超人ゾンビ

魚木ゴメス

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「はぁ? ちょっとなに言ってんのおたく。俺たち全員高い金払ってミマヨに会いに来てんだけど。全員平等にミマヨと話す権利があんだよ」

 誰もが知っている野球選手だった。がっしりした体格で百九十センチはある。
 さっきミマヨのマネージャーを突き飛ばした男だ。

「そうだよ。あんただけミマヨを独占できるわけないだろが。大間おおまのマグロ教教祖だか何だか知らねえが何様だよ。いきなり割り込んで来てよ。あんたが空気読んで席外せよ」

 売り出し中のサッカー選手がそう言った。百八十五センチ以上はある。

 ジェロニモ一党とそれ以外のVIP会員たちとが対峙する形になっていた。

 背後から飛び出しそうになる信者たちを、軽く片手を挙げる動作でジェロニモは抑えた。

「下がっていろ。おまえたちは手を出すな」

「手を出すな? おいおい何だよこの金髪兄ちゃんやる気だぜファッ!?」

 あざけり笑った野球選手の顔面を撃ち抜くような風圧。

 鼻先数ミリで拳が止まっていた、いや止められていた。

 ジェロニモの左ストレートが野球選手の顔面を破砕する寸前にその左手首を右手で掴み止めていたのは──ミマヨのマネージャー──Tだった。

 野球選手は尻餅をつき失禁していた。
 ライオンの檻に入ったアホガキの気分を味わっていた。

 うぐっ!

 おげぇ!

 な、なにをするだぼっ!

 スマホを取り出そうとした複数の招待客が次々と別の招待客から殴り倒される。

 招待客の中にも男馬珍味教の信者が紛れ込んでいたのだ。

 信者たちは殴り倒した招待客のスマホをその場で破壊した。
 スマホを使おうとしない限り攻撃はしないようであった。

 ジェロニモとTから火山性微動かざんせいびどうの音が聞こえてくるようだった。

「見つけたぞこの野郎~っ」

「おまえこそ、飛んで火に入る夏の虫だ」

「おまえジェロニモっていうのか」

「おまえは?」

「Tだ」

「〝てぃー〟か」

「なんでその見た目にしたんだ? おまえ日本人だろ。白人コンプレックスあり過ぎと違うか」

「だまれっ! どんな見た目にしようが俺の勝手だ!」

「あっそ。とりあえずこの腕もらうぜ」

 Tがマオカラースーツの袖の上から掴んでいるジェロニモの左手首を一気に握り込むのとジェロニモが掴まれた腕を引くのとが同時だった。

 Tの手には極薄の透明なジェロニモの左前腕の脱け殻が残っていた。

 掌から下がマオカラースーツの肘までの袖の部分の形をした透明な脱け殻だった。

 Tはそれを一息で吸い込むように食った。

 抜き取ったジェロニモの左腕にはしっかり肘までの袖の部分が破れずについている。

「どうやら同じことができるようだな」
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