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襲撃の通報を受けて本部に駆けつけたり、地回りに行っていたことにより運良くTの襲撃を免れた蛮神会系組員たちは全部で百二十五人もいたが、それらの中に団結して襲撃犯を捜し出し報復しようなどと言う者は一人もいなかった。
一月と経たないうちに、ある者は堅気に戻り、ある者は見当外れな責任感から自殺し、ある者は居たたまれなくなって都内から姿を消した。伝手を頼って他組織に入る者がもっとも多かった。移籍先の見つからなかった六十人は、旧蛮神会の縄張りのうちで一番実入りが少ない猫の額ほどのそれを与えられ、自来也組の五次団体として辛うじて存続を認められることになった。
蛮神会襲撃事件から一ヶ月経った、その新たな組開きの日、大安吉日にもかかわらず来賓はゼロだった。
自来也組からも一人も来なかった。
勝手にやっとれという感じであった。
大安吉日にもかかわらず、正午に始まったその行事の参加者で、ついている者はゼロだった。
午後一時に所轄の警察署に匿名電話が入った。
組員全員、到着した警官たちの目の前でそれぞれ頭に四つの穴を開けられた状態で発見された。
蛮神会は潰滅した。
「四ヶ月ぶりか? おめえ、どこで何やってたんだよ?」
「母乳女狩り、ときどき害虫駆除」
「ハッハッハ! やっぱそんなところだったか。いい母乳女はいたか? 俺は相変わらずトヨ一筋よ。トヨの母乳には中毒性があるぜ。ひょっとして、トヨの奴シャブか何かやってて、それが母乳に出てるんじゃねえかって……まぁそれはないと思うがな。ガッハッハ。なぁ、Tよ、最後に俺たちが会ったあの日以来、おめえからさっぱり音沙汰がねえから、トヨの奴、随分と寂しがってたぜ。俺は全然構わねえから今度一発やってやってくれや。俺は本気だぜ。おめえとは乳兄弟の上を行く穴兄弟になりたいと思ってんだぜ俺は。まぁ考えといてくれ。害虫駆除って言ったな。おめえがそう言う場合、ただの害虫じゃあねえんだろう。……おい、まさかその害虫って……」
「害虫は害虫さ」
こいつ、やったな。
魔獄は先月起きた歴代Z務事務次官連続殺害事件を思い出していた。
そうだ、俺は歴代Z務事務次官連続殺害犯の似顔絵を見た。あれはTにそっくりだったじゃあねえか。間違いねえ。犯人はこいつだ。犯人ってのもなんだが。世間じゃ何とかって言ってたな、世直し大明神だったか……まさにその通りだな。蛮神会、千十五人を廃人にしたTならそれくらい簡単にできるだろう。
「その害虫は、税金を食い荒らす国家の寄生虫か」
「自分たちを天上人と勘違いしている、な」
「フフフ、やっぱりおめえは面白え男だよ。……よっしゃT! これからトヨのマンション行こうや! 俺とおめえとトヨの3Pと洒落込もうや!」
「いいねえ」
チューリッヒの保険プランを聞いた新規客のように、Tは蕩けるような笑顔を見せた。
一月と経たないうちに、ある者は堅気に戻り、ある者は見当外れな責任感から自殺し、ある者は居たたまれなくなって都内から姿を消した。伝手を頼って他組織に入る者がもっとも多かった。移籍先の見つからなかった六十人は、旧蛮神会の縄張りのうちで一番実入りが少ない猫の額ほどのそれを与えられ、自来也組の五次団体として辛うじて存続を認められることになった。
蛮神会襲撃事件から一ヶ月経った、その新たな組開きの日、大安吉日にもかかわらず来賓はゼロだった。
自来也組からも一人も来なかった。
勝手にやっとれという感じであった。
大安吉日にもかかわらず、正午に始まったその行事の参加者で、ついている者はゼロだった。
午後一時に所轄の警察署に匿名電話が入った。
組員全員、到着した警官たちの目の前でそれぞれ頭に四つの穴を開けられた状態で発見された。
蛮神会は潰滅した。
「四ヶ月ぶりか? おめえ、どこで何やってたんだよ?」
「母乳女狩り、ときどき害虫駆除」
「ハッハッハ! やっぱそんなところだったか。いい母乳女はいたか? 俺は相変わらずトヨ一筋よ。トヨの母乳には中毒性があるぜ。ひょっとして、トヨの奴シャブか何かやってて、それが母乳に出てるんじゃねえかって……まぁそれはないと思うがな。ガッハッハ。なぁ、Tよ、最後に俺たちが会ったあの日以来、おめえからさっぱり音沙汰がねえから、トヨの奴、随分と寂しがってたぜ。俺は全然構わねえから今度一発やってやってくれや。俺は本気だぜ。おめえとは乳兄弟の上を行く穴兄弟になりたいと思ってんだぜ俺は。まぁ考えといてくれ。害虫駆除って言ったな。おめえがそう言う場合、ただの害虫じゃあねえんだろう。……おい、まさかその害虫って……」
「害虫は害虫さ」
こいつ、やったな。
魔獄は先月起きた歴代Z務事務次官連続殺害事件を思い出していた。
そうだ、俺は歴代Z務事務次官連続殺害犯の似顔絵を見た。あれはTにそっくりだったじゃあねえか。間違いねえ。犯人はこいつだ。犯人ってのもなんだが。世間じゃ何とかって言ってたな、世直し大明神だったか……まさにその通りだな。蛮神会、千十五人を廃人にしたTならそれくらい簡単にできるだろう。
「その害虫は、税金を食い荒らす国家の寄生虫か」
「自分たちを天上人と勘違いしている、な」
「フフフ、やっぱりおめえは面白え男だよ。……よっしゃT! これからトヨのマンション行こうや! 俺とおめえとトヨの3Pと洒落込もうや!」
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チューリッヒの保険プランを聞いた新規客のように、Tは蕩けるような笑顔を見せた。
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