超人ゾンビ

魚木ゴメス

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「悦子よぉ……アメリカ行くぞ」

 悦子にのしかかられたままでTは言った。

「えっ、はい」

 唐突にTにそう言われた悦子に反論する権利など元よりなかった。

「パスポート持ってるか?」

「あるわ……まだ期限は切れてないはずよ」

「そうか。じゃあなるべく早く予約しとけ。オレの分はいいのはわかってるな」

「ええ……」

 わかっていなかったが、そう答えざるを得なかった。

「あ、待て。いいや。今回はオレも普通に飛行機乗るわ。ぼくもママと一緒に行くぅ」

「はい。一緒に行こうね」

 にっこりと慈母のような笑顔を見せる。

「何しに行くかわかる?」

「…………」

「ママの子どもを取り返しに行くんだよ」

「……!」

「アメリカの知り合いに頼んでおいたんだ。もう居場所はわかってて、養親ようしん、赤ん坊を引き取った夫婦とも円満に話はついてるから」

「……! ……!」

「あれ? どったのママ? 口が聞けなくなったの?」

「ああ! 坊や! あなた! 愛してるわッ!」

 悦子とTの間に挟まれた二つの巨乳、その二つの球体がより強く圧迫され、その両乳首から垂れ流されている母乳の勢いがせきを切ったように激しくなった。

 悦子の自分に対する愛情が変わらなければ、子どもを引き取ることなど何でもない。子どもに注ぐ愛と男に注ぐ愛は別だろう。もし子どもへの愛情のほうが多くなったら、そのときは母子おやこともども捨てればいい。悦子と言えども、かぐや姫でもなければ天女でもないのだ。探せば代わりはいくらでもいる。

 ますます乳臭くなる部屋の中で、Tは、ぼんやりとそんなことを考えていた。

「代わりはいくらでもいる」

「えっ」

「赤ん坊を引き取った向こうの夫婦のこと。養子の代わりはいくらでもいるってことさ。悦子が気にすることは何もない」

「そんなこと──なんにも気にしてないわよ? あの子を取り戻せる、それ以外のことなんて考えたくもないの。母親ってそういうものよ。それに坊やが、あなたが私のためにしてくれることに不安なんて感じるはずがないわ。そうでしょ? あたしのおっぱい王子様っ!」

 おっぱい王子様。

 おっぱい大好き人間の心の琴線きんせんに触れるその新たな呼称に、Tのシンボルは著しい反応を見せた。

「はうん!」

 悦子の中のTのシンボルが鋼鉄のように硬くなり、マグマのようにたぎり出した。

 この女の代わりは──

 Tはそれ以上考えるのをやめた。
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