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幸か不幸か予定通り

ギルド会員になりましょう

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「私はリュージエンス=ヴェシュ=サザウンテロスと申す」

リュー君は全く動じず、淡々と自己紹介をしていた。近衛のお兄様方は、サザウンテロス…と名乗っているにも拘わらずまだ、胡乱な目でリュー君を睨んでいる。

私はアワアワしながらリュー君の背後から前へ回ると

「リュージエンス殿下、私の国の者が大変に失礼な物言いをしてしまいまして申し訳御座いません」

と、淑女の礼をして膝を落とした。流石に私の対応を見て、近衛のお兄様方はリュー君が本当の王子殿下だと分かったみたいだけど、まだ膝をつかないのよ?有り得ない…この方々の教育っていうか…礼節の常識ってどうなっているの?

私が困ってしまってチラリとリュー君を見上げると、リュー君は少し微笑んでくれた。これは、分かっているよ!っていう笑顔よね?

「お前達が私に礼をとらないのは、勿論不敬に値するし、ここで3人の首をまとめてねても構わないのだよ」

爽やかな声でサラッと怖いことをオラついた魔力をガンガンに出しながら言い放つリュー君に、私はさっきから歯の根が合わない。

リュー君ってこんなに怖い人だったの!?護衛のお兄様達は一斉に魔圧をあげた。

「何…を…」

おいおい?まさかオラついたリュー君に剣を向ける気なの?すると…

「あれ?こんなとこで道草食って~支部長が待ってましたよ、スカウザーのヴェシュさん!」

通りの向こうの冒険者ギルドの前で手を振るお兄さんの大声で、表通りを歩いていた人達が一斉に私達に視線を向けた。

スカウザー…スカウザーってあのスカウザー!?

さっき熟読した『冒険者ギルドとは』の本の一文を思いだす。

冒険者ギルドとは、世界人口の約半数の20億人がギルド会員になっていると言われるほどの世界規模の準公共機関だ。

冒険者と言っても多種多様だ。上のクラスを目指す者。商会に卸すために高価な素材を集める為に冒険者をしている者。ただ単に体を鍛えて腕試しがしたい者。そしてギルドに冒険者登録している人の実に6~7割が預貯金のみ…というのがギルドの構成会員の実態だ。

通常の冒険者の昇級システムはこうだ。

ギルドに所属する冒険者には依頼を受け、成功報酬を得ると成功ポイントがつけられる。ポイントが一定数貯まれば上のクラスに昇格する仕組みだ。

クラスはA~E、まずはEクラスから始まる。難しい依頼を成功させれば高ポイントが貰え、上のクラスに上がると更に高ポイントの貰える難易度の高い依頼を受けることが出来る。

但し、依頼をギルドが定めた規定回数以上失敗または依頼そのものを反故にした場合は、降格処分または資格はく奪処分を受ける。

そして、そのA~Eクラスの更に上にS、SS、SSSクラスとある。ほんの一握りの強者しかなれないし、昇格試験で落ちる人が大半だと本には書いていた。

そしてその更に上にスカウザーがいる。スカウザーとはSSとSSSクラスの中から更に優秀な人ばかりを集めた、まさにトップ・オブ・冒険者。スカウザーに入隊している証の会員証を見せれば国の秘匿案件まで閲覧可能だとかなんとか…。噂じゃ国家レベルの事件や事故案件は全部スカウザーが絡んでいるとかないとか…

ただ冒険者ギルド自体は『永劫中立』という精神の元運営されている。

冒険者ギルドとはゴリゴリの武闘派と老後が心配…という預貯金のみでギルド会員ですという、究極に二極化した人々が混在する不思議な半公共機関であることは間違いないのだ。

そのスカウザーのメンバーなの?あのぽっちゃりお地蔵様のリュー君が?

驚愕してリュー君を見上げているとリュー君はヘニャと微笑んだ。

「一応な、メンバーなんだよ」

人々の注目が集まる中、近衛のお兄様方は状況が宜しくないと判断したのか、いつの間にかいなくなっていた。そして、大声で声をかけてきたお兄さんは、私とリュー君に走って近付いて来た。

「ヴェシュ様、大丈夫っすか?って…うわっ!可愛い女の子と一緒?!何?何ぃ?彼女っすか?」

「違うって~幼馴染なの!ミランジェ、ギルドの支部長補佐のワランジだ」

草鞋わらじ?」

「ワランジです!宜しくね」

お地蔵様ときたから、草鞋だと思ってつい早合点しちゃったわ。

「ヴェシュ様、支部長お待ちですよ?」

リュー君は渋い顔をして、私とワランジさんを交互に見ている。

「ミランジェ、一緒に来い」

「ええっ!?」

私とワランジさんの声が重なった。どうして部外者の私まで一緒なの?

「ミランジェ、俺がいなくなったら逃げるだろう?」

「逃げないけど…隠れるかな?」

「どっちも一緒だ!兎に角、来いっ」

リュー君がガバッと私を抱えると…お姫様抱っこ…じゃない!小脇に抱えて荷物運びをしてきたよっ!

「女の子を運ぶのにこれはないんじゃないっ!?」

「ヴェシュ様?!この運び方は女の子にはダメっすよぉ!」

とか私とワランジさんが騒いでいる間に冒険者ギルドの建物内に担がれたまま入って行ってしまった。

今の所、私の人生における悪目立ち度で一番の状況だ…。

「待合室で待ってろ、逃げたり隠れたりしたら、分かってんだろうな?トキワステラーテ…」

「ひぃ…分かってます!」

こんな所で、あの人達の名前出すの止めてよ!地蔵の馬鹿っ!

リュー君はワランジさんとギルドの奥の関係者以外立ち入り禁止っぽい扉を開けて、中へ入って行った。

さてどうしようか…あ、そうだ。どうせ待っているのならギルドの会員証作っちゃおうかな~。

『受付、登録』と書かれた窓口の前に行ってみた。誰も並んでいなかったので、足早に窓口に近づいた。

「ご用件お伺いします」

カウンターのお姉さまに笑顔で問われたので

「ギルドの会員になりたいのですが…」

と聞いてみると、受付のお姉さまは何やら用紙と薄い冊子と魔筆をカウンター越しに差し出してきた。

「はい、新規申し込みですね。こちらが会員登録用紙になります。筆はこの魔筆を必ず使って書いて下さい。そしてこの利用規約に目を通しておいて下さいね。禁止事項や違反行為などは知らないと後々困りますからね。記入出来ましたら、こちらにお持ち下さい」

「は…はい」

私はお姉さまから用紙と筆、冊子を頂くと、カウンターの横に設置されている丸テーブルに用紙を持って座った。まずは利用規約を読んでみよう。

ふんふん、なるほど…禁止事項はやはり殺人教唆や暗殺依頼などを請け負うこと…もし受けたことが発覚した場合、ギルド会員の永久はく奪処分となる。

昇格試験については…

A~Eクラスまでは依頼数と成功回数の合計で自動的に昇格される。但しSクラスより上への昇格は依頼数と成功回数と合わせて、昇格試験を受けて合格しなければ上のクラスには昇格されない。

「へ~え、とういうことはリュー君は依頼もこなして試験も受けて合格してるんだ~」

おや?特記項目の小さな注意書きに何か書いてますよ~?

SSクラス以上の冒険者と編成を組んで依頼討伐に赴いた際、下位クラスの冒険者は上位クラスの冒険者の采配次第で高配分の点数を分けて加算を受けても可とする。

んん?これは…!要約すると弱い人は強い人のおこぼれを頂戴してもOKってことだね。

これは…面白くないからやめておこう。私、負けず嫌いなんだよね…出来れば自力で勝ち取って昇格したい。なんだかギルドの本を読んでいて、冒険者へのリスペクトが高まってきたよ。

洋装店の資金集めに足掛けでやるつもりだったけど、どうせやるなら頑張ってみたい。体力的にきつくなったら冒険者は辞めざるをえないし、洋装店はリタイア後に始めればいい。

目の前が明るくなった気がする!よしっ!私は意気揚々と申し込み用紙を見た。

「住所は商店街の外れのあの店でいいわよね…え~と名前は旧姓を名乗って…」

私は申込用紙を書き上げると再び受付の窓口に持って行った。

「お願いします」

「はい、お預かりします。この緊急連絡先は空欄になっていますが大丈夫ですか?」

連絡先か~国のお父様以外は思いつかないんだけど、国王陛下を連絡先ってね、そもそも城の住所知らないわ…

「あ、大丈夫です」

「後から変更も出来ますので、仰ってくださいね。はい、ではこの証に魔力を籠めて下さい」

お姉さまから木の板…大きさ的にはクレジットカードくらいの大きさの札を渡されようとした時に

「ミランジェ」

と、奥の廊下からリュー君の呼ぶ声が聞こえた。

リュー君の方を見ると手招きしている。

「すみません、後で手続きしてもいいですか?」

「あら、ヴェシュ様のお知り合いなのですね、はい賜りました!」

受付のお姉さまに頭を下げながら、リュー君の元に足早に近づいた。

リュー君なんだか、ムスッとしてるわね。

「お前が市井を放牧している理由が分かった。国王陛下に放逐されたんだな」

とうとう…リュー君にバレてしまった。

まるで取調室に向かう被疑者のようである。実際は警察にお世話になったことなどないけれど、あくまで私が想像するドラマのイメージでだ。

無言で廊下を歩く。リュー君が一つのドアの前で立ち止まった。

「ミランジェ、最初に言っとくけど俺はミランジェの味方だからな」

リュー君!あなたやっぱりお地蔵様ね!迷える乙女を導くお地蔵様ね!

「あっそうだ!トキワステラーテ国王陛下にはもうミランジェのことは、知らせたからな」

嘘でしょ…。いつの間に?!じ、地蔵に裏切られた。

「リュー君ひどいわ!お父様に内緒にしてって頼んだのに!」

「内緒も何も、昨日ご婦人方とのお茶会の真っ只中で国王陛下に言い渡されてたって聞いたよ?あっと言う間に貴族達に話が伝わっているって」

そ、そうだった…。自分の記憶が戻った衝撃と腰が抜けたことですっかり忘れていたけど、ご婦人方の前で、第一王妃から降格?扱いを受けたんだった…そりゃ貴族の間で噂にはなるわね。

「俺が言わなくてもトキワステラーテ国王陛下なら諜報からミランジェの行動なんて筒抜けだと思うけど?さっき味方って言ったのは、これから話す人達とのことだよ」

リュー君から次々と衝撃の事実を告げられる。ああ、私ってミランジェだった私も、元日本人の記憶を持つ私もどっちも馬鹿だっ!

平和ボケなうえに世間知らずだ。自分の父親が誰かなんて考えなくても分かるじゃない。一国の王様よ?近隣諸国の情報にも目を光らせているはずだわ。

ちょっと待って?私、もう一つ気が付いたわ。このタイミングでリュー君が偶然ここに来るって有り得る?市井で私を偶然、見付ける?

リュー君はお父様に頼まれてこの国に来たんじゃないかしら?後で聞いたら教えてくれるかしら?

リュー君はゆっくりと立ち止まった目の前の扉を開けた。

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