超人ゾンビ

魚木ゴメス

文字の大きさ
上 下
98 / 155

98

しおりを挟む
「なにぃ~っ!」

 それを聞くや魔獄は弾丸のように機動隊に突進して行った。

「会長っ!」

 組員たちも事務所から次々と飛び出して行く。

 トヨの魅力に酔っ払ったようになっていた機動隊員たちは、突っ込んで来る魔獄への反応が遅れた。

 ヘラつきながら起き上がった幸運な隊員の幸運はここまでだった。

 未練がましくトヨの姿を求めて振り返ったところへ怒り狂った魔獄の体当たりをもろに食らった。

「ほげぇっ!」

「俺の女に触りやがって! ぶっ殺すぞこの野郎!」

 岩のような拳でヘルメットの上からぶん殴る、ぶん殴る、ぶん殴る。

 組員たちが追いついたとき、ついさっきまで幸運の絶頂にいて射精までした隊員は、魔獄の嵐のような連続殴打による衝撃で脳を揺らされとっくにその意識は飛んでいた。

 他の隊員たちは見ているだけだった。むしろ心の中では魔獄を応援していた。

「もういい、止めさせろ」

 五分ほど経ち、殴られている隊員の手足が痙攣し出したのを見届けてから、小隊長は他の隊員に命令した。

「会長に何をするっ!」

 組員たちと隊員たちが揉み合いになった。

 さすが機動隊員だけあって、数では劣るも難なく組員たちを制圧したが、魔獄を取り押さえるのは一苦労だった。

 数人がかりで両腕、両脚、腰にすがりつき押さえつけ、なんとか収拾したのだった。

 魔獄にボコボコにされた隊員は救急車で運ばれて行った。

 殴られた原因が原因だったので、魔獄は不問に付された。

「愛じ……彼女さんに失礼な真似をしたのはこっちが悪かったから。それは認めるから。あなたもあいつをあれだけボコボコにして気は済んだでしょ。問題にはしないから。もう勘弁してよ」

 小隊長に諄諄じゅんじゅんさとされ、ようやく魔獄はほこを収めたのだった。

 機動隊に向かって大声で散々毒づきながら事務所に戻って行った。

 ドアを閉める瞬間まで大声で毒づいていた。

 うんざりした顔で聞いていた隊員全員が思った、早く家に帰りたいと。ヤクザなんざ一人残らずくだんの犯人にぶち殺されてしまえと。

 そんな騒ぎがあった一時間後、今度は奇妙な風体ふうていの男が機動隊の前に現れた。

 側・後頭部を短く刈り上げたオールバック。

 イタリアンマスチフのようなたるんだ顔をしていて年の頃は五十代から六十代前半くらいか。

 この寒空にもかかわらず白のランニングシャツに黄土色の半ズボン、素足に下駄を履いていて、身長は約百七十センチ、体重は優に百二十キロを超えるような肥満体だった。

 晴天にもかかわらず黒い雨傘をさしている点も不審だった。

 カランコロンと下駄を鳴らしながら近づいてくる。

 野太のぶとい声でうなるように何かの歌を口ずさんでいる。

 大相撲解説の北の富士に似た声だが、それよりやや低音、独特の節回ふしまわしで、詩吟しぎんのような、民謡のような……小隊長だけ、それが何の歌かわかった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

赤毛の行商人

ひぐらしゆうき
大衆娯楽
赤茶の髪をした散切り頭、珍品を集めて回る行商人カミノマ。かつて父の持ち帰った幻の一品「虚空の器」を求めて国中を巡り回る。 現実とは少し異なる19世紀末の日本を舞台とした冒険物語。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

処理中です...