超人ゾンビ

魚木ゴメス

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「てめえどこの組のもんだ?」

「組? 何度も言わせないでください。私はNHKの……」

 言いかけた集金人の鳩尾に荒異の岩のような右拳が突き刺さる。

「!?」

 拳の威力を殺されたような変な感じがした。

「……ちょっと何するんですか?」

 集金人はわずかに体を折り曲げたが……

 効いていない? こいつ……! まぁいい。精一杯虚勢きょせいを張っているに違いない。たかが受信料の徴収のためにここまで頑張る者がいるとは思えない。どう考えてもこいつは怪しい。あとは手下どもに好きなようにさせてやる。どのみちこいつは生かして帰さない。自来也組の傘下に入った蛮神会に日本政府がちょっかいを出してくることもあり得ない。素性を吐かせたあとで死体は知り合いの鰻屋うなぎやに運び込んで始末すればいい。

 鰻の餌にするのだ。

 その店は時々奇跡のように旨い蒲焼かばやきを出すことで有名だった。

「三十分以内に全部吐かせろ」

 荒異は三階の組員用リビングへ戻っていった。

 今日はまだ荒異以外に幹部はいない。

 舌打ちしながらソファーにどっかと腰を据えると、タバコに火をつけ口にくわえて深く吸い込み、一気に煙を吐き出した。

 その一回きりでタバコをガラスの灰皿に押し付け揉み消すと、両腕を背凭せもたれに回し両目を瞑り、しばらくそのままでいた。

 ドアがノックされた。

 荒異は目を開けると左手首にはまったゴツい腕時計を見た。

 午前十時五十分──

 まだ五分しか経っていない。

 馬鹿に早いな、と思うのと後ろのドアが開くのが同時だった。

「もう吐いたのか。それはそうと勝手にドアを開けんじゃ……」

 ソファーに座ったまま後ろを振り向いた荒異の瞳孔どうこうが強い光を当てられたように収縮した。

 戸口に立っていたのは集金人だった。

「やっぱり下っ端のみなさんじゃお話になりませんねー。あなた、若頭なんですってねー。お願いしますよー。こっちも暇じゃないんですからー」

 ずかずかと入ってくるなり呆然としている荒異の左横に座ってそう言った。

「…………」

 一体どうなっている? 組員たちはどうした? 

 答えの出ない計算をやらされているようなストレス。

 いや、ヤクザにはこういう場合、答えは一つだ。

 頭の中でトースターが食パンを弾き出す音がした。

 目の前の灰皿を左手で掴んでバックハンドブローのように集金人の顔面に叩きつける──正解──いや、不正解だった。

 灰皿は振り上げた瞬間に集金人に捕まれて止まっていた。

「なんですかこれは?」

 こ、こいつ……! 
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