住まう、ペスラ伯爵家へ飛んだ。
俺は、門前に出てきた侍従達を押し退けるようにして邸内に入った。
「殿下っ…いきなりは…」
「ルルシーナと少し話すだけだ!」
ルルシーナの魔質を探り、侍従の案内も振り切りルルシーナの元へ行こうとした時に、あのメイドと侍従の2人に前方を阻まれた。
「お待ち下さいませ!いきなり淑女の部屋に押し込んで入られるおつもりですか?」
「だったらここで待つ。すぐ連れて来い」
メイドも侍従も目を泳がせた。
おかしい…普通は待たせるとしてもすぐに取り次ぎ、ルルシーナの準備をするはずだ。
「は、伯爵様がいらっしゃらない時にはお会い出来ないとのことで…」
「どうしてだ?私と個人的に話すことは禁止でもされているのか?」
「ひぃ…そうではなく…」
何かおかしい…すると…
「あら~殿下?」
手にぬいぐるみを持ったルルシーナが廊下の向こうから歩いて来た。ぬいぐるみ…?ルルシーナが歩き出そうとした時、前にメイドが数人、侍従が数人取り囲んだ。
「殿下っお帰り下さい!」
「お引き取り下さい!」
俺に帰れと申しつけるのか?この使用人はどういうつもりだ…場が場なら不敬だと諫めてもおかしくない物言いだぞ?
「どうしたの~?殿下いるのよねぇ?」
「ルルシーナ様っ!お静かに!」
「誰かルルシーナ様をお部屋にお連れして!」
メイドや侍従の様子が本当におかしい。まるで俺とルルシーナが直接、接触することを警戒しているようだ…まさかっ!?
俺は一気に風魔法を操って、メイドと侍従を風圧で廊下の隅へ押し退けた。
「きゃああ!」
「ひゃああ!」
一気に使用人を押し退け、俺はルルシーナの前に立った。
「ルルシーナ話がしたい。お前は私が第二妃を迎えても今までと変わらず、私の気持ちに寄り添ってくれるであろうか?」
そう…あの気持ち悪い令嬢を娶らねばならんとする前に、ルルシーナの気持ちがまず第一だ。ルルシーナが嫌だと申すなら…
「ん~?ん~?それなあに?」
「え?」
ルルシーナは小首を傾げている。
「ルル…難しくて分からないよ。おとーさまに聞いて?」
血の気が引いた。何を言っているのだ?ルルシーナ?
「ルルシーナ…私だよ?」
「ん?うん、殿下だね」
「名前を…私の名前を言ってくれ」
ルルシーナは満面の笑みを浮かべて叫んだ。
「殿下、だね!名前って殿下だよね?」
ああ、ああ…俺は何てことをしてしまったのか…体から完全に血の気が失せて行く。
呆気ない…嘘だろう?ラジェンタはもっと激昂したりすると思っていた。いや……ラジェンタは感情を露にしたりはしないか。元々ラジェンタは穏やかな女性だ。
しかしラジェンタ、最後ちょっと笑ってなかったか?
ラジェンタは詳しくは知らないようだが、俺は結構な魔力持ちなうえに他人の魔質が良く視える…しかもかなり奥まで視える。
そんな俺の目で視た限り、最後までラジェンタの魔質は力強く、明るかった。特に激しい動揺も無く魔質の表層はいつもどおりだった。
まさか、こうなることを知っていた?
「あ~良かったぁ!いつもみたいにねちっこく怒られるかと思ってたぁ!」
そう、ルルシーナはラジェンタに執拗に苛められているらしい。
俺の隣でケラケラと笑っているルルシーナの魔質を視ると、一点の濁りもなく、澄んでいる。
こんな魔質の者は珍しい。ラジェンタもかなり澄んだ魔質だったがこのルルシーナは魔質に一切の濁りもない。
純真で無垢だ。美しい魔質だ…あっけらかんと笑うルルシーナの手を握ろうと手を伸ばしかけた時に
「お嬢様、そろそろ行きましょうか」
音もなく、いつも付き従っているルルシーナ付きのメイドと侍従がルルシーナの側に立った。
正直この2人は苦手だ。綺麗な魔質ではない。ルルシーナと会う時はいつもこの侍従とメイドが必ずついてきて、実はルルシーナとまともに会話したのは今日が3回目だった。
1度目は野盗に襲われていた時。2度目は公爵家主催の夜会で狼藉者に襲われていた時。そして3度目が今日…ラジェンタとの婚約破棄の宣言の今日。
しかし俺はルルシーナとはずっと文通をしていた。ルルシーナとは趣味も好きな本も好みが良く似ていた。ルルシーナとの文通は楽しかった。彼女の日常は日々変化に飛んでいて、楽しく夢が溢れていた。
ルルシーナは非常に文才の溢れる女性だった。言い回しに知性を感じるし、俺の気持ちに寄り添い思慮深い優しい女性だった。
ルルシーナはメイドに促されると軽やかな足取りで部屋を出て行こうとした。
「ルルシーナ…」
俺が呼び掛けるとルルシーナは振り向いて
「またね!」
と、笑ってくれた。純真な笑顔だった。
俺はルルシーナが去った後、すぐにラジェンタの住む王宮の離れに向かった。何かがおかしい…
そう今思えば、かなり前からおかしかった。何時からラジェンタはあれほど派手なドレスや化粧をしていたであろうか?
元々ラジェンタは少し勝ち気ではあるが、ルルシーナが訴えているような、執拗に攻め立てるような性格ではなかったはずだ。
俺が子供の頃から知っているラジェンタは、明るくて真っ直ぐで物怖じしない元気な令嬢だった。
そうだ…それなのに何時からあんな目で俺を見始めた?何時からだ?
俺はラジェンタの住む離れの部屋の前に来た。部屋の中の魔質を探る。何も感じない?まさか…?
俺は部屋の扉を開けて中に踏み込んだ。部屋の中は誰もいなかった…もぬけの殻だった。こんな短時間で居なくなるなんて、事前に準備していた証拠だ。
ラジェンタにやられた…
直感でそう思った。何をやられたか分かってないのに、出し抜かれて…裏切られた、と思った。
もう国王陛下、父上にはラジェンタ=バラクーラとの婚約破棄の申し入れはしている。
だが、了承は得られていない。今一度考え直せ、としか言われなかった。これは父上にしては言葉少ない。
もしかして何か裏があるのか?
俺はすぐに軍部に赴きラジェンタの兄、カインダッハ=バラクーラ大尉を呼び出した。
「何か御用でしょうか?」
何か御用…?こいつ分かってて言っているのか?
カインダッハはラジェンタと同じ郡青色の瞳で、無表情に俺を見詰めている。
「今日、ラジェンタとの婚約を破棄した」
「そうですか、で…ご用件は?」
俺は思わず怒鳴りそうになったのをぐっと堪えた。
「ラジェンタはどこにいる?」
カインダッハは1度瞬きした後
「私は存じません」
と言った。
嘘だと分かった。カインダッハの魔質が一瞬揺らいだからだ。だが流石は心も氷で出来ていると揶揄されるほどの軍人だ、ほんの一瞬ですぐに穏やかな魔質に変わった。
こうやってカインダッハと睨み合っていてもキリがない。
ラジェンタの魔質を追おう…。と踵を返して城門に向かっていると父上付きの侍従が走り寄って来た。
「殿下、国王陛下がお呼びです」
思わず舌打ちしそうになった。仕方ない、侍従と共に国王陛下の私室に入る。
国王陛下、父上はそれほど機嫌の悪そうな魔力はしていなかった。寧ろ楽しそうだ…どういうことだ?
「スワイト=ワイジリッテルベンシ…我が息子よ。お前の決断は自分で選んだものだ。だが、一つ言わせてくれ。リスベル公爵には気を付けろ」
どういう意味だろう…その言葉の意味を考えながら廊下を足早に移動していると、気を付けろ…と父に言われたリスベル公爵が派手な女と一緒に回廊の途中で立っていた。
近付いて見ると、派手な娘はリスベル公爵の娘のラノディアだった。確か俺より8才上で派手に遊び歩いて婚期を逃している令嬢…という年齢ではもうないけれど…一応未婚だ。
「これはこれは王太子殿下…」
腰を落とした公爵に、時間を取られたくない俺は一瞥しただけで通り過ぎようとした。
「殿下、待たれよ。少しお話を如何ですかな?」
「何を…」
リスベル公爵はズイッと俺に近付いて来た。
「ルルシーナ嬢とのご婚姻、陛下に反対されておいででしょう?宜しければルルシーナ嬢を養女に迎えて公爵令嬢として殿下と添わせること叶いますと…申し上げればお分かり頂けますでしょうか?」
「…っ!」
ルルシーナと…確かに父上に反対されている。公爵家の養女になれば身分的にも反対されにくい…だが…リスベル公爵の魔質を視た。
どす黒い…腹の底まで黒い…
「見返りは…何だ?」
リスベル公爵はニィッ…と微笑んだ。
「なぁに簡単なことですよ。第二妃をラノディアにして頂けるだけで宜しいのですよ」
「なっ!?」
俺は公爵の横に立つラノディアの暑苦しい化粧で強張った顔を見た。寒気がする…魔質も最悪な女だ。こんな女を第二妃だと?
そうか…そうなのか。公爵はルルシーナの後ろ盾になる代わりに、この娘を俺に押し付けて厄介払いにしようという魂胆か。しかも第二妃だと?冗談じゃない…
待てよ?本当にそれだけか?
「ルルシーナを正妃にしてラノディア嬢を第二妃にしたとて、第二妃はお飾りだぞ?何の権限も渡さない」
すると、ラノディアが俺に近付いて来た。気持ち悪い、近づくな…俺は後ろに下がった。
「あの子に正妃なんて務まるものですかっ読み書きすら出来な…」
「ラノディアッ!」
リスベル公爵が鋭い声を上げてラノディアを制した。
今何と言ったか?読み書きすら出来ない…?嘘だ、だって手紙のやり取りをしている。彼女は話題も豊富で知識もあり、感情が豊かでとても文才に溢れて…
俺は一気に駆け出した。王宮の庭に出ると転移魔法を使い。そのままルルシーナの住まう、ペスラ伯爵家へ飛んだ。
俺は、門前に出てきた侍従達を押し退けるようにして邸内に入った。
「殿下っ…いきなりは…」
「ルルシーナと少し話すだけだ!」
ルルシーナの魔質を探り、侍従の案内も振り切りルルシーナの元へ行こうとした時に、あのメイドと侍従の2人に前方を阻まれた。
「お待ち下さいませ!いきなり淑女の部屋に押し込んで入られるおつもりですか?」
「だったらここで待つ。すぐ連れて来い」
メイドも侍従も目を泳がせた。
おかしい…普通は待たせるとしてもすぐに取り次ぎ、ルルシーナの準備をするはずだ。
「は、伯爵様がいらっしゃらない時にはお会い出来ないとのことで…」
「どうしてだ?私と個人的に話すことは禁止でもされているのか?」
「ひぃ…そうではなく…」
何かおかしい…すると…
「あら~殿下?」
手にぬいぐるみを持ったルルシーナが廊下の向こうから歩いて来た。ぬいぐるみ…?ルルシーナが歩き出そうとした時、前にメイドが数人、侍従が数人取り囲んだ。
「殿下っお帰り下さい!」
「お引き取り下さい!」
俺に帰れと申しつけるのか?この使用人はどういうつもりだ…場が場なら不敬だと諫めてもおかしくない物言いだぞ?
「どうしたの~?殿下いるのよねぇ?」
「ルルシーナ様っ!お静かに!」
「誰かルルシーナ様をお部屋にお連れして!」
メイドや侍従の様子が本当におかしい。まるで俺とルルシーナが直接、接触することを警戒しているようだ…まさかっ!?
俺は一気に風魔法を操って、メイドと侍従を風圧で廊下の隅へ押し退けた。
「きゃああ!」
「ひゃああ!」
一気に使用人を押し退け、俺はルルシーナの前に立った。
「ルルシーナ話がしたい。お前は私が第二妃を迎えても今までと変わらず、私の気持ちに寄り添ってくれるであろうか?」
そう…あの気持ち悪い令嬢を娶らねばならんとする前に、ルルシーナの気持ちがまず第一だ。ルルシーナが嫌だと申すなら…
「ん~?ん~?それなあに?」
「え?」
ルルシーナは小首を傾げている。
「ルル…難しくて分からないよ。おとーさまに聞いて?」
血の気が引いた。何を言っているのだ?ルルシーナ?
「ルルシーナ…私だよ?」
「ん?うん、殿下だね」
「名前を…私の名前を言ってくれ」
ルルシーナは満面の笑みを浮かべて叫んだ。
「殿下、だね!名前って殿下だよね?」
ああ、ああ…俺は何てことをしてしまったのか…体から完全に血の気が失せて行く。
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