超人ゾンビ

魚木ゴメス

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 日付が変わるまでの間に、Tは荒異に宣言した通り、都内二十三ヶ所にある蛮神会系の組事務所でをした。

 連絡が取れないことを不審に思った枝の事務所が寄越した組員たちが本部の惨劇を知ったのは、Tが姿を消して間もなくだった。

 直ちに警察に通報され、系列の組事務所にも連絡がいった。

 それが蛮神会にとっての不幸であり、Tの計算通りの展開だった。

 蛮神会が何者かの襲撃を受けている──緊急招集がかけられ、柳川鍋やなかわなべの豆腐にもぐり込むドジョウのように、普段は半分もいない各事務所には準構成員含めた大半の組員が集まった。

 それら組員たち──合計九百三十七人が、見えない襲撃者──Tにより、それぞれの頭に四つの穴を開けられたのだ。

 最初の本部の犠牲者も含めるとその数は九百五十五人になった。

 犯行現場に影も形も見せない姿なき犯人の鮮やかな手並みによる前代未聞の大事件──明歴めいれき大火たいかのときもかくや、というような大騒ぎになった。

 東京だけでなく日本全土が眠りを忘れたようだった。

 都内の主だったヤクザ事務所の前には急遽きゅうきょ、それぞれの規模に応じた数の機動隊が派遣された。

 魔獄会にも一個小隊十六名がやって来た。

 誰も表の機動隊に気をとられる者はなく、魔獄とヤスは会長室で、それ以外の者は組員用の詰め所にあるテレビの画面に食い入っていた。

 おそらく日本中でこの男たちだけだったろう、蛮神会襲撃犯の正体に薄々勘付いていたのは。

 魔獄ははっきり知っていた──襲撃犯がTであることを。

「九百五十五人か。終わったな、蛮神会」

「会長、これって……」

「ああ、Tだ」

「マ、マジすか!?」

「ああ。だが誰にも言うなよ? あいつらにもだ。もっとも感のいい奴は気付いてるかも知れんが……」

「気付いて……いると思いますよ、あいつらも……」

 魔獄会の組員たちがTの超人的な強さを見せつけられたのは、つい昨日のことなのだ。

 あの場にいた者なら誰でもTを連想するに決まっている。

「し、しかかかし……会長はそう仰いますが、さすがにちょっと信じられませんね……いくら何でもこれ全部をTの兄貴一人でやったなんて……仲間がいるんじゃないですか?」

「ヤスよぉ、おめえは昨日きのうだけじゃなく、一昨日おとといのTの凄さを見てるだろ。俺たちを救った、あの神業かみわざのようなTの動きをよぉ」

「え、ええ、仰る通りで……」

「ゆんべ奴と飯食ったときも色々と話したんだが、はっきりとは言わなかったが、奴は今月日本に帰ってくるまでの三年間、どうやら世界中の紛争地帯で傭兵をやっていたらしい」
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