超人ゾンビ

魚木ゴメス

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 Tは──両手に持ったジェロニモの手を押し込むように順番に口に入れるや飲み込むように一気に食った。

「ほ~う。なんと言うか新鮮な味だな……うおっ!?」

 ほんの数秒──Tの全身があわい緑色に発光するのが見てとれた。

 その間にジェロニモの切断面は変化を始め、肉腫にくしゅが盛り上がるや再び両手が形作られていた。

「なるほどな。これが、おまえが自分以外の超人エキスを欲しがった理由か」

 どこから見ても典型的な北欧白人なのになぜか日本人ぽく見える人工的なジェロニモの顔に明白に焦りの色が浮かんでいる。

「ヨシダッ!」

 ジェロニモがそう叫ぶと出入口を固めていた男たちの中から一人が競技用トランポリンを踏んだような跳躍力で一足飛いっそくとびに主の傍に着地した。

「おまえの血を借りるぞ」

「御意」

 ヨシダは自分のうなじを主に向けた。 

 ジェロニモはそこに噛みつくや眼尻を吊り上げて吸飲を始めた。

「……おっほぇぇえ~っ……うっふぅう~んっ……あぁ~っふぉぉお~っ……」

 不気味なよがり声をあげながら血を吸われているヨシダ。

 その股間は膨らみエクスタシーの極致にいるようであった。

 凄まじい快感と反比例するようにその顔から急速に生気が消えていく。

 三十秒ほどでジェロニモは吸血をやめた。

 崩れ落ちたヨシダは半分以上の血液を失ったようで土気色つちけいろのカサカサの肌になっていたが、死んではいない。

「これできさまに食われた両手分の補給はできた。Tよ、おまえはこうやってエキスを補給することはあるか?」

「ねえよ。出したら出しっぱなしだ。あ、そうでもないか。オレの場合は……」

「ボ?」

 母乳で、と言いかけてTは口をつぐんだ。

 人知れずミマヨも顔を赤らめていた。

 この場に悦子がいたら彼女も同じ態だっただろう。

「何でもない。それより、とんでもねえもん見せてくれたな。野郎のイき顔なんぞ悪趣味の極みだぜ」

「普通の人間なら俺たちに噛まれるか血を吸われて死ねばゾンビになる。だが、超人エキスを分け与えられた者ならその効果がある間は頭と心臓を潰されない限り死ぬことはなく、たとえ全ての血を吸いとられても丸一日もあれば元に戻る。同じエキスを持つ者の血を吸わせれば回復はもっと早まる。おい、ヨシダに血を分けてやれ」

 もう一人が一足飛びでやってくるとヨシダを担ぎ一足飛びで戻って行った。

 ジェロニモが会場に潜伏せんぷくさせている信者の総数は不明だが、マオカラースーツの男たちは全部で十二人だった。

 代わる代わるヨシダに血を吸わせている。

 やがてヨシダは元通りの状態に戻り何食わぬ顔で配置についた。
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