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「リュウジたちがいなくなった次の日、周りに誰もいないのを見計らって俺は彼女に告白した。俺はこんななりでも既に教団の誰よりも強い。教祖の万野漫子、あんなインチキババアよりも俺のほうが遥かに優れている。だから俺の女になってくれと。真剣な愛の告白だった。断っとくが俺は何も彼女と肉体関係を持とうなんて思ってたわけじゃない。九歳だったからな。手を繋いだり、抱きついたり、ほっぺに軽くチュッくらいは望んでいたが。だが彼女は俺の本気の求愛をにべもなく断った。惚れた弱味で俺は彼女の前では強く出られなかった。彼女の前では俺はただの九歳のガキでしかなかった。受け入れられるはずがなかった。彼女はガキの俺にとどめを刺すように自分はのっぺりした日本人顔は好きじゃないと言った。金髪で青い目の外人さんが好きだと言った。俺は彼女の前から逃げるように走り去った。いや逃げたのだ。恥ずかしさと悔しさで死にたい気分だった。泣いた──俺はそのとき教団が福井山中に敷設していた簡易プレハブの誰もいない一室で声を出さずに泣いた。心の底から思った、早く大人になりたいと。早くデカくなりたいと。彼女が惚れるような金髪で青い目の外人になりたいと。突然俺の体に異変が起こった。今まで経験したことのない、まるで自分が火山になって体の中でマグマが沸騰するような、熱さとも痛みともつかない圧倒的な感覚だった。俺は引き剥がすように身に付けていた衣服を全部脱ぎ捨てた。といってもランニングシャツと短パンとブリーフだけだったが──そうすれば少しでも楽になれる気がしたのだ。十分近く経ったとき、ようやく俺の体は鎮まった。よろめきながら立ち上がった俺は違和感に気づいた。室内の見え方が違うのだ。天井が近い。下を向くと今までとは倍近く遠くに自分の足元が見える。俺は窓に近づいた。そこに映る自分の姿を見た。俺は大人になっていた。それだけではない。俺の髪も目の色も顔の作りもまさに彼女が言っていた通りの金髪で青い目の外人になっていたのだ! やった! これでもう一度彼女に愛の告白を! そう思うと同時にその思いを跡形もなく消し飛ばすほどの地獄の空腹感と喉の渇きが襲って来た。無理もない、身長百二十五センチで体重二十キロしかなかった俺が、いきなり百八十センチを超す逞しい体格になったのだ、どう考えてもタンパク質と水分が不足していた。張りぼてのように中身スカスカの状態だったのだ。そこから生じる飢餓感だった。あまりの苦しさに気が狂いそうだった。間違いなく俺は発狂寸前だった。いや既に狂いかけていた。誰かがドアを開けて入ってきた。
(つづく)
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