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「ファンの皆さん、ごめんなさい。でもあたしは自分の夢を追いかけたいんです!」
記者会見場がざわめいている。
急速にその場に拡がる雰囲気とは逆にミマヨの顔は晴れ晴れとしていた。
ミマヨは変わった。
誰の目にもそれは明らかだった。
黒い霧が晴れるように、ミマヨから、どす黒く禍々しいオーラだけが消え去り、大輪の花のような華やかさだけが残った。
会見はネットで世界中に中継されていた。
ミマヨに関心のある全ての人間が即席の名探偵となって思い思いに推理を働かせた、ミマヨに何が起こったのかと──
超人気モデルのミマヨには、名声と合わせ鏡のようによからぬ噂が多々あった。
それらはやっかみ者たちの心ない中傷ではなく全て本当だった。
どれだけ容姿に優れていようが、コネがなかったらしょせんは女一匹、芸能界でのし上がるには、泥水ならぬ有力オヤジどもの精液をすする他に選択肢などなかった。
その中で最大の有力オヤジが、国素元Z務事務次官だった。
国素が連続殺害犯──Tに屠られたあと、K団連のメンバーだった盛肚(さかりばら)という有力オヤジがミマヨの最大の庇護者になった。
国素が存命の間は遠慮していた分、狂ったように偏執的にミマヨを求めてきた。
毎晩のように盛肚に部屋に押しかけられ抱かれながら、ミマヨはTが約束通り自分に会いに来てくれる日を信じて心待ちにしていた。
開けっ放しのシャワールームから、ぶんけかなの『おっぱいがいっぱい』を大声で歌っている盛肚の声が聞こえてくる。
時刻は午後十一時だった。
ミマヨは虚ろな目で天井を眺めていた。
チラリと横に視線を移すと壁にかかったカレンダーが見えた。
一日経つごとにチェックを入れていたので今日が五月十九日だとわかる。
ちょうど、国素が死んでからまる一月が経っていた。
つい先程まで、盛肚のしつこい割りにはちっとも気持ちよくない愛撫を散々受けていた。
口の中にはまだ盛肚の体液の残滓があった。
吐き出す気力もなかった。
盛肚の歌声が止んだ。
あの人は来てくれないのかもしれない。
「次は本番をやってやる」
国素邸でミマヨに数分間にわたって素敵な悪戯をした声の主は、去り際、確かにそう耳元で囁いた。
セクシーな声だった。
姿は見えずとも、その声と後ろから抱きすくめられた感触で、涼やかな顔をした、凛々しく雄々しい若者だと想像できた。
あのときあのまま連れ去ってもらいたかった。
やっと国素から自由になれたと思ったら、今度は盛肚だ。
やっぱり自分はどこまでも醜いオヤジどもの玩具でいるしかないのか。
目尻から涙がこぼれ落ち、頬を伝って枕にしみた。
再び『おっぱいがいっぱい』が聞こえてきた。
盛肚の声ではなかった。
子宮に響き、母性本能を呼び覚ますような声だった。
まさか、あの声は……!
がばっと跳ね起きたミマヨの眼前に、何か重いものを引きずるような音とともに歌声の主が現れた。
「オッス。約束通り会いに来たぜ、ミマヨ」
そこには素っ裸のTがいた。
その全てがミマヨの想像を上回っていた。
記者会見場がざわめいている。
急速にその場に拡がる雰囲気とは逆にミマヨの顔は晴れ晴れとしていた。
ミマヨは変わった。
誰の目にもそれは明らかだった。
黒い霧が晴れるように、ミマヨから、どす黒く禍々しいオーラだけが消え去り、大輪の花のような華やかさだけが残った。
会見はネットで世界中に中継されていた。
ミマヨに関心のある全ての人間が即席の名探偵となって思い思いに推理を働かせた、ミマヨに何が起こったのかと──
超人気モデルのミマヨには、名声と合わせ鏡のようによからぬ噂が多々あった。
それらはやっかみ者たちの心ない中傷ではなく全て本当だった。
どれだけ容姿に優れていようが、コネがなかったらしょせんは女一匹、芸能界でのし上がるには、泥水ならぬ有力オヤジどもの精液をすする他に選択肢などなかった。
その中で最大の有力オヤジが、国素元Z務事務次官だった。
国素が連続殺害犯──Tに屠られたあと、K団連のメンバーだった盛肚(さかりばら)という有力オヤジがミマヨの最大の庇護者になった。
国素が存命の間は遠慮していた分、狂ったように偏執的にミマヨを求めてきた。
毎晩のように盛肚に部屋に押しかけられ抱かれながら、ミマヨはTが約束通り自分に会いに来てくれる日を信じて心待ちにしていた。
開けっ放しのシャワールームから、ぶんけかなの『おっぱいがいっぱい』を大声で歌っている盛肚の声が聞こえてくる。
時刻は午後十一時だった。
ミマヨは虚ろな目で天井を眺めていた。
チラリと横に視線を移すと壁にかかったカレンダーが見えた。
一日経つごとにチェックを入れていたので今日が五月十九日だとわかる。
ちょうど、国素が死んでからまる一月が経っていた。
つい先程まで、盛肚のしつこい割りにはちっとも気持ちよくない愛撫を散々受けていた。
口の中にはまだ盛肚の体液の残滓があった。
吐き出す気力もなかった。
盛肚の歌声が止んだ。
あの人は来てくれないのかもしれない。
「次は本番をやってやる」
国素邸でミマヨに数分間にわたって素敵な悪戯をした声の主は、去り際、確かにそう耳元で囁いた。
セクシーな声だった。
姿は見えずとも、その声と後ろから抱きすくめられた感触で、涼やかな顔をした、凛々しく雄々しい若者だと想像できた。
あのときあのまま連れ去ってもらいたかった。
やっと国素から自由になれたと思ったら、今度は盛肚だ。
やっぱり自分はどこまでも醜いオヤジどもの玩具でいるしかないのか。
目尻から涙がこぼれ落ち、頬を伝って枕にしみた。
再び『おっぱいがいっぱい』が聞こえてきた。
盛肚の声ではなかった。
子宮に響き、母性本能を呼び覚ますような声だった。
まさか、あの声は……!
がばっと跳ね起きたミマヨの眼前に、何か重いものを引きずるような音とともに歌声の主が現れた。
「オッス。約束通り会いに来たぜ、ミマヨ」
そこには素っ裸のTがいた。
その全てがミマヨの想像を上回っていた。
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