超人ゾンビ

魚木ゴメス

文字の大きさ
上 下
74 / 155

74

しおりを挟む
 目が覚めると辺りは明るくなりかけていた。

 Tは外来者駐車場の地面の上に横たわっていた。

 ……なんだ、何があった……そうだ、オレは確か隕石? の直撃を受けて……

 顔をゆっくり、少しだけ左右に動かす。

 指先を動かしてみる。

 普通に体は動く。

 腕時計の蛍光の針を見る。

 午前四時五分だった。

 体を左に捻りながら慎重に、静かに立ち上がった。
 
 地面を見てぎょっとした。

 Tが倒れていた辺りに何かがめり込んでいた。

 なんだ? これは……やはり隕石か? 

 周囲の砂利土を掘り起こしその正体を確認する。

 にぎ拳大こぶしだいの黒く鉄っぽい石だった。

 かなり重い。

 やはり隕石っぽいな。すげえ、本物かよ! でも黒いな。緑色に光っていたはずだが……て待てよ? 

 気を失う直前のことを思い出した。

 ヤバい! ヤバいヤバいヤバいぃぃぃ! 

 額に手を当てようとして止めた。

 痛みはないが傷口に砂利土のついた手で触るのはまずい。

 そんなレベルの話じゃねぇ! 

 とにかくここじゃ何がどうなっているかわからない。

 直ちに守衛室に戻ることにした。

 とは言え、傷口に響かぬよう、転ばぬよう、慎重に歩き出したのだが――

「?」

 体が軽い。

 おいおい何でこんなに体が軽いんだ? 

 まるで雲の上を歩いているようだった。

 両足にローラースケートならぬ筋斗雲を履いているようだった。

 風に運ばれるように守衛室に戻っていた――いつも五分かかるところが一分もかからなかった。

 ひったくるようにデスクの上の手鏡を取る。

 気絶しないように覚悟を決めておそるおそる覗く。

 なにぃ~っ! 

 信じられなかった。

 額はおろか頭のどこにも傷一つついていない。

 そんな馬鹿な……! いや無事なのはいいんだが! そうするとあれは夢だったのか? あんなリアルな夢があるのか? いや、断じてあれは夢ではない! 

 もしあれが幻覚だったなら、いよいよ自分はヤバい、とTは思った。

 宗教家が見る幻覚みたいなもんか? ユタの神憑かみがかりみたいなもんか? それとも禅の魔境みたいなもんか? 

 魔境だけはないと思った。

 ただ、夜空を眺めていただけだ。

 あのときのTが禅の境地だったとは思えなかった。

 どれだけ頭をひねったところで答えが出るはずもなかった。

 ……まぁいいや。いや全然よくねえけど! オレにはもう何がなんだかわからん。考えたって無駄だ。

 急に何もかも面倒臭くなり、Tはそれ以上そのことについて考えるのをやめた。

 午前五時からの最後の巡回を終えると守衛室で時間まで固定監視を続け、午前八時にもう一人の警備員と交替し帰宅した。

 実際はそういうことだったが、Tはそれを山で倒れていて目が覚めてから小屋に帰ったというふうに話した。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

死霊術士が暴れたり建国したりするお話

白斎
ファンタジー
 おっさんが異世界にとばされてネクロマンサーになり、聖女と戦ったり、勇者と戦ったり、魔王と戦ったり、建国したりするお話です。  ヒロイン登場は遅めです。  ライバルは錬金術師です。  少しでも面白いと思ってくださった方は、いいねいただけると嬉しいです。

処理中です...