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ジェロニモはTの目に自分以上の冷酷非情さを見た。
Tには博愛主義のかけらもない。Tが守るのは極一部の人間だけ、それも愛情からでなく便宜上からだ。
自分のやっていることを棚に上げてジェロニモのT評はボロクソだった。
だからTはゾンビを放っておくだろう。
最小限の損傷と一定量の唾液──そうやって作られたゾンビは食欲という本能のみに突き動かされ、かつ血を与えられた亜超人のように動くことができる、言わばスーパーゾンビだ。
ジェロニモは足立区で拉致した犯罪者たちを使った人体実験でそのことを知っていた。
スーパーゾンビは頭部を破壊されるか肉体が腐り果て崩壊するまで人々を襲い続ける。
しかも恐るべき俊敏さでだ。
腰抜け日本政府に一見すると生き返ったように見えるゾンビどもの射殺命令が即座に下せるか、いいや下せまい。下せる頃には被害は甚大なものになっているだろう。事態終息まで数日はかかるはずだ。
そこまで考えた殺し方だった。
その成果があと数分で現れる──
見えないジェロニモは人生で最高の笑顔を浮かべていた。
スクランブル交差点を行き交う人々もやはりアホウドリだった。
センター街からどれだけ短い悲鳴が聞こえてきても、ついにその入口にいた者が首から血を噴き出して倒れるまで誰の行動にも変化はなかった。
そこにけたたましくサイレンを鳴らしながら何台もパトカーが集まって来た。拡声器で通行人に避難を促している。救急車もやって来た。上空にテレビ局のヘリコプターが現れた。
警官たちは手に手に拳銃を持っていた。
そいつらが来たところで何もできなかった。
ただ拳銃を構えているだけだった。
スクランブル交差点にいる人々が首から血を噴き出しながら倒れていく。
敵が見えない。
どこへ撃てばいいのか。
まさか一般市民の犠牲を前提に乱射するわけにもいかない。
警官たちが逡巡している間に交差点にいた人々は蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。
それでもそこにはかなりの数の死体が転がっていた。
午後六時を回っているとは言え、まだまだ日没には遠いセンター街の空一面が斑模様になった。
人間の勝手な理屈による駆除が始まって以来、久しく見ない規模の夥しいカラスの群だった。
死臭を嗅ぎつけたのだ。
巣で親の帰りを待つ可愛い我が子らのために、土産をたらふく腹に詰め込んで帰るつもりなのだ。
気の毒にもカラスたちの一部は死体と思ったゾンビに食われることになる。
なにか叫び出しそうな顔をしていた一人の警官の首から血が噴き出した。
これから警官と救急隊員が犠牲になるのは自明だった。
Tには博愛主義のかけらもない。Tが守るのは極一部の人間だけ、それも愛情からでなく便宜上からだ。
自分のやっていることを棚に上げてジェロニモのT評はボロクソだった。
だからTはゾンビを放っておくだろう。
最小限の損傷と一定量の唾液──そうやって作られたゾンビは食欲という本能のみに突き動かされ、かつ血を与えられた亜超人のように動くことができる、言わばスーパーゾンビだ。
ジェロニモは足立区で拉致した犯罪者たちを使った人体実験でそのことを知っていた。
スーパーゾンビは頭部を破壊されるか肉体が腐り果て崩壊するまで人々を襲い続ける。
しかも恐るべき俊敏さでだ。
腰抜け日本政府に一見すると生き返ったように見えるゾンビどもの射殺命令が即座に下せるか、いいや下せまい。下せる頃には被害は甚大なものになっているだろう。事態終息まで数日はかかるはずだ。
そこまで考えた殺し方だった。
その成果があと数分で現れる──
見えないジェロニモは人生で最高の笑顔を浮かべていた。
スクランブル交差点を行き交う人々もやはりアホウドリだった。
センター街からどれだけ短い悲鳴が聞こえてきても、ついにその入口にいた者が首から血を噴き出して倒れるまで誰の行動にも変化はなかった。
そこにけたたましくサイレンを鳴らしながら何台もパトカーが集まって来た。拡声器で通行人に避難を促している。救急車もやって来た。上空にテレビ局のヘリコプターが現れた。
警官たちは手に手に拳銃を持っていた。
そいつらが来たところで何もできなかった。
ただ拳銃を構えているだけだった。
スクランブル交差点にいる人々が首から血を噴き出しながら倒れていく。
敵が見えない。
どこへ撃てばいいのか。
まさか一般市民の犠牲を前提に乱射するわけにもいかない。
警官たちが逡巡している間に交差点にいた人々は蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。
それでもそこにはかなりの数の死体が転がっていた。
午後六時を回っているとは言え、まだまだ日没には遠いセンター街の空一面が斑模様になった。
人間の勝手な理屈による駆除が始まって以来、久しく見ない規模の夥しいカラスの群だった。
死臭を嗅ぎつけたのだ。
巣で親の帰りを待つ可愛い我が子らのために、土産をたらふく腹に詰め込んで帰るつもりなのだ。
気の毒にもカラスたちの一部は死体と思ったゾンビに食われることになる。
なにか叫び出しそうな顔をしていた一人の警官の首から血が噴き出した。
これから警官と救急隊員が犠牲になるのは自明だった。
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