超人ゾンビ

魚木ゴメス

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 なんだこいつら? なんで死んでねえんだ? いや死んでるよなどう見ても……

 正面からイカれババア、右からゴリラ親父、左からクソ馬鹿息子、の死体。

 ゴリラ親父が掴みかかってきた。

 生きていたときより遙かに力が強い。

 涎を垂らした口を大きく開け真っ直ぐに顔を近づけてくる。

 噛みつく気満々じゃん。

 Tのカウンターの喉輪のどわで後方に吹っ飛ぶ。

 イカれババアが抱きついてきた。それを前蹴りで弾き飛ばしたTの頭の中でひらめくものがあった。

 クソ馬鹿息子──の顔面を、反動をつけながら叩き込んだTの右拳が微塵に粉砕した。

 首から上が消失した死体が仰向けにぶっ倒れる。

「顔がなくなりゃ噛みつきようがないだろ」

 それが正解だった。

 ババアとゴリラ親父が性懲しょうこりもなく起き上がり向かってくる。

「いい加減死ねよ」

 Tはゴリラ親父の額から上を右手刀ではね飛ばし、左手刀でババアを脳天から唐竹割からたけわりにした。

 どの程度のダメージで死ぬのか確かめたかった。

 ゴリラ親父は惰性で向かってきたが、Tが身をかわすとそのまま床に転がった。

 今度こそ絶命していた。

 真っ二つになったババアもそれきり動かなかった。

 脳に損傷を与えると完全に死ぬようだった。

 動く死体か。こいつらがこうなった原因はなんだ? 

 いくらキチガイ親子でも、元からそんな化け物だったはずはない。

 オレの、唾液か……

 それしか考えられなかった。

 オレに噛み殺された人間は動く死体になるってことか。なんてこった。ここまで来るとオレは超人と言うより化け物だな。全てはあの夜、あの隕石のせいか。だが微塵も後悔はない。逆だ。むしろ喜びしかない。ヒャッハー! ウーララー! 終わったと思っていたオレの人生に春が来たぜ。こうなったこと、心から神に感謝するぜ。

 浴室に戻りもう一度熱いシャワーを浴びた。

 体中にこびりついた血糊ちのり、汚物、悪臭を念入りに洗い落とした。

 濡れた体のまま二階に上がり、姿を消して馬鹿息子の部屋の窓枠に両足をかけた。

 向かいの自宅の敷地まで跳躍し音もなく着地すると、猫のように重力を感じさせずにひさしに飛び乗り、出るときと同じように二階の自室の窓から部屋に戻った。

 仕上げに全身の皮膚を脱皮して、それを手早く丸めるとそそくさと食った。

 これで万が一体を調べられてもルミノール反応も出ない。

 キチガイ一家の殺害とTを関連付ける可能性のある物的証拠は、この世から完璧に消えた。

 時刻は午後十一時四十分だった。

 Tはドアを開け部屋を出ると、張り紙を剥がしてから一階に降りて簡単な食事をとった。

 両親はそれぞれ寝室に入っていたが、起きている気配があった。

 Tの立てる物音は聞こえているはずだった。
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