超人ゾンビ

魚木ゴメス

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「全部瞬間移動して殺したんだよ。じゃあなんで十人目で捕まったか。最初から十人殺ったら捕まってやろうと思ってたんだよ。あんまり迷惑かけちゃおまえら警察が可哀想だと思ったんでな。まぁ、そういうことだ。わかったかこのタコ」

 一瞬空気が凍りついた。

 島田は後ろを振り向かず黙っていた。

 マジックミラーから見ている四人の刑事たちは呆れ顔になってお互いを見やり、肩をすくめて苦笑した。

 彼らはいずれも柔道の高段者だ。

 村西は椅子を引いて立ち上がった。

 上着を脱ぎ、自分の椅子の背もたれに掛けると、机と一緒に島田とは反対側の壁にどかした。
 
 ネクタイを緩め、準備体操するように 首、肩、手首、指の付け根を音を鳴らしほぐした。

 椅子に座っているTの正面に立った。

「あ~ん? なんだって? よく聞こえなかった、もう一度言ってくんねえかなぁ」

 村西は身長百八十五センチ、体重九十五キロ、柔道五段にしてプロボクサーのライセンスも持っていた。

 もしボクシングを職業に選んでいたら、簡単にヘビー級チャンピオンになれただろうとは誰しも一致する意見だった。

 Tは村西を見上げて馬鹿にするように笑った。

「その歳でもう耳が遠いんかよ、おまえ」

 最後まで言わせなかった。

 ノーモーションで繰り出された村西の右拳がTの左顔面をとらえ粉砕──

 したはずだった。

 超高速で回転する串焼きのように村西は宙を舞い、床に落ちた。

 誰にも見えなかったが、Tのカウンターの右張り手が村西の左顔面をとらえたのだった。

 マジックミラー越しに刑事たちがどよめく。

 異変に気づき振り向いた島田は信じられないといった顔で立ち上がりながらTと村西を交互に見た。

 身長百八十三センチ、体重八十五キロ、柔道三段、テコンドー五段。

 島田は涙もろいが村西以上にキレたらヤバいと署内の誰もが噂し認識する男だった。

「なんてことだ……村西さん、村西さん!」

「死んじゃいねえよ。オレもあんたらまで殺す気はねえし」

 島田はTの言葉など耳に入らないように両拳を握り締め震えていた。
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