超人ゾンビ

魚木ゴメス

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 ジェロニモの向かった先は──ミマヨの特別パーティーが行われたホテルだった。

 道すがらジェロニモとTの瞳に映る現出げんしゅつした地獄。

 あちこちで人間がゾンビどもに貪り食われている。

 道端で、ビルの中で。

 ゾンビと一緒に人間の残骸ざんがいをつつくカラスたち。

 交通は完全にストップしている。

 どこかで封鎖線が敷かれたに違いない。

 建物の一階に突っ込んでいる警察車両や引っくり返っている機動隊車輌もあった。

 最初に到着した機動隊とサブマシンガン部隊は潰滅していた。

 スピードもパワーも人間を遥かに凌駕する数百体のゾンビどもを二十人程度のサブマシンガン部隊でどうにかできるはずもなかった。

 機動隊員たちは顔から食われたようだ。

 フル装備の機動隊員の唯一素肌が見える部分が顔だったからだ。

 さっきとは比較にならない数のヘリコプターが頭上を舞っていた。

 マスコミか、警察か、それとも自衛隊か。

 実況、偵察、あるいは屋上へ避難した人々がいて、それらの救助のためか。

 いずれにせよこの状況はまさにカオス──渋谷の街は阿鼻叫喚の舞台と化しつつあった。

 ジェロニモとTはお互い透明なままその中を突風のように走り抜けて行く。

 さしものスーパーゾンビどもも二人に気づくことはなかった。

 Tはミマヨとミマヨの社長を脱出させるときガラス壁を大きくりぬいていた。

 ガラス貼りの壁面を一気に駆け登った二人はそこから中に入った。

 ワンフロアー貸し切りで空いていた、ミマヨのパーティー会場とは別の広間だ。

 暗黙の了解──ミンチになった男馬信者はじめ死体だらけで激臭げきしゅうまみれの場所を使う気はお互いなかった。

 部屋にこもっているのか、屋上まで逃げたのか、辺りに生きている人間はいなかった。

 激臭げきくさパーティー会場から何十体もの動く気配がする。

 ゾンビどもがミンチを食っているようだ。

 バサバサという羽音にギャーギャーという鳴き声も聞こえる。
 
「フッ、ここにもカラスが来てやがる。人間よりよっぽど勇気あるよな。オレ昔からカラスが好きなんだよ。ちょっと餌やるとすぐ懐くしな。だから逆においそれと餌やれねえんだよな。反対にいじめた人間はいつまでも覚えてるしな。カラスの黒って濃い青色なんだよな。幸せの青い鳥はカラスなんだよ。さてと。このまま始めてもいいが、それじゃ味気ないだろう。お互い姿を現そうや」

 言ったTはミマヨたちを脱出させたときの格好だった。

 ジェロニモは両肩と両膝にグレーのプロテクターが付いた白のレーシングスーツに白のレーシングブーツを穿いていた。

 Tは短く口笛を吹いた。

「いいねぇ、ジェロニモ。イカすぜその格好。さっきの対決もお互いこっちのほうが様になったよな。まぁいいか。ジェロニモ、なにか言い残すことはあるか」

「……ない! だがカラスについてはおまえと同意見だ」

「フフ、そうか……仕込みは済ませたか? まさか、ただ人殺しながら逃げ回ってただけじゃねえよな?」

「仕込み? なんのことだかわからんな」
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