超人ゾンビ

魚木ゴメス

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「知ってたよ」

「なに?」

「オレの血か精液を体内に取り入れた人間は頭だけでなく心臓も潰さなきゃ死なないってことはとっくに知ってた。そいつらを食っても自分の力に変化のないこともな。かまをかけたんだよ。知らないふりしたほうがおまえが調子に乗って色々喋ってくれそうだったんでな。案の定おまえは全部喋ってくれた」

「きっ、きさま~っ! この俺を騙したのか!」

「おまえはオレがここで死ぬと言ったな。残念だがその予言は外れる。死ぬのはおまえだ」

「フ、フフフ、フハハハ、ファッハハハハ! 俺が死ぬ、だと? くだらん冗談だ。くだらな過ぎて逆に笑える。おまえは算数も出来んのか。俺は」

「ミマヨ! 出入口から離れた壁まで下がっていろ!」

 ジェロニモに被せてTが叫んだ。

 ミマヨはTの声にハッとして我に返るとミーアキャットのように固唾かたずを飲んで二人を見守っていた一同の中から脱兎の如く後ろに向かって走り出した。

 ミマヨの周囲にいた男たちもミマヨにつられて走り出す。失禁した野球選手も走り出す。

 なぜ出入口に向かわない? 

 そう思った者は途中で諦めた。

 会場から出られる箇所は全てジェロニモの後ろにいた連中によって固められ塞がれていた。

「き、きさまっ! ひとの話は最後まで聞けいっ!」

「うるさい。オレはいのちの電話の相談員じゃねえんだ。おまえの退屈な話に付き合う義理はねえんだよ。それとも何か? まだ何か言いたいことあるのか? どうしても言いたいってんなら聞いてやってもいいぞ? 相談料はおまえの命でな」

 そう言い終わる前にT以外の視界からジェロニモの姿が消えた。

 Tには真正面から飛び込んできたジェロニモの腕が千手観音のように増殖し突きを繰り出して来るのが見えた。目にも止まらぬ速さのジェロニモのさらに目にも止まらぬ高速の連続突きのため、残像が残像を呼びそう見えたのだった。これほどの速さの攻撃はジェロニモ自身もしたことがない必殺の上の必殺の攻撃だった──

 誰の目にもジェロニモの姿が戻ったとき、と言ってもまたたきしていたらジェロニモが消えたことすら気づかなかったろうが──Tはジェロニモの両手首を掴んでいた。

 なっ、なんだとぉ~っ! 

 瞳孔が収縮しきったジェロニモの脳内辞書に「驚愕」の二文字が浮き出てきた。

「今度はもらうぜ」

 そうTが言い終わったとき、ジェロニモは海老エビのように十メートル後ろに飛びすさっていた。

「ぐあっ」

 その両手首から先がなかった。

 ぱっくり開いた切断面から鮮血が滴り落ちている。

 ば、馬鹿な……脱皮できたと思ったのに……! 
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