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男馬珍味教──四年前は百人にも満たない信者数の弱小宗教団体だったのが、あっという間に教勢を拡大し今では国政にも進出するほどの巨大組織──その教祖については多くが謎に包まれていた。
一度だけ望遠カメラで撮られた金髪の教祖の写真、撮影したカメラマンは数か月後に不審死を遂げていた。
四年前の男馬珍味教の教祖は万乃漫子(まんのそぞこ)という初老の女で、白装束を着て山中を集団移動するなどの奇行や、「揉み揉みアハンビームによる絶頂攻撃を受けている」などの意味不明な言動で知られていた。
今から三年七ヶ月ほど前の十一月の初旬、その一週間前から行方不明になっていた万乃漫子は丹波山中の杉の巨木に串刺しになっている状態で発見された。
一体どうやってそんな死に方をすることになったのか、誰にもわからなかった。
信者に聞いても「天狗じゃ、天狗の仕業じゃ!」と言うだけで埒が明かなかった。
おかしい。
パーティー主催者である、ミマヨが所属する芸能事務所の社長は首をひねった。
離れた場所からミマヨを見守るその目に不審の色が浮かぶ。
男馬珍味教だと?
様子を見に行かせた社員が戻ってくるなり金髪白人の正体を告げた。
パーティーには身元のはっきりした者しか呼んでいない。
招待者名簿にジェロニモの名前はない。
確かに男馬珍味教は今や飛ぶ鳥を落とす勢いの一大組織だ。
その教祖ともなれば、このパーティーに参加する資格はあり過ぎるほどある。
だが、名簿に載っていないものは載っていないのだ。
招待状がなければ何人たりともこの会場には絶対に入れないことになっていた。
一体、どうやって入ってきた? 警備を頼んだナイジェリアン・マフィアたちはどうした?
いつの間にかジェロニモの背後には、岩のような屈強な体躯をした十数人の男たちが並んでいた。
男馬珍味教の信者のようだ。
全員が二十歳くらいの若者で、黒い無地のマオカラースーツを着ている。
終始にこやかな教祖ジェロニモと違い、あるいは教祖の本心を汲んでか射竦めるような目付きで、ミマヨの側にたむろする男たちに無言の圧力をかけていた。
「ミマヨさん、ボクはあなたの大ファンなんです。あなたのDVDは全部持っています。あなたはまさに美の女神だ! いやー、嬉しいなぁ。どうです、少しボクと神についてお話ししませんか?」
「え、ええ、そうですわね……」
「ああ、あなた方、すいませんがちょっと外してもらえませんか」
デート中のカップルに政治アンケートをしてきた気の利かないテレビ局員に向かって言うように、笑顔の中に嫌悪感を漂わせてジェロニモが言った。
一度だけ望遠カメラで撮られた金髪の教祖の写真、撮影したカメラマンは数か月後に不審死を遂げていた。
四年前の男馬珍味教の教祖は万乃漫子(まんのそぞこ)という初老の女で、白装束を着て山中を集団移動するなどの奇行や、「揉み揉みアハンビームによる絶頂攻撃を受けている」などの意味不明な言動で知られていた。
今から三年七ヶ月ほど前の十一月の初旬、その一週間前から行方不明になっていた万乃漫子は丹波山中の杉の巨木に串刺しになっている状態で発見された。
一体どうやってそんな死に方をすることになったのか、誰にもわからなかった。
信者に聞いても「天狗じゃ、天狗の仕業じゃ!」と言うだけで埒が明かなかった。
おかしい。
パーティー主催者である、ミマヨが所属する芸能事務所の社長は首をひねった。
離れた場所からミマヨを見守るその目に不審の色が浮かぶ。
男馬珍味教だと?
様子を見に行かせた社員が戻ってくるなり金髪白人の正体を告げた。
パーティーには身元のはっきりした者しか呼んでいない。
招待者名簿にジェロニモの名前はない。
確かに男馬珍味教は今や飛ぶ鳥を落とす勢いの一大組織だ。
その教祖ともなれば、このパーティーに参加する資格はあり過ぎるほどある。
だが、名簿に載っていないものは載っていないのだ。
招待状がなければ何人たりともこの会場には絶対に入れないことになっていた。
一体、どうやって入ってきた? 警備を頼んだナイジェリアン・マフィアたちはどうした?
いつの間にかジェロニモの背後には、岩のような屈強な体躯をした十数人の男たちが並んでいた。
男馬珍味教の信者のようだ。
全員が二十歳くらいの若者で、黒い無地のマオカラースーツを着ている。
終始にこやかな教祖ジェロニモと違い、あるいは教祖の本心を汲んでか射竦めるような目付きで、ミマヨの側にたむろする男たちに無言の圧力をかけていた。
「ミマヨさん、ボクはあなたの大ファンなんです。あなたのDVDは全部持っています。あなたはまさに美の女神だ! いやー、嬉しいなぁ。どうです、少しボクと神についてお話ししませんか?」
「え、ええ、そうですわね……」
「ああ、あなた方、すいませんがちょっと外してもらえませんか」
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