70 / 155
70
しおりを挟む
警備の仕事は平日は夜八時から次の日の朝の八時までの十二時間、土日祝日は朝八時から次の日の朝八時までの二十四時間勤務で、巡回時間は午前八時半、午後一時、午後四時、午後八時、午前零時、午前五時と決まっていた。
この時点でのTは今の美の化身、匂い立つような男振りのTとは、顔つき以外は似ても似つかなかった。
身長は百六十八センチ、自重での筋トレは欠かさずやっていたので体つきは締まっていたが、顔デカ胴長短足の典型的な日本人体型だった。
頭も薄かったので坊主にして誤魔化していた。
二週間もすると不精ったくなるのでその都度自分でバリカンで刈っていた。
先に述べたような理由で二十代前半から既に髪が薄くなりかけていた。
髪さえ人並みにあったら、これでもそこそこモテたのに……二十代前半からいつもそう思っていた。
そう思っていじけていたからなのか、事実薄い頭のせいなのか、帽子を被っているときのTは女たちに好印象を与えているのがT自身実感できたが、帽子を脱いだTを見ると皆一様に距離をおくようになるのだった。
そんな暗く救いようのない女っ気ゼロの青年時代を過ごしてきたTが、溺れる者が流木に掴まるように最後に何とか行き着いた仕事だった。
三年目だった。
それなりに工場社員たちと友好的な関係を築けていたが、それ以上でも以下でもなく、それだけのことだった。
死なない程度に生かされている、死ぬまでの間とりあえず生きている、そんな感じだった。
空しい毎日だった。
何度も自殺しようと考えたが、その度に、死ぬならその前に向かいのキチガイ一家を皆殺しにしてからだ、それはTの両親が死んでからだ、だが両親にはできるだけ長生きしてほしい、という無限ループに陥ってしまうのだった。
八月になっていた。
土曜日だった。
Tが警備していた工場は実家から車で七分くらいのところにあった。
西側に一つだけある正門を入ると右手に本社の建物があり、その一階にTが詰める守衛室があった。
深夜零時になったのでTは蛍光ベストを着け、懐中電灯を携帯して定時巡回を開始した。
この時点でのTは今の美の化身、匂い立つような男振りのTとは、顔つき以外は似ても似つかなかった。
身長は百六十八センチ、自重での筋トレは欠かさずやっていたので体つきは締まっていたが、顔デカ胴長短足の典型的な日本人体型だった。
頭も薄かったので坊主にして誤魔化していた。
二週間もすると不精ったくなるのでその都度自分でバリカンで刈っていた。
先に述べたような理由で二十代前半から既に髪が薄くなりかけていた。
髪さえ人並みにあったら、これでもそこそこモテたのに……二十代前半からいつもそう思っていた。
そう思っていじけていたからなのか、事実薄い頭のせいなのか、帽子を被っているときのTは女たちに好印象を与えているのがT自身実感できたが、帽子を脱いだTを見ると皆一様に距離をおくようになるのだった。
そんな暗く救いようのない女っ気ゼロの青年時代を過ごしてきたTが、溺れる者が流木に掴まるように最後に何とか行き着いた仕事だった。
三年目だった。
それなりに工場社員たちと友好的な関係を築けていたが、それ以上でも以下でもなく、それだけのことだった。
死なない程度に生かされている、死ぬまでの間とりあえず生きている、そんな感じだった。
空しい毎日だった。
何度も自殺しようと考えたが、その度に、死ぬならその前に向かいのキチガイ一家を皆殺しにしてからだ、それはTの両親が死んでからだ、だが両親にはできるだけ長生きしてほしい、という無限ループに陥ってしまうのだった。
八月になっていた。
土曜日だった。
Tが警備していた工場は実家から車で七分くらいのところにあった。
西側に一つだけある正門を入ると右手に本社の建物があり、その一階にTが詰める守衛室があった。
深夜零時になったのでTは蛍光ベストを着け、懐中電灯を携帯して定時巡回を開始した。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
主記の雑多な短編集
丘多主記
大衆娯楽
私、丘多主記の短編集作品を集めた作品集になります
各お話前に大まかなあらすじ等を入れて、その後にお話が始まると言った感じです。イントロダクションになっている作品はお題小説かワンライ、もしくはその両方です
ジャンルはスポーツ、友情、恋愛と雑多ではありますがご覧ください
表紙:私が2024年の秋頃にキリンのビール工場で撮ってきた写真
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
死霊術士が暴れたり建国したりするお話
白斎
ファンタジー
おっさんが異世界にとばされてネクロマンサーになり、聖女と戦ったり、勇者と戦ったり、魔王と戦ったり、建国したりするお話です。
ヒロイン登場は遅めです。
ライバルは錬金術師です。
少しでも面白いと思ってくださった方は、いいねいただけると嬉しいです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる