超人ゾンビ

魚木ゴメス

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「で、魔獄さんいるの?」

 ヤスの顔が何かを思い出したようにハッとする。

「それが、会長は今……」

 ヤスがそう言いかけたとき、一同の前で黒塗りの車が止まり、後部座席のドアから魔獄が降りてきた。

 女連れだった。

 並外れて大柄な女だった。

「おっ、おめえは……お兄さん、来てくれたのかい!」

「こんちは」

「そうかいそうかい来てくれたのかい! 嬉しいぜぇ~っ! ……ん? なんだおまえら。揃ってなにやってんだ?」

 苦々しい顔でヤスが答える。

「実はちょいとした行き違いがありまして……」

「なにぃ~っ!」

 たちまち魔獄のこめかみに太い青筋が浮かぶ。

「あ、あっしが悪いんでさぁ! あっしがこのお方を怪しい野郎と勘違いして……はべらっ!」

 待てコラ野郎が魔獄に殴り倒された。

「てっ、てめえらっ! 俺の命の恩人になんてことしてくれやがったんだぁ!」

 まるでフィルムを巻き戻したような既視感。

 いや、気のせいではない。

 確実にさっき見た光景が繰り返されようとしていた。

 ……オレは精神的な拷問を受けているのか? 

 冗談抜きで劇団・魔獄会の三文芝居さんもんしばいにうんざりしていた。

「魔獄さん、オレ、今日んとこは帰るわ。じゃ」

「ちょちょちょちょっと待ってくれ! おい、おまえらお引き留めしねえかっ!」

「へいっ!」

 組員たちが四つん這いのままでTの行く手をさえぎる。

「兄貴いっ! 会長が、ああして仰ってらっしゃいますんで、ここはどうかっ! どうかよしなにっ!」

「…………」

 面倒臭めんどくさいんでTは魔獄の歓待に応じることにした。

 それにしても昨夜どこかの組織の襲撃を受けたばかりだというのに、たった今、ボディガードは運転手だけで女とどこかから帰ってきたところを見ると、魔獄も相当な玉というか、それとも危機感ゼロの馬鹿なのか、Tには判別に苦しむところだった。

 いや、考えるまでもなく後者だろう。

「昨日の今日で来てくれるとは思わなかったからよ、ほんとに嬉しいよ」

「悟空ちゃん、こちら、どなたぁ?」

 魔獄の連れの女だ。

 魔獄より十五センチは背が高い。

 ヒールは履いていない。

 百八十五センチはある。

 真っ黒な綿飴わたあめのような髪型。

 男装が似合いそうな美しい顔立ち。

 白磁はくじのようになめらかな肌の悩殺的な肉体。

 ぴったりと張り付くラメ入りの真っ赤なミニスカドレスから半分はみ出たバレーボールのような二つの胸。

 Tの嗅覚きゅうかくは車のドアが開いたときから強烈な母乳臭をぎとっていた。

「こいつは俺のレコでトヨだ」

 トヨの乳房に突き刺すような視線を向けているTに紹介する。

 Tは視線をトヨの顔に向ける。

 トヨの顔がポッと赤くなる。
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