超人ゾンビ

魚木ゴメス

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「へぇー、そうかい。ご苦労なこった。ならさっさと始めようや。途中でおまえの長話が入って中断してたけど、おまえオレに両手食われて涙目になってたの忘れたのか?」

「黙れ黙れ黙れっ! 誰が涙目だっ! きさま今度こそ許さんぞ……! さっきのあれが俺の全てだと思うなよ……!」

 言うやジェロニモの姿は電波の乱れた画像のようにぶれ始め、一瞬のうちに左右に二十体ほどに分裂した。

 Tの右眉がピクリと動いた。

「これぞこの俺の最高にして最大の秘奥義……高速で移動することによって、俺の体が何体もあるように見えるだろう。どれが俺の実体かきさまにわかるか……? まだまだこんなもんじゃない、もっと増える。だがその前に」

 拡げたトランプをまとめるようにジェロニモの姿が一人に戻り、Tから十メートルほど後ろへ飛び下がった。

「試しにこれを受けてみるがいい」

 動き出したジェロニモの後ろには別のジェロニモが、その後からまた別のジェロニモが切れ目なく現れる。まるでジェロニモの連凧れんだこのようだ。

「ショオォォォォォ~……」

 発情期の雄猫のような奇妙な声を上げながら流れるようにすべるようにジグザグの動きをしながらTに向かって来た。

「ウラウラウラウラーッ!」

 そう叫ぶTの両腕が爪楊枝つまようじの束のように増殖しジェロニモを襲う──その拳は全て空を切った。先頭のジェロニモにTの拳が打ち込まれたと見えるや後ろに続くジェロニモが二手に分かれて風のようにTの両脇を通り抜けた。

「シャオッ!」

 擦れ違いざまジェロニモは日本刀を素振りしたような声を放った。

 数秒後、Tの全身から無数の傷口が開くや勢いよく血が噴き出した。

「くっ」

 血まみれでガクッと片膝をつくT。

 Tの背後でジェロニモは再び一人に戻っていた。

「フハハハ! どうしたT! 今のは遊びだぞ? まさかもう終わりか? さっきまでのふざけた態度はどこへ行った? 情けないのぉ!」

 フラフラと立ち上がったTはジェロニモに向き合い、ニコッと笑った。

「やるじゃない。ジェロニモ、どうやらおまえは教祖としてただふんぞり返っていたわけじゃなく、日々真面目に能力の向上、研鑽けんさんに励んできたようだな。偉いねぇ~、大変だったねぇ~。その努力、認めてやるよ」

 〝偉いねぇ~、大変だったねぇ~〟のくだりでTは、一時期テレビに出まくっていた毒舌で有名な女占い師のような口調になった。

 言葉とは逆におちょくっているようにしか聞こえなかった。

 そのころ生まれていなかったジェロニモが元ネタに気付くはずもなかった。

「ハッハッハ! 認めてやるぅ? なんだその負け惜しみは! 俺にこともできなかったくせに舐めた口を利きおって。どれ、もう一回、今度はもっと速く攻撃してやる。中くらいの速さでな。だが今度は手足の一本も切り飛ばしてくれる。さっき俺の両手を切り取られたお返しにな!」
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