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「なにぃ~っ!」
それを聞くや魔獄は弾丸のように機動隊に突進して行った。
「会長っ!」
組員たちも事務所から次々と飛び出して行く。
トヨの魅力に酔っ払ったようになっていた機動隊員たちは、突っ込んで来る魔獄への反応が遅れた。
ヘラつきながら起き上がった幸運な隊員の幸運はここまでだった。
未練がましくトヨの姿を求めて振り返ったところへ怒り狂った魔獄の体当たりをもろに食らった。
「ほげぇっ!」
「俺の女に触りやがって! ぶっ殺すぞこの野郎!」
岩のような拳でヘルメットの上からぶん殴る、ぶん殴る、ぶん殴る。
組員たちが追いついたとき、ついさっきまで幸運の絶頂にいて射精までした隊員は、魔獄の嵐のような連続殴打による衝撃で脳を揺らされとっくにその意識は飛んでいた。
他の隊員たちは見ているだけだった。むしろ心の中では魔獄を応援していた。
「もういい、止めさせろ」
五分ほど経ち、殴られている隊員の手足が痙攣し出したのを見届けてから、小隊長は他の隊員に命令した。
「会長に何をするっ!」
組員たちと隊員たちが揉み合いになった。
さすが機動隊員だけあって、数では劣るも難なく組員たちを制圧したが、魔獄を取り押さえるのは一苦労だった。
数人がかりで両腕、両脚、腰にすがりつき押さえつけ、なんとか収拾したのだった。
魔獄にボコボコにされた隊員は救急車で運ばれて行った。
殴られた原因が原因だったので、魔獄は不問に付された。
「愛じ……彼女さんに失礼な真似をしたのはこっちが悪かったから。それは認めるから。あなたもあいつをあれだけボコボコにして気は済んだでしょ。問題にはしないから。もう勘弁してよ」
小隊長に諄諄と諭され、ようやく魔獄は矛を収めたのだった。
機動隊に向かって大声で散々毒づきながら事務所に戻って行った。
ドアを閉める瞬間まで大声で毒づいていた。
うんざりした顔で聞いていた隊員全員が思った、早く家に帰りたいと。ヤクザなんざ一人残らず件の犯人にぶち殺されてしまえと。
そんな騒ぎがあった一時間後、今度は奇妙な風体の男が機動隊の前に現れた。
側・後頭部を短く刈り上げたオールバック。
イタリアンマスチフのような弛んだ顔をしていて年の頃は五十代から六十代前半くらいか。
この寒空にもかかわらず白のランニングシャツに黄土色の半ズボン、素足に下駄を履いていて、身長は約百七十センチ、体重は優に百二十キロを超えるような肥満体だった。
晴天にもかかわらず黒い雨傘をさしている点も不審だった。
カランコロンと下駄を鳴らしながら近づいてくる。
野太い声で唸るように何かの歌を口ずさんでいる。
大相撲解説の北の富士に似た声だが、それよりやや低音、独特の節回しで、詩吟のような、民謡のような……小隊長だけ、それが何の歌かわかった。
それを聞くや魔獄は弾丸のように機動隊に突進して行った。
「会長っ!」
組員たちも事務所から次々と飛び出して行く。
トヨの魅力に酔っ払ったようになっていた機動隊員たちは、突っ込んで来る魔獄への反応が遅れた。
ヘラつきながら起き上がった幸運な隊員の幸運はここまでだった。
未練がましくトヨの姿を求めて振り返ったところへ怒り狂った魔獄の体当たりをもろに食らった。
「ほげぇっ!」
「俺の女に触りやがって! ぶっ殺すぞこの野郎!」
岩のような拳でヘルメットの上からぶん殴る、ぶん殴る、ぶん殴る。
組員たちが追いついたとき、ついさっきまで幸運の絶頂にいて射精までした隊員は、魔獄の嵐のような連続殴打による衝撃で脳を揺らされとっくにその意識は飛んでいた。
他の隊員たちは見ているだけだった。むしろ心の中では魔獄を応援していた。
「もういい、止めさせろ」
五分ほど経ち、殴られている隊員の手足が痙攣し出したのを見届けてから、小隊長は他の隊員に命令した。
「会長に何をするっ!」
組員たちと隊員たちが揉み合いになった。
さすが機動隊員だけあって、数では劣るも難なく組員たちを制圧したが、魔獄を取り押さえるのは一苦労だった。
数人がかりで両腕、両脚、腰にすがりつき押さえつけ、なんとか収拾したのだった。
魔獄にボコボコにされた隊員は救急車で運ばれて行った。
殴られた原因が原因だったので、魔獄は不問に付された。
「愛じ……彼女さんに失礼な真似をしたのはこっちが悪かったから。それは認めるから。あなたもあいつをあれだけボコボコにして気は済んだでしょ。問題にはしないから。もう勘弁してよ」
小隊長に諄諄と諭され、ようやく魔獄は矛を収めたのだった。
機動隊に向かって大声で散々毒づきながら事務所に戻って行った。
ドアを閉める瞬間まで大声で毒づいていた。
うんざりした顔で聞いていた隊員全員が思った、早く家に帰りたいと。ヤクザなんざ一人残らず件の犯人にぶち殺されてしまえと。
そんな騒ぎがあった一時間後、今度は奇妙な風体の男が機動隊の前に現れた。
側・後頭部を短く刈り上げたオールバック。
イタリアンマスチフのような弛んだ顔をしていて年の頃は五十代から六十代前半くらいか。
この寒空にもかかわらず白のランニングシャツに黄土色の半ズボン、素足に下駄を履いていて、身長は約百七十センチ、体重は優に百二十キロを超えるような肥満体だった。
晴天にもかかわらず黒い雨傘をさしている点も不審だった。
カランコロンと下駄を鳴らしながら近づいてくる。
野太い声で唸るように何かの歌を口ずさんでいる。
大相撲解説の北の富士に似た声だが、それよりやや低音、独特の節回しで、詩吟のような、民謡のような……小隊長だけ、それが何の歌かわかった。
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